塵劫記

袮すミさん(ねずみ算)の事

江戸初期,和算書,吉田光由,塵劫記,ねずみ算,みを,古文書

江戸時代の算者(数学者)である吉田光由が肥後初代藩主細川忠利の招きに応じて来熊していた事実が,永青文庫の調査で判明したことを紹介した.吉田光由の著書である塵劫記(じんこうき)は,身分,年齢,性別,地域を超えベストセラーになり,偽物が出るほどであった.そのような事情もあり,数多くの現物が残されている.国立国会図書館の和算デジタルコレクションで「塵劫記」を検索すると200件以上の著書がヒットする.江戸初期から昭和初期に至る書籍が閲覧可能である.何度も改版を重ねているので,微妙に異なる個所が存在する.寛永11年(1634)版では,濁点,句読点などが省略されているが,元禄2年(1689)版では付加されているので,分かりにくい時は,複数の版の記事を比べてみた方がよい.最近はAIを駆使した解読ソフトが提供されているので,取り敢えず使用してみるのも一手である.スマホの写真撮影機能を利用したソフト「み」が便利である.バックグラウンドが経年変化で変色したものでも解析可能ということであるが,その後のことを考えてなるべく背景色を白色に近い色にすることを試みてみた.Macの場合もっとも簡単な方法は,プレビューで読み込んだ後,ツールの中に色補正があるので,彩度を最低値にするとで褐色の部分は消えてモノトーンになる.筆の微妙な流れが消失しない程度に,輝度やハイライトさらにはシャープネスを少し変化させるとかなり見やすくなる.

前半部分

後半部分

プレビューの色調整で彩度を最低にした例

前半部分(背景処理)

後半部分(背景処理)

GIMP「塗りつぶしツール」を使って部分的に処理した例(前半部分)

前半部分

左の図は「みを」に読ませるため整形したものである.

AIアプリ「みを」の解析結果

ねすみさんの事

▲正月にねすみちゝはゝいてゝ子を(十二)疋うむ,おや共に十四疋になる,此ねすみ二月には子も又子を(十二)疋つゝうむ,ゆへにおや共に九十八ひきになる.かくの(こと)くに月に一度つゝおやも子も又まこもひこも月(々)に十二ひきつゝうむ時に(十二)月には何程に成そ.年中之分 合 御鼻(弐百七)十六(億)(ハ千)二百(五十)七万四(千)四百(弐)疋也

「祢」→「ね」

後半部分

生まれた子供の性別は書かれていないが,雄雌同数として計算すると,

答は,27, 682, 574, 402 = 2 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7 × 7になる.後半では,演算法,このネズミが米を1日に半合づつ食べた場合の石高,ネズミが尻尾を噛んで一列に繋がった場合の長さなどを計算している.

AIアプリ「みを」の解析結果

法にねすみ弐疋に七を十二たひかくれは,右之ねすみのたかとしれ申なり

▲ねすみ(弐)百七十六(億)八(千)百五十七万四千四百(零)弐也有此ねすみ一日に米半(合)つゝくい申さん用にして,一日には

     米手三百八十四万千二百八十七(石)弐斗一合也

▲右之ねすみ尾にくいつき尾にくい付して海をわたりて入唐するといふ時,なにほとつゝくか(ぞ)といふ時,七方八(千)六百七十七里十二町八(寸)といふ.但一里といふは三十六町にして一町は[六十]間にして一間は六尺にしてねすみ長四(寸)にしてなり


わが国では,曽祖父の代(明治の中期)までは,我々が古文書として四苦八苦している手書き文書をすらすら読んでいたらしい.AIを利用したアプリ「みを」の場合,文字の形を予め学習させたデータベースと比較して候補を絞っていると思われるが,前後の文意を汲み取って崩し字を特定するようになるには,別の学習が必要であり,それが可能になるにはそれなりの時間が必要と思われる.

追記

「ねずみ算」だけではなく,塵劫記の他の話題についてもスマホアプリ「みを」を使って読んだ記事があることが分かった.同じことをやっても撮影した画像の質のためか微妙に異なる判読個所がみうけられる.

くずし字認識アプリ『みを』で江戸時代の数学書『塵劫記』を読む