御互い様の一夜
御互い様の一夜
わけあってノーパンで一日過ごしたハン♂がバレてお仕置きされる話。
濁点喘ぎ、♡喘ぎ注意。下品です。
おい、嘘だろ。
絶望感たっぷりの声色でそう洩らしたのは、昨日狩猟を終えて自宅に戻った時───正確には、自宅の前に立った時だった。嫌な予感はしていたのだが、実物を目の当たりにすると絶望感もひとしおで。
降り続いた雨は、狩猟にも探索にも、そして里での日常生活にも影響を与えた。足元が悪い中狩り場を動き回ることには、当然いつもと違う危険がつきまとう。視界が悪くなって探索にも不便だし、湿気を好むタイプのモンスターたちは活発になる。だが、今俺が直面しているのは、もっとずっと生活感のある問題だ。
結論から言おう。洗濯物が乾かない。
季節の長雨が、数日続いていた。溜め込むわけにもいかず、ルームサービスが少しずつ洗っては囲炉裏の近くで乾かしてくれてはいたが、毎度毎度汗や埃で汚れに汚れる衣類や装備品を乾かしきるには、俺の家兼水車小屋は狭すぎた。洗うに洗えない洗濯物は増える一方で、どうしたものかと首を捻っていたところ、久々の晴れ間からお天道様が顔を覗かせたのだ。これは好機と、溜まっていた衣類やら下着やらを洗濯板に擦りつけ、表に干して意気揚々と狩猟に出かけた。だがこの俺は時気付くべきだったのだ、月に一度のルームサービスの休暇が、折り悪く重なっていたということに。
かくして、再び降った雨はやっとの思いで干した衣類をびしょ濡れに戻してしまった。ルームサービスが不在では取り込む者もおらず、なんなら干す前より濡れてしまっていた。下着もあるからと、少し目立たない場所に干してしまったのも悪かった。表に堂々と干していれば、野菜屋のワカナとセイハク辺りが自宅に放り込んでくれたかもしれないのに。水が滴る股引きを掴み、絶望にうちひしがれた余り洩らした言葉が、冒頭のあれだ。
とは言え、俺の希望は絶たれたわけではない。この手の中には、ルームサービスが囲炉裏の火でなんとか乾かしてくれた股引きがある。これが今使える最後の一枚ではあるが、今日はよく晴れているし、ルームサービスの出勤日でもある。量が多いので申し訳ないが、まとめて片付けてもらおう。悪天候でこなせなかった依頼が、いくつか溜まってしまっているし。
洗ってもらいたい洗濯物を、優先度を着けて畳の上に並べていると、思いの外時間が経ってしまっていた。そろそろ出発の時刻だが、まだ部屋着の浴衣姿だ。気の早いオトモたちは、もうオトモボードの前で待っているかもしれない。急いで支度をしなければと、股引きを持って立ち上がった、その時。
「ワン‼ ワンワンワンワン‼」
「うおおぉわあぁッ⁉︎」
自宅の引戸を突き破り、オトモガルクのイサナが飛び込んで来た。俺は驚きの余り飛び退き、書院の掛け軸にフカシギよろしく背を預けて貼り付く。
「ワンッ!」
旦那さん、遅いよ! とその顔には書いてある。文字通り突き破られた引戸は無惨に三和土に倒れ、その上でハッハッと鼻息荒く尾を振る姿の、愛らしいこと。いや違う、そうじゃなくて。
「コラァ──ッ‼ 旦那さんの家の戸を突き破るなってオメー何度言ったらわかるんだニャ──ッ‼」
更にそこへ飛び込んで来た、小さな影。オトモアイルーのユタだ。ユタは三和土でぐるぐる回っていたイサナの鼻先にネコパンチを食らわせ、落ち着かせる。止めに来てくれたのは助かるが、せめて引戸を突き破る前に止めて欲しかった。
「おまえら朝から元気だなほんと……」
「ごめんニャ、旦那さん。もっと早く止めればよかったニャ」
「クゥーン……」
落ち込む二匹に、いつものことだから気にしなくていいと声をかける。まあ、引戸なんて簡単に直せる。とりあえず、これから着替えるし形だけでも閉めておこうと三和土に降りて引戸を持ち上げた。が。
