関係性の名前を変えたら
関係性の名前を変えたら
お互いに性欲処理をするのに都合の良い相手だった。シエテはオレの望む頑丈な体とヴォリュプテを煽る声を持っていて、オレはシエテの望む防音の魔術と人間付き合いの希薄さを持っていた。
はじめは淡白な関係だった。目が五秒合えばその日の夜、どちらかの部屋でまぐわった。目を逸らされることもあったし、気分によってはタワーとの時間を優先してこちらから目を逸らすこともあった。部屋に行ったら不在だったこともあるし、幸福の音に夢中になり過ぎて訪問に気が付かず朝になっていたこともある。ヤレてもヤレなくてもさほど気にしていなかった。それぞれ優先すべき大切なものがあって、無理して相手に合わせる必要もないことだから気楽に遊べていた。
いつからだろう。互いに相手が特別な存在になってしまった。肉体関係を持つうちに情が湧いてしまった。両者共に情が深く重たい傾向があり、独占欲が伴う恋愛感情なんて抱けば肉体関係だけで満足する訳がなかった。
外堀を埋めていたら、シエテも同じことを考え行動していたようで二人してどっぷりと埋まっていた。馬鹿ップルだから二人の関係性には触れない方がいいと団内の共通認識にされるほど知らしめてしまった。おかげで間に入ってくるような人間は出てこないし、変に揶揄われたりもしないで助かってはいる。
問題があるとすれば、オレ自身にある。念願叶って恋人同士になってもそれからどうしたらいいのか距離を掴みあぐねている。
今もベッドの上に寝転んでクラポティを耳に当てながら、テーブルに向かって座っているシエテの横顔を眺めるだけで数分が経過してしまった。
「さっきから何? 顔に穴が開きそうなんだけど」
シエテは読んでいた書類をテーブルの上に置くとこちらを向いた。頻繁にどちらかの部屋で過ごしているから当然目線は合う。もう希薄な関係ではない。視線が五秒以上合うことは日常で、今までのような合図の意味は持たない。
今すぐシエテを抱きたい。日も沈んでいない。夕食も済んでいない。夜まで待てない。上手く説得しなければ、恋人どころかもう触れることも出来なくなってしまう。それだけの力と社会的地位がシエテにはある。そんな不安があって気軽に言い出せない。
「いや、その……なんて説明したらいいのか」
上手く説明出来る気がしないし、説明するようなことでもない。それでも考えてることを伝えたい。今すぐ盛り上がるような情熱的な言葉で口説きたいのに出来ないとは言いたくない。
「言いたいことがあるならはっきり言ったら」
シエテが立ち上がってベッドに腰掛けた。手を伸ばせば届く距離だ。こちらも体を起こして隣り合って座る。
ピリピリと殺気に似た気配を纏って、強く真っ直ぐな視線が向けられる。シエテがこうも苛立っているのは珍しいことだ。忙しいのだろうか。シエテに用事がある時や疲れている時は、従来の関係ならナシの日だ。
けれど、むしろ、どうしても今すぐシたい。
「エレガンスな誘い方が思い浮かばなくて……、今にでも襲いかかりそうだ」
パパとママは子供のオレの前でそんなやり取りは見せなかったし、そこいらにいる恋人たちのやり取りにさほど興味もなかったせいで知識もない。オレの幸福と関係のない盗み聞きは、はしたないからしてこなかった。
触れたいのを我慢してシーツを握り締める。触れたら無理やりでも押し倒してめちゃくちゃにしまう。
「えぇっ!? あ、あぁ、うん……」
シエテは驚いた後に気まずそうに視線を左右に揺らす。動揺しているのか指先を忙しなく動かし、自身の髪に触れたりシーツを掴んだりしている。
なんて言って断ろうと考えているのだろうか。これまでならすっぱりと断られていただけに、これだけの反応が引き出せていれは充分に関係性が深まっているといえる。
「ノン、無理にとは言わないさ」
恋人同士になったとはいえ、欲張り過ぎたかもしれない。ここは聞き分けのいい恋人としての余裕を見せたい。そう自分に言い聞かせるが正直余計にムラムラしてきた。ベッドの上に恋人と二人で座ってる状況でここまで耐えているなら上出来だろう。後で剣拓で刺されても構わないから抱かせて欲しい。その時には派手な音を立ててくれるなら本望だ。
「違うよ。その予定でいたから、改めて誘われると思ってなかっただけ」
「恋人同士なんだ。これまで通りじゃおかしいだろう」
シエテの顔が赤い。二人とも言動が変わってる。特別な存在になれていると思い知る。
その予定でいたということは触れてもいいのか、手を重ねると先程までの少し張り詰めた空気が嘘のように微笑まれた。
「いやぁ〜、元の関係の方がいいって言ってくるのかと思ってさ〜」
それではまるで元の関係に戻るのが嫌なようだ。思わず指先に力が入る。
「それはないぜ。意外だろうけど、オレはこう見えて嫉妬深いんだ」
「いや、全く意外じゃないよね。偶に鋭い目で見てくるってソーンが言ってたよ」
