trouver
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眠れずに街に出たところを同じ団の人間に見つかってしまった。
「こんな時間にどこに行くの?」
夜の街の音を聞きながら歩き回り、眠気がやってきてくれるのを期待していた。特に明確な目的地はなかった。時折、すれ違う幸せそうな人々を破壊したらどんな音がするのか想像していただけだ。
「夜の散歩さ」
こうやって正直に言っても何か企んでいるのかと疑われて面倒なことになるものだが、男はわざとらしいほどに満面の笑みを浮かべて肩を組んできた。
「暇なら一緒に酒飲みに行こうか」
気乗りはしなかったが、飲食代を全て出してもらえるというので連れ立って酒場に入った。関係性の薄い相手と二人だけで食事をしても何も面白いことは起こらないものだと思っていたが、予想外に興味深い話をするものだからグラスを一杯空けてもすぐに席を立たず話にいた。こちらから話すことは必要最低限に、低めで柔らかく気分が乗ると跳ねる声に耳を傾ける。
酒瓶を数本空けた後、夜も更けて家路につく客も増え、賑やかだった店内の音も落ち着いてきた。自然と互いの話す声も小さくなっていく。酒のせいか舌の動きが鈍くなってきて、ほんの少しだけ甘い声になっていくのも悪くない。もっとこの声を聞いていたくなる。すっかりこの男の話し声に魅入られてしまったようだ。
「……ロベリア君は自分の力が恐ろしくなったこと、ある?」
ない。少し考えても理解出来ない。未知の感覚の話だ。しかし、相手の欲しい回答がそうではないことはわかる。反応を見て話を合わせるのは得意だ。
「そうだな、子どもの頃にはそういう感覚もあったかもしれない、な。もう昔のことだから忘れてしまったさ」
何故か「勿論ある」とまでは言えなかった。多少なりとも脳に酒が回っているせいかもしれない。それとも、小細工が通じない相手だと感じ取ったからだろうか。
最適解とは思えない返答でも、シエテは答えに満足したのか嬉しそうに微笑んだ。
「そっかぁ。君も大変だったんだね」
背中に手を置かれたので曖昧に頷いて返す。どうやらこちらのことを労いたいらしい。触れる手の平から熱が伝わり広がっていく。
パパとママが幸福を教えてくれた日以降、タワーと出会うまでオレが求めるほど素晴らしい幸福には巡り会えなかった。満たされない毎日は大変だったとも言える。一つも嘘は吐いていない。
もっと信頼されたい。オレと似ている団長にはかなり多くのことを打ち明けて知ってもらったが、何故かその分距離を置かれてしまっている。団長が気に入っている大人を壊したらきっと多くの幸福の音が連続的にするだろう。もっと信頼されて心の底から信じてもらってから、壊したい。きっと極上のヴォリュプテが待っている。想像して自然と笑みが漏れる。
「くはっ、オレは幸福の為に生きているだけさ」
初めて幸福に出会った日、相棒に出会った日、団長たちと出会い新たな幸福を知った日、思い出すだけで多幸感とほんの少しの物足りなさを感じる。その物足りなさを埋めてくれる可能性を持った人物が、柔らかい表情でこちらを見ている。
「この世界の人々がみ~んな幸せに過ごせるといいよねぇ。その為ならいくらでも苦労を背負えるよ」
正気を疑ってシエテの瞳を見る。酒気を帯びてはいるが澄んだ空の色がこちらを見つめ返してくる。目の前の男は本心で言っているのだ。理想を掲げて自身を犠牲にしてでも他人の幸せを望んでいる。団長やルリアのような真っ白く純粋な美しさとは違う、例え泥に塗れても損なわれることのない自ら光を発して輝く美しさに思わず目を細めた。
壊したい。欲しい。オレだけのものにしてから壊したい。ゾクゾクと背筋が震えてくる。
「くはっ、贅沢な望みだな。少なくとも今、オレを幸せにしてくれているぜ」
タワーや団長の成長を感じた時と同じくらい、いや、それ以上に期待で心臓が締めつけられて痛い。血行が良くなったせいか酔いが一気に回ってくる。平衡感覚が狂ってきて真っ直ぐ座っていられずにシエテの肩に凭れ掛かった。シエテの肌の香りと熱を感じながら楽しい未来を思い描く。
「大丈夫? かなり酔ったみたいだね」
「酔ってなんかいないさ、キミといると幸せなんだ」
嬉しそうに笑う声が耳の近くに聞こえてきて「笑い声も好きだ」と呟くと、驚嘆の声が響いた。これは長い時間楽しめそうだ。
他人の為に生きる人間はすぐに儚く散ってしまうから、オレが飽きるまでは長生きしてくれよと空に願った。