「んニャ……旦那さん、なんかこの家焦げ臭くないかニャ?」
ユタに言われて、顔を上げる。この家で今火元になる場所なんて、囲炉裏しかない。だけど、朝起きて火を入れて、昨日の残りの味噌汁をちょっと温めていただけだ。それなのに、何かが火の中でもうもうと煙を上げている───
「…………うぅわあああああぁ⁉︎」
「ニ゛ャッ⁉︎ 旦那さんどうしたニャ⁉︎」
「俺の股引きが───ッッ‼」
引戸を投げ捨て、囲炉裏端に突撃する。なんとか火の中に入らずに済んだ紐を掴んで取り上げるが……あれだけ煙が上がっていたのだ、もう遅いに決まっていた。持ち上げると同時、生地の大半は焼け焦げて火の中に落ちた。無惨な姿になった股引きを見て、愕然とする他ない。
「あああぁなけなしの一枚がぁぁ……」
どうしよう。一枚洗って乾くまで待つか。いや、ここ最近の悪天候でこなせなかった依頼が溜まっている。効率よく片付けるなら、出発時刻を遅らせる選択肢はない。なら、このなけなしの一枚を無理にでも履くか。この、焦げて半分くらいになってしまった一枚を。いや無理無理。
「マジでこれ……どーすんだよぉ……」
◆
「お帰りなさいませ」
「ただいま、カゲロウさん!」
里の正門をくぐり、ヒナミやイヌカイに挨拶をして大通りまで来ると、雑貨屋の前でカゲロウさんが迎えてくれた。依頼の品は全て納品してきたし、後やることといえば減っている道具の補充と素材の整頓くらいだ。
「旦那さん旦那さん、素材はボクたちで持って帰ってしまっておくニャ」
「おっ、いいか? じゃあ、いつも通り頼む」
「今日は寒かったからとっとと帰りたいんだニャ」
後はごゆっくりニャ(ワン!)、と言い残し、オトモたちは先に自宅へ向かって行った。あんなに毛むくじゃらでも寒いもんなんだな、と思いつつ、その背中を見送る。
「本日は、寒冷群島の方へ?」
「はい。厳寒ヒヤボックリの納品依頼があって」
「それはそれは、寒かったでしょう」
「まあ、慣れたもんですよ」
へへ、と鼻の下を擦って笑い、回服薬と大タルの購入を申し出る。カゲロウさんは、かしこまりました、と恭しく頭を下げると、品物を揃えに店の裏方へ向かう。
寒かった、か。
確かに、寒冷群島は寒い。雪と氷に覆われた凍土の大地。海の水は凍るまでいかずとも冷たく、吹き荒ぶ風は肌を刺すようだ。装備をしっかり着込んでいても、冷たい隙間風を完全に防ぐことはできない。加えて、今日はそれ以外の理由でもなんだかスースーしていたわけで……思い出した途端、またスースーしてきた。どうにも落ち着かない。今日はこの後さっさと帰って、湯浴みをして着替えてしまおう。
「お待たせ致しました」
「えっ、アッ……へい! どうも!」
「……如何なさいましたかな?」
え、と思わず声が出る。いつも通りに返事をしたつもりだったのに。なんでもないですよ、と何食わぬ顔で返してしまえばいいのだが、いざカゲロウさんの顔を見ると固まってしまう。この人相手に何かを誤魔化そうなんて、分が悪すぎるのだ。
「なにやら、そわそわしているようですが……」
まさかお怪我を? と問われ、違い違うと全力で否定する。負傷はしていない、これは本当だ。
「本当ですか?」
「本当! 本当です五体大満足です!」
「では、狩り場で何か……」
「なんでもないですって‼」
これ以上詮索されて、隠し通せる自信が全くない。とにかく早くこの場から離れたくて、少し声が大きくなる。……自分では「少し」だと思っているが、教官仕込みの大声は里の大通りに響き渡った。うさ団子を頬張っていたヒノエも、加工屋の前で変な構えを取っていたハネナガ先輩も、果ては一心不乱に刀を研ぎ上げていたハモンさんまでもがチラ、と俺たちを見た。ああ、またやってるよ……という声が聞こえてきそうだ。やっちまった、とカゲロウさんの顔を見ると、怒っ……てはいない。なんだか、しゅんと萎んでいる。
