媚毒の宴
媚毒の宴
ハンターが密林にエスピナスの素材を取りに行くも不幸に見舞われて酷い目に遭う話。
濁点・♡喘ぎ、擬音注意。軽めの嘔吐・おもらし(小)描写あり。
「狩人のシビれる探索記 vsトビカガチ」と繋がっています。
青い空。白い砂。風が吹けば鼻をくすぐる、潮の香。燦々と降り注ぐ太陽に加え、やや湿度の高い空気はじっとりと肌に纏いつくようではあるが、海と空、生い茂る緑の美しさを目にすれば、さしも気にはならない。
大自然と生命ひしめく狩り場、密林。
この日の昼間、ある一人の男が観測拠点エルガドからそこへやって来た。スラリとした長身。背には使い込まれた軽弩を携え、身軽さを重視した装備に実を包んだその出で立ちから、遠距離戦に長けた熟練のハンターであることが一目でわかる。自身をここまで送り届けて去っていった船に一礼し、さっそく地図を広げるその目は涼しげだ。
「さて、と」
地図を目と指で辿りつつ軽弩のハンターの脳裏に浮かんでいるのは、数日前の、仲間との何気ない会話だった。仲間というのは、年若い同業者だ。カムラの里から招聘された腕利きの狩人で、『猛き炎』と呼ばれている青年である。その『猛き炎』と、オトモ防具について議論した時のこと。軽弩を担ぎ機動力を重視するハンターは、普段から比較的軽い鎧を身に着けている。ゆえに、オトモにも軽さを重視した防具を装備をさせることが多いのだが、才気と精力に溢れる『猛き炎』は違った。
「ええと……ハンターならば、可愛さよりもかっこよさ、だったかな」
正しくは、「軽さや通気性より堅さと強さ」なのだが、数日前の話なので脳内でやや刷り変わってしまっている。
それはともかく、可愛いよりも硬派でかっこいい装備となった時、カタログの中で一際目を惹いたオトモ装備があった。黒革のライダースーツに、クールなサングラス。そして、随所にあしらわれた他を寄せ付けない朱い棘の意匠。どの角度から見ても硬派としか言いようがない。この装備ならば、『猛き炎』を唸らせることができよう。年若い後輩と張り合ってどうする、と思わないこともなかったハンターだが、やはり同業の先達としては言われっぱなしではいられない。ゆえに、さっそくこの密林まで件のオトモ装備の素材───棘竜エスピナスのそれを調達しにきたのである。
まずはフクズクを飛ばして偵察に向かわせ、ハンター自身も地図を睨みつつ探索を開始した。今回は、討伐依頼や捕獲依頼を引き受けて来ているわけではない。近くにエスピナスがいない可能性もある。その場合どうするのかというと……まあ、出直せばいいか、くらいにしかハンターは思っていない。わりと行き当たりばったりである。
それはともかく、何度か密林に狩猟に来たことがあるハンターは、飛竜種が巣を作りやすいポイントは把握していた。地図に記したポイントを順に回り、時折飛びかかってくる小型モンスターから素材を頂戴しつつターゲットを探す。フクズクの報告ももらいつつ、狩り場の中央にそびえる山の中に広がる洞窟を一つ一つ見て回っていくと、草木を敷き詰めたような巣の上で身体を丸めている巨影を発見した。ハンターは、あ、と小さく声を上げ、相手を刺激しないよう洞窟の入口からしゃがんで様子を見る。背中側から見ているせいで頭部を窺うことはできないが、鮮やかな緑色の体表に、無数の赤い棘───間違いなくエスピナスだった。
ハンターは周囲に鋭く視線を走らせ、気配を探る。近場に、このエスピナス以外の大型モンスターはいないようだった。この状況ならば、一騎討ちに集中力できそうだ。ハンターはさっそく軽弩に氷結弾を装填し、エスピナスの頭部に銃口を向けた。涼しげな瞳には一切の躊躇はなく、撃ち込む。一発。二発。
「……ん?」
発射音。ぶつかって弾けるような音。岩に反響して、のち、沈黙。
エスピナスの甲殻には傷一つついておらず、起きも動きもしない。もしかして、弱点の属性を誤ったのだろうか。ハンターは懐から狩人御用達のノートを取り出し、エスピナスの頁を辿る。 誤ってはいない。だが、やはり並みの攻撃では怯みもしないらしい。
エスピナスは、ハンターや他のモンスターに襲われても多少の事では動じない。それどころか、殴られようが斬られようが無視して眠り続けるような、図太いモンスターである。いかに図太かろうと、弱点属性の弾を頭にぶち込まれれば怯むか怒るかするのが普通なのだが、エスピナスがそうならないのはその高い防御力ゆえだ。身体を覆う甲殻が並外れて硬く、多少の攻撃を受けても痛くも痒くもないため、敵意を持つ者を積極的に追い払うよりは、相手が諦めて立ち去るのを待つ戦法を取るのである。
(厄介と言えば厄介、だが……)
ハンターは、討伐依頼や捕獲依頼を受けて来ているのではない。言ってしまえば、探索のついでにたまたまエスピナスを発見できただけだ。しかし一応、ハンターとして来ていることもあり、発見したモンスターを前にしてすごすごと帰るのも、なんだかちょっと。そういうわけで再びエスピナスの頭めがけて氷結弾を発射するが、やはり起きず……今度は少し動いたが、鬱陶しそうに首を振ってむにゃむにゃとするだけだ。
