原子力発電

原子爆弾応用のパンドラの箱-

原子力発電

原子爆弾応用のパンドラの箱

1. 代替発電技術は沢山あり、火力発電より低性能、高費用で世界では広がらず

科学技術はこれ迄なかったものを人類に提供してくれるものです。馬車に代わる自動車や、船より速い飛行機の発明は、より優れたもの、より便利なものを求める科学技術の成果です。 自動車や飛行機は事故を起こせば人が亡くなることもありますが、これらに代わる便利なものがないので利用しています。

1.1 原子力発電は電気を造る方法の一つ

原子力発電は、図1のように、火力発電の石炭を焚くカマドを大変高価な原子炉に代えたものです。出来るものは普通の電力です。普通の電力より優れたものを何も与えません。これは、 馬車に代わる自動車のような、より有効な新しいものを創り出す科学技術の成果とは無縁です。

1.2 原子力発電の性能は火力発電以下

高価な原子炉に代えても、原子力発電のエネルギー効率は、図1に記したように、約 33%と、火力発電の約 40%より劣ります。発電機を動かすタービンは蒸気の圧力で廻り、圧力が高い程有効です。蒸気の温度を上げると圧力は上がりますが、蒸気の温度を上げ過ぎると、核燃料を被覆しているジルコニウム合金が侵されて、核燃料や放射性物質が漏れだしてしまいます。ジルコニウム合金は、核反応を進めながら、核反応で発生するガスや放射性物質を封じ込めておくのに最も有効と知られている合金です。ジルコニウム合金が侵されるのを避けるために、蒸気の温度を高くすることができないので、圧力を上げられません。図1のように、原子力発電の蒸気の温度は、火力発電の蒸気温度600℃より低く、沸騰水型で284℃、加圧水型で277℃です。

図1 原子力発電、火力発電、再生可能エネルギー発電の比較

1.3 原子力発電は世界では役立たずで広がらず

原子力発電は、原子爆弾の応用と言うパンドラの箱を開けてみたかった人達が始めたものです。先進国が国家プロジェクトとして、競って70年近く原子力発電を行って来ました。しかし、図2のように、原子力発電の年間総発電量は、世界31カ国合わせても、世界の年間一次エネルギー消費量のわずかに4%台と、増えることもなく、世界から見れば役立たずです。原子力発電は二酸化素を排出しないと言っても、この量では、 地球温暖化の防止に有効とは、とても言えません。

発電所の建設費は、100 万 kW 級で、天然ガス火力発電が一機約1,000 億円に対し、原子力発電は約3,000 億円と言われていました。 しかし、原子力発電の新設は、安全基準の強化などで工事が長期化し、建設費は高騰しているそうです。日経によれば、フランスのフラマンビル原子力発電所3号機(163 万 kW)は 2012 年稼働の予定が 2023 年以降にずれ込み、予算は 33 億ユーロ(約 4,200 億円)から 124 億ユー ロ(約 1 兆 5,800 億円)へ増えたと2019年6月末に電力会社は発表しました。ところが、2020年7月、フランス会計院は、191億ユーロ(約24,400億円)に跳ね上がると見積もっています。

原子力発電がコストに見合わないことははっきりしています。産業としては、火力発電より性能が劣り、費用が高く、多くの人手を必要とします。原子力発電の危険を考慮せずに、費用 だけで見ても、同じ量の発電をするなら、原子力発電より火力発電の方がはるかに優れていることが早くからわかりましたから、原子力発電は世界に広がりませんでした。

2 世界の一次エネルギー消費量U.S. Energy Information Administration のデータから)

1.4 電気を造るなら再生可能エネルギー発電が本道

二酸化炭素を排出しない発電の本道は再生可能エネルギーの利用へと、世界は動き出しています。日本の太陽光発電の総発電量は、震災以降、原子力発電の総発電量を上回っています。 再生可能エネルギー利用を進めようと言う時代に、いずれ廃れる原子力発電の休止中の発電所 をわざわざおこしてお金をかけてまで再生可能エネルギー発電の電力と同じ普通の電力を造ることは、消費者に不利な電気料金の無駄遣いで、必然性も魅力もありません。再生可能エネルギー発電を広げる方がはるかに有効です。