「左様でございますか……隠し事は誰にでもあるもの、某は貴方様に口を割って頂ける程の者ではなかったと、只それだけのこと……」
「ええぇそうじゃないそうじゃない! そういうアレじゃないですって!」
お付き合いを始めてわかったことたが、この人は結構面倒くさい。最初は俺をからかいたくて態とやっているんだろうと思っていた。でもたまに、ごく稀に本当にしゅんとしてしまうことがある。まあ、そういうところも可愛いのだけど。だけど、これ以上放っておくと大変な目に遭うのは他でもない俺だ。仕方なく、ちょいちょい、とカゲロウさんを手招きする。屈んでもらって近くに来た耳に、コソ、と耳打ち。
「俺……今日、下着穿いてないんですっ」
ピシッと、空気にヒビが入った。いや、実際にはそんなことはない。ただ、告白した瞬間カゲロウさんが発した「よくない」オーラがそう思わせただけで。請われて言ったのに、なんで怒るかな。
「……さて、そろそろ店仕舞いの時間ですな」
あれっ。何か言われるかと思ったが、そういうわけでもないらしい。そそくさと店仕舞いの準備を始めたカゲロウさんを見て、首を傾げる。まあ、何も言われないならそれでいい。
「俺、いったん帰りますね。着替えてからまた来ます」
あ、晩飯一緒にどうですか? と問うと同時、ガシリと腕を掴まれた。
「……へっ、」
「今宵はこのまま、それがしの宿へお出でください」
「いや、ちょ……ッ⁉︎」
見ればわかると思うが、探索から戻ってその足で雑貨屋に立ち寄っているので、いまだ俺は重装備のままだ。当然湯浴みもしていないので、汗まみれの埃まみれ。元々カゲロウさんの宿には行くつもりだったけど、このまま行こうなんて微塵も思っていなかった。
待ってください、と何度も言ってはみたが、離してもらうことはできず……結局カゲロウさんはそのまま器用に片手で店仕舞いを終え、これまた器用にそのまま俺をポポ車に乗せた。汚れたままでカゲロウさんの宿に邪魔するわけにはいかないと、俺は結構本気で抵抗した。でも、現役ハンターとしてなんとも情けない話だが、この人に単純な力では敵わないのだった。
カゲロウさんに腕を掴まれたまま、走るポポ車から飛び降りるわけにもいかない。その後あっという間にカゲロウさんの宿まで連れて行かれ、どうぞ、といつものように部屋に通された。
「あのー、カゲロウさん?」
「すぐに温かい御茶を淹れますので」
具足を脱ぎながら声をかけるが、カゲロウさんからは何を考えているのかわからない返事。首を傾げる間に、どうぞこちらへ、と座布団の上に誘導される。行灯の橙色の明かり、藺草の香り、そこに敷かれた一組の布団───全てがいつもと変わらない。唯一、俺が重装備のままだということを除いて。
「粗茶ですが」
「アリガトウゴザイマス」
俺は重装備のまま、カゲロウさんは御札を着けたいつもの姿のまま、同時にお茶を一口。ぷはー、と息を吐いて、いや何だこれ、と改めて思う。
「ところで」
「はっ⁉︎ はい……?」
「冷えは万病の元なのですよ」
「………………はぁ」
一応考えてみたが全く意図が読めず、たっぷりの沈黙の後に気の抜けそうな返答をするしかなかった。
「聞けば本日は寒冷群島へ出向かれたとか……極寒の地へ下着も穿かずに飛び出すなど、言語道断ですぞ」
あ、そういう。もしかしなくても、俺はカゲロウさんに心配されていたのか。
「そ、そういうことならその場で言ってくれりゃあいいじゃないですか」
