No longer need to hide
サイレンが遠くで鳴り続いている。
三連休初日を迎えた武蔵小村市を代表する大型商業施設は盛況を呈していた。モール内の庭園に咲く秋桜は澄み渡った空によく映え、雑踏の中でも存在感を放っている。
平穏な日常が突如として地獄と化したのは、午後七時を回った頃だった。最も人の流動が多く人口密度の高いレストランフロアで、大規模な爆発が発生。一瞬にしてフロア一帯がパニック状態と化し、子どもたちの泣き声と悲鳴が犇き合っていた。鳴り響く爆発音と、犯行グループのメンバーと思われる目出し帽を被った男の罵るような声は、人々の心に恐怖と絶望を植え付けた。
その日は偶然現場に居合わせたビュロウの捜査官より伝達を受け、庁舎内にいた公安メンバー含め本案件の関係者である日米合同捜査チームの一部が出動をすることとなった。犯行グループは優秀な捜査官たちの手によってすぐにお縄となり、モール内に閉じ込められていた人々の救助活動も着実に進んでいた。捕まったメンバーのうち一名は、あの巨悪犯罪組織を摘発した際に逃亡した残党の手掛かりを持つ要注意人物として、捜査チーム内で共有されていた。
赤井はそのターゲットとは異なる人物の行方を追っていた。作戦上、事前に指示された場所での待機を命じられていたが、インカムから聞こえる不穏な会話に眉を顰める。
遠隔で指揮を執っていたはずの降谷が、現場にいるというのだ。燃え広がる炎の中、幼い女の子を人質に取った犯行グループの一人がスポーツ用品売場に立て籠もっている。詳細な経緯は会話からは読み取れなかったが、どうやら犯人制圧と人質救助のため、降谷が自ら火中に身を投じたというのである。
これはあとから聞いた話だが、犯人に掌底を食らわせ気絶させたのち、爆発の炎がフロア一帯へ燃え広がる前に、小太りの成人男性一人と幼子を抱えながら吹き抜けとなっている大階段を五階から三階へと飛び移ったそうだ。彼のタフな行動力にはこれまでも散々驚かされてきたが、その更新を停めるつもりはないらしい。
赤井が駆け付けた時には幼子は家族のもとへ解放され、ターゲットの男も彼の部下によって連行された。シャンパンゴールドに光る降谷の美しい髪が爆発の炎でところどころ焦げ落ちてしまっている。すぐに赤井の気配に気付き、視線が交差した。
「君はここにいるべき人間じゃないはずだが」
責め立てるような声が響いた。今日みたいな変則的な対応については事前に打ち合わせたオペレーションがあったはずだった。まあ、そのオペレーションとやらを無視しているのは赤井も同様なので、人の事は言えないのだが。
降谷は口を開こうとしなかった。煙が肺に入ったのか、けほ、けほ、と汚れたジャケットの裾で口を塞ぐ。何度か苦しそうに咳込んだ後、その場を立ち去ろうとした。その背後を、赤井が静かに追う。
降谷の表情は、酷く青ざめていた。ターゲットと直接やりあったことを差し置いても、かなり疲弊しているように見える。
一般客が利用するエレベーターは既に封鎖されていたため、非常時に開通する避難用エレベーターへ乗り込む。勝手に後ろを付いていく赤井に、降谷はただ黙っていた。
二人の間に沈黙が続く中、エレベーターがゆっくりと降下する。先に口火を切ったのは降谷の方だった。
「なんでついてきてるんですか」
「君、物凄く怪我してるんじゃないか」
エレベーターの扉の方に体を向けていた降谷がこちらへ振り向く。
「フン……満身創痍なのは貴方の方じゃないですか?僕の部下が嘆いてましたよ、狙撃地点から急にいなくなったって。あちらのボスがすぐ傍まで来ていることに気づいて、そのまま肉弾戦に持ち込んだそうじゃないですか。貴方らしくもない」
「どこよりも早い情報網で関心するよ。それは君にも同じことが言えるがこの場合、“君らしくない”というのは語弊があるな。ある程度予測ができた俺にも非はある、といったところか」
「警視庁から向かった人員は想定よりも少なかった。それに比べてこのモールに留まっている客数を考えたらすぐに人手が足りなくなることは考えなくともわかる。ましてや相手はあの組織と繋がりを持つ重要参考人かもしれない。人命救助は最優先だが、あの状況じゃ圧倒的に数が足りなかった。相手が組織の人間なら、僕が直接向かうのが最適解だと判断したまでだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
皮肉交じりの言葉に楯突く降谷は、いつもの調子を取り戻しているようにも見えた。
「だいたい、お前は報告というものを知らなすぎる。こないだだって――」
―――ガゴォン!
