壊れる [R15]
壊れる [R15]
早朝から叩き起こされて島から島へ移動し続けて魔物退治に迷子と迷い猫探し、剣術指導と立て続けに手伝わされた。せめて移動は定期艇にするか操舵士を雇いたかったが、急いで回る関係で俺が小型艇の舵をとった。
珍しく複数人に頼られて張り切ったのはいいものの、自室にたどり着くなりベッドに倒れ込んだ。
通りがけついでに助けた村では既に犠牲になった村人もいて、もう少し早く来てくれればと嘆く声を聞いてしまった。人助けとはそういうものだ。感謝と善意だけの方が少ない。
のろのろと装備を外して軽装になると仰向けに寝転がる。目を瞑ればすぐにでも眠ってしまいそうだが、そういう訳にもいかない。
「酷い顔だな」
椅子に座ったまま黙ってこちらの様子を見ていたロベリアがにやにやした顔で言ってきた。これまで無視していたが話しかけられてしまったら応じるしかない。ましてや今晩来れたら来て欲しいと呼んだのは自分からだった。
「お前は相変わらずイケメンだねぇー。暇そうな人間が羨ましいよー」
返事は返ってこない。なんとも言えない表情をして、黙ったまま温度のない目で見つめている。
沈黙が続いた。先に耐えきれなくなったのはこちらの方だった。
「ごめん、言い過ぎた」
言葉は微妙だが、心配して言ってくれていることは分かっている。それにロベリアだって騎空士としてするべき仕事はしていて、十賢者としても活動している。その上で契約星晶獣と自身の幸福を追求して、それでいて時間と体力に余裕があるだけだ。要領が良くて興味のない面倒ごとは避けている。人間一人程度では到底対処出来ない問題に、全力を注いでいる俺とは力の使い方が違う。
「ノン、気にしてないさ。暇を持て余しているのは事実だからな」
ロベリアが座る場所を椅子からベッドの端に移した。木製のフレームが僅かに軋む音がして上半身が少しだけ沈む。
鼻で笑う音と共に手が伸びてきて頭を撫でられる。優しく労わる指先が温かく、もやもやとしていた気持ちが溶けていくのに、胸の中にはまだ何かが残っている。黒く大きく重たくざらついた感覚が口から溢れた。
「気にしてないならなんで黙ってたの? タワーと話してた? 俺と二人きり……なの、に……」
自分で言いながら情けなくて眉間に皺が寄る。何も悪くないロベリアに八つ当たりしている現状に戸惑いを隠せない。
気持ちが弱った時、他人を近寄らせずに一人で耐えてきた。強者として必要としてくれている人々や世界に、強者として存在を示すにはそうするしかなかった。強くある必要のない相手には、こんなにも情けない姿を曝け出してしまうものなのか。
ロベリアも俺の強さに惹かれたようだが、戦いを挑んでくる訳でも力を頼ってくる訳でもない。側にいて俺の音とやらを逃さず全て聞きたがっている。だから時には弱い面を見せてしまう。失望されることがないのだとよく知っている。
「あぁ、こんなに弱ってるシエテはいつもと違う音がしそうだと考えていたんだ」
軽い声が返ってきた。なんてことないように言われて呆れて口を開いてしまう。
本当にこの男はマイペースだ。俺の事情よりなによりも、自身の幸福を最優先にしている。世界の危機だって誰かが止めるならそれでいい。ロベリアにとっていい音がするか、自分の大切なものが損なわれるかどうか、気にかけるのはそれだけだ。俺に向ける期待の種類が他の人間とは明らかに違っている。そこに、救われている。
「壊してみる?」
「壊すなら万全の状態の時でないと。キミはオレの特別な存在だからな。今壊したら勿体無い」
