子供みたいな恋を待つ
子供みたいな恋を待つ
今日もグランサイファーの艇内は平和だ。団員たちが切磋琢磨する活気のある賑やかで楽しい雰囲気に包まれている。これも団長とルリア、ビィなどの中心人物が清く正しい心根の良い若者だからだろう。
気分転換に廊下を歩き、手合わせに付き合ってくれそうな暇な人間を探しているが、運が悪く見当たらない。賑やかな方を選んで足を運んでいると大きな声で告白しているのが聞こえてきた。
「ジュテーム、団長! 今日こそは受け取ってくれるね」
ロベリアが団長に差し出している籠には真っ赤な薔薇の花の部分だけと白い巻貝が入っていて、差し出された団長は露骨に嫌そうな顔をして籠を押し戻している。
ここ最近、ロベリアからの団長へのアプローチが続いている。しつこくするのは良くないと周囲の人間が苦言を呈しているが、どうやら団長が一人になるタイミングを狙っていて効果がない。団長も上手い具合に逃げてはいるが全く諦めないようだ。
「だから要らないってば」
「今から一緒に食事でも」
「ビィとルリアと出かけるから無理だよ」
「じゃあオレも一緒に……」
黙って見過ごす訳にもいかず、団長に近づいていくロベリアの肩を掴む。振り向いてこちらを見た瞬間、苦虫を噛み潰したような表情をした。
「はいはい、ストップ~。団長ちゃん、ここはお兄さんが引き止めておくから早く行きなよ」
「ありがとう、シエテ!」
お礼を言いながら素早く遠ざかっていく団長の背中を見守ると、掴んでいた手を離した。ロベリアは受け取られなかった籠を抱えて唇を尖らせている。振られた男の顔が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「ふふっ、あはははっ」
「笑いすぎだ。はしたないな」
ロベリアはムッとしてこちらを睨んできた。
「また振られちゃったねぇ」
「ノンノン、団長は照れているだけだ。それにキミだって団長に相手にされていないじゃないか」
団長とはそういう関係ではないというのに、勝手に振られ仲間にされたくない。確かに何かあった場合に後継者になってくれないかなとは思う。優しくていつも誰かのために頑張っていて、揶揄すると年相応に拗ねるし、最近では上手いこと言い返してきて本当に可愛いのだ。このまま真っ直ぐ育って欲しい。
「俺は冗談で言ってるだけだしなぁ」
「くはっ、冗談だと言って自分の本心から逃げてるだけだろう」
見当違いな指摘にイラッとくる。そんなことを言ったらエッセルとカトルとシスだって可愛いと思っているし、サラーサとフュンフだって同じように可愛い。
「全く相手にされていないくせに付き纏ってるような奴にそんなこと言われたくないなー」
「団長はオレにとっては特別な存在なんだ。だからオレも団長の特別でありたい」
「団長ちゃんは誰にでも優しいところがいいじゃない。それにそのプレゼントもどうなんだか」
籠を指差して鼻で笑う。真っ赤な花と物騒な巻き貝の組み合わせなんて喜ぶわけがない。
「最高のカドーじゃないか」
自信満々に言うが、ない。絶対にない。団長が巻き貝を喜ぶわけがないし、花よりもお菓子の方が喜ぶお子様だ。
「薔薇の花束ならまだしも貝はないでしょ、貝はさぁ」
「団長の好きそうな心安らぐ楽曲を集めたのに」
「どうせお前の好きなやつも混ざってるんでしょ?」
幸福の音とかいうろくでもない音を団長に聞かせたがっていることは知っている。他の団員には広めようとしていないあたり、最低限の分別はあるらしい。その最低限の常識を団長にも適用して欲しい。
「当然だろう。団長だってオレの骨が砕ける音は好きに決まっている」
理解出来ない。見てる世界が違うのだろうか。今まで嫌になるくらい見てきた悪人たちとは違ってやりにくい。これ以上は話をしても無意味に思えてきた。
「お花だけにしておきなよ。それなら受け取ってくれるかもね」
