それはジュテームと同じ意味
それはジュテームと同じ意味
「ほらほら、そんなんじゃ俺に勝てないよ〜?」
地面についた手の平と膝からじわじわと痛みが広がる。どうしてオレがこんな目に合わないといけないのかと、タワーが嘆くのはこれで何度目だろうか。
「次、グランシャリオだけど広範囲に渡る攻撃だから回避と防御が不可能で……」
シエテが自分の技を一つ一つ繰り出して説明し、オレはその対策方法を考えさせられるのだがとにかく数が多い。これだから向上心の高い騎空士の相手はしたくない。なのにこの状況からは逃れられない理由がある。
「受け止めるだけの体力を残しておけばいいんだろう」
回避が出来ない技は、体力と気合いで乗りきればいい。言うだけなら容易だ。それを一度も失敗せずにやってみせるから簡単なことだと思われているのかもしれない。
「これっていつも手加減して使ってるから、本気で撃ったらどのくらいの威力になるか自分でもわからないんだよねぇ」
全力を出したら島も落としちゃうかもね〜と軽薄な態度で言っているが、決して誇張している訳ではないことはこれまでに散々と思い知らされている。オレとタワーも国単位で破壊をしてきたが、涯ての力という無尽蔵のエネルギーと比べると分が悪い。
「それなら空中で再生して無事な島に転移すればいいさ」
「そんなことも出来るの!?」
出来ないこともないがタイミングがシビアで、タワーとの連携も必要になる。想像をしただけで気が滅入ってきた。シエテの前に出てくることを嫌がって身を潜めているタワーも嫌そうな声で抗議してくる。顔の表情が強張っているが自分でもよくわかる。
「でも、まぁ、あまりやりたくはないな。残響を残して攻撃が来る前に遠くに転移した方が楽だ」
「いやぁ、ロベリアを選んで正解だったよ。他の人には頼みにくいことだしねー」
満面の笑みで言われるが全く嬉しくない。頼み事がこんなにも難しいとは想像もしていなかった。「団長を害することがあれば壊して欲しい」と、いつものにやけ面とは違った真剣な表情で言ってくるものだから気軽に承諾してしまった。それからは時間があればこうしてずっと一対一で鍛えられている。
剣拓はそれぞれ元となった剣の特殊能力も使えるからと膨大な量の剣拓コレクションの情報と、七体いる剣神の名前と動きの癖まで覚えさせられた。剣と刀だけでなく他の武器もそれなりに扱えることも知った。シエテの能力を知れば知るほどまともに相手をしたくない。団員相手だからと油断しているところを一気に仕留めるのが最善だと思うのに、相対した状況で正面から正々堂々と倒すことを望まれている。
「そもそも変な気を起こさないでくれ。キミだって団長が悲しむところは見たくないだろう」
「……未来はどうなるかわからないでしょ。その時は、お前が俺を止めるんだ」
有無を言わせない高圧的な視線が刺さる。
そんなことを言ったって、オレのことは幾つも用意した策の一つでしかないくせに。実際にシエテが団長の敵として立つ時、オレが真っ先に対峙することはないだろう。十天衆と、団長自らが立つ。団長もシエテもそれを望んでいる。そんな確信に近い予感がしている。それでもオレの望む幸福の為、この状況を甘んじて受け入れている。
「くはっ! わかっているさ、早く続きをしよう。このままだと……、日が沈んでしまうぜ?」
空を見上げて服の裾についた土を払う。シエテも同じように空を見上げてから、ほんの少しだけ足の位置を広げて、構えた。強く美しい生命がゆっくりとこちらを見据える。容赦の無い殺気に肌が粟立つ。聞いたことのない音への期待に心臓が暴れ狂う。
空から降り注ぐ光輝く星々に撃ち抜かれる感覚と音を、遠く離れた安全な艇の甲板の上で堪能する。
「あぁ、あぁっ、トレッビアンッ! これでもまだ本気を出していないだなんて。夢みたいだ。なぁ、タワー、お前もそう思うだろう?」
「お前が入れ替わったことに気がつかないなんて、天星剣王もただの人間だな」
「……ノン、気がついていたさ」
敢えて隙を作っていた。見逃された。シエテは懐に入れた人間には酷く甘い。それがまた堪らなくオレを苛立たせる。様々な感情が混ざり合い腹の下が熱くなる。もっと深く関わりたい。出来ることなら、戦闘ではなく別の方法で止めたい。壊すには時期が早過ぎる。シエテからはまだまだ聞きたい音が多く残っている。
白い喉元に噛みついて、剣を突き立てられた回数よりもずっと多く腰を打ちつけて鳴かせたい。高慢なあの男を蹂躙出来たら、きっと、幸福に近い音がするに決まっている。
壊して欲しいと請われるのは、口説き文句でしかない。今は望み通りに動いてやっていい。もっと互いを知り合えば、シエテも理解するだろう。
タワーにも、団長にも、誰だって譲る気はない。