地が鳴るような大きな音がしたと思えば、降下中のエレベーターが急停止した。非常用のボタンが赤く光ると、元々薄暗かった照明が完全に消え落ち闇に包まれる。
「……止まったな」
「ええ」
まだ爆弾が残っていたのだろうか。規模の大きなものでもない限り、非常用として動いている電力源に障害が発生することはあまり考えられないが。
降谷が外部連絡装置のボタンを押して呼びかけるが応答はない。混乱に乗じて皆避難しているのだろう。直接外にいる者への連絡も考えたが、不運なことに二人ともスマホの充電はゼロになっていた。
外部への連絡を完全に遮断されてしまった。消防活動が行われているメインエリアからこちら側は薄暗くて然程目につかない。先ほど別れたばかりの風見も、このような状況下では後処理に追われて降谷のことなど気に留める余裕もないだろう。他の者も同様の状況であることは容易に推察できた。加えて、エレベーターが停止した原因が爆発にあるとすれば、その対応でさらなる人手不足になりかねない。
明日の営業は百パーセント不可能と言って間違いはないが、それでも一部関係者は招集されるだろう。早くてもこの場所に人が現れるのは八時と言ったところか。
顔色も大分マシになった降谷が、その場にぺたりと座り込んだ。壁に凭れ掛かり、赤井の方を見上げると大きく溜息をついた。
「まさか、貴方とこんなところに閉じ込められるなんて……」
「扉を破壊して脱出しても構わないが」
「器物損壊に僕を巻き込むのはやめてください。出られたとしても……いえ、なんでもありません」
傷が開いてきたのか、脇腹を抱えながら息を震わせている。額には薄っすら汗も浮かんでおり、座っているのですら苦しそうだった。
降谷に倣い、赤井も隣に腰を下ろす。それを確認した降谷は赤井から少し距離を取った。
「どうせ朝になれば誰かしら気づきますよ。それにしても寒いな」
脱いだジャケットを丸め、枕のようにして床へ置くとそのまま横になった。
「少し横になりますが悪しからず。貴方も今のうちに休んでおいた方がいいですよ、というかそうしてもらえると助かります。気が散るので」
「そんな恰好では風邪を引いてしまうぞ」
赤井が言い切る前に、降谷は眠りに落ちた。呼吸音が、次第に静かになる。よっぽど疲れていたのだろう。
脱いだライダースを降谷の肩口に被せた。煙草の匂いが不快だったのか、眉間に皺を寄せたがすぐに深い眠りへと落ちていった。十一月に入ったばかりの東都は連日凍えるほどの冷え込みが続いている。薄手のシャツ一枚ではどんな屈強な男でももたないだろう。小刻みに震える降谷の肌がそれを物語っていた。
降谷の寝ている姿をちらりと横目見たあと、壁にもたれ掛けながら目を瞑った。煙草が吸いたい気分だったがこの閉鎖空間では降谷に臭いが移ってしまうことを懸念して遠慮しておいた。
真っ暗だった閉鎖空間に、燦然と光が差し込む。ガタ、ガタ、と振動が鳴り、外から切羽詰まった声が飛び交っていた。
周辺の人命救助は完了し、ようやく全施設の点検に入ったというところだろうか。先駆けて目を覚ましていた赤井は、隣でぐっすり眠る降谷のことを眺める。昨夜のあの状態からは信じられないほど安らかで深い眠りだった。随分と外も騒がしくなってきたし、そろそろ起きてもいいはずだが。