こいつよりは年上ではあるので一般論を教えてあげると、不審そうに眉間に皺を寄せて視線を逸らされる。
「キミのアドバイスは受けない」
完全に拗ねている。格好つけた物言いや仕草をするくせにやけに子供っぽいところがある。もっと団長にもそういう面を見せた方が好感度上がりそうなものなのにと思うが、それを言ってやる義理もない。
「はいはい、あんまり団長ちゃんの邪魔をしないようにね」
立ち去ろうと後ろを向くと腕を掴まれた。斜め下の床の方を向いて何か言いたそうにしている。
「なに? まだ何か話足りない?」
指を鳴らして巻き貝を消すと、花だけが残った籠を差し出してきた。
「……キミに」
花を受け取っても不毛ではあるが、用意して受け取って貰えなかったプレゼントを自分で持って帰るのはとても寂しい気持ちになる。団長の前で自信に満ち溢れのびのびとした様子とは打って変わり、断られることが前提の表情がなんだか可哀想に思えてきて、同情心から思わず受け取ってしまった。
「ありがとう」
お礼を言って部屋へと戻る。廊下で誰か顔見知りに会えば押し付けてもいいが、今日は本当に誰ともすれ違わなかった。テーブルの上に置くと映えはする。赤は好きだ。センスは悪くないが、団長にはもっと可愛い色で小ぶりな花の方が合うと思う。
茎が短く切られた花はすぐに萎れてしまった。他の人ならもっと活かせたかもしれないのに、俺の元にきてしまったばかりに勿体ないことをしてしまった。
花を捨てた後、残った籠にお菓子を入れてロベリアの部屋の前に置いておいてやった。籠だけあっても邪魔だったし、空の籠だけを返却するのも面白くない。
しばらくしてから、ロベリアが受け取って貰えなかった花束を俺の部屋まで持ってくるようになった。いつも断られて気落ちしているのか、入口で花を渡して何も言わずに帰っていく。いくら日頃の行いが悪いとしても、頻度を落として花束だけでも一切受け取ってもらえないだなんて、本当に可哀想な男だ。
部屋に花があるのはいい。すぐに枯れてしまうから自分で積極的には飾りはしないが、室内に彩りがあると気分も明るくなる。香りもいい。
新しく買った花瓶は値段が張っただけあって重厚で艇が揺れたくらいじゃ倒れない。花瓶を買った時に店員に聞いたとおり、こまめに水を取り変えると長持ちした。枯れる前に新しい花束を受け取るようになって、古い方の花は麻紐で窓辺に吊るした。繰り返していくうちに随分と賑やかな部屋になってきた。こんな状況になるなら花とは言わずにお菓子にするようにアドバイスすれば良かった。お菓子なら食べたらすぐにおしまいなのに。
ロベリアにも一度くらいは花を飾っているところを見せてやってもいいかもしれない。貰ってばかりだと少しばかり居心地が悪いし、ついでにお茶でも飲ませてやろう。だいたい同じ周期、同じような時間帯に来るから茶葉を新調して待った。どうせまた受け取ってもらえないだろうし、そのうち花束を持ってやって来るはずだ。
予想どおりのタイミングでドアがノックされた。いつもと同じように花を受け取って、背を向ける前に声をかける。
「ねぇ、お茶くらい飲んで行けば?」
ロベリアは目を見開いて驚いた顔をしたが、黙って頷いて部屋の中に入ってきた。
「ほらほら、この花瓶いいでしょ。高級なやつにしたからさ、重厚感が違うよね」
受け取った花を活ける。それまで入れていた花はまだ元気だったので窓辺に張ったロープに干す。何度かやっているから慣れたものだ。
お喋りな男が何も言わずに入口から一歩入った場所で立ち尽くしている。
「どうしたの、座りなよ」
お茶を淹れてやっても黙ったまま口をつけて面白くない。珍しい茶葉なのに良さがわからないのか、ずっと上の空で部屋の中を眺めている。
これはもしかして、相当手酷く振られたのだろうか。これだけショックを受けるくらいの断られ方なんて考えただけで恐ろしい。たまに艇内で見かけて話しかけても上の空なことが多くなってきているのも振られ続けた結果だろうか。
