アップデート [R18] 前編(シエテ視点)
アップデート [R18] 前編(シエテ視点)
これまで生きてきた中で性器や粘膜など、性感帯に触れて快感を感じたことがない。
世に言う不感症というやつとも少し違うようだ。擽ったさや痛みもあまり感じない。その点では便利さもある。
定期的に抜かないと寝ている間に精液が出て下着を汚すから何かのついでには扱いている。自慰は頻度の低い排泄という認識でしかない。
神というものが存在するならば、俺のような異質な存在は繁殖させる気がないのだろう。
道を歩く恋人同士や、本を読んでいて恋愛というものには憧れるが、精神的な繋がりの先を考えると自分に出来るとも思えない。人々の営みから一歩引いて幸福を眺めるだけで満足するしかない。そう思っていた。
「シエテっ!」
壁に向かって抑え付けられて、ガチガチに硬くなった陰茎を太腿に押し当てられる。どうしてこんな状況になってまったのか。2人だけで食事をして、今日は酒も飲まずに艇に帰ってきたというのに。
「え、えぇ?」
興奮して荒くなった熱い息が首に当たる。きっと普通の人間なら何かを感じる状況でも、特に肉体に変化もなく冷静に物事を考えている。こういうところが、人の輪に受け入れられない部分なのだろう。
「好きだと言ったばかりなのに、どうしてそんなにオレのことを挑発するようなことばかりするんだ」
そこまで挑発なんてしているつもりもないのだが、告白なんて酔狂なことをしてきた青年を相手に、面白がって手を握ったり膝を撫でて煽っていたことは事実だ。今だって単に頭を撫でただけなのに。まぁ、耳の辺りもくすぐってはみたが、こうなるとは思いもしなかった。熱を帯びた目で一生懸命こちらを見てくるものだから、可愛く思えてきてついつい悪戯してしまった。
耳元で、喉から絞り出すような必死な声を出して好きだ好きだと訴えてくる。
驚くことに不快感はない。他の相手なら離れている場所からの視線だけでも気色が悪いと感じるのに。これは、またとないチャンスなのかもしれない。
「ロベリア、してもいいよ」
「くはっ! 今の言葉は録音してる。撤回させないよ、シエテ」
「んー、今から先は録音しないならいいよ」
「……ウィ、クラポティは使わないで脳内に全て記憶するよ。ああ、トレビアンッ!」
脳内に全てなんて大袈裟だ。でも本当にしそうな勢いがある。ほんの少しだけ、こういうところは気持ち悪いな奴だなと思う。
「でも俺、不感症だから楽しくないと思うよ。途中で萎えちゃうかもね」
「今まで良かったことがないのか?」
「触っても気持ち良くならないから、経験自体がないんだよね〜」
「……オレが初体験?」
頷いて答えると、ロベリアはオーララと呟いてからそれはそれはゆっくりと丁寧に事を進めてくれた。我慢出来ないといった切羽詰まった顔で壁に抑えつけてきた時とは同一人物だと思えないほど、終始にわたって紳士的な態度だった。
したからには関係性をはっきりとさせる必要があると押し切られ、恋人同士ということになった。得られるとは思っていなかったものを、手にしてしまった。
セックスという行為には快楽を感じず、違和感しかないのだろうと思っていた。実際にしてみると、やりきれたという達成感があって非常に満足出来た。心が満たさせるというのはこういうことなのだろう。
キスは好きだ。キスをするとロベリアの顔が蕩ける。セックスだって、ロベリアをドロドロに溶かすことが出来るのは俺だけだと思うと堪らなくなる。
したそうな顔をしたらこちらから触れる。必死に下心を隠そうとするが、目を見ればすぐにわかった。
ロベリアは感じない俺が相手でも、何がいいのかとても興奮してくれる。こちらから仕掛けられてばかりなのは性に合わないようで、慣れてくるとやたらと前戯の時間を長くとるようになってきた。乳首ばかり喰んだり吸ったり赤く腫れるまで弄られることもあれば、尻の中の一部分を刺激しながら下腹部を撫でたり押したりもされた。いくらそんなことをされ続けても何も感じないのに。一生懸命に何かしている姿を見るのは悪くはないから好きにさせ続けた。
あまりにも真剣な顔をして触れているので、顎を撫でると面白いくらいにビクンッと跳ねた。
「ノン、オレにさせてくれ」
