2回目の恋人のいるクリスマス
2回目の恋人のいるクリスマス
団長のおかげで、オレは常に幸福に包まれて生きていけるようになった。このことには本当に心の底から感謝している。クラポティを出していなくとも耳の奥では骨が砕け、内蔵が潰れ、血肉が飛び散り、堪えきれずに口の端から漏れる悲鳴が、極上のアルモニーを形成している。
それに、恋人が出来た。団長と出会う前のオレからしたら考えられない奇跡ともいえる。どこか一箇所に定住した先に、オレの求める幸福があるとは思ってもいなかった。
絶対に話が合わないだろうと思った相手と、仕方なく世間話をしていたら妙に気が合って、そのまま一緒に過ごしていくうちに上手い具合に恋人同士として収まった。特別な経緯もなく恋人になった割には非常に居心地の良い関係を築けている。そんな恋人になった相手のシエテだが、最初の印象通りにオレとは好みが合わない。愛し合ってはいるが互いの存在が一番ではない。オレは自身の幸福の音を追求し続けるし、シエテはこの世界の為に生きなくてはいけないという。世界の為という感覚を理解出来ないように、シエテもまた幸福の音の素晴らしさを理解しない。
甘さ控えめの固いジンジャークッキーの四肢を囓りながら、部屋の中で忙しなく動く人物を眺める。動く度にサンタの帽子から飛び出た癖の強い毛先が跳ねる。見ていて飽きがこない。視線に気がついたのかこちらを振り向いて笑いかけてきた。
「お菓子を食べ過ぎると、クリスマスディナーが食べられなくなっちゃうよ」
「ウィ、わかっているさ」
保護者のような声に素直に返事をして持っていたクッキーを一口で片付けると、シエテはその様子に満足したように頷いてから再び作業に戻っていく。
シエテは朝から子どもたちに配るクリスマスのプレゼントの準備をしている。いいや、ここ最近ずっと今日の夜の為に準備をしている。衣装に、食事に、食事会の会場に、室内の装飾に、プレゼントに……と、なにかと準備するものが多いようだ。決めていくのを隣で見ていたし、どっちがいいかなんて聞かれることもあった。
オレのクリスマスの準備も予定も昨日のうちに終わっている。サンタさんは来てはくれないが、こちらから会いに行けることがわかった。サンタさんも忙しいから前もってプレゼントを渡した。だからクリスマス当日は特に決まった予定がない。
クッキーの缶に蓋をして、コーヒーを飲む。
甘いものは好きだが、胸焼けするほどに甘ったるくてべとべとするようなものは好ましくない。特にバレンタンデーのような恋人たちが主役のイベントが奏でる音は胸焼けしそうだ。その点、クリスマスは良い。甘さは控えめでいくらでも聞いていられる温かな幸福に満ちている。
昔からそうだった。家族愛は素晴らしいと思うが、恋愛はどうも得意ではない。期待と相手の幸せを押し付けられて息苦しい。恋愛感情なんて縁遠く、恋人という存在はどんな幸福の音を奏でてくれるのかでしか興味がなかった。過去に見知らぬ相手に告白をされて「じゃあ、今から恋人同士だ」と言うと同時に破壊したが、期待したような幸福の音は奏でられなかった。恋人を壊しても面白みのない平凡な代わり映えのしない音しかしなくて酷くがっかりした。
そう、恋人なんて存在は、なんの魅力もないものだと思っていた。自分以外の人間は総じてどんな音がするかどうかでしか見ていなかった。
団長に出会ってから騎空団に所属して、二人用の広めの部屋に特注の大きなベッドを運び込んで一緒に寝るだなんて、気が触れたとしか思えないようなことをしてしまっている。しかも相手のことを壊さずに一年以上も関係を維持している。以前のオレからすると到底考えられない。
「じゃ、シエテお兄さんは子供達の為にサンタクロースをしてくるからねー」
凝ったデザインのサンタ服だ。特注らしい。付け髭さえも可愛らしく、一回転してマントを翻して見せてくれた。自信に満ち溢れ、楽しそうに笑ってる姿が眩しくみえる。
「よく似合っているよ。……オレも、今夜は街を見回りに行ってくる」
念の為にブラックサンタの帽子と付け髭とマフラーがあるか確認する。
賑やかな空気に紛れて悪事を働く者も多い。かつてはオレもそうして人の多い場所を選んで自分のやりたいことをしていたからよくわかる。団長には予定がないなら街の中を見回って欲しいと言われてしまった。シエテが不在だと特に優先してすることもないので聖夜の幸せそうな人々の音を収集がてら歩いて暇を潰すしかない。こういう時の音は団長やシエテが好むので後で役に立つ。