ううむ、とハンターは唸る。棘だらけの姿は恐ろしいが、のんびり眠っている姿は少し可愛らしく見えたりもして、なんだか素材を調達するためだけに命を奪うのが忍びなく思えてきてしまう。繰り返すが、今回は依頼を受けて来ているわけではない。素材さえ集まればそれでいいのだ。このまま放っておいてはいつかエルガドに討伐依頼が貼り出されるのだろうが、海を超えてまで王域に侵入することは考えにくいし、何よりコイツはここで眠っているだけなのである。人を襲ったわけでもない。
ハンターは、構えていた軽弩を背負い直した。エスピナスの周囲を観察し、落ちている鱗の欠片や棘を集め始める。オトモ用の端材にするのなら、このくらいの大きさや量でもなんとかなる。ここである程度のものを集めたら、狩り場を探索がてらぐるりと周り、エスピナスが他の場所で何かを落としていないか見てからエルガドに帰還すればいい。そうして、草を掻き分けたり、岩場の隙間を覗き込んだりしているうち、エスピナスの頭の近くで何かがキラリと光ったことに気づく。ハンターは、むにゃむにゃしているエスピナスに、失礼するよ、と一声かけてその場所を覗き込んだ。
「おお、これは……!」
落ちていたのは、天鱗とまではいかないものの、質の良さそうな大きな鱗だった。鱗はハンターから見てエスピナスの頭の向こう側にある。エスピナスの棘に触れてしまわないよう、ハンターは地面に両膝をつき、地を這うようにして手を伸ばした。その時、背後でグニ、と何か弾力のあるものを突いたような感触。思わず振り向くと、
「ボムゲコ」
「え」
成人男性の拳以上の大きさはあろう、カエルが鎮座していた。軽弩の先端で突かれ、むにゅりと歪んだ背中は燃えるような赤色だ。
「わあっ……⁉︎ す、すまない! わざとじゃあないんだ!」
ボムガスガエル。ほんの少しの刺激でも爆発性のガスを噴出し、大型のモンスターすら転倒させるほどの爆発を起こす環境生物。ハンターも何度も世話になっている有用な生物だが、時と場合を誤ればこれほど恐ろしいものはない。特に今、この場で爆発などしようものなら、エスピナスの眠りを確実に妨げてしまうだろう。
ハンターは、ボムガスガエルを刺激しないよう、慎重に軽弩を持ち上げた。ボムガスガエルはゲコ、と一つ鳴いて、ハンターをじいっと見る。ガスの噴出は確認できない。よかった、爆発はしないらし───
「ゲコブシュ~~~」
「うわああああ」
そんなことはなかった。彼らは自然の摂理と本能に従って生きる野生生物。刺激を受ければボムガスガエルは爆発する。それは抗うことのできない、自然の摂理なのであった。案の定プクッと膨らんだボムガスガエルは大量の爆発性ガスを噴出し、ハンターが止める間も投げ飛ばす間も蹴飛ばす間も無く、洞窟内に轟音を響かせ大爆発を起こした。
咄嗟に跳び退いて難を逃れたハンターだったが、のんびり寝こけていたエスピナスはそうもいかない。ハンターが砂ぼこりで咳き込みながらも爆心地付近に目をやると、ボムガスガエルの爆発の衝撃をまともに頭に食らったエスピナスが目を白黒させてもがいている。寝込みにあんなことをされては当然だ。やってしまった……と頭を抱えかけるハンターだが、そんなことをしている場合ではない。この辺りに落ちている素材は粗方拾い終えた。エスピナスに攻撃される前にここから離れなければ。ハンターは慌てて洞窟の出口に向けて駆け出したが、
「っ、うわ……!」
一歩遅かった。あと数歩で洞窟の外、というところで、目の前に火球が着弾したのである。
「げほげほっ、くっ、これは……!」
立ち上る紫黒色の煙は、ほんの少し吸い込んだだけでも喉がヒリつく。禁忌の邪毒とも称されるエスピナスの毒は、非常に強力だ。煙を吸い込んでいるだけでも、あっという間に四肢の自由を奪われてしまう。これでは強行突破というわけにもいかなかった。どこか他の出口を。あまり得意ではないが、翔蟲の力を借りればどうにか───なんとか突破口を探そうとするハンターの耳を、ズシリ、と巨体が土を踏むような音が突いた。
「……っ、」
恐る恐る振り返れば、エスピナスがハンターを視界に捉えていた。ボムガスガエルの爆発は相当堪えたようだが、そこは大型モンスター、気絶すらしていない。口からは紫黒色の煙を吐き、翼膜や首、脚に至るまで、深紅に燃え盛るかのように血管が浮かんでいる。
モンスターの生態にさほど詳しい者でなくとも、一目で解る。このエスピナス、どの角度から見ても激怒していた。
「い、いや、その……すまない、悪かった。これは事故だ、攻撃をするつもりは無」
ハンターの記憶はここで一度途絶えている。
◆
