モーニングコール
モーニングコール
「ロベリア、変な物を共有部分に広げないで。苦情がきてる」
共有スペースの大きなテーブルの上にクラポティを並べて厳選している最中に団長がやってきた。客観的な意見も欲しいところだった。しかも団長はシエテと仲が良いので丁度よかった。
「ああ、団長。いいところに来てくれた。一緒に選んでくれないか」
クラポティをひとつ差し出すが、いつものように照れているのか受け取ってはくれない。
「嫌。ねぇ、なんでまたこんなに広げてるの」
「愛する人にパルフェな目覚めを提供しようと思って、毎朝選りすぐりのオレが壊れる幸福の音を試しているんだ」
「えぇ……相手はどんな反応なの? ってか愛する人とかいたんだ」
「毎回やめろと言われるが、シャイな性格だからね。どれが一番好きかは、心音の変化で判断するんだ」
団長は額に手を当てて軽く首を振った。
「うーん、ロベリアの好きな音を流すんじゃなくて、おはようって言うだけで良い顔をするんじゃないかな」
「わかった。明後日試してみるよ」
「明日やって。団長命令ね」
「そこまで団長が言うなら、明日はそうしてみようか。コレクションを厳選するのに時間も必要だからね。次は両方の耳から別々の音を流してみようと思っていて、音同士のアルモニーも考えているんだ。くはっ、想像しただけでトレビアンッ! よかったら団長も試してみないか?」
一瞬だけ目を離した隙に団長の姿は消えていた。そんなに忙しい中でも力強くアドバイスをしてくれたなんて、恩人は本当に優しい人間だ。明後日に備えて組み合わせの方向性を決めると、クラポティを収納してシエテの部屋に向かった。
団長の言うとおりに今朝はコンセールは使わない。おはようと言うだけだ。シエテもクラポティを使うことにやけに反対していたから丁度いいタイミングだった。明日の集大成の為にも今日は団長の案で済ませる。いつもどおりに朝早くに目覚めてシエテが起きるまで待つ。寝返りを打ったタイミングで声をかける。
「おはよう、シエテ」
ふっと花びらが綻ぶように笑った。ゆっくりと瞼が開く。美しい碧色がこちらを映す。
「……おはよう」
小さく掠れた甘い声で返事をしてくれた。
そのまま黙って見つめ合っていると襟元を掴まれて顔を寄せられた。唇が一瞬だけ重なって離れる。今までに見たどの笑顔よりもずっと素敵で、胸が締めつけられるように痛む。心臓を握り潰されるのとはまた違った胸の痛みだ。
「お前、顔真っ赤だよ。具合悪いの?」
額と額がくっつく。こんなに穏やかな朝は久しぶりだ。
「あ、ああ」
「もう少しだけ寝よっか。起こしてあげるから、目を閉じて」
瞼の上にキスが落とされる。心臓がバクバクと激しい音を奏でている。重視するべきなのはシエテの心音ではなく、オレの心音だったのか。明日もこの起こし方にしよう。
団長には感謝しかない。お礼のクラポティはどれにしようか考えながら微睡む。なんだったら新しい組み合わせを先に聞かせてあげてもいい。