基礎生物学研究所

動物行動学研究会

オンライン講演会では、動物行動学の最前線で活躍している研究者を外部からお招きし、研究内容を紹介していただきます。講演を通して、動物行動学の面白さや応用の可能性を共有し、今後の研究展開について広く意見交換できればと思います

講演会の内容は研究者や学生向けのものですが、それ以外の方もご参加いただけます。ご興味のある方はフォームよりお気軽にご登録ください。本講演会はzoomを用いて配信するので、事前登録された方にURLをご案内します。登録されたメールアドレスには、次回以降の講演会の情報も随時ご案内します。

講演者推薦の募集

今後の演者についての自薦他薦募集しております。完全匿名の推薦フォームからお気軽にご意見ください。

第36回オンライン講演会 & 研究交流会

日時:2024年5月28日(火)16:00~17:00 

演者:劉 浩(千葉大学大学院融合理工学府・教授)

「生物に学ぶバイオインスパイアード・エンジニアリング」時:2024年4月19日(金)16:00~17:00 

場所:オンライン(zoomを利用)

講演要旨:

生物の多様な形態や構造、優れた機能やシステムなどを模倣する“バイオミメティクス(biomimetics)”が、新しいテクノロジーとして、省エネ・省資源型モノづくりに基づく持続可能な社会実現への技術革新と産業展開を創出するものと期待されている。その中、生物を知り、生物を真似る、生物規範工学(bioinspired engineering)のパラダイムシフトが非連続的イノベーションをもたらす鍵としてされている。本講演では、「空の産業革命」を支える次世代飛行ロボットや小型無人航空機(ドローン)の開発に破壊的なイノベーションをもたらすとされる、生物規範飛行システムとマイクロ飛行ロボットについて、生物羽ばたき飛行に関する大規模力学シミュレーションや風洞実験などの研究により明らかにされつつある昆虫や鳥の知能的かつロバストな飛行力学と制御則のメカニズムから、生物規範超小型飛行ロボットやドローンなどのバイオミメティクス技術の現状、今後の挑戦及び展望を紹介する。



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【同日開催】研究交流会

日時:2024年528日()19:30~21:00

場所:オンライン(MetaLifeを利用)

参加費:無料

動物行動に関する興味関心を共有し、その面白さや行動学の未来について意見交換するオンライン交流会を開催します。最新の研究から日常の観察までどのような話題も歓迎します。初めて方・学生・異分野の方も歓迎します。URLは講演会終了後にご案内いたします。


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今後の講演予定

46回(2025年3月)までは以下の日程でオンライン講演を実施する予定です。

今後の演者についての自薦他薦も募集しております。完全匿名の推薦フォームからお気軽にご意見ください。

第36回オンライン講演会

日時:2024年528日(16:00~17:00 

演者: 千葉大学大学院融合理工学府教授

生物に学ぶバイオインスパイアード・エンジニアリング

生物の多様な形態や構造、優れた機能やシステムなどを模倣する“バイオミメティクス(biomimetics)”が、新しいテクノロジーとして、省エネ・省資源型モノづくりに基づく持続可能な社会実現への技術革新と産業展開を創出するものと期待されている。その中、生物を知り、生物を真似る、生物規範工学(bioinspired engineering)のパラダイムシフトが非連続的イノベーションをもたらす鍵としてされている。本講演では、「空の産業革命」を支える次世代飛行ロボットや小型無人航空機(ドローン)の開発に破壊的なイノベーションをもたらすとされる、生物規範飛行システムとマイクロ飛行ロボットについて、生物羽ばたき飛行に関する大規模力学シミュレーションや風洞実験などの研究により明らかにされつつある昆虫や鳥の知能的かつロバストな飛行力学と制御則のメカニズムから、生物規範超小型飛行ロボットやドローンなどのバイオミメティクス技術の現状、今後の挑戦及び展望を紹介する。

第37回オンライン講演会

日時:2024年624日(16:00~17:00 

演者:山尾 僚京都大学生態学研究センター・教授)

植物の“行動生態学”:植物の環境応答の多様性と機能

生物は様々な環境刺激に対し応答を示すことで生存上の課題を解決する。生物の応答はどのように進化してきたのだろうか?これまで多くの研究者が、主に動物の行動に焦点を当て、この問いに挑んできた。しかし、近年になり、植物においても一部の動物や微生物のように近隣個体の遺伝的な類似性を識別し、様々な応答を示すことが報告されてきた。発表者は、つる植物やオオバコなどの多年生草本が、自他および血縁識別に基づいて多様な応答を示すことを明らかにしてきた。また、種子においても、競争環境や被食環境に応じて柔軟に発芽タイミングを調節することが明らかになってきた。本セミナーでは、植物の応答の多様性と共に演者の研究を紹介し、植物を対象とした行動生態学的研究の今後の可能性について議論したい。

第38回オンライン講演会

日時:20247月29日(月)16:00~17:00 

演者:井上 武鳥取大学医学部准教授

眼の形態と自発運動による環境適応戦略

感覚器官の形態は、動物によって多様であり、その生態や環境に適応していると考えられているが、この関連性の詳細はまだ明確になっていない。プラナリアが光を避ける行動を示すことは知られていたが、そのメカニズムは長らく不明だった。最近の研究で、眼が水平面に対して約20度内側に傾斜しており、この傾斜角度が、光源から離れる効率を高めていることがわかった。興味深いことに、プラナリアは直進する際にも、自発的に頭部を左右に振る運動を示すが、この頭部を振る自発運動の角度と眼の傾斜角度が相関しており、光を避ける際の効率性を最大化していることが明らかになった。これは、眼の形態と自発運動が連係することで、プラナリアが環境に対して効率的かつ適応的な行動をとることを示唆している。加えて、本発表では、頭部の自発運動の角度が、光から逃れる行動だけでなく、物陰に隠れる行動においても重要な役割を果たしていることを紹介したい。

第39回オンライン講演会

日時:2024年816日(16:00~17:00 

演者:郡司芽久東洋大学生命科学部助教

演題未定

講演要旨準備中

40回オンライン講演会

日時:2024年9月10日(16:00~17:00 

演者:飛龍志津子同志社大学生命医科学部・教授)

コウモリの音響ナビゲーション -音で“見る”世界-

コウモリは超音波を口または鼻孔から発し,その反響音(エコー)とを聴き比べることで,周囲の状況を把握するエコーロケーションを行います.暗闇の中,音を手掛かりに高度なナビゲーションを行うコウモリは,生態学から動物行動学,そして神経科学と幅広い分野において研究が展開されてきました.本講演では,生物学から工学に至る視点から,コウモリのエコーロケーション行動を概説します.飛行中のコウモリが発する超音波やそのエコーの音響分析,またロボットを用いた実験などを通じた,コウモリの混信回避行動に関する研究や,野生下で見られる採餌のための高度なエコーロケーション戦術や,social callを介した社会的行動,さらにはバイオロギングによる夜間の移動生態など,実験室から野外調査に至る様々な計測を通じて見えてきた,コウモリの音響ナビゲーションの魅力をご紹介します.