脇腹をくすぐられてもなんともない。普通の人間のようにくすぐったい振りをしてもいいが、ロベリアが相手ではわざわざ偽る必要がないと思っている。
「ねぇ、もういいから早く挿れなよ」
ロベリアの陰茎はガッチガチに反り返り、先端から先走りの透明な汁が垂れている。なのにまだ反応のない体に愛撫を続けようと躍起になっている。
「……ウィ」
今日も俺は全く感じられずにいて、ロベリアは酷く残念そうな顔をする。それでも挿れながら気持ち良さそうに、くぅんと子犬のように鳴くから可愛い。こめかみに口付けをして尻の穴に力を入れて締めつけると、ロベリアは直ぐに達してしまった。
「ああっ! ……シエテ、キミは……悪い子だ」
悔しそうな顔をして唇を噛み締めている。必死になっているのもとても可愛い。唇と歯を舌先で舐めてから笑う。
「ごめんごめん、もう一回していいよ」
「……キミは……いや、うん……したい」
煮えきらない返事だ。なにか迷っているように視線を上下左右に振っている。さっきの悪戯で自尊心を傷つけてしまったのだろうか。頭を撫でながらご機嫌取りの言葉を考える。
「明日は予定がないから好きなだけしてもいいよ」
ロベリアはほんの少しだけ眉間に皺を寄せた後、軽く唇を合わせるだけのキスをしてきた。
「あと一回だけ、付き合ってくれ」
控えめな要求だ。好きなだけしていいと言っているのに一回だけとは。奥ゆかしいというのか。正直、感じずとも体への負担はあるので助かる。
じっくり、ゆっくりと体を労るように抱かれながら、こんなに優しくしなくても痛みもさほど感じないのになと、ぼんやりと思った。
「サリュ、シエテ」
その日、俺の使っている部屋を訪ねてきたロベリアは、美味しそうな見た目をした飲み物を持ってきてくれた。大きめの丸みを帯びたグラスにブルーのドリンクが入っていて、縁にはフルーツと花が飾られている。氷がカラカラと音を出していて涼しげだ。
「バカンスの気分だけでも味わおうと思って」
先端が2つに分かれたピンク色のストローが刺さっていて、ビーチで恋人同士が顔を寄せて飲んでいるのを見たことがある。
「ふーん。まぁ、いいんじゃない」
早速飲んでみると、味はさっぱりとした柑橘系でよく冷えていて美味しい。ロベリアは飲んでいる姿をにこにこと笑って見ているだけだ。
「こういうのって一緒に飲むもんじゃないの?」
先端が分かれているのだから2人で飲む用だろう。どうして見ているだけなのか。
「……ウィ、そうだね」
ロベリアがおずおずと空いている方のストローを口にする。ピンク色のストローがブルーのドリンクで染まる。
「なになに、ひょっとして自分で持ってきたのに照れてるの?」
確かに2人で飲むと顔が近い。浮かれたカップルみたいで楽しくなってきてつい笑ってしまう。
少しでも長く楽しみたくて、飾られている花を手に取ってロベリアの耳に掛けてみたり、ゆっくりと時間を掛けて飲んでいく。
アルコールが入っているのかほんのりと指先から温かくなってきた。ロベリアも顔が赤くなっている。目と目が合うと逸らされてしまった。
「シエテ、実はこのドリンクに媚薬を入れてきたんだ」
「はぁ?」
段々と息が荒くなってうっすらと汗をかいてきているのが、顔が近いせいでよくわかる。
「くはっ、どうやらキミには効果が薄いようだ」
「そっちはバッチリ効いてるみたいだねぇ」
フルーツを摘みながら足先でロベリアの脛を摩る。うぐっと、くぐもった声をあげて上目遣いで睨まれた。今宵は長くなりそうだ。可愛い恋人の悪戯に付き合うのも悪くはない。
暴走気味の恋人を受け入れ揺さぶられながら、バカンスくらいはいつか行ってもいいかなと、2人で海辺を歩く姿を思い浮かべた。
今日もまた、ロベリアは前戯で試行錯誤を繰り返している。
ロベリアの部屋で体を弄られ続ける。とっとと突っ込めばいいのにずっと拘っている。そんな急に変わるものでもないだろうに。
「うーん、前立腺だって大きく育ってきているのに、気持ち良くはなっていないようだね」
真面目な顔をして尻の中のツボのような場所を重点的に押しているようだが全く効果がない。大きく育つものなのか。人間の体には謎の器官もあるものだ。尻の中と臍の下の両方からマッサージされながらぼんやりとロベリアの顔を見つめていると、熱い眼差しと目が合う。
