キミの浴衣を脱がせたい
キミの浴衣を脱がせたい
ユカタヴィラを着たシエテの広く開いた胸元が気になる。
剣士がユカタヴィラの下に軽装備を付けているのは稀に見かけるが、わざわざ着る必要があるのか全く理解出来ない。彼らなりの美学があるのだろうが筋肉を強調するだけで、攻撃を防ぐには頼りなく実用的ではなさそうだ。
「ロベリアにも手伝って貰いたかったなぁ。接客に向いてると思うんだ」
祭りの出店を出すのに人手が足りず手伝って欲しいと言ってきた日程は、あいにくだが予定が埋まっていた。最後の手段で団長にお願いしに行くと言っているが、最初から誘いたそうにしていたので結果的には良かっただろう。オレが行けばこんなに魅力的な姿を前にして耐えきれない。
それにしても出店の準備とやらは大幅に遅れている。人手の確保だけではなく景品の納品も終わってないという。理由は明確だった。
「細かい部分に拘らなければ、もっと早くに準備が終えられたんじゃないか?」
ユカタヴィラ姿のお披露目ついでに景品のサンプルを見せてくれたのだが、出店の景品としてはあまりにもクオリティーが高い。何件も工房を訪ねて、数度に渡り打ち合わせをしたらしい。追加料金を払ってまで今も間に合わせてもらっている最中だというから、その熱意には感心してしまう。オレならそんな面倒なことはしない。
「えぇ~、せっかく店を出すなら徹底的に拘りたいじゃない。子供たちが大喜びする姿が目に浮かぶよ〜」
「この価格設定だと採算が取れないぜ」
企画書を捲ってざっと計算するが、経費と収入予想が同程度、むしろ赤字になる可能性が極めて高い。シエテの労力に対する儲けは最初から考えられていない。
「別にお金を稼ぎたい訳じゃないからね」
「くはっ、キミは商売に向いてないな」
「それはウーノにも言われてるよ。最近だとカトル君も言ってくるんだよねー」
嬉しそうに言っているのでこれ以上指摘するのも野暮だろう。稼ごうと思えば騎空士としていくらでも稼げるから、副業で儲けようという気概がない。その浮世離れした思考も好ましいが、手作りのカードと魔術だけで占い師として稼いだ自分との違いが明白だ。元手がかかりすぎている。そりゃあ客は喜ぶだろう。団長たちもきっと楽しんでくれる。一緒に行けないことがつくづく悔やまれる。
髪紐で括られた髪の束に指を絡ませて唇を寄せる。近寄ったことでトワレの香りがして昨晩の情事を思い出させた。
「……キミが、髪を結うのは珍しいな」
手を出しそうになるのを我慢して話を変えた。このまましてしまったら、準備は余計に遅れてしまうし、着ているものも無事ではすまない。お楽しみは祭りが終わってからだ。
「ソーンがね、ユカタヴィラに合わせてとことんお洒落をしたらって」
「へぇ〜、全て彼女が選んだということか」
急に出てきた他者の存在にジリジリと胸が焦げる。はっきり言って妬けてきた。
「この刀は自前だよ。いいでしょ」
「あぁ、斬るところも見せてくれよ」
シエテのことだから刀も上手に扱うのだろう。魔物を斬るところなら見せてくれそうだ。オレが見学するとなると、張り切って派手な音を立ててくれるだろう。
「剣と刀の柄の生地もあってさぁ〜」
想像するとあまり趣味がよいとは思えない。生地を作った職人も何を考えているんだ。シエテのような剣狂いからのオーダーされたのか。
でも、きっと、いや絶対にシエテに似合う。
「本当はそっちが良かったんじゃないか」
「言ったっけ?」
「言わなくてもわかるさ。それも似合っていただろうな」
「だよねぇ〜!」
満面の笑顔が眩しい。さっきまで感じていた嫉妬心など跡形もなく消え去ってしまった。
「お祭りが終わる頃にはロベリアの用事も終わるんでしょ?」
「ウィ、これを着たまま会いにきてくれよ」
広く開いた胸元に指をさす。ぴくりと少しだけ反応が返ってきて、沈黙している間に肌に赤みががる。
「……お手柔らかに、ね」
触れるだけのキスをして、約束を結んだ。
ユカタヴィラを脱がす権利を貰えたからには余すことなく全て味わいたい。髪紐はすぐに千切れてしまいそうだから、同じ緋色の縄を用意しておこうか。帯もあるから一本あれば足りる。生地を痛めずに染み抜きする方法も誰かに聞いておこう。
まずは祭りの話をしたがるだろうし、ヴァン・ムスーも忘れずに用意しておかないといけない。楽しそうに弾む声を聞きたい。
「なんだかやけに嬉しそうだね。そんなにこの格好が気に入った?」
「ウィ、今すぐ脱がすのを必死に我慢してるくらいには、ね」
幸福の為の準備もまた幸せの音に満ちていると、指の先の鼓動が教えてくれた。