友達ができた
友達ができた
涯ての力を使い、星の海を見ればみるほどに標神の存在が近づいている気がする。多様しないように気をつけてはいるが、力を誇示し続けるためには適度に使用しなければならない。それに自分一人が我慢するだけで救われる人がいるのなら、見過ごす訳にはいかない。
『君も本当によく頑張っているね』
「お前に褒められてもなぁ」
『他に誰も褒めてくれないだろ』
「そんなことな……っ!」
目の前に見慣れない顔が近づいてきた。こんなに接近されるまで気がつかなかったことに驚く。音の魔術を使う男だ。音を消して近づいてきたのだろう。
空気を読んでそっとしておいて欲しいが、目をしっかりと合わせて話しかけてきた。
「サリュ、シエテ。あまり人前で友人と喋っていると、変な目で見られるから気をつけた方がいい」
言われた内容を理解するのに少しだけ時間がかかる。ついさっきまで頭の中で会話していた相手は、感心するような声を上げると黙って様子を見ることにしたらしい。静かにしてくれたことは有り難いが、目の前の問題に対処しなければならない。
「オレもタワーとはふたりのときか、団長の前くらいでしか話さない」
こちらの相手は星晶獣ではないが、似たようなものがいると認識はされているのだろうか。何と話しているか知られるのは非常にまずい。
「なんのことかなぁ~」
「知られたくないならもっと上手く隠せよ」
ぽんぽんと肩を叩かれる。それが労いなのか、ただ煽られているだけなのか、ロベリアのにやけた顔からは真意が読み取れない。数回会話をしたことがある程度なのにやけに馴れ馴れしい。
調子が出ない。不意打ちから終始相手のペースで会話が進んでいる。
周りを確認すると人の通りの少ない廊下の端で、タイミングを見計らって接触してきたようだ。
「くはっ、キミもそんな情けない顔をするんだな」
「お前でも人目を気にして行動を控えることがあるんだね〜」
えらいえらいと頭を撫でると、露骨に嫌そうな顔をして手を払われた。
「そんな撫で方じゃ髪型が崩れるだろう」
「少しくらい崩れても顔が良いのは変わらないよ」
口をとがらせて、前髪を捻って元の髪型に戻そうとしている姿がおかしくて、ついつい笑ってしまう。
「あははっ、色男は大変だねぇ~」
再び頭に向かって手を伸ばそうとするとすると、逆に両手で髪をかき乱される。
「おいおい、やめろって」
ぐしゃぐしゃに動かす手を振り払うと、頭を左右に軽く振る。おそらく元どおりの髪型に戻ったであろう。相手の呆気にとられた表情からも読み取れる。
「くはっ、どうなってるんだその髪型は」
「よくわかんないけど自然とこうなるんだよねぇ」
笑い合っていると意識が遠のく。
『……塔の契約者と仲良しごっこか』
今は出てくるなと言いたいのに口が思うように動かない。両肩を掴まれ顔が間近まで寄る。目を目が合って、ロベリアの深い緑色の瞳に自分の虚ろな顔が映る。
「おいおい、オレが目の前にいるのに他の奴と話すなよ。マナーがなってないな」
『君の方が後から話しかけてきただろう』
「ノンノン、キミには用はないから引っ込んでいてくれないか!」
鼻先が触れ合うくらい近づかれて、標神が嫌そうな声を出して消えていった。
「お前、強いねぇ」
胸元を押して体を離す。よくわからないものを相手に強引に自分の都合を押し通すだなんて、恐れ知らずというべき、身の程知らずというべきか、とにかく厄介な存在が去ってくれてよかった。
「全く、エレガンスじゃない奴だったな。姿も現さずに邪魔してくるなんて失礼だとは思わないか? キミも友人は選んだ方がいい。その点、オレのタワーは聞き分けがよくてよかった」
怒っているのか口早くなっている。そろそろ部屋に戻って休みたいが、腕を掴まれて離してくれそうにない。
掴まれた箇所が温かい。
「そうだねぇ。ロベリアみたいな友達だったらよかったのにね」
「オレ?」
目を見開いて驚いている。確認された言葉に頷いて返す。
「うん」
ロベリアは困惑した顔をして視線をキョロキョロと動かす。掴んでいた手が離れて、指先をやんわりと握ってきた。
「……キミ、疲れてるのか?」
目と目が合う。心配されている。ロベリアの親指が手の甲を撫でる。よくよく考えてみるとおかしなことを言ってしまった。
「そうかもしれない。ごめんごめん、友達になれたら楽しいかなって思っただけだから気にしないで」
余計に恥ずかしいことを言ってしまったかもしれない。頬が熱くなってきた。
「くはっ! オレたちはもう友達だろ!」
そう言うなり、思いっきり抱きしめられて左右に振り回される。
今日はじめて話をしたというのに、久しぶりに再会した親友同士のような距離感になるものだろうか。ひょっとしたら他に友達と言える存在がいないのかもしれない。
「えっと、じゃあそろそろ休みたいから離してもらえるかな」
体は離してくれたが手だけはしっかりと握られている。
「部屋まで送るよ」
「えっ、いや、それは別にいいかなぁ」
「友達だろ?」
いい大人が手を繋いで歩くのは異様な光景だと思うが、嬉しそうにしているのであまり強く拒絶出来ない。鼻歌を口ずさみはじめたあたりで深く考えることが馬鹿馬鹿しくなってきた。人の気配もないし誰か近くに来たら離せばいい。
その後、友達だからと部屋の中に入って居座られ、隣に横になって寝かしつけてくるとは思ってもいなかった。距離感のない隣人が増えただけだった。
ロベリアは何かにつけて友達だからと言ってくるが、友達ってこういう感じなのかと疑問に思う。正解がわからなかったので、一旦そのままにしておくことにした。
友達というものは温かいということだけはよくわかった。