いつも気持ちよくさせようと試みてしてくれて、段々と申し訳なくなってくる。
「ごめんね」
「ノンノン、シエテが謝ることなんてなにもない。オレはキミに受け入れてもらえて幸せだよ」
優しい目をしていて、胸がざわつく。この時間を失いたくない。ずっと独り占めしていたい。だって人を殺すことに何の抵抗もない男が、こんなにも柔らかく温かい顔をしている。否が応でも愛情を感じてしまう。
「ロベリア」
名前を呼んで体を寄せるも、肩を掴まれて押し返された。
「シエテ、今日はやめよう」
「えっ?」
「無理しなくていい。オレは今までずっとキミに甘え過ぎていた」
しないのか。セックスを断られたのは今日が初めてだ。想像以上に衝撃を受ける。指先から冷えていくような感覚に、頭がクラクラとしてくる。
「……俺のこと、飽きたんじゃない?」
感じない相手なんて人形と変わりがないのではないかと頭に過ぎる。抱いても反応がなかったら面白くないんじゃないだろうか。
「ノン、飽きてなんかない。キミは自分が疲れていることに気がついていないようだ」
信じられないといった顔をしている。こちらこそロベリアの言うことが信じられない。俺はまだ疲れてなんかいない。今までに何度も、もっと辛く倒れそうな状態になったことがある。それに比べたら今はなんともない。まだ疲れてなんかいない。
「俺が、不感症だから」
「ノンノンッ! オレはシエテが感じてなくても受け入れて貰えて幸せなんだ。でも、キミの体への負担がでかいだろう」
「別にこれくらい平気だ」
「キミが平気でもオレは嫌なんだ。大切にしたい」
真剣な眼差しに負けて、こちらが折れることになった。2人並んでなにもせずに眠る。
こっそりと枕を濡らした。朝には乾いていたが眼球が腫れて熱い。誰にも見られたくなくてベッドから抜け出ると自室に籠もった。
カーテンを開けず、灯りも点けずにベッドに横たわっていると、シーツに接した部分から勝手に星の海が広がっていく。目を閉じて身を任せていると聞き覚えのある声がした。
「はあ、俺はメッセンジャーじゃないんだけどな。いつも寝てるくせにどのタイミングで起きて下らない伝言を残してるんだか。理解出来ない。こんなことより世界についての対応を優先して欲しいよ」
目を開くと、眉間に皺を寄せた自分と同じ顔をした男が立っている。ぶつぶつと文句を口にしていて機嫌が悪い。
「なになに、いつもと感じが違うね」
気になってすぐさま立ち上がる。目の腫れも治っていて視界がはっきりとしている。星々の綺羅々とした瞬きに、ささくれた気持ちが落ち着いていく。
「涯てに座する者が君の体をアップデートしたらしいから。慣れるまで気をつけるようにって」
「なにそれ。そんなことできるの?」
「……すぐにわかるよ」
標神は大きく長いため息を吐いて、動物を追い払うように手を振ってくる。
「あ、ちょっと待ってよ。おいっ!」
視界が星の海からグランサイファーの自室へと切り替わる。
「なんなんだよ、もう」
時計を見るともう昼近い時間だ。寝たら頭も体もすっきりした。空腹を感じる。今日の昼食はなんだろう。
ロベリアともきちんと話さないといけない。あんなに心配してくれていたのに、昨晩は俺が大人気なかった。ロベリアの言うとおり疲れていたようだ。思い通りにならなくて涙を流すだなんて信じられない。ロベリアのこと以外であんなに弱気になることも、感情がコントロール出来なくなることもない。
体は感じないのに、好きだという感情は強く持っていることを実感してしまう。
そんなことを考えながら着替えを始めると、インナーで乳首が擦れてこれまでに感じたことのないザワッとした感覚がした。
「あれ?」
改めて触ってみるがなんともない。抓ってみても同様に何も感じない。なんだかわからないが、ひとつ確かめたいことがある。
廊下を走る。こちらに向かってくるロベリアを見つけると駆け寄った。
「ロベリア!」
「シエテ、昨日に比べて顔色が良くなっているね。鼓動も……」
首元で脈をとっている手を握って歩き出す。
「いいから来い」
もどかしい。部屋に戻るまで待てない。人の気配のない物陰に引っ張り込んで体を壁に押し付けた。