第41回オンライン講演会

日時:2024年10月18日(金)16:00~17:00 

演者:豊田賢治広島大学統合生命科学研究科テニュアトラック助教

カニの行動生態学:月周繁殖と寄生

日本各地で見られるアカテガニは半陸生カニ類で、主に沿岸近くの林などに生息している。本種は7-9月の繁殖期の新月と満月(大潮)の日没後の満潮時刻前後に海岸に移動して幼生を放出する。このアカテガニの幼生放出リズムは地域によって異なることが示されている。瀬戸内海の集団は新月・満月(月周性)の日没後(日周性)の満潮時刻前後(潮汐性)に幼生放出行動が観察されるのに対し、太平洋に面する伊豆半島では潮汐性を示さず、月周性と日周性に強く支配される。また、潮汐差の少ない日本海側の佐渡島(新潟県)では月周性と潮汐性を示さない。さらに、これまでのアカテガニの繁殖行動に関する生態調査は、幼生放出行動を示した個体を目視計測する方法で行われていたためオスの行動リズムは全く報告がない。そこで私は、日本海側集団の繁殖リズムの再調査とオスの繁殖リズムの有無を調べることを目的に、佐渡島と能登半島の個体群を対象に毎晩一定の時間内に出現したアカテガニを全て捕獲し、雌雄の割合と抱卵の有無を記録した。その結果、佐渡と能登島集団も太平洋側と同様に月周性を示すこと、さらにそのリズムには明瞭な雌雄差があることを見出した。本セミナーでは野外調査から得られたデータをご紹介するとともに、現在取り組んでいるアカテガニの繁殖リズムの生理機構に関する取り組みも紹介したい。また、最近新たに取り組んでいるカニに寄生する甲殻類が宿主カニの行動に与える影響についても紹介する。

第42回オンライン講演会

日時:2024年11月15日(金)16:00~17:00 

演者:小川裕理フリンダース大学医学部神経科学部門研究員

ハナアブの行動とその視覚神経基盤

訪花性昆虫であるハナアブは花の位置や形や色を視覚的に認識しその蜜を取得する。また、彼らは飛行中にも視覚を利用し、障害物を避け、交配相手あるいは縄張りへの侵入者を見つける。彼らの飛行中の素早い機動や複雑な飛行パターンを可能にしている視覚神経基盤にはどのような特性があるのだろうか。本発表ではハナアブの行動と、その行動を制御する胸部神経節と脳とをつなぐ下降性介在神経に焦点を当てる。私たちはオスハナアブが人工的な標的を追跡する軌跡を高速度カメラで撮影した。その軌跡を3D再構築することで、オスハナアブが追跡行動時に標的をどのように見ているのかを明らかにした。そして、下降性介在神経に存在するターゲット検出神経が追跡中どのように応答するかを明らかにした。本発表ではハナアブの行動を詳細に解析するための仮想現実アリーナも紹介する。

第43ハイブリッド講演会

日時:2024年129日(金)16:00~17:00 

演者:長谷川眞理子総合研究大学院大学名誉教授

人間行動生態学へ:殺人と思春期を題材に

動物行動学、行動生態学は、通常はヒト以外の動物を対象として研究している。ヒトも動物であるが、ヒトという動物は自意識や言語、文化を持ち、非常に複雑なので、その行動を、通常の動物行動学の枠内でとらえることは困難である。私自身、長らくヒトを対象に研究する自信が持てずにいたのだが、近年は、殺人と児童虐待について、行動生態学的な分析を行うとともに、10年前からは、当時10歳だった東京都在住の児童およそ3500人を対象に、思春期の諸問題について、コホート研究を行っている。ヒトも動物であり、基本的な情動形成には、自然選択や性選択が働く。しかし、ヒトにとってもっとも重要な「環境」は文化環境であり、その文化環境への適応・不適応が、個人の行動選択に大きな影響を与える。講演では、行動生態学の理論的枠組を用いて、ヒトの行動をどのように分析するか、殺人と思春期の研究をもとに概説したい。

第44ハイブリッド講演会

日時:2025年1月17日(金)16:00~17:00 

演者:沓掛磨也子産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門副研究部門長

兵隊アブラムシによる社会行動〜分子メカニズムとその進化

兵隊アブラムシという存在をご存知だろうか?アブラムシの一部には、ハチやアリと同様、社会性を持つ種が存在する。兵隊は、自分の繁殖や生存を犠牲にしてコロニー防衛を担う個体である。その名の通り、外敵に対して激しく攻撃して仲間を守るほか、一部の種においては、巣の清掃や修復といった労働にも従事する。弱くておとなしいというアブラムシの一般的イメージからは想像もできないほど、アクティブな利他行動を示す。私はこれまで20年以上にわたり、この社会性アブラムシを対象として、兵隊の社会行動や階級分化に関する研究を行ってきた。本講演では、これらの興味深い社会行動の基盤となる分子メカニズムやその進化に関する知見について紹介する。また、社会性アブラムシが宿主植物上に形成する虫こぶに着目した最近の研究についても、合わせて紹介する。

第45回オンライン講演会

日時:202527日(金)16:00~17:00 

演者:塩尻かおり龍谷大学農学部・教授)

「演題未定」

講演要旨準備中

第46回オンライン講演会

日時:2025年3月7日(金)16:00~17:00 

演者:村松大輔奈良教育大学自然環境教育センター特任准教授

干潟のカニのコミュニケーション: いかに語り合い、騙しあうのか

干潟は見通しの利く平面的な環境であり、そこに棲むカニたちは複雑な視覚コミュニケーション手段を発達させている。中でも、ハクセンシオマネキは体の大きさに似つかわしくないほど巨大化したハサミを持っており、それを振り動かすハサミ振りディスプレイを行うほか、ハサミを用いて激しい闘争も行う。本発表では、(1) ハクセンシオマネキのオスが4種のハサミ振りディスプレイを状況に応じて使い分けることについて紹介し、(2) それぞれのディスプレイがどのような機能を持つかについて議論する。また、(3) ハクセンシオマネキのディスプレイを周囲にいるコメツキガニが識別し、リスクの大きさに応じて適切に行動を変化させることを示す。さらに、(4) ハクセンシオマネキのオスには2割ほど貧弱なハリボテのハサミを持つオスが混じっており、それらがブラフによって儀式的闘争に勝つことや、(5) そのブラフの裏をかくカウンターブラフが存在することについても紹介し、カニの闘争における複雑な駆け引きについて明らかにする。

過去の講演情報

第1回オンライン講演会

日時:2021年6月29日(火)16:00~17:00

演者:加賀谷勝史(東京大学・特任研究員)

「超高速運動での神経・身体統合性へのアプローチ」

個体生物学に個体の運動の力学的なアプローチがある。私はこれまで、ザリガニやシャコなどの甲殻類を研究対象として神経系と身体の物理的動作の両方に焦点をあててきた。

シャコの超高速運動では打撃運動は2ミリ秒ほどであり、その運動がはじまったら神経・筋肉系が関与することはできない。神経系が制御するのは打撃運動の前、つまり外骨格をばねとして圧縮するときである。この過程で弾性エネルギーがばねに蓄積する。蓄積するにはそれを止めておく必要がある。これは伸展筋と屈曲筋の共収縮による。屈曲筋は小さいがラッチの助けを借りつつ機械効率の高い配置のおかげで強力な伸展筋に拮抗する。ばねが開放すればあとはリンク機構によって運動に変わる。この全体をパワー増幅とも言う。

Kagaya and Patek (2016) ではばね圧縮過程で神経系からの制御を受けることを報告した。さらに個体ごとにくせのある神経・身体系の関係をもっていることを論じた。この講演ではそのためにデータからどのように統計モデルをつくり、推測し、考察したのか紹介したい。階層モデルとそのパラメータのベイズ推測法、情報量基準でのモデル評価法についても言及したい。 

第2回オンライン講演会

日時:2021年7月20日(火)16:00~17:00

演者:宮竹貴久(岡山大学・教授)