長い睫毛の先が少しだけ焦げてしまっている。横向きに小さくなって眠る降谷は、まるで幼子のようだった。組織に潜入していた頃から彼の寝顔は何度か見る機会があったが、こんなに無防備な顔は見たことがない。あの頃は常に誰かに監視されているようなものだったから、四六時中警戒せざるを得なかった。人目を気にせず眠る姿を見るのはこれが初めてかもしれない。
ようやくエレベーターの扉が全開し、救助隊員が数名かけつけた。
まだ降谷が眠っていたので、赤井は静かにジェスチャーで救助隊員たちとコンタクトを取る。
降谷を起こしてしまわないよう首と背中を支えながら、膝下にもう片方の手を差し入れ抱きかかえると、ようやく開かれた扉から脱出する。救助隊員たちに怪我はないかと心配を寄せられるが、重症なのは明らかに降谷の方だった。
なんともないふりをしていたようだが脇腹からは多量の出血が確認できた。傷口がある方を隠して眠っていたが、肩口に被せた赤井のジャケットにもべっとりと血液が付着していた。碌に手当てもせず傷口を隠していたのは、隣にいる男にそれを悟られたくなかったのだろう。
運んでいる途中で目を覚ました降谷が、目の前の状況をすぐに理解できず、赤井に身体を抱えられていることに気づき癇癪を起こした。
「お、おい!貴様どういうことだ、おろせ!」
暴れる降谷を無視して担架まで運んだ。これだけの体力が残っているなら、命に別状はなさそうだ。
救急車に乗り込もうとしたところで、ちょうどその場にきていたジョディに引き止められてしまった。
数十時間ぶりの煙草を施設外のエリアで燻らせる。半壊した建物を眺めながら、やけに疲弊して見えた降谷の姿を思い出していた。
***
綺麗に生え揃った歯をなぞり、上顎にねっとりと絡みつく。角度を変えながら、柔らかく厚みのある降谷の唇を堪能した。しばらくそれを続けていたが、一向に覚醒する気配はなかった。
降谷を包み込んでいた毛布を剥ぎ取ると、スウェットの下に手を伸ばし褐色のきめ細やかな脇腹を丁寧になぞっていく。もう片方の手で軽く頭を撫で、耳の形を確かめるように柔らかく指で触れた。
衣服の中でもぞもぞと動いていた手が乳首へ到達する。あまり強く刺激しないよう乳輪に円を描くように触れ、仕上げに先端へ小さく爪を立てる。
「んっ……」
一瞬目が覚めたのかと動きを止めたが、特に覚醒した様子はなかった。少し強かったのかもしれない。指の腹でマッサージを行うみたいに、乳輪周りを柔らかく撫で回していると、先端がピンと上向きに擡げ始めた。
「こっちでも感じてくれて嬉しいよ」
起こさないよう細心の注意を払いながら、降谷の身体を暴いていく。包み込むように、捕食するように降谷に口付けながら、もう片方の手を下半身へと伸ばす。
キスと乳首への刺激のせいなのか、降谷の中心部は半勃ち状態になっていることが衣服の上からでもわかった。下着の中へ手を差し入れ、優しく触れてみる。すでにしっとりと湿度を持ったそこは、赤井に触られただけで硬度を増していた。
このままだと衣類を汚してしまい、寝起きに不快感を覚えるだろうと親切心で下着ごと膝まで下ろす。既にグレーのボクサーには染みが出来ており、軽く糸を引いていた。
お世辞にも使い込まれているとは思えない、瑞々しく果実のような色をしたペニスが露わになる。照明は薄暗く細部まで確認することはできないが、それ相応に立派なものを持っていた。
何度か掌を使って扱くと瞬く間に天井を見上げた。先端から溢れ出している蜜を舐めとるように、まるごとペニスを口に含んでいく。