「シエテ?」
両手をロベリアの顔の横について睨みつける。
「触ってみてよ」
「触るって……どこに?」
「早く!」
迷っているロベリアの手を胸元に当てる。ドキドキするし、当てた瞬間にざわっという感覚がした。ロベリアは状況もわからず首を傾げながらも言われるがままに胸を撫で回す。
「うっ、……あっ!」
指先が乳首を掠ると全身に電流が流れたような衝撃を受けた。
「くはっ! シエテ、今の声は?」
「あぁ、わかんない……なにこれ……もっと触ってみて」
触れられる感覚に呼応して息が荒くなっていく。懇願すると指先に力が入った。
「ひゃっ……あっ、痛い」
「す、すまない、つい力が入ってしまって」
ロベリアも俺の体に起こっている異変についてわかってきたようで頬を染めてそわそわと落ち着かない様子だ。
「いいよ。もっとしてみてよ」
力を抜いて優しく撫でてくれる。むず痒く、物足りなさを感じてしまう。もっと強くして、キスをして、別の場所も触れて欲しい。
これがムラムラするという感覚なんだろうか。
「ロベリア、したい」
「えっ?」
「セックスしたい」
ロベリアの顔が真っ赤になっていく。俺も身体中が火照っている。
「うっ……ウィ、まずは部屋に戻ろう。ここじゃ出来ない」
ロベリアが腕を引くが、勃ち上がった陰茎が下着を押し上げて動きが取れない。思わず前屈みになって、しゃがみこむ。
「待って……こんなになったの初めてだから歩けない」
助けを求めるようにロベリアを見上げる。陰になっていて表情が見えにくいが、目が瞬きひとつせずこちらを捉えている。ブツブツと早口でなにか言っている。
「シエテ……キミは……本当に、手間がかかるな……そこがまた……シエテ、オレの……」
しゃがんでいる腹部に肩を入れられて持ち上げられた。それなりに重たい成人男性だというのに肩に担がれて運ばれる。
「ロベリア、これやだ、降ろして」
体が密着して股間に刺激がくる。それだけで達してしまいそうになる。自分の手を噛んで耐えるが、それもいつまで保つかわからない。
「ノンッ! 黙っていてくれ」
珍しく強く注意された。魔術を使われたのか廊下に俺たちの声が響くことはなかった。運ばれながら軽くイッてしまったことはロベリアには気づかれているだろう。恥ずかしくて消えてしまいたくなる。それよりも早く触れてもらいたくて逃げ出すことなど出来ない。
部屋に着いて早々にベッドに放り投げられ、強引に服を剥ぎ取られた。汚れた下着もなにもかも床に落とされて丸裸にされると、潤滑油を尻に注ぎ込まれてロベリアの長い指が押し広げていく。
「ロベリア、あぁっ!……そこ、だめ。触ったらだめなところ、じゃないのっ……ひぐっ、うぅっ」
やけに感じる場所があり、そこばかりトントンと刺激されて背中が反り返ってしまう。快楽に耐えられず、前を刺激されていないのにまた達してしまいそうだ。
「大丈夫だよ、シエテ。……うん、少しばかり育て過ぎたのかもしれないな」
ぐりっと強く押し込まれて足がピンッと張る。ロベリアの肩を弱々しく押して体を離そうとするがびくともしない。その間も気持ちのいいところだけを刺激され続ける。
「んぁっ、うっ、うぅっ、おかしくなる、おかしくなるからっ」
「大丈夫だから安心してくれ。オレもいつだってキミに興奮しておかしくなる。恋人同士の情事とはそういうものなんだ」
「……本当に?」
キスをされながら優しく言われると信じたくなってくる。息を整えながら、よく動く口を眺める。
「ウィ! オレが教えてあげるから。キミの感じたことのないヴォリュプテを、デリキャに奏でよう。2人で、だ」
とてもいい笑顔で言ってくるが、ロベリアの中心は反り返っていて血管が浮いている。先端から汁がだらだらと垂れていて全然可愛くない。今まで平然とこんなものを中に入れていただなんて信じられない。想像するだけで喉が鳴る。
「ふぁっ……あぁ……おっきい……」
「シエテ、頼むからいい子にしていてくれよ」
ゆっくりと押し広げられ中に入ってくる。いつも感じる圧迫感だけじゃない。痛くて熱くて、なによりも気持ちが良くて何も考えられなくなる。
ロベリアが挿入する角度を変えた時、触れて欲しくないあの場所を抉った。