「虫はなぜ死んだふりをするのか? ゲノム行動生態学の展開に向けて」

昆虫はなぜ死んだふりをするのだろうか?ファーブル以来、その適応的な意味について注目されない時代が続いた。私は昆虫がどんなときに、なぜ死んだふりをするのかについて調べ、「動き」が鍵であると理解した。そしてコクヌストモドキ(甲虫)を使って死にまね時間の長短を育種し、どんなに刺激しても死にまねしない集団(ショート系統)と少しの刺激でも死にまねする集団(ロング系統)を確立した。これらの育種系統を使って死んだふり戦略は捕食回避や生活史形質上では有利だが、繁殖上の適応度は低くトレードオフの存在を明らかにした。またロング系統は、脳内で発現するドーパミン量が少なく、ドーパミン投与により死にまね時間が短くなった。トランスクリプトーム解析によって系統間のRNA発現レベルを比較すると、チロシン代謝系遺伝子群によって制御されるドーパミンの発現が有意に異なり、ゲノム比較解析によってパーキンソン病原因遺伝子に類似の遺伝子で変異が高頻度で検出できた。RNA干渉等により遺伝子操作をした個体の作出に目途が付いたため、「動き」を支配するゲノムを操作した個体の適応度を測定することで、新しいゲノム行動生態学の展開を目指している。

第3回オンライン講演会

日時:2021年8月24日(火)14:00~16:05

①14:00~15:00 

演者:中田兼介(京都女子大学・教授)

円網の形から探るクモの採餌・対捕食者戦略

クモは、自ら分泌する糸を使って、エサ捕獲用の罠である網を作る。網の形には広く共有されるデザイン上の特徴がある。例えば、放射状に伸びる縦糸と粘着性で螺旋状に張られる横糸からなる円網には、大きさや縦糸間隔、横糸密度が網の上半分と下半分で異なるという上下非対称性が見られる。この非対称性は、クモの頭の向きとあいまって重力下における採餌成功を高めるための適応であると考えられている。一方、円網は定期的に張り替えられるが、この際に同じ個体が異なる非対称性を示す網を張ることが知られており、これはエサ捕獲や捕食者との遭遇経験により柔軟に網形状を変えているためであると考えられている。加えて、円網にはエサを誘引したり捕食者の注意をそらすための白帯と呼ばれる飾りがついていることがあるが、これも状況によって大きさなどをクモが調整している。また円網は体外に拡張された感覚器の働きもしており、クモは網を伝わる振動を用いて周囲の状況を知るが、この際に縦糸の張力を調整することで感度を変えている。これらの現象は、円網がクモにとって多種との種間関係を取り持つ際の動的なインターフェースとなっていることを示している。 

②15:05~16:05

演者:髙須賀圭三(慶應義塾大学・特任助教)

「クモをあやつり網の形を改変する寄生バチ」

寄生者による寄主操作は、鳥の巣やミノムシの蓑などの体外構造物と並び『延長された表現型』の代表例として知られる。利害が真っ向から対立する他種を強制的に使役する寄主操作によって顕れる寄主の行動は、寄主というフィルターを通して寄生者の純粋な適応進化を検出できる得難い形質である。行動形質に加え、操作の帰結が物体として残存するのが、クモヒメバチによるクモの造網行動操作(網操作)である。クモヒメバチ類は各種が特定のクモを寄主とし、一個体のクモに対し一個体のハチが外部から寄主クモを生かした状態で寄生するという習性を持つ(クモの飼い殺し外部単寄生)。幼虫は最終的にクモを殺し、クモの網の上や中で蛹化するが、そのままではクモの網は脆弱で蛹期を支えるには不十分であることが多い。その問題を解決するために、強制的に造網行動を改変することによって、網に蛹期を耐えうる強度や形状を付与させるという能力が進化した。網操作によって生み出される特殊な網(操作網)には、ハチの適応度向上に寄与する特質が多数秘められている。本講演では、ゴミグモ属2種を利用するゴミグモヒメバチ属3種の寄生系に着目して検証および比較した網操作の適応的意義について紹介する。

第4回オンライン講演会

日時:2021年9月28日(火)15:00~16:00

演者:長谷川 克(石川県立大学・客員研究員)

「行動生態学からみた美しさと可愛さの進化」

生物はしばしば生存上の利益では説明が難しい「装飾」と呼ばれる美しい特徴を示す。現在主要な見方はこうした特徴が配偶者選択によって進化したとするもので、より美しい個体が異性を魅了して高い繁殖成功をあげることで性選択上有利となり、世代と共に美しさに磨きがかかったのだという。これまでの実証研究においても、実際にそうした配偶者選択が明示されており、概ねこの見方を支持している。しかしながら、冷静に考えると美しいことは必ずしも生存に有利なことと矛盾しないことに気づく。一見して生存上の利益が見当たらなくとも、実のところ生存選択で意味を持つ特徴は、警告色をはじめとして数多く存在している。機能美が結果として造形美をもたらすこともある。発表の前半では、長らく論争の的となっていたツバメ類の燕尾の進化について焦点を当て、その進化理由を明かしていく。発表の後半では、美しさとよく似た概念である「可愛さ」に焦点を当て、可愛さの意味と進化的な重要性に迫る。発表を通して、対象生物自身のモノの見方を考慮することの重要性を指摘する。

5回オンライン講演会

日時:2021年10月25日(月)15:00~17:05

①15:00~16:00 

演者:竹垣 毅(長崎大学・准教授)

魚類の子殺し行動:子がどうしても邪魔だったんだ

親による子の保護の目的は子の発育や生残を高めることであるが、逆に親が子を殺す種も多くの分類群で知られている。魚類でも親が保護中の卵を食べる卵食行動「フィリアルカニバリズム」が非常に多くの種で報告され、子の保護の進化を研究する格好の材料として数多くの理論・実証研究の対象とされてきた。魚類の卵食行動は、保護コストと保護成功の利益、そして卵を食べることで得られる栄養利益に基づくエネルギー基盤仮説で主に説明される。しかし、演者らは雄が単独で卵保護を行う小型海産魚ロウソクギンポの雄親が栄養利益を期待しない卵食を行っていることを発見し、魚類で初めての真の子殺し行動として報告した(Cur Biol, 2018)。

対象となった卵食行動は雄親が産卵後間もなく保護卵を全て食べてしまう全卵食行動である。この全卵食行動は保護卵が少なく保護コストに見合わない場合に親が繁殖をやり直す現象とされてきたが、多くの魚種でこの説明に矛盾があるまま放置されてきた。実は雄親は卵保護中でも雌に求愛して追加配偶できるので、卵が少ないという理由で卵を食べる必要はないのである。演者らは雄の性ホルモンに依存した繁殖サイクルに着目し、この矛盾を解決した。

16:10~17:10 

演者:竹内 剛(大阪府立大学・研究員)

「チョウの行動を記述する原理:同性という認識はない」

チョウの配偶縄張りをめぐる雄どうしの追尾(卍巴飛翔)は、ゲーム理論に基づいた闘争モデルで説明するのが一般的だった。一方1970年代から、この行動を、お互いに相手が雌かどうかを確認する行動、あるいは相手が雌だと認識した配偶行動の一環として説明しようとする試みはあったが、標準的な科学からはほとんど無視されていた。最大の理由は、「相手が同種の雄であることが分からない」ことを証明しようとすると、否定命題の証明(悪魔の証明)になってしまって、そこから先に進められなかったからではないかと思う。演者は、チョウには同性(ライバル)という認識はない、という主張を原理とみなすことで悪魔の証明を避けて、チョウの配偶行動全般を説明する理論体系を構築した。この理論体系(配偶者捕食者理論)では、チョウは他の動物に対して、配偶者(配偶行動を引き起こす存在)または捕食者(逃避行動を引き起こす存在)という認識を持っている、と仮定するだけで、これまでに知られているチョウの行動を説明することができる。過去に性認識(配偶者とライバルの認識)の証拠とされていた研究も、配偶者という認識を仮定するだけで説明できる。

