あの子が欲しい
あの子が欲しい
空が青白く光る。すぐに轟音が鳴り響いた。肌に振動が伝わってくる。高台の上から光った方向を見ると、近い場所で団長たちが魔物相手に戦闘を繰り広げているのが確認出来た。
今日は十賢者のロベリアを連れているようで、魔物の残骸と抉れた地面が見える。魔物は数は多いが弱い種族だ。広範囲の攻撃も出来る魔術師を連れていれば加勢する必要はない。強引に合流すると同士討ちの可能性が出てきてしまう。その場を動かずに団長の成長とロベリアの動きを見ることにした。
「うんうん、団長ちゃんはまた強くなったみたいだ。それに、全空一の魔術師は頼りになるねぇ」
星晶獣の力を引き出した破壊の力は凄まじい。魔術師だというのに体力もある。戦闘能力だけでなく、洞察力に優れていて頭の回転も悪くない。天性の魔術も珍しい特性をしていて可能性に満ち、いろいろと便利そうだ。
「欲しいなぁ」
思わず口に出してしまう。
「シエテ」
咎めるような声で名前を呼ばれる。視線を下げると表情を固くしたウーノと目が合った。
「だって、勿体ないと思わない?」
類稀なる能力を自分の為だけに使っている。団長の為にも使っているが、それも結局のところは自分自身の為だ。
「気持ちはわからなくもないがね、彼が我々に協力してくれる可能性は極めて低いだろう」
ウーノがロベリアのことを好ましく思わない気持ちはわかる。二人は根本的に合わない。
ロベリアは他人を助けたいとは考えない。世界を壊したいとは思っても、世界を守りたいとは思わない。火の粉が降りかかれば払うが、対岸が燃えていて自分だけが救える力を持っていたとしても手を差し伸べることはない。
人は誰でも幸福になる権利を持っているという信念から、何よりも幸福を優先させていた。自分の幸福の為に他者の生命が尽きようが彼には関係のないことだ。俺やウーノが掲げるノブリス・オブリージュの考え方とは相容れない。
「わかってるよ。でも……」
ロベリアの幸福が、この世界の人々を助けることになればいいのにと思い描いてしまう。世界の楔たる六竜は無理でも、人間が相手なら上手く協力し合えるのではないかとどうしても期待してしまう。どんな時でも希望を持ち続けたい。
お互いに黙ってしばらく経つと、辺りが急に静かになった。戦闘が終わったようで団長たちの周囲に立つ魔物はいなくなった。団長が武器を収めてルリアとビィに話かけている。ロベリアは服の端についた埃を払っていたが、こちらの視線に気がついたのか目が合った。
離れた場所からでもよくわかる恵まれた体格と整った顔立ちをしている。剣も人も、強くて美しいものは好ましい。
獰猛さを隠し持った強く美しく好き勝手に生きる獣を、ドロドロに甘やかして飼い慣らせればどれだけ愉しいことか。
「欲しいなぁ」
小さく呟いた声を聞いたウーノが、飽きれたように長く息を吐く。
「シエテ、私達もそろそろ合流しよう」
「了解」
一足先に団長たちの元へ移動を始めたウーノの後を追うように歩き始める。
ビィとルリアがこちらに気がついて手を振ってくる。手を振り返している間に、ロベリアはマントのフードを被ってしまい表情が見えなってしまった。それをとても残念に思う。
あの獣が、欲しい。