シエテとよく一緒にいるマドモアゼルにはバレていたか。いくら恋愛感情がなくても頻繁に行動を共にする相手には多少思う面がある。
誤魔化すように細い腰を掴んで引き寄せると唇を重ねる。舌を捩じ込んで絡めながら、シエテの腰のベルトを外す。座っている上に跨がらせ、抱き合う体勢を取らせている間もずっと唇を合わせ続ける。
下着の中に指を突っ込み、なだらかな双丘の上を滑らせた。シエテも腰を浮かせて受け入れてくれている。窄みに指先で触れると違和感に気が付き、指を一気に突き進めた。入口は柔らかくすんなりと沈んでいった。
思わず舌を引っ込めて疑問を口に出す。
「おいおいおい、どうしてこんなに柔らかいんだっ!?」
指を曲げると、くちゅっと湿った音がしてシエテの体が小さく跳ねた。柔らかく解れているだけでなく湿っている。
「んぅっ……ふ、あはは、ビックリした? ドッキリ大成功! なーんてね」
鼻にかかる甘い声を漏らし頬も赤く染めているのに、大したことないように茶化して話すシエテの態度に苛立ちと興奮が混ぜこぜになって脳が困惑している。
本当に、初めからヤる気でいたのだ。いつから準備していたのか、この状態のまま平然とした顔つきで艇の中を歩いていたのか、真面目な表情で書類を確認していたのか、こんな、こんな卑猥な体で。
「キミはっ、どうして」
衝動的に肩に噛みついてしまう。感情を言葉に表せず歯痒い。肌を傷つけない程度の甘噛みを繰り返す。
穴に入れた指も二本に増やした。シエテの感じる場所を避けて円を書くように動かす。この状態ならすぐにでも挿入出来そうだ。
「早くシたくて事前に準備してただけだから。ほら、焦らさないでよ」
すっかり硬くなっている昂った部分を突かれた。耳朶にチュッと音を立ててキスされて、歯を立てられる。
「くはっ!」
肉体関係だけだった頃にはこんなことしてなかった。些細な理由や気分で場が流れることがあったから、始めから互いにあまり期待せずに打診していた。それなのに、関係性の名前を変えただけでこんなに煽ってくるとは思ってもいなかった。
はぁはぁと荒い息を吐きながら片手で自分のパンタロンを下着ごと下ろすと、勢いよく反り返った陰茎が出た。先走りで濡れていて、シエテの視線が熱く刺さる。
「気分じゃないと断られるとは思わなかったのかい?」
「この俺が、誘ってるのに?」
低い声が耳の中に吹き込まれて、指をキュッと締め付けられた。まだ挿れてないのに達してしまいそうになって口の中を噛んで堪える。
「はっ、頭を悩ませていたのが馬鹿みたいだ」
ムードも甘い言葉も何も必要なかった。甘ったるく情熱的な演出も、特別なイベントも好きだが、常に必要としている訳じゃない。簡単なことだ。性欲だけで始めてもいい。
「もっと俺のことで頭いっぱいにしてよ」
「くはっ! くはははっ、トレビアン! シエテ、キミは欲張りだな。直接頭を割って見せようか」
脳は幸福の色をしていてシエテも気に入ってくれるに違いない。タワーに協力してもらって大きな赤い花を咲かせてもいい。
「うぅ〜ん、流石にそれは……っ、はぁ……」
苦笑するシエテの頬にキスをして、指を抜く。このままお喋りをし続けて焦らす余裕はない。
「冗談さ。それよりも、オレで腹いっぱいになってくれよ」
よく慣らした窄みに先端をあてがうと待ちきれないとばかりに吸いついてくる。腰を掴んで一気に突き刺そうとしたところで、肩を掴まれて止められた。威圧感のある目で見下ろされる。
「いっぱいになるかはロベリア、お前次第でしょ」
頭を撫でられて良い子と言われしまったら期待に応えるしかない。
「……オレのことをそんなに煽っていいのか?」
今日は翻弄されてばかりだ。負けてはいられない。どう責め立てようか白い肌とその下の血と肉を眺めながら考えを巡らせていると、シエテが目の前で笑った。眉と目尻を下げて慈愛に満ちた表情に全神経が奪われる。
「恋人には優しくしてよね」
ウィ、とお行儀よく返事をする前にシエテが腰を下ろして肉茎は全て飲み込まれた。ぎゅうっと思いっきり締め付けられる。今度こそ本当に達するところだった。いや、少し出た。
シエテにとっても無茶な動きだったのだろう。浅く息を吐いている。胸に顔を寄せると心臓が激しく音を立てているのが聞こえてくる。それでもまだ余裕があると言わんばかりに薄く笑みを浮かべる口元に、噛み付いて押し倒した。
早朝まで続いた睦み合いから気絶するように眠って目が覚めると、シエテはまだ深く眠っていた。瞼も唇も閉じて穏やかな顔をしているのは珍しく感じる。体を寄せて、すぅすぅという小さく規則正しい寝息に耳を立てる。まだまだ知らない音があることに胸が締め付けられ甘い痛みが広がる。
ヤることが済んだら流れで帰っていた頃とは違うのだと、改めて幸福を噛み締めながら再び眠りに身を委ねた。
シエテと同時に起きて目が合って初めて、恋人同士で迎える朝が、誘うだとか行為そのものよりもずっと気恥ずかしいことを知った。