第6回オンライン講演会

日時:2021年11月22日(月)15:00~16:00

演者:土畑重人(東京大学・准教授)

「超個体」に生物進化の妙を知る

アリやミツバチ,スズメバチなどの社会性昆虫は,現在地球上でもっとも繁栄している生物群のひとつであるとも言われるが,繁栄の秘密はかれらが示す社会性にあると考えられている.社会性は我々ヒトにも通じる性質であることから,社会性昆虫の研究は自然のみならず我々自身の理解にもつながるものとして,古くから研究が進められてきた.かれらの社会性を裏打ちしているのは,構成個体が全体として示す,繁殖や採餌,巣構築などの秩序だった集団行動であり,「超個体」とも形容される.全体としては一見きわめて適応的に思われるこの社会システムの成立はしかし,その適応進化の過程を考えるとそれほど自明ではないことが明らかになってくる.進化・行動生態学は,これらの非自明性に着目して,社会性昆虫の示すさまざまな性質を発見してきた.本講演では,演者のこれまでの研究から,社会システムの適応進化における困難さとして,「適応度の谷間」および「裏切り戦略の進化」を取り上げる.これらの困難性との相互作用が,現生の社会性昆虫が到達した社会システムにどのように反映されているか,また,社会システムをより強固なものにしているかについて,実例を伴いながら議論したい. 

7回オンライン講演会

日時:2021年12月21日(火)16:30~18:40

16:30~17:30 (16:00開始から変更になりました)

演者:鈴木俊貴(京都大学・特定助教)

シジュウカラの単語と文法〜科学で迫る野鳥の会話〜

長年にわたって、「言語」はヒトに突如として進化した固有な性質であると考えられてきました。ヒトは単語を用いてモノや出来事を指し示したり、さらにそれらを組み合わせることで多様な文章をつくり会話します。一方で、ヒト以外の動物の鳴き声は単なる感情の表れであり、他個体の行動を機械的に操作するシグナルにすぎないと捉えられてきたのです。しかし、この二分は本当に正しいのでしょうか?私は、この疑問を胸に、野鳥の音声コミュニケーションを研究してきました。15年以上にわたるフィールドワークから、野鳥の1種・シジュウカラが、捕食者の種類を示したり仲間を集めたりするための様々な鳴き声をもち、さらに、これらの鳴き声を一定の語順に組み合わせることで、より複雑なメッセージをつくっていることを発見しました。受信者は、決して機械的に反応しているわけではなく、鳴き声の示す対象をイメージしたり、音列に文法のルールを当てはめることで情報を解読していることも明らかになりました。これらの発見は、私たちが普段会話のなかで使っている認知機能を動物において初めて実証した成果であり、言語の進化に迫る上でも大きな糸口を与えるはずです。

②17:40~18:40 (※17:10開始から変更になりました)

演者:菅澤承子(University of St Andrews・BBSRC Discovery Fellow)

「手のない動物によるものづくり~鳥類による構築行動を探る~」

ものを柔軟にあやつり、道具や住居などの新たな構築物を作ることは、私たち人類の本質に関わる行動です。五本の指と手のひらを備えた霊長類の手は、指先でつまむ・手のひら全体で握るなど、多様な物体操作を可能にしています。一方で、釣り針のような道具や土器のような巣など、ヒトが作る構築物に類似した構造を、「手」を持たない鳥類も作ることはあまり知られていません。脊椎動物の系統上かけ離れている霊長類と鳥類における高度な構築行動は、互いに独立した過程で生じ、収斂進化した可能性を示唆します。くちばしという単純な構造の身体部位ひとつで、鳥は一体どのように多様な構造を作り出しているのでしょうか?私は、過去およそ10年に渡って、野外調査・室内実験を組み合わせてこの疑問を解き明かすために研究してきました。今回の発表では、南太平洋の孤島に住むカラスによる道具作成や、イギリスで繁殖する様々な鳥による巣作りを調べた成果などをお話しします。


8回オンライン講演会

日時:2022年1月25日(火)16:00~17:00

演者:高橋佑磨(千葉大学・准教授)

行動多様性の生態的効果と創発的集団特性の高次フェノームワイド関連解析

集団内の形質多様性は集団動態に影響を与えると考えられている。このとき、各表現型単独時の生態的特性(増殖率など)の加重平均値よりも、それらが混ざったときに実際に観察される生態的特性が高い場合、このような非相加的生態的効果は、「創発効果」あるいは「多様性効果」と呼ばれる。本講演では、まず、キイロショウジョウバエにみられる一遺伝子行動多型を用い、単型集団と多型集団の各種個体群パラメータや個体間の社会的相互作用を定量することで、多様性効果の存在やそのメカニズムを検証した実験を紹介する。次に、行動変異を含む数ある表現型変異のうちどのような表現型の変異が多様性効果を生み出すのかを検証するために行なっている高次のフェノームワイド関連解析について紹介する。具体的には、野外集団に存在する自然変異を用いて、人為的に集団内の形質多様性を操作する実験を行ない、集団内の形質多様性とその集団における多様性効果の大小の関係をフェノームワイドに解析している。これにより、幼虫の活動量や成長速度などの形質の多様性が集団特性に創発的な効果をもたらすことがわかってきた。最後に今後の展望についても述べたい。 

9回オンライン講演会

日時:2022214日(月)16:00~17:00

演者:幸田正典(大阪市立大学・教授)

「サンゴ礁魚ホンソメワケベラの鏡像自己認知とその認知過程について」

「鏡像自己認知」は、大型類人猿、ゾウ、イルカ、カラス類などでは知られるが、多くの動物での確認は失敗している。我々は、この能力を魚類(ホンソメワケベラ)でマークテストにより確認した(Kohda et al. 2019)。鏡に慣れた個体の喉に茶色いマークをつける。彼らは鏡がないと見えない喉のマークは擦らないが、鏡で喉を見ると頻繁に喉のマークを擦った。これは、鏡像は自分だと認識することを示す証拠である。さらにその認識過程も調べた。我々は「ヒト同様に、魚も自分の顔を認識しそれに基づいて鏡像自己認知する」との仮説を考えた。本種は見知らぬ他個体を見ると攻撃する。鏡像自己認知ができた個体に、1)自分の全身写真、2)未知他個体の全身写真、3)顔は自分で体は他個体の合成写真、4)顔は他個体で体は自分の合成写真、の4タイプを見せたところ、攻撃したのは他者顔の2)と4)、攻撃しないのは、自分の顔の1)と3)であった。このことは、自分の顔による自己像の認識を示しており、仮説は検証された。本種とヒトの鏡像認知過程はよく似ている。本発見は従来の常識を覆し、脊椎動物に広く自己認識能力、さらには自己意識の可能性を示唆している。

10回オンライン講演会

日時:20223月7日(15:00~16:00 

演者:依田 憲(名古屋大学・教授)