原子力発電を休止している東北電力は、電力が不足する他の電力会社に電力を融通したと報じられています。電力会社間で融通し合えば今でも電力は足りているということです。

2. 原子力発電は不要で役立たずな上に極めて危険で存在が許されない技術

産業技術に絶対安全なものはありません。多数の死者が出る制御できない事故を起こす原子力エネルギーは、私達人類が決して手を触れてはならないものでした。


2.1 原子爆弾の原理に触れてみたい

最初の原子力発電は、原子爆弾投下後6年を経た1951年アメリカの実験炉で行われました。その後、1954年からソ連や欧米の国々で原子炉が造られました。日本では1954年3月、突然、広島長崎に落とされた原子爆弾のウラン235にちなんだと、2億3500万円という、被爆国として無神経な補正予算を通して、原子力研究開発が政府主導で始まりました。アメリカの水素爆弾実験で遠洋マグロ漁船第5福竜丸が31日に被曝し、9月に亡くなる久保山愛吉さんを乗せて焼津港に戻ったのが3月14日でした。原爆の恐怖はまだ新しく、世論は原子力利用に反対の時代でした。しかし、大学は貧しく、ビーカー一つが割れても問題になる時代でしたから、大きな予算は魅力でした。

2.2 放射性物質の危険には無知

原子力研究は、原子爆弾の原理に手を触れてみたいと、恐いもの見たさで始まりました。しかし、原子爆弾や原子力発電の核反応で生まれる放射性物質に曝されて起きる病気についは、あまり知られていませんでした。

広島長崎では、原子爆弾投下の爆風、熱線、放射線によって1945年12月末迄に亡くなった人々は急性障害により亡くなったと言われています。

これに対し、原子爆弾の放射線により1946 年以降に発生した人体への障害は、後障害と分類されています。図3に見られるように、爆風、熱線、放射線によって1945年内に亡くなった人々に比べて、放射性物質に曝されて、1946年以降2019年8月までに亡くなった人の方が多く、広島長崎共に全死者の60%です。

しかし、核反応のエネルギーを使おうと原子力発電を考えた人達は、事故によって原子力施設の外に飛散する放射性物質が如何に危険かを知ることは、全くありませんでした。

2.3 原爆犠牲者の苦しみを全く知らず

生き残っても、病気に苦しむ広島長崎の被爆者は、差別を恐れて名乗ることも出来ない時代でしたので、原子爆弾の核爆発の怖さは知っていましたが、放射性物質による被曝の悲惨さは、被爆者と診療に当った医師以外は、世界の人は勿論日本人でも知りませんでした。


2.4 原子力発電事故による死因は原子爆弾による死因と同じ

原子力発電の大きな事故として知られる、チェルノブイリの事故では、放射性物質に曝されて癌などを発症して亡くなった人が9千人と、20年後の2006年にWHOは伝えています。これは、原子爆弾で全死者の60%の人が1946年以降に亡くなったのと同じ亡くなり方です。

原子爆弾を決して許さない日本人が、事故を起こせば、原子爆弾と同じ殺戮をする原子力発電の存在は許してよいのでしょうか。

図3 広島長崎の死者数と死の原因

2.5 災害関連死

福島原子力発電所事故については、更に深刻なデーターがあります。東日本大震災での死者・行方不明者の合計は、宮城県10,760人、岩手県5,787人、福島県1,810人と発表されています。これは地震と津波で亡くなった方々です。 これに対し、その後に亡くなり災害関連死と認 定された人は、福島県2,318人、宮城県929人、 岩手県470人と、2021年2月に発表されました。 津波被害は、土地のかさ上げや、防波堤で修復され、宮城県や岩手県では、地域社会の崩壊はある程度抑えられたでしょう。それでも、絶望感や環境の変化によって持病が悪化するなどして亡くなった地震や津波の被災者が、宮城県や岩手県の災害関連死者です。

災害関連死者数と震災の死者・行方不明者数の関係を図4に描いてみました。宮城県は岩手県より、死者・行方不明者が多く、災害の規模が大きかったわけですから、岩手県より多くの災害関連死者を出しました。死者ゼロは災害がないときです。福島県も原子力発電所事故がなく、宮城や岩手と同じ地震津波による災害だけでは、福島県の言わば地震津波関連死者数は、宮城、岩手の値と死者ゼロを結んだ点線上の福島の死者・行方不明者の数の位置付近にあるはずです。こう考えると、原子力発電所事故がなければ、福島の災害関連死者は150人にもならなかったと思われます。実際には、東北の人々は、被災者自身も含めて、地域の人々に気を配ります。したがって、原子力発電の事故が無ければ、地震と津波による直接の死者が宮城や岩手よりずっと少なかった福島では、近隣の人々の気配りで、地震津波による関連死はほとんど出なかったのではないでしょうか。しかし、福島では、 災害関連死と認定された人は 2,318人です。  