空になったカップをじっと眺めているロベリアに、なんて声をかけていいのかわからない。茶化してはいけない空気だ。ここまでしょぼくれていると「また振られちゃったねぇ」と気軽には言えない。それくらいは俺にだってわかる。そうなると何も思い浮かばない。非常に気まずい。
「え、えっと、お茶のおかわりいる?」
何も思い浮かばないまま笑いかける。
「いいや、帰るよ。メルシー、シエテ」
目元だけで笑って見せられ、なにか一言でも前向きになれるような声をかけたくなった。
「花束じゃなくて1本くらいだったら受け取って貰えるかもよ? それかお花よりもお菓子の方がいいんじゃない? ほら、ルリアちゃんとビィ君にも同じようにあげて流れで渡せばいいよ」
それに意味があるかはわからないが、受け取ってもらうだけなら成功するだろう。決してロベリアと団長の仲を取り持ちたい訳ではない。ただ同じ団員として、このわけのわからない男が少しでも元気を取り戻せればいいなと思う。
「……あ、ああ」
背中を軽く叩いて励まし、帰る姿を見送ると貰ったばかりの花を眺める。こうやって受け取るのもこれでもう最後かと思うとほんの少しだけ寂しさを感じる。
アドバイスに素直に返事をしてくれたから、流石にもう花束を持って来ることはないと思っていたのにまたやってきた。しかも、艇から離れる直前だ。対応に困ってしまう。
「ごめん、このあと艇から離れるんだよね」
ロベリアが小さく息を飲む。明らかにがっかりしている。
水を変えないと花はすぐにだめになってしまう。今ここで受け取っても帰ってくる頃には枯れてしまうだろう。ただ、ロベリアの抱える花束はいつも飾っている花瓶によく合いそうな色合いと長さをしている。捨ててしまうのも別の花瓶に活けるのもなんだか勿体ない。
「そうだ、俺の花瓶を貸すからロベリアの部屋に飾りなよ。ちょっと待ってて」
部屋を空けるからと花瓶も空にしていた。荷物を背負い、花瓶を片手に部屋を出る。
花瓶を差し出すと、ロベリアは何も言わずに受け取った。あんなにうるさい男だったのに、最近はまるで喋らなくなった。
「じゃあ、いってきます」
「……ああ」
哀愁を漂わせているがこちらとしても時間がない。放っておいて目的地へ向かった。
帰ってくるまでに少しは元気になっているといい。部屋に花があると気分も良くなることだろう。なんたって俺のお気に入りの花瓶を貸してあげたのだから。
それとなにか喜びそうなお土産でも用意しようか。そう考えてロベリアが何が好きだったか全く思い浮かばないことに気付いた。顔を合わせることはあっても特に会話をしていない。
その辺で拾ったものでいいかと目に留まった小さなものを麻の袋に詰めた。適当に選ばせて、残りはフュンフやルリアにあげればいい。
ひさしぶりにグランサイファーに帰ってくると、わざわざ団長が出迎えてくれた。不在中の出来事や剣技の話が一通り済み、ふとロベリアのことを思い出して口に出す。
「そうだ団長ちゃん、ロベリアも反省してるみたいだし、たまにはお花くらい受け取ってあげたら?」
断った上で食堂や共有スペースに飾れば勘違いすることもないだろう。しつこく賑やかな以前とは違い物静かにしているようだし、持ってくる花束も品のある落ち着いたものばかりだ。
「花? シエテが注意してくれた時からおとなしくなって助かってるよ」
「注意?」
予想もしていなかった回答に頭がついていかない。
「少し前に絡まれてた時に割って入ってくれたでしょ。その時に注意してくれたおかげで何も持ってこなくなったんだと思ったんだけど」
「えっ、あ、あー、そっか。それなら良かった」
全然良くない。それならどうしてあんなに落ち込んだような状態で何度も花なんか持ってくるんだ。理解が出来ない。団長じゃない他の人のところで断られているのだろうか。