バイオロギングによる行動学:海洋動物の長距離ナビゲーション研究を例として

野生動物の行動や生態の研究は、詳細な野外観察が基本となる。しかし、多くの野生動物は、いともたやすく観察可能な領域を出てしまう。そのため、動物の行動・生理・生態と、その周辺環境との相互作用の複雑さを理解するためには、工学技術を用いて人間の観察可能限界を突破する必要がある。そこで開発されたのが、バイオロギング(Bio-logging)である。バイオロギングは、動物に小型のデータロガー(記録装置)をとりつけ、動物自身の行動や生理状態、経験する環境などを時系列データとして記録する手法だ。1960年代にアザラシに水圧計を装着する実験からバイオロギングは始まったが、今世紀に入り、ロガーの小型化・多様化・低価格化が一気に進み、動物行動学の標準的手法として花開いた。本講演では、海洋動物の数百〜数千キロメートルに渡るナビゲーション行動を研究した成果を発表すると共に、センサや人工知能の革命と出会い、ビッグデータ解析やログボット(Logging-Robot)といった新展開を見せるバイオロギングの近未来について紹介する。

第11回オンライン講演会

日時:2022426日(16:00~17:00 

演者:水元惟暁(沖縄科学技術大学院大学・学振特別研究員CPD)

「シロアリの行動ルールの比較研究~集団行動の進化が知りたくて~」

魚の群れの動きや、社会性昆虫の巣のように、動物の集団は複雑なパターンを作り出す。これらは当然、集団内の個体の行動から生まれたものである。では、集団レベルのパターンの多様性は、どのような個体レベルの行動の変化から生じるのか?私はこの2つの階層の関係性について、主にシロアリの種間比較を通じて研究してきた。本講演ではまず、シロアリのトンネル形成における、トンネルの分岐パターンとその裏に潜む行動ルールの関係について紹介する。近縁種間で共通する行動ルールが異なる分岐パターンを作り出す一方、他種における全く別の行動ルールが似た構造を作り出すこともできる。次に、シロアリとアリで観察されるタンデム歩行行動について紹介し、一見似た集団行動の裏にも多様なコミュニケーション機構が介在していることを示す。以上を基に、群れ行動の裏に隠れた個体レベルの行動の多様性が、集団行動の進化に大きな役割を果たすと考えている。

第12回オンライン講演会

日時:2022年516日(16:00~17:00 

演者:佐倉 緑(神戸大学・准教授

「昆虫の経路積算型ナビゲーション:空を見て方向を知る仕組み」

野原を飛び回るミツバチや地面を這うアリ・・・、彼らは非常に長い距離を移動して食べ物を探し回るが、迷うことなく自分の巣に戻ることができる。昆虫のようなシンプルな神経系で、どのようにこの正確なナビゲーションが実現しているのだろうか。昆虫は様々なナビゲーション戦略を用いるが、中でも自分の移動した「距離」と「方向」をリアルタイムでモニターして帰巣経路を割り出す「経路積算」を使ったナビゲーションがよく知られており、特に空の偏光を利用した方向知覚についての研究は、古くから盛んに行われてきた。太陽光が大気中の粒子に散乱することで、天空には偏光のパターンが存在する。この天空の偏光パターンは、太陽が雲や障害物で隠れた状態でもコンパス情報として利用できる。今回の講演では、昆虫の偏光視の仕組みについて解説するとともに、私がこれまでに行ってきたミツバチの偏光ナビゲーションに関する研究成果について紹介する。

第13回オンライン講演会

日時:2022年6月14日(火)16:00~17:00 

演者:渡辺佑基(国立極地研究所・准教授)

「バイカルアザラシの行動生態と進化」

シベリア中央部に位置するバイカル湖は、単一の湖としては世界最多の固有生物種を有し、ガラパゴス諸島と並び「進化の博物館」と称される。バイカルアザラシはその固有な生態系の頂点捕食者であり、世界で唯一の淡水のみに生息する鰭脚類である。生態学的、進化学的に興味深い種でありながら、本種の生態に関する知見は、捕獲調査や目視観察に基づいた断片的なものしかなかった。私は大学院生だった約20年前から、動物に小型センサーを取り付けるバイオロギングの手法を使って、バイカルアザラシの生態調査を行ってきた。その結果、本種の特異的な潜水、捕食行動を見つけ、特殊化した歯の形状との関わりを明らかにした。また、バイカル湖の生態系の成立ちに関し、従来の考えを覆す重要な知見を得た。本講演では、バイカルアザラシの生態に関する私の研究成果を紹介したい。

第14回オンライン講演会

日時:2022年7月11日16:00~17:00 

演者:黒田公美理化学研究所・親和性社会行動研究チーム・チームリーダー

「哺乳類の子育てと親和的な社会性:その進化的起源とメカニズム」

同種成体同士の親和的な社会行動には、利己的な群れSelfish herdと呼ばれる魚群のように、外敵や低温からの防御など、いわば「身体的自己の保存」を主な動因とするものと、繁殖つまり「遺伝子的自己の保存」を動因とするものがあると考えられます。この後者とくに子育ては、共感性や見返りを求めない利他行動の進化的起源ではないかと示唆されてきました。私たちは子育てに必要な脳部位、内側視索前野MPOAの中で特に子育てに必須の神経細胞にアミリン受容体シグナル系が発現することが、子育て意欲に重要であることを報告しています。この研究過程で、同じ分子シグナルがメスマウスが仲間を求める行動にも重要であること、そのリガンドであるアミリンはメスマウスが孤独になるとMPOAからほとんどなくなってしまうことがわかってきました。この現象にはまだわからないことが多くありますが、今回は関連する最近の知見を紹介し、皆様とDiscussionさせていただければ幸いです。

 

第15回オンライン講演会

日時:2022年8月22日(月)15:00~17:10

①15:00~16:00 

演者:伊藤賢太郎(法政大学・専任講師)

「真正粘菌のさまざまな行動と数理の視点」

多くの生物にとって,自ら移動し栄養源を獲得しいかに効率良く目的の餌を見つけ出すか,ということは生存に直結する極めて重要な問題である。この目的を達成するため,生物は外界を感知するための視覚,触覚などのセンサー,情報を統合するための脳を発達させてきた。脳を有さないような原始的な生物であっても,その餌を獲得するためには効率的な振る舞いを示していると考えられる。私の研究する真正粘菌変形体は巨大なアメーバ状の生物であるが,迷路を解く,餌を結ぶ効率良い輸送ネットワークを作り出すなど,実に「効率的な」振る舞いを示すことを紹介する。そして,この生物の「局所的なダイナミクス」がどのように体全体の運動を実現し「探索という合目的な行動」につながるのかを解明するための研究のなかから,粘菌の探索行動についての実験,数理モデル(シミュレーション)を紹介する。

16:10~17:10 

演者:村上 久京都工芸繊維大学・助教)

「動きを予期し合うことで促進される群れ形成」

一糸乱れぬ緊密な連携を見せるムクドリやイワシの群れは、古くからそれ自体が一個の生命体であるかのように考えられてきました。また他の動物の群れ同様、人の歩行者の群れにおいても自律的な組織化を観察することができます。明確な全体性を示す群れは、個々の構成員の振る舞いを詳細にトラッキングできる現代にあって、生命現象における部分と全体の関係を調べるためのモデルシステムたり得ます。本発表では群れのメカニズムを問題としてきた発表者のミナミコメツキガニやアユの群れ研究を概要したあと、最近行っている歩行者集団研究を紹介します。まずカニや魚の群れ研究から、一見すると群れの全体性を壊すかと思われる個体運動の多様性が、むしろ群れ形成に積極的に寄与していることを示し、それを実現するメカニズムとして、個体間における運動の相互予期を取り入れた群れモデルを紹介します。そして歩行者の群れを対象とした実験により、相互予期の集団形成における機能的意義を明らかにします。本発表で示される相互予期の重要性は、集団的な人間行動、生物集団現象、群ロボットなど他の様々な自律的集団システムの基盤となる知見を与えるものと考えられます。