最初に取り戻したのは、土や小石の欠片が頬に当たる不快感だった。眠っていた、にしては妙な心地の悪さに、うう、と呻いて目を開ける。身体のあちこちが痛んでいたが、幸い四肢と胴は繋がっているらしい。手を握ったり、脚をもそりと動かしたりした限り、死にかけているわけでもなさそうだった。改めて掌を見ると、砂だらけの擦り傷だらけ。何故こんなにもボロボロになっているのだろう。順に思い返す。ここは、エルガド近くの狩り場、密林。目的は、そう、エスピナスの素材。そして悪夢のボムゲコ───
ああ、と溜め息混じりの声が出た。うっかり突いたボムガスガエルが爆発して、眠っていたエスピナスを叩き起こしてしまったのだ。その後逃げようとした気がするが、僕の記憶は猛然と突っ込んできたエスピナスの顔面が視界いっぱいに映し出されたところで途絶えている。恐らく、突進を食らって気絶してしまったのだろう。得物のライトボウガンが見当たらないが、突進された拍子にどこかに弾き飛ばされたか。長年世話になっている相棒だ。探さなければ。うつ伏せに倒れていた身体を仰向けに返し、起き上がる。
「……えっ、」
勢いをつけて上体を起こしたちょうど鼻先に、何かが突きつけられている。顔がぶつかりそうになって、思わず少し仰け反った。目との距離が近すぎてそれが何なのかはわからないのだが、妙に威圧感があり、地面に座ったまま後ずさってしまう。そこでようやく視界に入る、棘だらけの逞しい脚と、同じく棘だらけの立派な尾。僕が倒れていたのは、エスピナスの身体の下だったのだ。意識を取り戻して安堵したのも束の間、思ったよりもずっと不味い状況なのでは。サッと視線を背後へやると、首を曲げて器用にこちらを覗き込んでいるエスピナスと目が合った。瞬間、殺られると思った僕は、エスピナス身体の下から脱出しようとした。だが、エスピナスは翼爪を地面に突き立ててそれを妨害してきた。隙間から、と手を伸ばしたところで、翼の棘から染み出た紫色の毒液が目に入り、頬が引きつる。こんな猛毒で囲われてしまえば、逃げ場などない。この後は、あの麻痺毒ブレスでこんがり焼かれるか、毒を撃ち込まれて内臓から溶かされるか、いっそ一思いに食い殺されるか───いずれにせよ、結論は、死。密林の王者の眠りを妨げた罪は、軽くない。こんなことならば、素直に『猛き炎』に同行を願い出ておくべきだった。
「……?」
だが、想像していたようなことは起こらない。念のためにもう一度振り向くが、エスピナスはやはりこちらを見ている。何故? と前へ視線を戻せば、再び鼻先に突きつけられている、何か。落ち着いてきて初めてわかったが、この何か、エスピナスの脚の間のスリットのような部分から突き出ている。ということは、これはエスピナスの性器だろう。槍のような立派な逸物を見るに、この個体は雄のようだ。だが、必要な時以外はスリットの内部に収納されているのであろうそれが、何故今こちらに向けて突き出されているのか。解らないが、とりあえず黙って観察してみる。その棘だらけの甲殻と同じく、性器も棘だらけなのかと思いきや、そういうわけではないらしい。しかし、その代わりというわけではないだろうが、太い血管が浮かぶ逞しく太い砲身には、螺旋状に大きな突起が並んでいる。先端はしっかりと山を作り、雁首の段差は目を疑うレベルの大きさだ。これが大型飛竜の性器か。余りの立派さに感心していると、再三鼻先にそれを突きつけられた。今度は近づけるだけでなく、先端を頬に押しつけられる。
「うぐっ……」
生臭いような獣臭いような、とかく独特の臭いが鼻をつき、思わず顔を背ける。が、それを追いかけるようにしてまた頬に押しつけられる。一体何故。捕らえておいて食らいも殺しもせず、ただただ性器を押しつけてくるとは、もしや……
「ほ、奉仕を、しろというのか……?」
そんな、まさか。僕は雄だ。それ以前に、同族ですらない。しかしこの動きの意図するところは、まさに。冗談ではないと、顔を背けたり身体を移動させて離れたりしていたが、不意にエスピナスが唸りを上げた。じわり、逞しい脚に血管が浮かぶ。その直後、エスピナスの尾がドスンと地を打った。驚いてそちらを見ると、尾が紫黒色の毒液を引いて持ち上がるところで。喉が引きつる。尾で叩かれただけでも「痛い」では済まないだろうが、あの濃度の毒を打ち込まれようものなら、内臓から骨からドロドロに溶かされ、全身の穴という穴から血を噴き出して死ぬことになる。
「死にたくなければ、奉仕をしろということか……?」
再三頬に性器を押しつけられながら、ポツリと洩らす。自分で言っておいてなんだが、あまりのおぞましさに全身が総毛立った。だが、この状況で勝ち目はというと。ハンターは勇者ではない。善意でモンスターを狩るのではなく、生きる術、生業でそうしている。無理な依頼だと思えば依頼人がどんなに困っていようが断るし、無茶をして死ぬくらいなら無様でも逃げて生き延びることを選ぶ。ハンターとはそういうものだと、僕はそう思っている。このエスピナスは、もしやそれを解して? いや、そんなはずはないだろう。だが少なくとも、僕が「この場での死」を恐れていることには、きっと感づいている。その上で、見逃してやるが落とし前はつけろ、と。