豊かで穏やかに暮らしていた地域に、放射性物質がばら撒かれ、住民が恐怖に怯えながら慌 ただしくバラバラに避難して、地域社会が崩壊してしまいました。被曝専門の医師は日本中探しても殆どいません。避難の過程では寒い外で、被曝線量を測定して避難先を決めることすら不慣れでままなりませんでした。高齢入院患者の移動では、医師の手も届かない寒い劣悪な環境で60人以上が亡くなったと、NHKドキュメンタリー「誰が命を救うのかー医師達の原発事故」は伝えています。このドキュメンタリーを観て、再稼働が良いと思える近隣住民はいないことでしょう。

やっと生き延びても、故郷を遠く離れ帰郷の期待 も持てない絶望感の中、ストレスや病気を抱え、見知らぬ他人に疲れ、気力を失い、食欲がな く、運動機能が衰え、生活不活発病で、ロウソクの灯が消えるように最後には心疾患や肺炎や 持病で災害関連死に至りました。

福島の災害関連死者の 2,000 人以上は、原子力発電所がなければ決して死ななくてすんだ人 達です。原子力発電所事故で福島県内外への避難者は、ピーク時には 164,865 人と「ふくしま 復興ステーション」は報じています。福島の原子力発電所の事故は、何処に避難しても、10 年間には 2,000人を超える関連死者が出る苦しみがあったことを、私達に教えてくれています。

このような災害関連死は、どこの原子力発電所でも、事故が起これば、避難させられる近隣住民に起こり得ることと覚悟しなければなりません事故が起こっても避難路があれば安全な どという甘いものではありません。

図4 地震・津波による死者・行方不明者数とその後に災害関連死と認定された人数の関係

2.6 ドイツの決断

メルケル首相始めドイツの人々は、チェルノブイリと福島の惨状を見て、原子力発電の事故を実験してみることはできないので、最悪な事故がどのようなものか推定できないと、原子 力発電をやめることにしました。

いくら安全対策をしても、人間がったものに絶対安全なものなどないことは誰でも知って います。

2.7 何処ででも許された火力発電

図 5 のように、東京湾岸には、火力発電所が、地図に記載されているだけで16カ所で、総出力は、 3,420.3 万 kW あります。これより少ない 3,323.5 万 kW が現在停止中と稼働中の原子力発電所の合わせ た総出力です。

図5 東京湾岸の火力発電所と出力

2.8 都会から遠く離した原子力発電

図 6 のように、原子力発電所は都会から遠く離れた所にあります。原子力発電所の合わせた出力より大きな出力の図 5 の東京湾岸の火力発電所のある場所は、図 6 では緑の円で囲ってあります。東京電力 の原子力発電所は、東京電力が電力を供給している県の外の福島と新潟にあります。原子力発電所は、大都市近郊には一つもありません。都会から出来る限り離して設置してあります。これは、火力発 電が都会のほとんど何処でも建設が許されたのと大きな違いです。

原子力発電を推進した人々は、自分は勿論、家族が 原子力発電所の近くに住むことを避けます。理工系の 学生も、原子力発電所が勤務先である就職を敬遠する人は沢山いました。

図6 都会から遠く離れた原子力発電所

2.9 命の危険を顧みずに原子力発電所を引き受 けてくれる所には交付金

自分達は決して近くに住もうと思わないそんな危険なものを、「原子力 明るい未来のエネルギー」などと歓迎してくれて、そこに住み続けてくれる人には、 感謝しかありませんから、交付金を差し上げなければならないと、原子力三法があります。

2.10 事故で人が大量に死ぬ産業の存在は許されない

多くの人々が、事故で、亡くなったり、傷つけられたり、住む土地を追われたりする危険で不要な産業は、もともと存在してはならないものです。

安全と聞かされていた日本の原子力発電所でも、重大な事故が起こること、原子力発電所の近くに住んでいた人々は、例え事故のときは生き延びても、避難してからの災害関連死だけでも沢山亡くなることを、福島の事故で私達は学びました。事故の危険がこれだけ知られていてもなお原子力発電を推進すると、大きな事故が起これば、例え生き残っても、多くの人を傷つけ死に追いやることになってしまった罪悪感に悩まされることでしょう。