第16回オンライン講演会

日時:2022年920日(16:00~17:00 

山脇兆史(九州大学・講師)

「カマキリ捕獲行動における運動制御」

昆虫は空中を自在に飛び回り、捕食者の攻撃を素早く避けるなどの優れた運動能力をみせる。一方、昆虫の神経系は比較的少ない数の神経細胞で構成されているため、運動制御の神経機構を探るための良いモデル生物となりうる。昆虫の中でも特にカマキリは、餌位置に応じて前肢運動を調節して捕獲するという複雑な運動制御を行う。このときカマキリ神経系は、餌位置に関する視覚情報やカマキリ自身の姿勢を知らせる体性感覚情報から、前肢の多数の筋肉をそれぞれ適切なタイミングで収縮させる運動指令を生成する。本講演では、捕獲行動の高速度撮影による運動解析や、筋電位の測定、運動ニューロンの同定、胸部神経節の地図の作成など、カマキリの運動制御の仕組みの解明を目指して進めてきた研究を紹介する。

第17回オンライン講演会

日時:2022年10月18日(16:00~17:00 

佐藤成祥(東海大学・講師)

「イカ類の精子貯蔵過程の多様化から考える交尾後の性淘汰の意義」

交尾相手を獲得するための進化過程だと考えられてきた性淘汰も、今ではその範囲が受精の獲得までと広がっている。私が長年扱ってきた、雌による交尾後の配偶者選択は、受精に使用する精子を雌が選ぶというコンセプトである。魅力的な研究テーマではあるが、多くの場合、その事象は雌の体内で行われるため観察や実験が難しく、検証に成功した例は数少ない。なぜ、交尾の後に雄選びを行うのか。この行動の進化については、性の対立や捕食リスクなど、多くの原因が影響していると考えられてはいるものの、十分な検討に至るほどの研究例がなく、曖昧な部分が多い。頭足類は精子の貯蔵を体外で行う種も多く、種によっては雌による精子の選択過程の観察を直接行うことが可能である。この特徴を生かして、ヒメイカという小型の頭足類で雌による精子排除による父性操作の研究を行ってきた。本講演では、ヒメイカ科や、外洋性のアカイカ科における多様な精子貯蔵様式を紹介するとともに、頭足類における多様な精子貯蔵様式と雌による配偶者選択との関係について検討する。

第18回オンライン講演会

日時:2022年11月7日)14:30~16:40

①14:30~15:30 

演者:山本真也(京都大学・准教授)

「協力と集団性の進化:チンパンジー・ボノボ・ウマ・イヌでの比較認知科学的アプローチ」

進化の隣人であるチンパンジーとボノボ、ヒト社会の隣人とも言えるイヌとウマを主な対象に、認知研究とフィールドワークの両方を通して知性の進化の謎に取り組んでいます。究極の研究テーマは「人間とは何か」を知ること。人間性の進化:その過去だけでなく、未来にも目を向けています。とくに社会の中で発揮される知性である社会的知性に関心をもっており、主なキーワードは、共感・他者理解・協カ・文化・集団社会です。チンパンジーは、他者の欲求を理解していても、自発的に手助けすることはほとんどしません。「おせっかいをする動物」としてのヒトの特徴を、実証研究を基に明らかにしました。また、ボノボの食物分配を通して「おすそ分け」の起源を考察したり、ウマやイヌといった伴侶動物における社会性・コミュニケーション能力について研究しています。近年は対象動物の幅をさらに広げ、ヒトと動物のよりよい共生社会の実現に向けた取り組みもおこなっています。

②15:40~16:40 

演者:瀧本彩加(北海道大学・准教授

「ウマは他者とどううまく付き合う?:ウマのコミュニケーション能力を探る」

ウマは群れで暮らす動物であり、群れの仲間とうまく社会的絆を築ける個体ほど子どもを多く残すことができ、適応的である、ということが知られています。このように社会性の高いウマは家畜化されて以降、ヒトとともに長く暮らし、ときに協働し、ときに社会的絆も築いてきました。では、ウマ同士あるいはウマとヒトとの社会的絆はどのようなコミュニケーションに支えられてきたのでしょうか。本講演では、私が10年以上にわたって実施してきた行動・生理実験や野外行動観察から見えてきたウマのコミュニケーション能力についてお話します。また、最後に少し、最近実施しているウマの福祉向上や日本の在来馬である北海道和種馬の保全につなげたいと考えている研究に関するお話もできればと思っています。

第19回オンライン講演会

日時:2022年12月12日(16:00~17:00 

演者:伊澤栄一慶応義塾大学・教授)

「カラスの社会と身体」

 

私たちヒトの道具使用や複雑なコミュニケーションの進化・生態学的起源を探る研究には2つのアプローチがあります。1つはヒトと近縁の動物との比較です。ヒトと類似の脳や身体をもつ動物がヒトと「どこまで類似し、違いが生じた要因は何か」を探るアプローチです。もう1つは、ヒトとは進化的に離れながらも行動や生態(くらし)にヒトとの類似点をもつ動物種を対象にし「類似性が生じた要因は何か」を探るアプローチです。カラスは後者のアプローチにおいて興味深い動物です。哺乳類とは約3億年前に分岐した恐竜の子孫である鳥類は、ヒトとは大きく異なる身体や脳のつくりをしています。一方で、カラスは大型化した大脳、生涯的一夫一妻や流動社会など、ヒトと様々な共通点を独立に進化させています。本講演では飼育下のハシブトガラスを対象に,群れ内のネットワーク構造や,個体間の2者・3者相互作用と優劣・宥和関係について,心理・行動と生理(内分泌,自律神経,脳)メカニズムについて研究成果を紹介します。脊椎動物における社会性の進化を行動と身体(生理)の両面から考えてみたいと思います。

第20回オンライン講演会

日時:2023年1月17日(火)16:00~17:00 

演者:岸田 治北海道大学・教授

「柔軟に生きる~両生類幼生や魚の生存戦略を探る~」

いかにして多くの餌を獲り、どのようにして外敵から身を守るか。動物たちは、食う-食われる関係のもとで、生き残りをかけた攻防を繰り広げています。動物個体にとって餌の利用状況や被食リスクは、餌種や捕食者種の密度はもちろんのこと、個体自身の状態にも依存して決まるため、個体はその時々の条件や自身の状態に合わせて臨機応変に対応することが生き残りの鍵になるはずです。さらに言えば、動物たちは現在の状況だけでなく、将来の状況にも合わせた生き方をするかもしれません。本講演では、エゾサンショウウオ幼生とエゾアカガエル幼生の食う-食われる関係に応じた形態の変化や、一部の個体が海で回遊するサケ科魚類の成長様式など、演者らがこれまで明らかにしてきた水棲動物の柔軟かつドラマチックな生き様を紹介します。

第21回オンライン講演会

日時:20232月14日(火)16:00~17:00 

演者:松本卓也信州大学・助教)

「排泄行動の自然誌を編む:野生チンパンジーの「排泄エチケット」の解析」

 生物学用語における排泄(排出)とは、物質代謝に伴って生じた不要物を体外もしくは代謝系外に排除する現象を指す。本発表では、その中でも特に排便と排尿を合わせて排泄と呼ぶ。現代日本社会のヒトは、特定の場所(便所、携帯便器など)で排泄することが求められる。そして、赤ちゃんがおしめの中ではなく特定の場所で排泄するようになる過程はトイレトレーニングと呼ばれ、ヒトの発達上の重要性が指摘されている。