振り返ると、やはりこちらを覗いているエスピナスの姿。威嚇するように牙を剥くと、濃い紫黒色の煙が零れ出した。行くも地獄、帰るも地獄。だが、生きてさえいれば、どうとでも。
これは決して、エスピナスに恐れをなして言いなりになったのではない。そうだと、思いたい。
意を決して、突き出された性器の先端に舌を伸ばした。舌の先が触れると、苦いようなしょっぱいような味を感じると共に、なんとも言えない生暖かさと生臭さが襲ってくる。吐きそうになりながらもチロチロと、当たり前だが拙く奉仕していると、エスピナスは居心地悪そうに身を捩った。
「ぅぷ、おえっ……そ、そうは言ってもこれ以上は……」
えづきながらも首を横に振る。すると、またも地を打ち据える尾。
「……! く、くそ……ッ」
僕はヤケになって、もう一度エスピナスの性器に舌を這わせた。巨大すぎて、口で咥えるのはとても無理だ。それでも先端を舐めて吸い、手も使って突起だらけの裏筋の辺りも擦り、必死に奉仕する。臭い。気持ちが悪い。なんて情けない。悔しくて叫び出したいが、これは生き残るためなのだと、自分で自分に言い聞かせた。エスピナスの気が変わらないうちに満足させることができれば、どうにか、どうにか───
「……ゔっぶあッ⁉︎」
どぼ、と何かが顔面にかかった。生暖かく、ねばねばとしている。そして、性器以上の生臭さ。エスピナスが射精を果たしたのだ。
「ごふっ、げほげほっ、げほっ!」
体格に見合った量といえばそうだが、一瞬溺死するかと思った。不意打ちだったせいもあり、少し飲んでしまったかもしれない。
「ううぅ、臭い……」
咳き込んで気道を確保してから、とりあえず顔を拭う。だが、拭う手や腕それ自体が精液まみれでは意味がない。鎧ではなく、ガンナーらしい軽装だったこともあり、装備の中にも徐々に染みてきてしまう。ベタベタとして、不快なことこの上ない。だが、エスピナスの滾りが一度落ち着いた今は好機だ。隙を見て、とにかく安全な場所へ。僕は手を地面について立ち上がり、駆け出した。否、駆け出そうとした。何故か足が縺れて、転んでしまったのだ。地面に這いつくばったまま、暫しの間呆然とする。突進で受けたダメージが残っていた? それもあろうが、なにやら全身にうまく力が入らないのだ。それに、今気づいたが、エスピナスの精液が染み込んで濡れた肌が、妙に熱い。
「……───ッ!」
もしや、精液にも毒が。エスピナスは、全身が毒の塊のようなもの。そうだったとしてもおかしくない。慌てて装備の前をはだけ、インナーをたくし上げる。赤くなったり爛れたりしている様子はない。だが、くすぐったいような、もどかしいような、妙な感覚が確かにある。じわりと内から滲み出るような熱さとともに、掻きむしりたくなるような、撫で回したくなるような……とにかく、触れたい。だが、ここで触れては負けな気がする。何に負けるのか、自分でもよくわからないが。耐えろ。耐えろ。
エスピナスの毒は、絶妙の濃度ならば人間の感覚を研ぎ澄まし、活性化させることがあると文献で目にしたことがある。まさか、このエスピナスは「こう」なるように毒の濃度を調整しているのか? だとしたら、尚更欲に負けて触れることなど。耐えろ。耐えろ。だけど、触りたい。
「……ぅッ⁉︎」
ぶるぶると震えて耐える中で、ふと目に入った、何のために存在しているのかわかりもしない胸の突起。普段は気にしたこともないそれが、今はやたらと目についてしまう。何せ、見たこともないほど赤く熟れ、ぷくりと膨らんでいるのだから。エスピナスの毒で、かぶれてしまったのだろうか。気にし始めると、なんだか痒くて痒くて仕方がなくなってくる。触りたい。触ってはならない。だけど、触りたい。いや、これは別にいやらしい意味合いではないのではないだろうか。痒い場所を掻くのは自然なことだ、おかしくはない。
もう、完全に自分に対する言い訳だったが、僕はついに自分の胸の突起に手を伸ばした。真っ赤に熟れたそこを、指先でカリッと引っ掻く。
「ふっ! くぅ……ッ」
一度弄り始めると、もう止まらなかった。片方では満足できずに、両方の乳首をカリカリと引っ掻いたり、摘まんでみたり……そうしていると、乳首はますます「触ってくれ」とでもいうようにぷっくりと膨らんでくる。
「はぁ、はぁ……っ、ぁ」
情けない自慰を続けているうち、だらしなく開いた股の間のモノが、誤魔化し切れないほどに布を押し上げていることに気づいてしまった。影響が出ているのは胸だけではない。こんなことをしている暇があるのなら、早く毒入りの精液を洗い流してしまわなければ。海で身体を清めて、それから興奮したモノの処理を。回らない頭と鈍くなった身体で逃げようとすると、エスピナスが翼を下げた。まるで、檻に閉じ込めるかのように。