艇に戻った翌日には花束を抱えた男が貸した花瓶と一緒にやってきた。気の利くことに水を入れてきてくれている。
「いつもありがとう」
花束と花瓶を受け取っても帰る素振りがない。向かい合ったまま会話もなく、どうしたものかと思案していると、ひとつだけ思い当たることがあった。
「……お茶でも飲む?」
「ああ」
部屋の中に通すと花瓶に貰ったばかりの花を活ける。ロベリアはこちらを見つめたまま立っている。
「今、お湯がないんだよね。貰ってくるから座ってなよ」
返事はない。そのまま放っておいて食堂でティーセットを借りてくる。茶葉はこの前買ったものでいいだろう。
本当ならロベリアが花を持っていって断られている相手が誰なのか調査してから対面したかったが仕方ない。励ますにも情報がないと難しいが、なんとでもなるだろう。
部屋に戻ると同じ場所に立ったままだったので座るように声をかけてお茶を淹れる。お茶を飲んで一息つくと疑問をぶつけてみる。
「花の贈り先は団長ちゃんじゃなかったんだね」
「団長には、持っていってない」
思ったよりちゃんとした返事が返ってきた。今日は会話が出来る程度には調子がいいのか。それならば、はっきりさせたい。
「えっと、じゃあ誰に持っていって断られてるの?」
「ノン、断られていない。いつも受け取ってくれる」
「えっ?」
これまで受け取った花を見る。全部ではないが保存しているだけでそこそこの量になっている。どういうことかとロベリアを見ると顔が徐々に赤くなっていく。俯いて片手で顔を隠すが指先も赤く色づいていて全く隠せていない。
「え、なんで?」
純粋な疑問だ。そんな状況になる要素が全くない。回答がないから疑問しか思い浮かばない。行き場のなくなった花を受け取っただけだ。何が琴線に触れたのか皆目検討がつかない。黙ってしまったロベリアになんと言っていいのか言葉が見つからない。空になったカップが目に止まってやっとこのとで声を絞り出す。
「……お茶のおかわり、いる?」
「ノン、帰る!」
勢いよく立ち上がって出て行ってしまった。考えれば考えるほど意味がわからない。顔を真っ赤にしてた。あれは多分、きっと、色恋沙汰とかそういうことだと思う。どうしよう。対応を間違えたかもしれない。お土産も渡せていない。行き場を失った花を受け取った、本当にただそれだけだったはずなのに。
それから、なかなかやってこない。避けられているのか艇の中で見かけることもなくなってしまった。
指摘しなければまだ持ってきてくれていたのだろうか。そんなことを思うくらいには随分と絆されている。いや、翻弄されているのか。
団長に迫っていたような勢いでこられても受け入れなれないが、こうも時間を与えられると自ずとロベリアのことを考えてしまう。ましてや貰った花に囲まれて生活していると余計に頭に過ぎる。いっそのこと全て捨ててしまおうか。燃やしてしまってもいい。
行動に移そうと立ち上がったのと同時にドアがノックされた。タイミングが悪い。心臓がキュッと縮み上がる。ロベリアだといいなと思いながらドアを開いた。
「サリュ、シエテ」
思ったとおりの相手が立っていて、可笑しくて思わず頬が緩む。健康そうな顔色で片手を後ろに隠している。
「久しぶりじゃない?」
「少し時間がかかって。これを、キミに」
挨拶もそこそこに、薄い黄色の花を一本差し出された。
「珍しいね、花束じゃないの」
「オレが育てたんだ」
「は?」
受け取った花とロベリアに視線を動かす。この花をロベリアが育てたということが飲み込めない。目の前の男が花を育てる姿が全く思い浮かばないのだ。
「だから……オレが……」
また顔を赤くして、口をつぐんでしまった。見かねて「お茶でも」と言う前に走り去ってしまった。
「え、えぇー?」
折角わざわざ育てた花を持ってきたというのに、それだけなのか。あのロベリアが花を育てるなんてどうしてそんなことになったのか理解出来ない。この花は、俺の為の花ということになるのだろうか。