 一方、ヒト以外の霊長類の排泄は、時と場所にさほど気を遣わない、あるいはしたい時にする、野糞である、としばしば言及される。しかし、排泄物がヒト同様に忌避の対象となる霊長類種においては、排泄物が自分あるいは他個体に付着しないための、ゆるやかな規則が存在するかもしれない。上記の予想に基づいて、発表者は野生チンパンジーの排泄行動を観察・記録した。

 観察対象はタンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーである。発表者は2019年9月から2020年3月の期間に断続的に調査を行い、チンパンジーが排泄した際の他個体とのやりとり、前後の行動(文脈)、および場所(倒木の上、岩の上など)を記録した(図は移動の途中に倒木の上で排尿するオトナメス)。特筆すべき点として、チンパンジーは地上と樹上の両方を利用する半樹上性の生物である。そのため、排泄個体と他個体の空間的配置も併せて記録した。本発表では、これらの分析結果を基に、チンパンジーの排泄の特徴とその発達過程を描き出し、ヒトの排泄との相違について議論する。


第22回オンライン講演会

日時:2023年3月13日(月)16:00~17:00 

演者:阿見彌典子北里大学・講師

「夏眠~(冷水性)魚類が獲得したユニークな生存戦略」

休眠とは,生存が厳しい環境となる時期に,活動を一時的に停止して乗り切る生体防御機構です.クマやリスの冬眠は,冬季の低温を利用した活動抑制機構であると考えられています.一方,高温期に引き起こされる休眠もあります.それが「夏眠」です.夏眠では体温の低下による消費エネルギーの節約を期待できないため,冬眠とは異なる調節機構により制御されていると予想されます.そこで,沿岸に生息する海産魚のイカナゴに着目しました.イカナゴは初夏から晩冬にかけての約半年間,餌も食べず遊泳もせず砂の中にずっと潜り続けて夏眠します.また,この期間に砂中で成熟を開始し,夏眠が終了すると繁殖します.イカナゴの飼育実験により明らかとなってきた夏眠期を通して変化するイカナゴの行動特性や,夏眠調節に関与する内分泌因子をご紹介します.

第23回オンライン講演会

日時:2023年4月24日(月)16:00~17:00 

演者:松田一希(京都大学野生動物研究センター・教授

「テングザル:性選択と自然選択の相互作用による不思議な進化」

多くの動物の性的二型は、配偶者を巡る競争の結果として生じる繁殖率の差である性選択により説明ができるといわれています。霊⻑類においても、性的二型が顕著な種は多くいます。しかし、霊長類は寿命の長い動物であるため、このような性的二型がどのように進化してきたのかを実証的に検証した研究例はほとんどありません。テングザルは、東南アジアのボルネオ島にすんでいるサルです。名前のとおり天狗のようなオスの長い鼻と、大きなお腹が目立つ奇妙なサルです。テングザルの雄の鼻も、今まで性選択の産物だと逸話的に語られてきましたが、その詳細は不明でした。本講演では特に、テングザルのオスの特殊化した形質間(体重、犬歯、鼻サイズなど)の関係性(相関やトレードオフ)から見えてきた、複雑に進化した本種の鼻についてお話しします。

実際の講演の様子:

第24回オンライン講演会

日時:2023年5月16日(火)16:00~17:00 

演者:山守瑠奈(京都大学瀬戸臨海実験所・助教)

ウニをとりまく共生系

皆さんは、ウニが海でどのような生活をしているイメージを持っていますか? 恐らく多くの方が、高級寿司ネタ、或いは時に磯焼けを引き起こす旺盛な藻類食者という印象を抱いているのではないでしょうか。実は一部のウニたちは、藻類を盛んに食べる鋭い歯を使って岩に巣穴を掘り、その中で生活します。そして、その巣穴の中や鋭い棘の隙間には、様々な生物が寄生・共生することが知られています。本発表では、そんなウニを取り巻く寄生・共生系についてご紹介し、浅海の海洋生態系の中でウニがどのような役割を担っているかを考えていきたいと思います。

第25回オンライン講演会

日時:2023年6月6日(火)16:00~17:00 

演者:高橋宏司(京都大学・助教)

サカナの認知・心理のはなし ー環境に対する認知能力・心理と社会的認知についてー

サカナは食用や鑑賞、レジャーなどヒト社会ととてもつながりのある生き物です。一方で、下等な脊椎動物とみなされがちな彼らは、「賢さ」や「心(のようなもの)」をもたないとお考えの方が多いかと思います。今回は、私がこれまでに行ってきた研究から、魚が生活環境に適した認知能力や心理を備える話と、魚の社会的認知についての話を紹介します。この機会を通じて、みなさんがサカナの「賢さ」について考えるきっかけとなることを期待しています。

第26回オンライン講演会

日時:2023年7月11日(火)16:00~17:00 

演者:森山 徹(信州大学繊維学部・准教授)

「オカダンゴムシの転向反応に潜む意思決定の可能性」

ターンテーブル式多重T字迷路装置に投入されたダンゴムシは、交差点において高い確率で事前の転向方向の逆方向に転向する。また、交差点間の距離を長くするとその確率は低くなり、16cmで約50%になることが知られている。ダンゴムシによる交差点での転向方向の決定は、事前の転向方向の逆方向に曲がる確率をpとするベルヌーイ試行であり、P(D)は交差点間距離d=16cmで50%に収束する減少関数であると考えられている。一方、私たちは、オカダンゴムシ23匹を用いたd=32cmの条件において、pは約30%と50%より有意に低いこと、また、その移動平均は、被験体によっては大きく変動し、高い場合には約80%に達するという結果を得た。これらの結果は、ダンゴムは交差点での転向方向を、事前のそれと同じにするか逆にするか、自律的に決定している可能性を示唆する。本講演会では、実験の詳細を発表し、ダンゴムシの転向反応に潜む意思決定の可能性についてみなさんと議論したい。

第27回オンライン講演会

日時:2023年88日(火)16:00~17:00 

演者:稲田喜信東海大学工学部・教授)

生物の群運動のバイオメカニクス

鳥や魚などの群れを作る生物を対象として、個体間の相互作用の特性や群ができるメカニズムを解説し、その機構を応用した飛翔体の群制御システムを紹介します。

第28回オンライン講演会

日時:2023年919日(火)16:00~17:00 

演者:齋藤美保(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・助教)

『置き去り型』のキリンの仔育て

キリンは、本来の生息地であるアフリカから遠く離れた日本の多くの動物園でも見ることができます。しかし日本の飼育環境ではスペースや繁殖の問題から、特に複数頭の母仔ペアを飼育できる園は多くはありません。一方の野生環境では、対捕食者戦略がその役割の一つと言われる、複数の母仔ペアからなる仔育て集団を形成することが知られています。ただし、母親たちは常に仔たちのそばにいるわけではなく、数時間ごとに授乳のために仔のもとに戻ってくる「置き去り型(Hider type)」の仔育てを行います。本講演ではそのキリンの仔育てに着目し、個体間関係やもらい乳行動について、タンザニアで行ったフィールドワークのデータをもとにご紹介します。講演の最後には、コロナ禍でタンザニアに渡航できない期間に行った、飼育環境におけるキリンの社会関係や夜間行動について少しお話しできればと思います。