「あ……」
行く手を阻まれ顔を上げると、こちらを覗いているエスピナスと目が合った。鋭い金の眼は、まだ逃がさないぞ、とでも言っているかのようだ。身体が思うように動かないこともあり、すっかり固まってしまっていると、エスピナスが不意に片足を上げた。踏み潰されるのかと思ったが、そうではなく。三股に分かれた爪先は意外にも器用で、カリカリと身体を引っ掻いてくる。爪先はもちろん深紅の毒棘だらけで、こちらは気が気ではない。少しでも動けば、猛毒に侵されるだろう。この謎めいた行為が少しでも早く終わらないかと身を固くしていると、深紅の爪先が盛り上がった股間を掠めた。偶然かと思ったが、これは違う。他より目立つので気になるのか、それとも、僕の身体がどういう状態か解ってやっているのか。
「くっ、ぅ……!」
興奮しきったモノを布の上からカリカリと刺激されるのは、堪らなくもどかしい。今すぐにでも取り出して、めちゃくちゃに扱き上げてしまいたい。だけど、こんな場所で露出して自慰だなんて。けど、けど、痒くてもどかしくて。
「あ゙ッ……⁉︎」
もぞもぞと内股を擦り合わせていると、エスピナスが少し強めに爪先を押しつけてきた。むにゅ、と盛り上がった股間がかたちを変える。瞬間、身体が跳ねた。装備の中で、びゅるびゅると熱を放出する感覚。これが何なのか、男ならわかる。踏まれただけでイッてしまったのだ。違う、これはエスピナスの毒のせいであって、決して僕が感じてこうなった訳ではない。必死に言い訳をするが、盛大にイッてしまってからでは。更に言えば、一度イッたところで全く熱は退いていない。
事態を呑み込むことができず呆然としていると、エスピナスの脚に押され、身体をうつ伏せに引っくり返された。思わず仰ぎ見ると、こちらを見ている金の眼。視線を下へ、下へずらしていくと、スリットから飛び出した赤黒い逸物。滴る先走りを見るに、完全に臨戦態勢だ。それを装備の上から尻に擦りつけられ、ひ、と喉が引きつる。これ以上エスピナスの体液を浴びては、頭がおかしくなってしまう。だが、無情にも毒入りの先走りはじんわりと装備に染み込み、悪さをし始めた。濡れた場所の中でも、特に粘膜に近く敏感らしい穴が、痒くて仕方ない。ここが何処だとか、今どういう状況なのかとか。確かに気にしていたはずのことが、次々と欲に押し流されていく。気づいた時には手が下半身の装備にかかっていて、インナーごとずり下げてしまっていた。痒みでひくつく尻の穴が、外気に晒される。
「ぅあ、ぁ……」
痒い。かゆい。もどかしさに負けて穴に触れると、縁がぷっくりと膨らんでいた。そこを指先で掻いた時の心地好さといったら。最初は戸惑いながら、徐々に止まらなくなり、大胆になっていく。指で弄るうちに毒入りの先走りが拡がってしまったのか、次第に穴の中まで痒くなってきて、浅く指先を挿しこむ。エスピナスの先走りの滑りのせいか、存外抵抗はない。心地好さに負けて、痒みの原因である毒入りの先走りを自分の手で塗り広げていく。
「くぁ……はっ、ぅん……」
こんなことをしてはいけないのに。最初は浅い所だけ掻いていた僕の指は、段々深く尻の中に入っていく。第一関節。第二関節。ついには根元まで。一本では物足りず、二本目も挿入する。
「んっ、んん……く、ふぅ……ッ」
先走りが乾いて滑りが足りなくなってくると、それを見計らったようにエスピナスが猛る性器をひたりと尻に押しつけてくる。その滑りを借りて、また指を深く挿入して、抜き差しを繰り返す。次第に腸液も混ざってきたようで、くちゅ、ちゅぷ、と粘膜が擦れるような音が立ち始めた。
「あ、あ、」
僕は、こんなところで、何を。
耳を塞ぎたくても、目を覆いたくても、もう尻穴を弄くる気持ちよさには勝てなかった。欲に負けた理性は、次第に押し流されて消えていく。
だが、何度も先走りを注ぎ足され、指がふやけるほど尻を弄り続けても、この快楽には終わりがない。触れると気持ちがいいのに、触れても触れても底に辿り着かないのだ。前はもう、数えきれないほど射精してぐちょぐちょになっている。乳首も真っ赤に腫れ上がったまま。尻が駄目ならと、ぷくりと膨らんだそこに指先で触れると、んあっ、という聞いたこともない声と共にまた射精してしまった。地面に這いつくばって尻を高く上げた情けない姿のまま、放心する。そんな僕の顔を、またエスピナスが見た。どうした? もういいのか? そんな声が、聞こえてきそうだ。
「えっ……、っあ⁉︎」
先にも進めず後にも退けず、放心しきっていた僕は、尻に何かを押しつけられたことで我に返った。みちり、尻穴を圧す何か。エスピナスの巨大でグロテスクな逸物が、尻穴に侵入しようとしている。
「まっ、待て! 待ってくれ、そこはそのための穴じゃあないんだ!」