「衆目の前で貴方が下着を身につけていないことを話題にするなど、某にはとても」
「あっ……そっか、それは……すんません」
これも、気を遣ってくれてのことか。なんだか、抵抗したのが悪く思えてきた。これは反省すべきだ。改めてカゲロウさんに謝ると、カゲロウさんはふふふ、と笑った。よかった、もう怒っていないらしい。誤解が解けたところで、俺は改めて切り出す。
「そんじゃあ、ささっと湯浴みして着替えてからもっかい来ますね」
はー、安心した。こんな埃だらけで畳を汚しては、カゲロウさんにも宿にも申し訳ない。俺はスッと立ち上がり、カゲロウさんの横を通り過ぎた。もとい、通り過ぎようとした。後ろから腕を引かれ、引き倒されるように後ろから抱き締められては、それも叶わず。
「えっ、カゲロウさ」
「それで、本日はどのようなはしたない格好で過ごされたのでしょう」
「はっ……⁉︎ はしたないって……!」
別に、下半身丸出しでブラブラさせながら歩き回っていたわけでもないのに。というか、今はそんな風に抱き締められていい状態ではない。カゲロウさんの着物を埃で……下手をしたらモンスターの血なんかでも、汚してしまいそうだ。汚れますから、と腕を後ろに突っ張って逃げようとしたが、より強い力で抑え込まれた。何故。ジタバタと踠いているうちに腕を抑えられ、いよいよ抵抗できなくなる。脚だけバタつかせても意味がなく、そうこうしているうちにカゲロウさんの手が俺の腰回りの装備に伸びた。パチン、パチンと見せ付けるように留め具を外していく。とさ、と少し重そうな音を立てて、腰巻きが畳に落ちた。
「やめ、」
やめてください、と言う間もなく、カゲロウさんの長い指が一本、袴と腹の間に滑り込んだ。くい、と引っ張られ、中を覗かれ───ぶわぁ、と顔に熱が集まってきてしまう。
「ほうほう……これはこれは」
「も、ッ……カゲロウさんのすけべ……ぇ……」
下着がないからといって、鎧の下に何も着けない、というわけにはいかなかった。だから、いつものインナー……つまるところ、股上から下腿、そして爪先までを覆う下履きと、トップスはいつも通り身に着けていた。股引きだけがなく、お陰様で尻と魔羅は丸出しのまま。見ようによっては卑猥な格好なのかもしれないが……俺がやったところで爆笑必至の姿でしかないのに。
「上は? どうされていますかな?」
「いつも通りですって」
「見せてください」
「ええ……?」
「では、某の手で脱がせましょうか」
「……っ、わかりましたよ、もうっ」
本当にすけべなんだから、とぶつくさ言いつつ、カゲロウさんの腕から解放してもらう。カゲロウさんの膝から降りて立ち上がり、背を向けたまま装備の紐に手を掛けると、こちらを向いて、と言われてしまう。少し躊躇ったが、カゲロウさんの方へ向き直り、ガシャガシャといつもより心なし雑な手付きで装備を外していく。重い鎧は苦手なので軽めの物を好んで着ているが、それでも重装備は重装備。脱ぐにもそれなりに時間がかかる。それでもカゲロウさんは俺が鎧を脱ぐのをお札の向こうからジーッと見詰めていて……あのお札の向こう側、カゲロウさんはどんな目をしているのだろう。想像して、背筋がゾクリと泡立って、でも気付かなかったことにした。
上はインナー一枚になって、あとは袴を脱ぐだけだ。俺の手は、其処で止まる。これを脱いでしまったら、尻から魔羅から丸出しなのだから。
「……っ、見ないでくださいよ」
一応言ってみるが、ふ、と静かな笑いが返ってくるだけ。いいから脱げ、と言われているようなものだ。抵抗しても無駄。経験則上それはわかっているのだが、それでも抵抗したくなる理由が俺にはあった。袴の紐に指を掛けて、そこで止まってしまう。