「……っ、……っぁ……」
夢の中でも感じているのか、身体が大きく跳ねた。強い刺激を与えないすぎないよう慎重に、まるで飴玉を舐めるように舌を転がせる。しばらく続けていると、もっとして、と言わんばかりに、悩まし気に腰が揺れた。次第にカウパーの分泌量が多くなり、水音を響かせながら余すことなく吸いつくす。
「……ふ、ぁ…………」
カウパーと唾液で十分に湿った会陰を指の腹でなぞり、そのままその先の秘部へ到達した。ゆっくりと慎重に指を捻じ込ませれば、違和感があるのか眉間に皺を寄せて拒否反応を示している。ベッドサイドのチェストからローションを取り出し、手のひらで軽く馴染ませると再度後孔へ指を差し込んだ。先ほどより嫌悪感はないようだが、入口付近で既にきついため、これ以上奥へ侵入するのはやめておいた。大丈夫、これから時間はたっぷりある。
入口の浅い部分を指で撫でまわすように愛撫しながら、もう一度降谷の中心部を咥える。後ろへの違和感からか少し萎えかけていたペニスが再び硬度を取り戻した。
「……っ!あ……はぁ……んぁ……」
額に汗がにじみ、頬を紅潮させながら嬌声をあげていた。さすがにこれ以上は目が覚めてしまうのでは、と冷静になるが、気持ちよさそうにしている彼を見ていたらここで止めるのも酷だろうという結論に至った。きっと射精感が近いのだろう、太腿周辺がふるふると震えている。
後孔の浅い部分に微弱の刺激を与え続けていると、すっかりそこは赤井の侵入を赦すようになっていた。ふっくらと柔らかくなったそこは物足りなさそうにひくひくと伸縮している。
「………………っっっ!!」
艶めかしく身体が跳ね、降谷は射精を迎えた。卵のように滑らかな褐色肌に飛び散る白濁が生み出すコントラストは、まさに芸術品だ。
勢いよく弾けた液体が、ほんの一部赤井の顔にまで飛び散ってしまっている。指で拭い取りまじまじと確かめると、そのまま口へと含んだ。
「濃いな。あまり自分では処理していないのか……?」
射精を終えて息を整える降谷をしばらく見つめていた。呼吸が落ち着いたことがわかると、頬に軽い口付けをする。その身体に覆い被さるようにして、ベッドへと体重をかけた。
降谷の痴態を目の当たりにして凶暴なまでに聳え立った自身の肉棒を取り出し、乱雑に扱いていく。美しい褐色の肌の上に飛び散った精液を再び確かめると、胸中に潜む薄暗い感情が燃え広がるのを感じた。
刺激を与えすぎないようゆっくりと、しかし着実に、マーキングをするように臍周りに剛直を擦りつけていく。酷く背徳的な行為に、この上なく全身が昂っていた。
降谷の方はといえば、依然と眠ったままだ。半分開いたままの小さな口に、突っ込んでしまいたい衝動に駆られる。抵抗しようにも口が塞がれ身動きが取れずただひたすらに腔内で快感を拾いながらびくびくと耐え続ける降谷の姿を想像すれば、全身の血液が中央へと集まってくるのが分かった。脳内に浮かんだ不埒な想像を搔き消すように、息を荒げながら射精に向けて速度を上げる。次第に射精感が訪れ、降谷が撒き散らした精液に重なるように欲を放った。肌の上に剛直を擦りつけ、二人が出した液体を掻き混ぜていく。
「これを君が知ったら、どう思うんだろうな」
赤井の中に渦巻いた黒い靄のような、得体の知れないそれは、ぐるぐると体内を渦巻いているようだった。