それ以前に、僕は同族ではない。ということは、言ったところで通じない。必死に首を振り、違う違うと伝えるが、それも伝わるはずがなく。エスピナスの凶悪な性器は、みちり、みちりと狭い穴を圧し拡げていく。
「うっ、あ゙、ぁ、やめ、」
これ以上は裂ける───そう思った直後、ぐぼんッ! と異音がして、巨槍のような先端が尻に突き刺さった。
「あがぁッッ⁉︎⁉︎」
人間の身体にとっては、どう見ても無理のある大きさ。だが、散々に弄って解れていたこと、そして麻痺毒で適度に弛んでいたこともあり、みっちりと限界まで拡がっているものの、裂けてはいないようだった。そして、一番太い部分が通り抜けてしまえば、後はずるずると奥へ侵入してくる。指で擦っていた部分などあっさりと越え、体内の突き当たりをごつん! と突かれた。内臓を押し上げられる気持ち悪さに耐えきれず、競り上がってきた胃液が喉から溢れる。
「お゙っ⁉︎ ぐ……ゔぉ、ごぷ、ッ……!」
みちみち、ギシギシと下半身が軋んで悲鳴を上げている。だが、性器を挿入したということはこれはエスピナスにとっては交尾だ。挿入しただけで終わりなわけがない。
「んっぐ、ぉ、お゙お゙オ゙ォ~~ッッ⁉︎」
ずりゅりゅりゅ、と内壁を捲り上げながら逸物が抜けていく。太い砲身に螺旋状に並んだ突起が腸壁を激しく擦り、めちゃくちゃに擂り潰される。引き抜かれる動きにつられて高く持ち上がった尻が、ガクガクと震えるのを止められない。尻を吊り上げるようにして先端だけを腸内に残した逸物は、再び奥まで。
「ぁ、っが! ごッ、ぉ……ごぽッ、」
また胃液が押し出される。ほとんど串刺しのような状態では抵抗もできず、口の端から胃液を垂れ流し、されるがまま。だが、何度も体内を蹂躙されるうち、段々とおかしな感覚が生まれてきた。腹の中が熱い。むずむずと、疼いている。もっと擦って欲しい、ような。
「んおお゙お゙……ッ」
物足りない場所に、もう一度突きささるエスピナスの逸物。空洞が埋められ、その瞬間は疼きが収まる。だが、すぐに次の刺激が欲しくなる。
「お゙ッぁ、だ、め……だめ、だ、あ゙、ぁうっ……」
これ以上の抜差しが駄目なのか、おかしいと思いながらも求めてしまうのが駄目なのか。もう自分でもよくわからない。わかっているのは、腹の中が疼いて仕方がないこと。もっと、もっと……もっと、何が欲しいのだろう。尻がもぞもぞと勝手に揺れる。それに応えるかのように、エスピナスは逸物の抜き挿しを繰り返す。腹を埋められて、苦しい。呻き声が洩れる。ハンターがモンスターに陵辱されて「もっと」だなんて、情けないことこの上ない。だけど僕はもう、完全にエスピナスに身を任せていた。
「ん゙ぐっ、ォ、お゙お゙ぉ……ッッ⁉︎」
一際強く突き上げられたその時、腹の奥でごぷりと液体がのたうつような音がした。エスピナスが射精している。僕の腹の中で。僕に種付けを、している。もちろんそれもおぞましいことだが、この精液には強烈な催淫効果があるのだ。そんなものを、体内の粘膜から直接吸収したら───
「や、ぁ、やめ、あっああああ゙あ゙ぁ───ッ……!」
抵抗も、拒絶も、全てがもう遅い。一瞬でも身を任せ。エスピナスの「雌」に成り下がってしまった僕には、甘んじて種を受け止めるしかなかった。放出された大量の精液で、腹が膨らんでいく。こぽこぽと腹の中が液体で満ちる音を聞きながら目を見開いて震えていると、エスピナスの逸物がずるんと抜け出ていった。支えを失って地面に崩れると、腹が圧されて尻からぶりゅ、と精液が噴き出た。そうだ。このまま外に出してしまわなければ。
「ぅ、あ゙ぁ……っ⁉︎」
けど、やはりもう遅かった。一度精液で満たされた腹の中が、じわじわと熱を帯びてくる。あつい。あつい。かゆい。もどかしい。腰が意図せず揺れる。触れてすらいないはずの前は、あれだけイッたにもかかわらずまた勃起している。乳首もぷっくりと腫れ、全身が発情しきっていた。これは、いけない。荒い息を吐いて呻きながらも、自分の腕で自分を掻き抱くようにして耐える。それでも雄を誘うように揺れる尻に、エスピナスが逸物を擦りつけてきた。射精を果たしてもなお、逞しく勃起した異形の性器。そうだ、先のようにこれで奥まで埋められれば、この耐え難いもどかしさも……いや、待て駄目だ。これを視界に入れてはならない。逸らした視線の先にあったのは、首を曲げて器用にこちらを見るエスピナスの顔。大きな深紅の角の向こう、表情などわからないはずの目が、欲情して悶える姿を見て嘲笑っているようにも見えた。悔しくて目を逸らせば、再度視界に入る逸物。僕の気を知ってか知らないでか、開きっぱなしの尻穴にくにゅくにゅと先端を擦りつけてくる。立派すぎる雁首の段差。砲身を螺旋状に飾る弾力のある突起。あれで、このもどかしい腹の中を擦られたら。でも、自分からモンスター相手にそんなことをねだるなんて。でも。でも。でも───!
