ロベぬいとシエテ 後編(シエテ視点)
ロベぬいとシエテ 後編(シエテ視点)
昼寝をしていると、廊下が騒がしくなってきた気配を察知して体を起こす。どうやらドアの前で誰かが話をしている。ロベぬいを毛布の下に隠してからドアを開けた。
「団長ちゃん?」
部屋の前にいたのは団長とルリアの2人だった。
「あっ、ここって今はシエテの部屋だったっけ」
「ここで間違いなさそうなんですが」
「剣に取り憑いちゃったとかかな」
「その可能性はありますね。帰れなくなっているのかもしれないです」
神妙な面持ちで2人だけの会話をしている。剣に付く?とは何のことだろう。
「ねぇねぇ、何の話? お兄さんのこと置いてきぼりにしないで。ね?」
説明を求めるも、2人は目と目を合わせて頷き合ってから部屋の中に入ってくる。
「時間がないから部屋の中を調べさせて」
置いてある剣の他に、テーブルの下やカーテンの裏を触れて調べられる。
「ちょっ、待った、だめだめー、だめだってば」
ベッドの毛布の下にはロベぬいがいる。決してやましいものではないが、かわいいぬいぐるみと暮らしていることがバレるのは恥ずかしいし、更に実在する人物のぬいぐるみを勝手に作って所持いるのは気色が悪いと思われてしまう。なんとか隠し通したい。
「どうして?見られたらまずいものでもあるの?」
「なっ、なにもないよ。でも、男には見られたくないものの一つや二つあるでしょ~団長ちゃんならわかるよねっ!」
「別に気にしないし、変なものがあっても誰にも言わないよ」
団長は少し照れた表情をしていることから、男の見られたくないものについては察してくれてはいるが、それよりも何かを急いでいるようでこちらの要求を聞いてくれない。
「ロベリアさーん、どこですかー?」
ルリアの口から出た名前にギョッとする。どうして俺の部屋でロベリアを探しているのか訳がわからない。ロベぬいが関係しているのか。嫌な想像をして冷や汗をかきながらベッドの横に移動し、丸まった毛布を背に隠して様子を窺う。
「あれ、シエテ……何か隠してる?」
体が強張る。不自然に思われてしまった。ベッドに向かって2人が近づいてくる。
「隠してないよ。こ、こないで。何もないから!」
手を横に振って何もないとアピールするも、余計に気になるのか毛布の方に視線が集まる。なんと言って誤魔化すか、剣拓と剣神を出して実力行使で叩き出してしまおうか……そう迷いながら星の海を出す直前、廊下から声が聞こえた。
「お〜、いたいた。ロベリアが目を醒ましたぜ」
ビィの声が聞こえると、2人の動きが止まった。
「うーん? ……あれっ、確かに移動したようですね」
「シエテごめん、ロベリアが紛らわしい動きをしたみたい」
解決したのか足早に去っていく。廊下まで見送りながら一人呟く。
「……いや、だからなんでロベリア?」
もちろん回答はないがぼやきたくもなる。あまりの緊急事態に寿命が縮んだ気がする。毛布の塊を見ながら息を吐き、ドアを閉めて鍵をかける。
全く何がどうだったのか。とにかくロベぬいのことは見つからずにはすんだ。ほっとして、ロベぬいを取り出して眺める。丸い顔が愛らしい。危機には陥ったが手放すことは出来ない。
抱きしめながらベッドにダイブして、昼寝を再開しようとしたところでドアがノックされる。
慌てて飛び起きて、再びロベぬいを毛布の下に隠した。
「は、はいはーい、今度は誰かなぁ〜?」
開けるとロベリアがいて、強引に部屋の中に押し入ってきた。突然のことだったのと、顔に見惚れてしまって侵入を許してしまう。
「えぇっ?」
ベッドに向かって真っ直ぐ近寄って毛布を掴み取り、隠していたロベぬいを鷲掴みにされた。
「な、なんで、それ」
あまりの急展開についていけない。
「臨死体験中にこのぬいぐるみの中にいたんだ」
「……いや、何を言ってるの?」
本当にわからない。臨死体験? 頭でもおかしくなったのだろうか。元から頭はおかしな奴だが、これはどうかしている。
「オレも疲れてるんだ。早く昼寝に戻ろう」
そう言ってベッドの奥の方に横たわった。ロベぬいを強く握り締めながらこちらを見てにやにやと笑っている。楽しくて仕方がないといった表情だ。見たことのない悪そうな顔もサマになっている。
「返してよ」
「もう要らないだろ」
当人は格好良い顔をしているが、ロベぬいは可哀想なことに強く握られて顔が変形してしまっている。
「そっ、その子を虐めないでくれ」
こちらの言葉に目を瞬かせ始めた。
今のは完全な悪手だった。ロベぬいがとても大事なものだと気付かれてしまった。
「くはっ、さっきみたいにキスしてくれたら、これを返してあげてもいい」
「はぁぁぁ!?」
何故、キスしてたことまで知っているのか。本当に臨死体験だかなんかでロベぬいの中にいたのか。混乱している間にもロベぬいは潰され続けている。
何としてでも助け出したい。顔を近づけるとロベリアが目を瞑った。長い睫毛が影を作って彫刻のようだ。額に唇を落としながらロベぬいに手を伸ばすも、パチンっと音を立てて叩き落とされた。
「ノンノン、さっきは口だったろ」
駄目出しをされてロベぬいが更に変形させられる。可哀想だ。
「それは……、よくないでしょ。だって……」
本当に困った。弱々しい声を出していると顔が迫ってくる。推しの顔が目の前に広がり、唇と唇が触れ合った。
「ボンヌニュイ。おやすみ、シエテ」
「ちょっと……むぐっ」
文句を言おうと開いた唇に、ロベぬいの顔を押し当てられる。両手で受け止めると、ロベリアがベッドの開いてるスペースを軽く叩く。ここに横になれということらしい。
「それを布と綿に戻されたくなかったら、早くした方がいい」
ロベリアが指を構える。音の魔術を使ってロベぬいを破裂させることは簡単なことだろう。想像しただけでゾッとする。
ベッドの端ギリギリの場所に寝ると、顔と顔の間にロベぬいを寝かせる。隣り合って寝るだけで緊張する。
「これじゃキミが見えない」
不満そうな声に仕方なく2人の間にいるロベぬいを退かして横を向き、ロベリアに背中を向ける。ロベぬいを抱き締めて体を少し丸めた。
「シエテ……キミは照れ屋にも程があるな」
呆れたような声と共に、強引に抱き寄せられてしまう。
「わっ!」
背中も、腕を回された腰から腹部にかけても、触れ合う部分が熱い。
抱き締められている状況も、すんすんと首の後ろを嗅がれることも恥ずかしくて仕方がない。体が固まってしまって身動きが取れない。
「でも、オレから行動すると決めたから、何の心配もないよ」
耳元で甘ったるい声で囁かれて背筋がぞくぞくと震えてしまう。顔だけでなく声もいいなんて今までは気がつかなかった。推したい項目がどんどん増えていく。こんなことなら推しについて話していた子たちに、推しと急接近した場合の対処法も聞いておけばよかった。
どうしてこんなことになったのか。本当に、本当に、わからないっ!!!