3. 世界は再生可能エネルギー100%に進んでいます

世界は、化石燃料を燃やさず原子力発電を使わない再生可能エネルギー100%に向かって進み始めています。

3.1 再生可能エネルギー100%の世界の消費エネルギーは半分以下

再生可能エネルギー100%の時代には、全エネルギー消費量は、今の半分以下になると考えられています。火力発電や原子力発電は、熱を蒸気に変え蒸気タービンを回して電気を造るので、図1に記したように、エネルギー効率が40%以下と低く、発電のときの廃熱などでエネルギーを60%以上失います。再生可能エネルギー発電では、風や太陽光、水の落差どが電気に換わるだけですから、発電にエネルギーロスがなく、電力はそのまま使える石炭、石油、天然ガスと同じ、一次エネルギーとして扱われます。エネルギー効率が15%しかないガソリン車やディーゼル車は、二酸化炭素を排出するので販売や市中乗り入れが禁止され、エネルギー効率70%の電気自動車に取って代わられます。自前の電力で建物に必要なエネルギーを賄おうとすれば、当然、省エネルギーが進みます。産業も省エネルギーに努力します。

このように省エネルギーが進むと、世界平均の一人当たりの一次エネルギー消費量は現在の先進国の一人当たりの一次エネルギー消費量の半分以下でよいだろうということです。

3. 2 電力会社と庶民の協力で再生可能エネルギー100%

これから廃れて行く火力発電や原子力発電だけでは、電力会社も立ち行かなくなります。ドイツの大手電力会社は、再生可能エネルギー電力の方が、結局安くなると、再生可能エネルギー発電に早くから取り組んでいます。日本でも、電力会社と庶民が協力して、まず照明をLEDに替えることなどから省エネルギーを進め、資源量の多い風力発電を普及し、建物の屋根に太陽電池を据えることなど、省エネルギーによる生活改善を楽しみながら皆で努力することで、再生可能エネルギー100%は実現できます。

4. 原子力発電事故は国を滅ぼす

チェルノブイリの事故では、危険なセシウム137が1平方メートルで4万ベクレル以上に汚染した面積は、20万平方キロメートルを越えたと報告されています。女川原子力発電所で、チェルノブイリと同じ規模の事故が起こったとき、セシウム137による汚染が広がる範囲を図7に示しました。赤い円の範囲が20万平方キロメートルです。仙台の私達も水戸を越えて南か青森迄避難させられます。

福島の事故では、2号機で、圧力を逃がす処置が成功せずに、3月14日に圧力が上がり続けたときには、爆発すると、図7の青丸に当る福島原子力発電所から200キロメートルの圏内が、放射性物質で汚染されるのですぐにでも避難しなければならないと、絶望的だったそうです。 しかし、はっきり原因は発表されていませんが、15日朝偶然2号機の格納容器に破損が生てガスが漏れ出したようで、圧力が下がり始め、爆発は免れたということです。このことは、当時私達には知らされませんでしたが、この偶然に助けられなければ、避難指示が間に合っても、仙台の私達も盛岡以北に避難させられて、今頃は災害関連死をしていたかも知れません。

都会からいくら離して原子力発電所が設置されていても、大きな事故が起これば、沢山人死ぬなく、島国日本は人の住める場所が無くなってしまう危険があります。

こんな危険役立たな原子力発電を抱えているのは、全く愚かなことす。


図7 赤丸は女川原子力発電所の周り20万平方キロメートルの範囲、青丸は福島原子力発電所から200キロメートルの範囲

5. 原子力発電は不要と意思表示しましょう

震災の被災地の宮城県では原子力発電は要らないことを県民みなさんで意思表示ができれと願っています。

日本の太陽光発電の総発電量は、原子力発電の総発電量を上回り、毎年、日本の総発電量の1%近く増え続けています。このままの勢いで増え続ければ、6・7 年で発電量でも今稼働している原子力発電は不要になります。もうひと頑張りして、屋根に太陽電池を取り付ける量を増やすなどして、発電量でも原子力発電は要らない世界を早く実現しましょう。

橋本功二

東北大学名誉教授(金属材料研究所)

東北工業大学名誉教授

E-mail:koji.hashimoto.d3@tohoku.ac.jp

URL: http://co2recycle.wix.com/co2recycle