「くっふ、ぁ……!」
耐えきれない。僕はついに、自分の指を尻穴に挿し込んだ。二本の指を深く深く、根元まで挿入して、もどかしい場所を探るが、届かない。一番擦りたい場所は、ずっと奥だ。
「んぎっ、あー、ぁ、あ゙、かゆいい゙ぃィ……っ!」
尻を振り、腰をくねらせて刺激を得ようとするが、指では限界だった。はあはあと、発情期の獣のような息遣い。ぐちゅぐちゅと尻を掻き回す音。頭がおかしくなりそうだ。そこに差し出される、いきり立った異形の逸物。
「あ……」
これなら、この逸物なら。きっと一番欲しい場所まで届く。これなら、きっと。駄目だ、いけない、と頭の片隅で誰かが叫んでいる。だけど今の僕にとっては、些末なことだった。両手で尻を左右に割り開くようにして、エスピナスの逸物に近づけていく。何も考えられなかった。この逸物で、腹の奥まで突き上げられてめちゃくちゃに擦られることを除いては。
はくはくと息をするように震える尻穴に、先走りと精液で濡れた逸物がひたりと押し当てられる。期待で息が更に上がる。
「はっ、ぁ、はやく……はやく……ッ!」
唇から、信じられないほど湿った声が洩れ出る。すると、エスピナスは焦らすように殊更ゆっくりと、逸物を尻穴に押し込んできた。
「あ、ぁ……ッ!」
ぬぬぬぬ、と少しずつ穴が拡がっていく。期待で腰が震える。これが、これが肉の輪を通り抜けたら。これが深くまで突き刺さり、柔い襞を擂り潰したら。その先の快楽を想像して、僕はふっと力を抜いた。瞬間、ずぽおぉっ! と半ばまで逸物が嵌まる。
「んッごぉッ⁉︎ お゙お゙おおぉォ~~~ッ⁉︎⁉︎」
叫ぶ。尻が上下左右に揺れる。
指では届かなかったもどかしい場所を、雁首の残酷なほどの段差で削ぐように擦られ、僕は一撃で精液を噴いた。びゅるびゅると精液を吐き出し切った後、少し遅れて、ぷしゃあああ……とサラサラの液体が噴き出る。
「お、ぁ……あ゙っ、あ゙はああぁぁ……♡」
射精なのか放尿なのか、僕にはもう区別がつかなかった。どちらでもいい。どちらも気持ちがいい。エスピナスの逸物をもっと深くまで受け入れたくて、腰を揺する。
「うぁ、あー、もっと、ぉ、おく……っ!」
腹の奥がきゅうきゅうと疼き、尻穴は狂ったように蠢いてエスピナスの逸物に吸いついている。こちらから押しつけるように尻を動かすと、エスピナスはそれに合わせるようにして腰を進めてきた。ずぷぷぷぷ、と逸物が腹を満たしていく。
「んお゙ッお゙ほぉっ♡ おあぁ、はあアァ~~~……♡♡」
臍の下辺りまで、みっちりと埋まった。望んだ場所をついに満たされ、恍惚の吐息が洩れる。だが、この行為はこれで終わりではない。入れたのなら、抜かなければならない。もっともっと、腹の中を擦られなければおかしいのだ。物足りない。尻を揺らす。エスピナスが腰を引いた。ごりゅりゅりゅりゅっ♡ と締まったナカが擦れ、腰を捩って悶絶する。
「ぅお゙あ゙あぁぁッッ⁉︎ はあぁ、ああぁあぁぁ~~~ッ♡♡ うぅんん゙……♡♡」
ビクンビクンと勝手に腰が痙攣する。前からは白濁を垂れ流し、股の間の地面に淫らな水溜まりを作っていた。もう僕は、完全に交尾中の「雌」だ。性器に仕立て上げられた尻に雄の逸物を挿入されれば喜んで迎え入れる、本能剥き出しの「雌」。
「あ゙ッああぁぁッ♡♡」
引き抜かれれば、名残惜しげに媚肉を絡みつかせて。
「んっぐ、ぅ、ゔぅ~~ッ♡ あ゙あぁぉ、お゙……♡」
入れて、抜いて、入れて、抜いて。
「んっぉ♡ お゙っ♡ おッ♡ お゙おォッ♡♡」
ゴツン、ゴツンと突き当たりを叩かれる。その度に、電撃に打たれたように下半身が揺れる。舌を突き出して、喉奥から獣のような声を洩らして。僕が興奮しているのと同じなのか、エスピナスもまた興奮を深めているようで、翼膜や脚に浮かぶ血管がより赤く、鮮明になっていく。グルル、と地を這うような唸りを発すると、ナカの襞を巻き込んで引き摺り出すような勢いで逸物を引き抜いた。
「んっぉ゙、ほお゙お゙おぉぉォ~~ッ♡♡」
巻き起こる快楽に抗えず腰をくねらせると、黙れとばかりに強烈な突きの一撃、が───
「ごぉッ……♡ ッッ、~~~ッッ‼♡♡♡」
ぼこん、と臍の上が盛り上がる。突き当たりだとばかり思っていた場所をいとも簡単に突き抜けた逸物は、お次は肉の弁をいくつも引っ掛けてずろろろと抜けていく。そしてまた、ぐぼん! と弁を突き破る。
「がッは……‼♡♡ あ゙あぁ……ッ、あ゙♡ お゙♡♡」
突き上げられるたびに、ぼこぼこと腹が盛り上がる。ずぽん、ぐぽんと結腸を何度も抜かれ、その度に僕は快楽を極めた。
「んお゙ぉ゙ぉイくっ♡ イぐっ♡♡ ちんぽでいぐっ♡♡ もんすたぁのちんぽでいぐうゔぅゥ~~ッ♡♡」
だらだらと白濁を垂れ流しながら、狂ったように叫ぶ。強烈な催淫作用で「雌」になった頭では、あらゆる場所が性感帯になった身体では、ちんぽで突かれてイくことしか考えられなかった。