「う……、」
「では、某が」
カゲロウさんの指が、俺の腹に伸びる。つつ、と白い指先に露になった腹筋の凹凸をなぞられて、意図せずぴくりと腰が震える。指は俺の腹をゆっくり、殊更ゆっくりと下へ下へと辿り、遂に袴の紐を捉えた。白い指と、それに絡む赤い紐。妙に妖艶な様に、ごくりと喉が鳴る。
「や、」
声でだけは、抵抗した。でも他でもないカゲロウさんにこんな風にされて、それ以上の抵抗なんて俺ができるわけがない。カゲロウさんはお札の向こうで少し笑うと、やたら勿体ぶった動きで紐を解いた。
ぱさ、と袴が畳に落ちる。
「おや」
「……ッ」
俺が抵抗した理由。もちろん恥ずかしいってのもある。だけどそれ以上に、服を脱ぐのを見られていただけで、触られてもいないのに一人で興奮していた、なんて。とてもじゃないがカゲロウさんの顔を見ていられなくて、俯く。そうすると、濃紺の生地に包まれた脚の間で弛く兆した自身も、網目の間から覗くぷっくりと膨らんで色づいた乳首も目に入ってしまって。指先一つと視線だけでこんなにも辱しめられて、だけど、こんなにも全身でカゲロウさんに媚びているのだと、嫌でも解ってしまう。
「それがしの視線、それほど刺激的でしたかな」
「うぅ……っ、だから見ないでって……」
「ふふ、つい熱が籠ってしまいましたからな。淫らなハンター殿のこと、仕方ありませぬ」
「み、淫ら……」
酷い、と反論したいところだが、悲しいかな、否定ができない。初っ端から慣らされ開発され、めちゃくちゃに感じさせられた俺の身体は、カゲロウさんに気持ちいいことをされると思うと勝手に涎を垂らし始める。これを淫らと言わなければ何と言うのか……すけべ? いや、変態? どっちも嫌だ。
「もっ、もういいでしょ! いい加減湯浴みさせてくださいって!」
これ以上は耐えられない。俺は落ちた袴を引っ張り上げて、下腹部を隠した。そのままカゲロウさんの返事も聞かず、風呂場へ向かおうと背を向ける……が、またも後ろ手を引かれて失敗に終わった。尻餅をつきそうになったのを、背中から抱き止められる。咄嗟のことで、思わずカゲロウさんの胸に背を預けてしまったが、汗と埃だらけのまま密着するわけにはいかない。離れようと腕に力を入れたが、カゲロウさんの腕が前に回ってきて全然離して貰えない。そのうち、腕が腿の付け根辺りまで滑ってきて、インナーの際どい部分の生地を撫で始める。
「ちょ、」
インナーの中に指先が入りそうで、そうかと思えば背後ですんすん、と鼻を鳴らすような音。首筋や耳の裏、後頭部───いやそれ、絶対汗臭い。
「やめっ……、汗臭いだけですって!」
「そのようなことはありませぬ。とても芳醇な香りですよ」
待って待って流石にそれは。なんだか色んな意味でゾクゾクして、俺はカゲロウさんの腕を振り払った。いや、これも振り払おうとしただけで、カゲロウさんの方が一歩早い。後ろからぐっと体重をかけられたかと思うと、ちょうど前にあった敷布にうつ伏せに押し倒された。腰を掴まれ、尻を高く上げるような体勢にされる。
「此方はどうですかな」
此方って、どちら? 振り向いて後悔した。カゲロウさんの顔が、あろうことか俺の尻に密着している。いや、お札があるから直にではないけど、あんな薄い布この際あってもなくても同じだ。
「……~~~ッ⁉︎ 待って! 待ってってば! そこは嫌だッ! 嫌だって!」
「……ふむ、これが一日分の貴方の香り、ということですな」
もう気絶したい。だがハンターの身体というものは、尻の臭いを嗅がれた程度で気絶するほどヤワではないのだ、極めて残念なことに。