「ロベリアも、いい子にしてたらサンタさんからプレゼントが貰えるかもよ?」
「ああ、楽しみだ。……その、シエテも貰えるよ。キミはいい子だからね」
去年はシエテからマフラーを貰った。ママとパパ以外からクリスマスにプレゼントを貰ったことがなく、恋人同士でプレゼントを交換するものだという認識が薄かった。特に何も用意してなくて焦った。クリスマスの夜に恋人にプレゼントを貰えるとは思っていなくてお礼のキスすらすぐに出来なかった。シエテが得意気に笑った後に、貰ったばかりのマフラーを首に蝶々結びにされて、素敵なプレゼントをありがとうと言われて抱き締められ、ほんの少しだけ泣いてしまったのが今思い出しても照れくさい。今年は絶対にそんなヘマはしない。
「本当? それは楽しみだなぁ~」
プレゼントが詰まった白い袋を肩に担ぎながら嬉しそうな声をあげる。シエテはオレのお気に入りのコレクションがあまり好きではないから、秋口から考えても決められずにずっと悩んだ。喜んで欲しくて団長たちに相談までして決めたからきっと気に入ってくれる。
「去年より良いプレゼントさ」
そう言うと、シエテが首を傾げて帽子の先端の飾りが揺れる。
「う~ん、それは難しいな。去年より良いものはそうそうないからねぇ」
片手で髭を弄りながら微笑みかけてくる。心臓が痛い。オレを喜ばせるようなことばかり言うのはやめて欲しい。オレはシエテほど上手く出来ずにいる。他の人間関係なら大抵はシエテよりもずっと上手くこなせるのに、恋人同士という枠では意外にもシエテの方が上手く振る舞えている。
「そうだ、ロベリア……忘れ物だよ」
何を言おうか考えているうちに、付け髭越しに頬にキスをされた。お返しに手袋に包まれた手を掴んで指先に唇を落とす。唇が肌には触れていないままごとのような行為だというのに不思議と充実感がある。
ご機嫌に鼻歌を歌いながら袋を背負って歩いてくる背中を、見えなくなるまでずっと眺める。こっそりと今の鼻歌を録音しておいた。音がところどころ外れているのに、オーケストラの演奏よりも価値があるように感じる。
クリスマスは家族で過ごす日だ。騎空士なら所属している団内で過ごすことも多い。
幸福を知る前、何もわかっていなかった幼い頃はママとパパと過ごした。ママは特別で綺麗な服と化粧で着飾って、パパはそれをとても喜んでいた。
島や国を転々としていた時、クリスマスの夜は恋人同士で過ごす日という島も見たことがある。シエテと共に過ごしたいと思ってしまうのは普通じゃないのだろうか。
楽しそうに子どもたちへのプレゼントを準備している姿を前にすると言いそびれてしまった。そのまま当日を迎え、今は別々に行動している。今からでもシエテのことを追いかけて隣で手伝えないだろうか。街の中の見回りなんて証明する必要も方法もないのだから、後で聞かれることがあればやったと言えばいい。素晴らしい考えだ。
そうと決まればシエテの元へ向おうと、部屋を出て艇を降りたところで団長とルリアたちが立っていた。
「メリー・クリスマス! ロベリアも見回り、よろしくね!」
小さな袋を渡され「寒い中の見回りは大変だろうけど、途中でお腹が空いたらお菓子を食べて頑張ってね」と言われてしまうと、サボる気持ちが萎んでいく。クリスマスに団長たちとシエテに失望されると正月の予定に影響が出てしまう。最悪、機嫌を損ねたシエテが一緒に過ごしてくれない可能性だって出てくる。悩んでいるうちに団長たちに送り出され、仕方なく街へ向かって歩いていく。
街の中を歩いていると、甘ったるい音に出くわして思わず顔を顰める。付け髭のおかげで不機嫌な表情は誰にも伝わることはないだろう。クリスマスの夜の街にはあまりいないと思っていたはしゃいだ恋人たちの音を聞いてしまうだなんて気分は最悪だ。その場を足早に離れ、薄暗い裏通りに足を向ける。
悪人と言われる存在は聖夜だろうがなんだろうが蔓延る。そいつらの音は恋人たちの旋律よりは多少マシなのだが、幸福な人々の音を邪魔するノイズでしかない。
聖夜に似つかわしくない音を感じ取り、動き始める。
ブラックサンタの格好は動きやすい。街に自然と溶け込めるし、黒は裏道に紛れ込むのにも向いている。赤いサンタクロースの服と違って子供たちに囲まれることもない。