第29回オンライン講演会

日時:2023年10月10日(火)16:00~17:00 

演者:池田 譲琉球大学理学部・教授

貝殻を捨て知に生きる烏賊と蛸

イカ(烏賊)とタコ(蛸)は、頭足類の主要なメンバーで世界中の海に生息しています。そのため人間とは食を通じて古来より関わりがあり、日本では今も主要な水産物です。その身近さからか、頭足類はしばしば滑稽なキャラクターとして描かれます。一方、彼らが私たちと同じようなレンズ眼や無脊椎動物では例外的な巨大脳を備え、知的でミステリアスな振る舞いをすることは意外と知られていません。元を辿れば貝の親戚にあたる頭足類がなぜこのように行動するのか?この問いを私は、人工環境に弱い彼らを実験室で間近に眺めることで探っています。社会性とコミュニケーション、そして知覚という事柄を中心に、「海の霊長類」と呼称される頭足類の一面について紹介します。

30回オンライン講演会

日時:2023年117日(火)16:00~17:00 

演者:﨑山朋子創価大学理工学部准教授

時空間認識の難しさを昆虫のナビゲーションから探る

アリは単独あるいは集団で採餌を行います. 集団採餌ではフェロモンを用いることによって, いわゆる集団知能を実現していると言われています. しかし, フェロモンに対する個体の反応は可変的であることが示唆されつつあります. ここでは, 他個体との作用によるフェロモン道上でのアリの進路決定に関する研究についてお話しすることで, アリにとってフェロモンが過去の集約的情報以上の使われ方をする可能性について議論します. 2つ目のお話として, アリの単独採餌における視覚的ナビゲーションに関する実験を紹介します. アリの種類によっては, 風景をスナップショット写真として記憶しナビゲーションに役立てることが知られています. しかし, バラバラの平面情報をどのように繋げているのでしょうか. アリ自身にとって, 世界をどのように認識し, 探索・採餌に役立てているのか. 最近行っている実験をいくつか紹介します. 

第31回オンライン講演会

日時:2023年1211日(16:00~17:00 

演者:木下充代総合研究大学院大学統合進化科学研究センター・准教授)

アゲハチョウが見ている色世界 ―行動から脳の仕組みを探る―

アゲハチョウは、ミツバチと同じように花を訪れて蜜を吸う訪花性昆虫の一種で、その訪花行動は視覚に強く依存しています。アゲハチョウの視覚能力のうち特に“色覚”は、人と同様“色の恒常性”や“色対比現象”を含むだけでなく、その弁別能はヒト以上の鋭さを持っています。色覚とは、光の波長情報を眼にある視細胞が受容し、脳内の神経情報処理の過程で再構築された主観的感覚です。アゲハチョウは複眼に6種類もの異なる波長に感度を持つ光受容細胞を持ちますが、彼らの色覚はそのうち4種類(紫外・青・緑・赤)を基盤とする4原色であると考えています。また最近脳の高次領域では、様々な波長特性を持つ細胞群が見つかってきました。その特徴は、サルの大脳で見つかっている色を表現する神経とよく似ています。本講演では、アゲハチョウの色覚を対象にした神経行動学的研究を中心に、色と香りの統合、生態学的研究など最近の研究についても紹介します。

第32回オンライン講演会

日時:2024年1月9日(16:00~17:00 

演者:太田菜央Max Planck Institute for Biological Intelligence博士研究員

小鳥はなぜ歌い踊るのか:マルチモーダルコミュニケーションの観点から

誰かとコミュニケーションをとる時、メールだけのやりとりよりも、会って話した方が早く、円滑に物事が進んだといった経験はないでしょうか。私たちヒトは普段、発声やジェスチャーといった複数の行動要素を組み合わせて、視聴覚など複数の感覚種(モダリティ)を介したコミュニケーションを行っています。このようなマルチモーダルコミュニケーションは幅広い動物で観察されますが、従来の研究は単一感覚種の信号(鳥の歌など)に着目したものが多く、異なる行動や感覚種の組み合わせがコミュニケーションにおいてどのような役割を果たすのかは不明な点が多いです。

私の研究対象種であるセイキチョウ(青輝鳥)は、歌とダンスを組み合わせた複雑な求愛行動を雌雄で行います。本講演では、私がこれまでにドイツとタンザニアで行ってきた、セイキチョウの求愛におけるマルチモーダル信号(視覚、音、振動)の産出メカニズムと機能にまつわる研究を紹介します。

第33回オンライン講演会

日時:2024年26日(火)16:00~17:00 

演者:松村健太郎岡山大学学術研究院環境生命科学学域研究助教

コクヌストモドキの移動運動活性が繁殖や捕食回避に及ぼす影響

動物の移動運動は、餌や交尾相手の探索および天敵からの逃避などを通して、個体の適応度に大きな影響を及ぼすため重要である。その一方で、集団内にはしばしば移動運動活性の個体差が見られることから、移動運動活性の高低にはそれぞれ利益とコストがあることを予想させる。講演者は、昆虫のコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)を対象として、移動運動活性に対する人為選抜を行い、遺伝的に移動運動活性が高い(H)系統と低い(L)系統をそれぞれ確立させた。この選抜系統を用いて、捕食危険や雌雄の繁殖形質を調査した。様々な形質を通してH系統とL系統の間にトレードオフが見られた場合、これが移動運動活性の個体差が集団内で維持される一つの原因である可能性が考えられる。本講演では、これらの実験結果を紹介し、移動運動活性の高低がその他の形質に及ぼす影響について議論したい。また、今後の研究内容についてもご紹介したいと考えている。

第34回オンライン講演会

日時:2024年35日(火)16:00~17:00 

演者:沓掛展之総合研究大学院大学統合進化科学研究センター教授

協同繁殖社会の多様性と進化

親以外の個体が子の世話をする協同繁殖(cooperative breeding)は、哺乳類、鳥類、魚類などの多様な分類群で確認されている。自らは繁殖をせず子の世話に従事するヘルパーの存在は、動物行動学や進化生物学において注目を集めてきた。発表者は協同繁殖する哺乳類と魚類を対象に個体間の社会交渉を分析し、社会の骨格となる社会関係の理解に努めてきた。本発表の前半では、それらの研究を概説し、協同繁殖社会の多様性を紹介したい。後半では、協同繁殖の研究から派生した一般的な問題として、繁殖価(reproductive value)が社会進化に果たす役割、進化的獲得(acquisition)と維持(maintenance)の違いについて紹介する。

第35回オンライン講演会

日時:2024年419日(16:00~17:00 

演者:福富又三郎北海道大学理学部助教

弱電気魚における随伴発射の進化と可塑性

「随伴発射」は運動とともに脳内で生成される「予想」信号であり、主に感覚中枢に作用して、自分の行動によって生じた刺激と外界の刺激を区別する。電気パルスを使ってコミュニケーションや電気定位を行うモルミルス科弱電気魚を用いた研究は、その行動出力の単純さから、随伴発射の神経メカニズムの理解に重要な貢献を果たしてきた。講演者らは、電気パルス波形の種間多様性とホルモンによる波形の雄化を利用し、随伴発射の進化と可塑性に関する研究を行ってきた。興味深いことに、どちらのケースにおいても、随伴発射のタイミングが自分の発した電気パルスを適時打ち消すように調節されていた。つまり、進化や可塑性によって生じる電気パルスの違いは、末梢の発電器官だけでなく、その再帰性信号を予想する随伴発射メカニズムの協調的な変化を伴うことを示唆している。本講演ではこれらの研究成果を紹介するとともに、今後の展望についても触れてみたい。

その他

講演会は基礎生物学研究所共同利用研究の支援を受けて開催しています。

採択課題名:「ミクロ研究とマクロ研究を繋ぐ双方向的な基礎生物学研究の基盤形成:動物行動学を軸とするアプローチ」

2020年度採択番号:20-801

2021年度採択番号:21-701

2022年度採択番号:22NIBB801

2023年度採択番号:23NIBB801