覆い被さってくるように横たわり、ぎゅっとキツく抱き締められる。恋人同士の戯れとは違った、お気に入りのぬいぐるみを抱く子供のような仕草だ。
「そうじゃなくて」
「シエテ、オレは破壊の音以外も楽しめるんだぜ。楽団の演奏曲でも流そうか」
髪や額やキスを落とされる。こちらから唇で迎えに行くと、くはっと小さく笑ってから焦らすようにゆっくりと顔を近づけてくる。待てずに襟元を掴んで引き寄せた。
「ん、だからさ……壊したらいいじゃない……こういう、意味で」
背骨に沿って指を這わせ、太腿を股間に押し付ける。ロベリアの体が一瞬だけ硬直した。すぐに口の端がにんまりと上がるのを見て期待に胸が沸く。
「くはっ! それはいいな。壊れてくれるのかい?」
「それは、お前次第だろ」
耳の縁に触れて耳朶を引っ張る。いつもより大きな声を出してあげてもいいかもしれない。耳に向かって、ふぅ〜っと長く息を吹きかけると、ロベリアの体がビクンッと大袈裟に跳ねた。
「泣いて許しを乞われても、今日は止めなくていいんだな。だって、壊しても、いいんだろう?」
いつになく目が真剣で怖い。期待させ過ぎてしまっただろうか。確認をしてくれるあたり愛されているとも感じるが、あまりに激し過ぎて腹上死するのだけは避けたい。目の前にいるのはそんな心配が冗談にならないような危険人物だ。
「流石にそれは勘弁してよぉ〜」
思わず溢した弱気な発言に、顔を見合わせて大きな声でひとしきり笑う。再び唇を寄せ合って服を脱ぎ始めた。
「ねぇねぇ、やけに興奮してるようだけど、生温いのには飽き飽きしてた?」
腕や腿に噛み跡を残されながら話しかける。下着を押し上げてシミを広げているロベリアの陰茎が気になって仕方ない。いつもより先端が濡れているように見える。
「ノンノン、たまに食べるブイヤベースが特別美味しいだけさ。キミはパフェの方が好きだろう」
「なに、それ」
余裕がなくなってきていて息が詰まる。強引に力強く、激しく揺さぶられるのだと思っていたのに焦らされ続けている。穴の周りをくるくると撫でるだけで指すら入れてくれない。
「キミはオレに優しくされるのが好きなんだ。気がついてないのかい?」
「今日は、激しくされたいんだって」
もう待てない。酷い目にあって後悔してもいいから繋がりたい。
「それは後でのお楽しみさ。シエテ、キミを壊すにはこれが正解なんだ。任せてくれよ。オレが一番詳しいから、ね?」
とびきりの笑顔なのに、顔に影が差していて不穏さしか感じ取れない。急に張り詰めた空気に思わず唾を飲むと、狙いを定めた獣のような目をして喉仏に噛みついてきた。痛いだけのはずなのに達しそうになって歯を食いしばる。くぐもった声が漏れて、誤魔化そうとして今度は鼻にかかった声が出た。
「トレビアン! あぁ、楽しい夜になりそうだ」
情けない声だったはずなのに、ロベリアは満足したのか指もキスもくれて、脳がどろどろと蕩けていく。ざらついた感覚なんてもうなんだったのかも分からない。いや、些細なことで拗ねた子供のような苛立ちなんて忘れてしまおう。どうせそんな音と関係のないことは、気にしてなんかいないのだから。
しっかりと徹底的に壊された後、甲斐甲斐しく世話をされながらぼんやりと昨日のことを思い出す。皆に頼られて嬉しかったし、わいわい喋りながら行動を共にしたのは楽しかった。ただほんの少しだけ疲れてただけで、この部屋に入るまでは笑顔を保っていられたから何の問題もない。
辛うじてまともな思考が残っているうちに、起きた後は余計に疲れているだろうと脳裏に過ったが、すっきりと目が覚めて逆に調子がいいものだから恋人との時間は偉大だ。
それも、腫れた目を除けばの話だけど。