最近、編み出したお気に入りの魔術の組み合わせを使う。精神だけを破壊して悲鳴は周囲に聞こえないように遮断する。肉体は建物の影にでも転がしておけばいい。精神を壊すと言っても、時間が経てば日常生活をやっていく程度には回復する。街中でも使えて服を汚さずに一瞬で無力化出来て便利だ。肉体の壊れる音は収集出来ないが、悲鳴はいくらでも搾り取れる。
今夜くらいはいい子にしていればいいものを。手間を掛けさせないで欲しい。数人を地面に転がすと、苛立ちを抑える為に団長たちに貰った菓子を口に放った。口を開くと冷たい空気が体内に入ってきて体が冷える。音の魔術でマントの中の空気を震わせ、すぐに暖かくなった。マフラーがあることで首元が暖かいと思う度に、風邪をひかないようにねとシエテに頻繁に言わていることを思い出す。
シエテは今頃、クリスマスディナーを食べている頃だろうか。明るく暖かい部屋で、オレではない家族と等しく思っている大勢の人々と共に。
シエテと共に大人数のパーティーに混ざっても、ケーキに乗ったサンタクロースの砂糖菓子もチョコプレートも、オレの皿にはやってこない。行ったって絶対に面白くない。子供相手に取り合うのも格好がつかない。オレは特別なモノを独占したいだけなのに。ケーキの上の特別なオブジェクトも、サンタクロースの格好をしたシエテも、本当は全部一人で独占したい。
思い通りにいかないことに苛立ちが募る。大きく吐いた息が白い。気温が下がり雲行きも怪しくなってきた。すっかり暗くなった空から真っ白な雪の粒が降り落ちるまであっという間だった。クリスマスに降る雪に喜ぶ人々の中を、一人歩くと気持ちは更に沈んでいく。慰めてくれるように胸元の赤い宝石が鈍く光るが、今日ばかりは破壊を楽しむ気分ではなかった。聖なる夜に破壊を楽しみ幸福に浸るのがいい子の行いではないことくらいオレだってわかっている。
積もるほどに雪は降り続き、人々は家路を急いでいる。景色が白くなっていく程に音も減っていく。人の往来も少なくなり、これ以上見回りする必要もなさそうな静かな夜になった。
帰路の途中、パティスリーの前を通ると、曇ったガラス越しに見える赤い果物で飾られた大きなホールケーキに目が止まった。帽子と付け髭を取ってパティスリーのドアを開けると、メリー・クリスマスと書かれたチョコプレートが乗っているケーキを迷うことなく指差して購入する。今日は雪も降って特別冷えているから明日の昼過ぎでも美味しく食べられるだろう。シエテと一緒に温かい飲み物を飲みながら食べたい。ケーキを見たらどんな顔をして、なんと言うだろうか。想像するだけで最悪だった気持ちが溶けていく。
指を鳴らして別の空間にケーキの箱をポイッと入れると、すっかり白に染まりきった道を足早に歩く。
雪のせいか艇の中は静かだ。防寒対策はされていても廊下は冷える。マフラーを少し引き上げて顔を埋める。きっと食堂やカフェ、バーに行けば人が集まっていて賑やかな音がしているだろう。それらに混ざる気にはなれない。
足を止めて、引き返す。今から無理やりでもシエテを迎えに行ってしまえばいい。恋人というものにはそのくらいの権利があるはずだ。なくても関係ない。平和的な方法なら自身の幸福を追求してもいいと言われている。
騎空艇の廊下をオレのものではない靴の音が響く。早いテンポだが聞き慣れた音だと耳が拾い、足を止めた。聞こえてきただけで胸が暖かくなってくる音だ。足音がする方に向かって視線を向けていると、とても可愛いサンタクロースが見えた。向こうもこちらに気がつくと、一気に駆けてくる。
「メリー・クリスマス!」
完全に浮かれた様子だ。酒を飲んできたのか鼻の先が赤みを帯びている。足音も声も弾んでいてこっちまで楽しい気持ちになってくる。
「おかえり、シエテ」
「たっだいまー! いや~、今年も大盛況だったよ。シエテお兄さん大人気で困っちゃうよ。早い時間にプレゼントがなくなったから、帰ってきちゃったんだ」
あの量のプレゼントが早くになくなってしまうとは、相当な人気だったのだろう。そのおかげで一緒に過ごせる。とても嬉しいが、子供みたいにはしゃいで喜びを表に出さないように、エレガンスな大人の表情を保って返事をする。
「そう」
返事が素っ気なさ過ぎたせいか、シエテがこちらの表情を窺ってくる。