混乱しながら飾った花を眺めているとドアがノックされる。開けるとまたロベリアが立っていた。
「……話が、したくて」
「入りなよ」
これは、とうとう告白されてしまうのだろうか。緊張で握った拳に力が入る。なんて言って返したらいいのか自分の中で決まっていない。断りたいけど、悲しませたくはない。
「シエテ、キミに花を持ってきていたことに、特に理由なんかなかった。受け取って貰えるから持ってきていただけで」
「うん」
「よくわからないんだ。キミを目の前にすると心臓が痛い。なのに花を抱えて笑っている姿を見たくなる」
「そっか」
「キミがいけないと思う。キミが花を大事にするから、キミのことばかり考えてしまう」
「それは、俺もだよ」
回りくどいやりとりに段々と苛立ってきた。前置きが長い。早く言って欲しい。考えながら話しているようで、ロベリアの視線が上下左右に忙しなく動く。
「意味がわからない。急に花なんか育てて。オレは、キミのことが好きなのか?」
弱々しい声で疑問を投げかけられて、肩の力が抜けた。そこまで言ってわかっていないのか。信じられない。かと言って「そうだ」と言うことも照れくさくて出来ない。大きく息を吐いてから土産に用意していた麻袋を取り出し、テーブルの上にひっくり返して中身を全て広げた。散らばった小さな貝や鉱石の中から目的のひとつを選び取る。
「手、出して」
差し出された手はよく手入れされていて、すらりとした綺麗な指をしている。指先に触れたい気持ちを抑える。今はその時ではない。
「はい、あげる」
グローブに覆われた手のひらの上に小さな貝を乗せる。指の爪ほどの大きさの、桜色をした珍しい形の平貝だ。
「これは?」
「貝、好きでしょ」
「シエテ、オレが好きなのは貝が壊れる時の音なんだ」
「もうあげたものなんだし、壊したい時に壊したらいいよ」
壊れる音がどうのと言っていたのに、小さな貝の表面を優しく撫でている。爪の間にほんの少しだけ土が詰まって黒くなっているのが目に入って胸が締めつけられる。
「くはっ。これ、ハートの形をしている」
あまりに嬉しそうに笑うものだから恥ずかしくなってくる。
「そうだよ」
土産に拾ってきた中から、わかりやすいピンク色でハートの形を選んだ。これは渡す予定ではなかった。
ロベリアの視線がこちらに向く。目を見開いて、口も薄っすらと開けている。見ていられずに視線を逸らす。部屋の中の花の数に改めて己の行動を悔いる。早く捨ててしまえばよかった。体中が熱い。絶対に、顔が赤くなっている。刺さるような視線が痛い。
「……シエテ、好きだ」
噛み締めるように言われると目眩がしてきた。言葉が出てこない。
ロベリアは指を鳴らして渡した貝を消すと、こちらへと距離を詰めてくる。あの指先が頬に触れてきて、顔が近付いてくるのを目を閉じて受け入れてしまう。ほんの一瞬だけ唇が掠めただけで離れていく。目を開くと自信に満ち溢れた顔をしてこちらを真っ直ぐ見つめている。
「ジュテーム、シエテ。オレのモナムール。オレからのカドーは気に入ってくれたかい? 毎日オレの内臓が引き摺り出される音を聞かせて育てたから、イキイキとしているだろ。次の花は脳漿が弾け飛ぶ音を聞かせて育ててるんだ。あぁっ……あの音は思い出しただけでもトレビアンッ! 今からキミの喜ぶ顔が楽しみだ」
いつもの、よく知るロベリアだ。とてもうるさい。茹っていた脳が一気に冷めていく。
「お礼にキスでもしてあげようか。それとも、もっと別のことがいい?」
「くっ、はっ……そ、それは……」
顔を赤くして押し黙ってしまった。キスよりも先のことなど考えていなかったのだろう。見ているこっちが恥ずかしくなる。
換気口から入る風で、薄黄色の花と跳ねた髪が揺れる。動きが止まってしまったロベリアが再び動きだすまで、静かな室内でゆっくりとお茶を飲みながら待った。