「おっ♡ お゙っ♡ お゙ぉっ♡ お゙おぉぉッ♡ イってる♡♡ イ゙ッでりゅう♡♡ イくイ゙ぐいぐんおおおぉぉお゙お゙ぉ~~~ッッ♡♡♡」
射精も潮噴きもなく、ナカだけで快楽を極めると同時、エスピナスがまたも腹の中で射精を果たした。もう三度目のはずだが、量は最初と変わっていない。どぽどぽと結腸を満たされ、腹がぼってりと膨らんでいく。
「お゙っ、ぇ゙♡♡ ぅお゙ッ♡ んぅぐ、お゙おぉぉ……♡♡」
おえ、ぐえ、とえづきながらも、僕は全てを受け入れた。孕んだようにパンパンに腹が膨れたところで、ようやくエスピナスの射精が終わる。用は済んだとばかりに抜けていく逸物。先端がぬぽんと抜けると、支えを失った身体はべしゃりと地面に落ちた。
「うぉっ、お゙っ、んおおぉ~~……♡」
高く上げた尻から、ぶぼぼぼっ、ぶりゅっ、と精液が噴き出していく。量が多すぎて、傍目から見たらきっと噴水のように見えたのだろう。もちろん僕にはそんなことを考える余裕などなく、鼻先に何か煌めくものがゴツンと落ちたことにも気づかないまま、意識を手放したのだった。
◆
翌日の昼過ぎ。
僕は観測拠点エルガドに帰還した。単なる探索だというのに、色々なことがあって妙に疲れてしまった。船から降りて溜め息を吐いている、そんな僕を出迎えてくれたのは。
「おお! ようやく戻ったか!」
鎚を背負った、大柄な男。彼もまた同業者であり、カムラの里で『猛き炎』に出会うより先に意気投合したハンターだ。
「単なる探索だってのに、ずいぶんと長丁場だったんだな」
「ああ、いや……ハハ、そうだな……」
もちろん、密林で何があったかはとても言えない。あの後直ぐにエルガドに帰れなかったのは、腹の中に出されエスピナスの精液の催淫作用が抜けず、慰めては海で身体を清め、それでも足りずにまた慰めては清め……を、延々と繰り返していたせいだ。もちろん、これも言えたものではない。エスピナスに食い殺されなかったことも、毒で死ななかったことも最早奇跡だろうが、思い出すだけで疲れてしまう。
「……おい、疲れすぎじゃねえか? 大丈夫か? 収穫がなかったのか?」
なんだか、言葉の通じる人間が心配してくれるということが物凄くありがたい。矢継ぎ早に訊いてくる鎚の男に、そういうわけではないのだが、と答えつつ、僕は今回の「収穫」をポーチから取り出した。新緑のような鮮やかさの中、内から滲み出すような虹色の光を湛えた、大きな鱗。
「こいつァ……てっ、天鱗じゃねえか! この色はエスピナスか⁉︎ すげえな、初めて見たぞ!」
鎚の男はいたく興奮した様子だ。僕自身、目覚めたときに顔の近くにこんなものが落ちていて、一瞬自分の状態も忘れて驚愕したのだ。その後直ぐに現実に引き戻されて死にたくなったが。
「で? コイツは何に加工する? 武器か? 防具か?」
「オトモ用の端材にするよ」
「正気か⁉︎」
鎚の男が、瞠目して声を上げる。同業者なので言いたいことはとてもわかるが、幸か不幸か今回手に入ったエスピナスのまともな素材はこれだけだったのだ。最初に拾っていた素材は、ボムガスガエルの爆風で木っ端微塵になってしまった。
「オトモ装備を作るのは、『猛き炎』との約束なんだ」
「うーむ、そういうことなら仕方ない……のか?」
「ところで、『猛き炎』はいないのかな? 狩猟か?」
「ああ、アイツなら師と一緒に『トビカガチはいやだあああああ!』と泣きながらトビカガチ狩りに行ったぞ」
「な、なぜ泣くほど嫌なのに敢えてトビカガチを……」
さあなぁ、と鎚の男は首を傾げる。まあ、師が同行しているようだし、それ以前に『猛き炎』ほどの実力者ならば問題ないか。こちらは、彼が不在の間にオトモ加工屋に防具の製作を依頼しておくことにしよう。
改めて、エスピナスの天鱗を日にかざしてみる。エルガドの太陽を受けて美しく輝く様は、まさに自然が生んだ宝物だ。エスピナスの、最大級の贈り物だと言ってもいい。贈り物。待てよ。ということはこれは、もしやエスピナスからの『お小遣い』だったのでは……いや、そんなはずはない。しかし、なんだか偶然にしては。
仮に「そう」だとすると、エスピナスに「ああ」されればまた天鱗が……もらえ……る……?
作りたい武器、防具、装飾品───色々なものが脳裏をよぎるが、いや、いくらなんでもそれはおかしいだろうと首をぶんぶんと横に振った。鎚の男が怪訝そうにこちらを見ていたので、なんでもない、と返しておく。
何にせよ、暫くの間の密林には近寄らないに越したことはない。少なくとも、あのエスピナスが密林を離れるまでは……エスピナスのことを思い出すにつけ、ほんの少しだけ腹の奥が疼いたような気がしたが、きっと気のせいだ。
気のせいだと、思いたい。