「なになに、シエテお兄さんがいなくて寂しくて拗ねちゃった? 本当は嬉しいんだろう?」
「ああ」
素直に肯定すると、シエテは目を丸くしてこちらを見ている。
「え、ほ、本当に?」
「恋人と離れていたら寂しいに決まってる」
「そっ……そっかぁ、そうだよねぇ~」
にこにこと笑みを浮かべてから抱きついてきた。幼い子供がテディベアを抱き締めるように、腕に力を込めてきつく頬ずりまでされる。
「シエテ?」
艇の廊下でスキンシップを取ることは今までなかった。他の騎空士に示しが付かないからと、例え周囲に人がいなくても部屋に戻るまでは駄目だと言っていたのに。
「俺も一緒にいたくてさ。帰ってきちゃったんだ」
驚いて言葉を失っていると頬を突かれる。あんなに今日を楽しみに準備をしていたのに、オレと一緒にいたいからと早く帰ってくるだなんて。動揺しながらも抱き締め返すと、嗅ぎ慣れたシエテの香りがする。
「いい子にしてた?」
「ウィ、当然だ」
「クリスマスのご馳走を持って帰ってたから食べようよ」
「皆と食べて来たんじゃないのか」
「い、いや~、ロベリアがお腹を空かせて待ってるんじゃないかって心配で心配で……」
体を離され、手を引かれて歩き出す。部屋に入ると、テーブルの上に手際よく料理を広げていく。いくつかの皿は料理が偏っている。
「ごめん、走った時に傾いたみたい」
気まずそうな顔をして偏った料理をフォークで平らに整えている。
「そんなに急ぐことがあったのか?」
シエテが走っている姿なんて戦場以外では見たことがない。何かそんなに急ぐような出来事が起こったのか聞いてみると、フォークを動かす手が止まってシエテの頬が徐々に赤みを帯びていく。
「艇に戻ってくる時、足跡を見てロベリアが先に帰って来てるってわかったら……つい……」
鼻先が赤くなっていたから酒を飲んで帰ってきたと思ったのに、抱き締めた時に酒の匂いがしなかったのは単に走っただけだったのか。どんな顔で、どんな音で走ったのか見てみたかった。それよりも心臓の辺りが熱く締めつけられて苦しい。
「そんなにオレに会いたかったのなら、来年はずっと一緒にいたらいい」
やっと言いたかったことを言えたのに、シエテは浮かない表情をしている。
「ロベリアは、クリスマスが特別好きでもないだろう?」
サンタさんは一度もオレの元に来てくれなかったし、プレゼントを交換する相手もいなかった。人々が浮かれ騒ぎ、幸福の音を探すには好都合ではあったから悪くはないと思っていた。
この団に入ってからはサンタさんにも会えたし、団長に連れられてパーティーに混ざったこともある。楽しんでいた、楽しめていたと思う。サンタさんともっと仲良くなって、いつの日かサンタさんの奏でる幸福の音を聞くのも楽しみにしている。
だが、クリスマスが特別好きかと聞かれれば、心の底から好きだとは言い難かった――今までは、そうだった。
「そんなことは……」
「俺だって割りと最近まで興味なかったんだけどね、でもこういう季節のイベントって悔いのないように全力で楽しんだ方がお得だろう。でもさ、だからって無理やり付き合わせるのも悪いからさ」
シエテは笑みを浮かべているが、壁を作っているのを感じる。一緒にいたいのならいつだって側にいればいい。それがずっと言えずにいたのはオレも同じだ。今なら多少の我儘を言っても許されることだろう。
「嫌いじゃない。オレのサンタクロースは忘れずにプレゼントをくれるし、オレだってサンタクロースになれるんだ。だから、来年はずっと一緒に過ごそう」
指を鳴らして、テーブルの空いているスペースにケーキの箱を出す。恋人と二人してサンタの格好をして、特別な料理とケーキがある。完璧なクリスマスの夜だ。
「もうサンタクロースにプレゼントを貰う歳でもないのになぁ」
「これだけじゃないぜ。ちゃんと用意してある」
もう一度指を鳴らして片手に持てるほど小さな箱を取り出し、右手で手渡す。
「ありがとう。気を遣わなくてもいいのに。ふふっ、俺からもあるよ」
シエテは箱を手に握ったまま部屋の隅にあるシエテの荷物を引っ張り出す。鞄の奥から綺麗にラッピングされたプレゼントが出てきた。去年よりも大きな包みだ。
「メルシー、シエテ」
受け取ると頬に軽くキスをする。もう慣れたものでこのくらいではお互いに照れることはしない。