其処は汗臭いだけじゃない。朝から夕方まで狩り場に出ていたから当然排泄だってしているし、湯浴みも準備もしていないので中も外も汚いままだ。そんなところにカゲロウさんに触れさせるなんて、出来っこない。俺は四つん這いのまま前へ逃げた。逃げたが、腰を掴まれ引き戻された。ついでに、きゅぽ、と瓶の蓋を開けるような音が耳に入る。ややもせず、香油でぬるぬるになったカゲロウさんの指が、尻のあわいを撫でた。やめて、と言うより早く、指が一本中に入ってくる。
「んぁっ……! やっ、ナカは……ッ!」
ほんの一本だ。大した抵抗感もなく、ぬぬぬ、と根本まで入ってしまう。抜けていく時に中のしこりを引っ掻かれて、腰が跳ねた。焦らすように同じ動きを繰り返されて、もともと熱が集まっていた俺の魔羅は一瞬で臨戦態勢になってしまう。
「やめてください、ってば……!」
「そう仰るわりには、反応がよろしいようですが」
そういう問題じゃないです、と言い返そうとしたが、指を二本に増やされて息が詰まり、タイミングを逸する。二本の指でしこりを挟み込むようにぐりぐりと責められて、情けなく喘ぐしかない。
「んおぉっ、お、あっ、それぇ……っ!」
「ふふ、こうされるのがお好きでしたな」
「んんぁあ゛あ゛ぁッ、あっ、ぁ、あ~~~……ッッ‼」
びくん! と腰が跳ねて、ナカで絶頂。カゲロウさんの指をぎゅうぎゅう締め付けて、射精もせずにがくがく身体を震わせていると、上手に達けましたね、と背中を撫でられた。だが責めがこれで終わるはずもなく、更に指の数を増やされ、しこりを捏ねられる。
「んうぅああ゛ぁ、」
「こちらはどうでしょう」
「あ、ぁ、そこぉ」
浅い、入り口近くを三本の指で拡げるように擦られ、腰が独りでに揺れる。でもすぐに奥まで欲しくなって、尻を後ろに押し付けた。同時に、根本まで三本の指を突き入れられる。
「はぁうッ⁉︎」
「こんなに吸い付いて」
「あ、ぁ……もう……ッ」
「宜しいのですよ、我慢せずとも」
カゲロウさんの優しい声色と、着物の前を寛げようとしているらしい布擦れの音で、脳味噌がトロリと蕩けてしまいそうになる。だけど、駄目だ。首を横に振って、後ろを手の平で塞いだ。
「おや」
「今日は……その、準備できてないから駄目ですっ」
これ以上汚い場所に触れられるのは色々と思うところがあるし、何より不衛生だ。俺の意思が固いことは伝わったのか、カゲロウさんは寛げかけた着物の前を綺麗に直して、ふむ、と顎を撫でた。
「では、今宵はこちらに致しましょう」
そうして、何処からともなく出てきたのは立派な張り型。本番は駄目でも玩具ならいいだろう、ってことなんだろうけど……
「挿入れるんすか……?」
「後程しっかりと洗浄すれば、問題ありませぬよ」
「う……」
やっぱり汚れるってわかってるんじゃないですか。
と、突っ込む間もなく、香油でぬるぬるになった張り型の先端が後ろにあてがわれた。抵抗しても痛い思いをするのはこちらだ。仕方なく、自分から穴を拡げるように縁に指をかけて引っ張る。弄られてぷくりと膨らんだはしたない蕾に、太い張り型が呑み込まれていく。かなりのご立派様だが、カゲロウさんのカゲロウさんには遠く及ばない大きさだ。コツさえ掴めば、呑み込むのはそう苦ではない。
「もうこの張り型にも、すっかり慣れましたな」
四つん這いの体勢で、後ろの様子は想像するしかない。だけど、カゲロウさんの声色は愉しそうだ。
「んうぅ、……く、っ」
一度具合を確かめるように引き抜かれた張り型を、再びぬぷぷ、と押し込まれて息が詰まる。抜いて、挿入れて、抜いて───だんだん激しくなっていく。
「んっ、おっ、おぉ、あ゛っ、あッ、まっ、てぇッ」
時折、弱い所を掠めるような動きに翻弄される。こちらの呼吸もお構いなしに硬い張り型でやわい内壁を抉られるのは、自慰とは勝手が違いすぎる。