「あんっ♡」
なんだ、今のは。甲高い変な声が出てしまった。慌てて口を抑える。
「……えっ?」
ロベリアも驚いて動きを止めて、口をぽかんと開けてこちらを見ている。
「キミ、今の」
「ち、ちがう。今のなしで」
頬を赤く染めて楽しそうに笑うロベリアの顔が恐ろしく見える。
「あっ♡あぁっ♡だめぇっ♡」
力なく抵抗しても、上から潰すように押さえつけられ、無言で腰を振り続けられる。浅い場所でも気持ちが良かったのに、奥深くまで突かれると脳まで衝撃が走った。感じたことのない快楽の大きな波がくるのがわかる。
「あぅ……あぁぁぁっ♡♡♡」
はしたない大きな声を上げて絶頂を迎えると意識が数秒飛んだ。ぼんやりと意識が戻ってくるが、軽く痙攣していて全身が敏感になっている。ぜぇ、はぁ、と息を荒げているロベリアの汗が垂れて肌に当たるだけで軽くイキそうになる。
急に感じだした挙句、あんな変な声をあげてしまってロベリアからしたら気色が悪かったかもしれない。いつもは挿れている時にたくさんキスをしてくれるのに、今日はしてくれなかった。それどころか一度もキスをしてない。
「シエテ」
名前を呼ぶ声が低い。甘ったるい高めの声とは違う。
流石に、あんな声を出して急にここまで乱れるなんて気持ちが悪かったのか。
「待って、別れたくない。変な声は出さないようにするから……」
「別れる? くはっ、どうしてそんなことになるんだ」
「今日は全然キスしないし、俺、おかしいだろ。こんなになるの」
「オレだってキスはしたい。でも声が聞きたくて我慢してるだけだ」
チュッと軽い音を立てて額にキスをしてくれる。された部分からじんわりと熱が広がっていく。
顔が近いのに唇が重ならない。ロベリアは拳を強く握って何かに堪えている。そこまでする必要があるのだろうか。面倒な奴だ。
「ひっ、なに?」
不満を顔に出していると、脇腹を撫でられて声が出た。触れられるとくすぐったいし、ぞわぞわとする。
「うん、これからはいつでも聞けそうだ。キスをしよう」
ようやく唇が重なった。舌が入ってきて絡み合う。口の中も気持ちがいい。口蓋を舌先で円を描くように舐められると声が漏れてしまう。
「んんぅっ♡」
ロベリアが目の前で満面の笑みを浮かべている。
「くっはっ! くははっ! トレッビアンッ! 素晴らしいアルモニーだ。今日のことは一生忘れないよ」
こういうところが気持ち悪いだなんて思っていたのが嘘のように、ロベリアの言葉に背筋がゾワゾワと歓喜に震える。腕と足を絡めてキスを強請った。
あれから何度か夜を共に過ごした。毎回気絶するほどに感じてしまっている。乳首への刺激だけで達したり、射精後に亀頭をしごかれて潮を吹いたりと、今まででは考えられない人体の神秘を教え込まれている。1番奥だと思っていたその先に挿れられた時は死ぬかと思った。でもこれが世の中の恋人同士や夫婦には普通のことらしい。
ロベリアと過ごす夜が楽しみで、怖くもある。自分が自分じゃなくなる感覚に涙が溢れることもある。それよりも生きている感覚が強い。愛されているということは、何よりも幸せで簡単には手放せるものではない。
「不具合はなさそうだね」
目が覚めると星の海だった。別の自分に冷たい目で見られていて居心地が悪い。
こいつは、いつもこんな顔をしているかと開き直って気になったことを聞いてみる。
「ねぇ、変わったのってロベリア相手だけだよね? 自分で触っても感じないままなんだけど」
これは不具合ではないのだろうか。
「自慰に耽られると役割に支障をきたすからね」
そんなことはないとは思うが、あの感じだとそうとも言いきれない。頬がほんのりと熱くなる。
「一生、ロベリアだけなの?」
「他の可能性が必要?」
標神が表情一つ変えずに質問を被せてくる。答えはわかっていますという顔が気に食わない。他の可能性が必要だと思うわけがない。それでも暫く考えている振りをして、答えを絞り出した。
「……ないよ」
「だろうね」
動物を追い払うような手の振り方で見送られるのはプライドが傷付く。
本当に動物みたいな声をあげて乱れてしまっているのだから。きっとそれがこれから頻繁にあるのだろうと簡単に想像がついて頭を抱える。大きな悩みが一つ減って、一つ増えた。