包み紙を開けて中から出てきたのは、とろとろと柔らかく分厚い生地のパジャマだった。
「俺とね、色違いのお揃いなんだー」
そう言いいながらシエテもオレからのプレゼントを開けて、息を飲んだ。中には小さなクリスマスのメッセージカードと、満点の星空のような石の付いたピンブローチが入っている。特注の頑丈で壊れにくい金属製だ。いつも着ているマントにも合う。
シエテは気に入ってくれただろうか。箱を見つめたまま口が薄く開いている。
「気に入ったかい?」
口を閉じて苦しそうに眉間に皺を寄せている。困ったような表情を浮かべて視線を下げたままゆっくりと話し出す。
「俺はさ、あまり長持ちしないものの方がいいかなーって思ってたんだよね。こういう関係って、いつまで続けられるかわかんないだろう」
マフラーもパジャマも大事に使っても数年が限度だろう。そんなことを考えながらプレゼントを選んでいたのか。
タワーとの契約を結んでいるオレには期限がある。なるべく長引かせる気でいて、シエテには一切話していない。もしもシエテにも期限があるとしたら、考えるだけで全身が痛みを覚える。一つでも多く音を残しておきたいし、シエテの記憶に他の誰よりも多く残りたい。
身を乗り出してシエテが手に持ったままの箱の中身を取り出し、サンタ服のジャケットの襟元につける。思った通り、星空がよく似合う。
「どちらかが死ぬまで、ずっとさ」
真っ直ぐ瞳を覗き込むが、すぐに視線を逸らされた。奇跡が簡単に続くものではないことくらい、互いによく理解している。
オレたちの関係はなんとなく始まって、常に穏やかな時間を過ごしている。これまで情熱的にお互いの気持ちを確かめ合ったりはしていないし、未だに隠し事も多い。全てを打ち明けなくても一緒にいられるのだから気にしていない。
「……まぁ、とりあえず先に着替える?」
重たくなった空気を変えるようにシエテが提案してきた。肌触りのいいパジャマのシエテとくっついて眠るのは魅力的だ。しかし、食後にゆっくりと微睡む時間を取るつもりはない。今日はこれ以上何も考えなくていいように無茶苦茶に抱き潰したい。
「パジャマを着るのは明日でいいんじゃないか? 着てすぐ脱ぐくらいなら明日にしよう」
それだけ伝えるとサンタクロースの格好のまま料理を食べ始める。シエテのことだから料理に使われているのはどれも拘った高級食材なのだろう。味も香りも上品で食が進む。
テーブルの上の料理全てに手を付けてから黙ったままのシエテを見ると、赤くなった目元を片手で覆っている。指の隙間越しにちらちらとこちらを見ている。
「美味しい?」
「セボン! ケーキの後のデザートも楽しみだ」
マナー違反ではあるがフォークでシエテを指差すと、今度は両手で顔を覆ってしまった。シエテの肌がケーキに乗った果物のように真っ赤に色づいてとても美味しそうだ。
今日みたいな特別な日は、可愛い恋人にチョコプレートを譲ってあげてもいい。チョコプレートを摘んでシエテの口元に運ぶと、暫く拒んだ末にゆっくりと口を開けて食べてくれた。溶けたチョコレートの付いた指先を舐めると、シエテからの視線が熱を帯びていて気持ちが昂ぶる。
「お前さぁ、去年とは全然違くない?」
「くはっ、オレも成長してるのさ。愛する人の為に、ね」
ウインクをして丸いケーキにフォークを突き立てる。カットして行儀よく食べる気は失せた。早く食べきってしまいたい。
「ロベリアがそこまで俺のことが好きだなんて、知らなかったな」
襟元のピンブローチを撫でながら言う声が柔らかくて擽ったい。
「今更だ。今日一日ずっとキミのことを考えていた。メルシー、ジュテーム、オレの可愛いサンタクロース」
シエテは、うぐぅという動物の鳴き声のような声を上げた後、大きく息を吐いてからフォークをケーキに突き刺して頬張った。数口食べて満足したのか手を止めて、小さな声で呟く。
「……来年は、アクセサリーを贈るよ」
相変わらずオレたち二人の間に流れる空気は、ゆったりとした長閑なテンポで進んでいく。そんな中でも、不安定な先の約束を交わすくらいには変化が生まれている。
「あぁ、楽しみにしている!」
料理を食べながらクリスマスソングを口遊む。目の前に座った恋人が同じ物を食べながら笑みを浮かべている。人生で一番のクリスマスの夜だ。それに、きっと来年はもっと素敵なクリスマスになる。