耳が弱い、弱くなる予定 [R18]
耳が弱い、弱くなる予定 [R18]
先程からずっと、恋人があからさまに不機嫌ですという態度でいる。テーブルを指先でコンコンと一定のリズムで叩いていて、たまにトントントンッと三連打になったり数秒止まったりして気が散る。こうなることがわかっていたから艇を離れることを前日の夜まで言わずにいた。
構って欲しいアピールを無視して荷物を整理整頓を続ける。とうとう痺れを切らしたのか、大きく息を吐いてから名前を呼ばれた。
「シエテ」
手を止めて振り返る。責めるような声だ。
この先の要求はわかっている。
「しないよー。明日は朝早いからね」
一瞬だけムッと口を尖らせるも、すぐににっこりと微笑みかけてくる。こういう顔をする時は要注意だ。油断させて要求を飲ませようとしてくるはずだ。
「最後にしたのは昨日だね」
「うん。昨日したからいいじゃない」
「シエテは昨日、しばらく出来ないとわかっててしたかもしれない。でもオレは何の心構えもしていなかった。それは不公平だと思わないか?」
口元に手を当てて考える。
確かに、しばらく出来ないから昨日こちらから誘ってしたくらいだし、不公平だと言われると言い返せない。昨日の時点で言っておくことを避けたのは自分だ。ここで無理を通して拗れると面倒なことになるので、妥協案を提示するしかない。
「うぅーん、じゃあ、避妊具を付けて一回だけならいいよ」
「一回? それはシエテが? オレが?」
「……ロベリアの方」
逆だと陰茎を縛ってでも明日の出発が出来ないように延々と続けられそうな予感がした。想像しただけで恐ろしい。
昨日したばかりだが、一回だけならそう長い時間もかからないだろう。
「ウィ!」
嬉しそうに返事をする姿はいい子に見えるが警戒は続けないといけない。服を脱ぎながら、早く終わらせる方法を考える。
「シエテ、ひょっとして早く終わらせて寝ようだなんて考えてないだろうな」
「いやいや、早く寝かせてよぉ」
「オレを置いて行かないなら、このまま寝てもいいんだ」
後ろから抱きしめてきて耳にキスをされる。猫のように額をぐりぐりと押し付けて甘えてくるが、流されてはいけない。俺には自己の欲求よりも優先してするべき使命がある。
「……あまり困らせないで」
振り向いて唇を塞ぐ。喋らせないようになるべく唇を重ねて体を絡めて合わせていく。昨日ぶりというのもあって、さほど時間を掛けずに挿入は出来た。言ったとおりにきちんと避妊具も付けてくれている。
受け入れている時、一人じゃないと強く実感出来て幸福を感じる。ロベリアもそうであって欲しい。
「……くっ」
苦しそうな声がロベリアの口から漏れた。そろそろイくかなと思った途端に動きを止め、呼吸を整えている。目を閉じて肩で息をしながら堪えている。
「ちょっと、まだイかないの」
「まだ、だ」
これが続くと朝になるんじゃないか。寝たい。あと長引くと普通に辛い。徐々に苦しくなってきた。
「ねぇ、そこまで我慢しなくても」
視線で訴えるが首を横に振られてしまう。
「だめだ、一回の約束だろう?」
息を荒げ、大量に汗をかいている。髪の毛をかきあげていつもより額を出している姿も整った顔が引き立って格好良い。いい男なのに、やってることは子供っぽい。我慢するという力技で長引かせる気だ。全く油断が出来ない。これはもう奥の手を使うしかない。
大きく息を吸って、ロベリアの耳の中に熱く長く吹きかける。
「あぁっ!? ……う、うぅぅ」
「っ、はぁ、はぁ、はい、おしまい」
耳が弱いことはよく分かっていたが、実際に責めるのはこういう時のために温存していた。効果は抜群ですぐにイッてくれた。
「卑怯だ! 朝まで繋がっていたかったのに」
「朝には出発するんだから寝かせてよ。もう限界」
体を離して避妊具を外してやり、ゴミ箱に放ると横たわる。汗でべたべたするが拭いている余裕はない。目を瞑るとすぐに眠気がやってくる。
「……シエテ、そのままだと風邪を引く」
名前を呼ばれて眠ることを許してくれない。薄く目を開くと、シーツを取り替えようとしているようなので体を転がしてベッドから降りる。
「ありがと」
床に座ってうとうとしてると下着を履かされて、ベッドの上に引き上げられる。さらっとしたシーツが心地よい。
「ボンニュイ、シエテ」
「おやすみ」
額にキスをされたので頬にキスを返して眠りにつく。
やっぱり男は一回イッたら冷静になるもんだなと、己が宿命やらなんやらを理解してくれる恋人に感謝しながら意識を手放した。
「ボンジュール、いい朝だね!」
目を覚ますと近距離で目が合った。すぐに顔中にキスをされる。テンションの妙な高さに違和感を感じる。普段はもっと落ち着いた雰囲気で、声も少し低くゆったりと喋るというのに。
「……おはよ……ひょっとして寝てないの?」
「ああ、ずっとキミの鼓動を聞いていたくて、ねっ」
「へぇ……」
それこそ録音したのを聞けばよくないか? と思うが、音に執着のある男に音の話をするのは避けたい。
身支度をすませて振り返えると、耳に唇を付けて囁かれる。
「帰ってきたら、シエテも耳イキが出来るようにしてあげるよ」
背筋がぞくぞくと震える。そんな復讐をされるだなんて考えていなかった。手のかかる可愛い恋人は、まだまだ予想外のことをしてくれるようだ。
負けじと耳に音を立てキスをしてから囁く。
「楽しみにしてる」
「くっはっ!」
ロベリアが歓喜の声を上げて、顔を真っ赤に染めた。耳を押さえて床にしゃがみ込んだ恋人の頭を撫でてから部屋を出る。
後手にドアを閉め、熱くなった顔を手で仰ぐ。深呼吸をしてから剣の柄を握って気持ちを切り替える。
早く終わらせて帰ってきたい。髪を整える仕草で、ほんの少しだけ耳に触れてから歩き出す。