「まっ……ん、ぉっ、ほお゛ぉッ⁉︎」
どうにかなってしまいそうで、声で制止しようと訴えるが、瞬間しこりをごりゅ、と抉られ、あえなく甘イキした。ぴくぴくと尻を振るわせながら、無意識に前へ這って逃げようとするが、
「おっと、何方へ?」
そんなことはお見通しとばかりに、腰を掴んで引き戻される。それでも前へ逃げて、少しでも刺激を逃がそうとすると、脚につけっぱなしだったインナーの、股の付け根の布地を引っ張られた。伸縮性のある生地が伸びて、また肌に戻って、際どい部分にパチンと刺激を与える。
「んあっ⁉︎」
「おや」
これがお好きなのですか、とパチン、パチンと何度も。そのたびに、あんっ、とか、んぅっ、とか変な声が出てしまう。それに合わせるように尻も揺れて、刺さっていた張り型が抜けそうになった。すかさずゆっくりと押し込まれる。
「おおぉぁあ、あ゛ぁ……ッ」
奥まで迎え入れようと、自然と尻を押し付けてしまうが、残念ながら欲しい所までは届かない。この張り型では其処が限界だと、挿入れる前からわかっていたことだ。でも、もっと奥に欲しい。突き当たりの所を突かれたら、もっともっと気持ちいいのに。それに、更にその奥も───
「うぅ、ぅ、カゲロウ、さぁん」
「如何されましたかな」
「お、おく、奥に、ほしぃ」
はた、とカゲロウさんの動きが止まった。けどそれはほんの少しの間で、次の瞬間には張り型を限界まで押し込まれた。
「あ゛あぁッ⁉︎」
「この張り型では、此処より奥へは挿入りませんな」
俺のこの情けない声や、びくびく震える腰と尻で、何を欲しているかなんてわかるだろうに。この期に及んでそんな意地悪しなくても。恥ずかしかろうがなんだろうが、あくまで、言わなければならないらしい。
「ぅ、う……ちん、ぽ……カゲロウさんのちんぽなら、届く……っ」
「ですが、今宵は魔羅の挿入は嫌だと仰ったではありませぬか」
「うっ、嘘、あれ嘘っ、ホントはちんぽ欲しいですッ」
誤魔化しが通用しないことは、よく知っている。そんなわけで素直に告げると、カゲロウさんはずるんと張り型を抜いた。また変な声が出た俺のことなんかそっちのけで、ふむ、とひとつ。
「それがしに、嘘を言ったと」
「えっ……?」
少しだけ、ほんの少しだけ声のトーンが冷たくなったように思えて、恐る恐る視線を後ろに向けた。御札で隠された表情はもちろん見えないが、なんだか怒っている、ような。
「これは、仕置が必要ですな」
「えっ、しお……ぇ、えっ?」
カゲロウさんが、着物の中から今度こそカゲロウさん自身を取り出す。それは涼しい声からは想像もできないほど昂っていて、俺はちょっとギョッとした。
硬く弾力の有りそうな亀頭、竜のように竿を這い回る太い血管、付け根近くの、抜けるのを防ぐ返しのようにも見える鱗のような無数の突起。赤黒い色と、何より規格外どころではない大きさ、長さ、太さ。どの角度から見てもグロテスクな拷問器具のようだが、今の俺にとっては堪らなく魅力的な雄の性器でしかない。同じ雄でありながら、あの凶器のような逸物に串刺しにされて、盛りのついた獣のように吠え喘ぐのだと思うと、腹の奥がきゅうきゅうと疼く。
「ふふ、物欲しそうな顔ですな」
「ほ、ほしいっ、ほしいですっ」
汚い、とか、準備してないのに、とか、もうどうでもよかくなってしまった。あの魔羅の前で、俺は無力だ。汚れたら後で風呂に入ればいいし、敷布だって代えが利く。俺はカゲロウさんに向き直って仰向けに転がると、自分で膝裏を持って股を開いた。服従した犬みたいな体勢。恥ずかしいけど、それ以上に欲しい。
だけどカゲロウさんは、正座したまま動かない。
「ふぁ……?」
股を開いたまま、顔だけ少し持ち上げて様子を窺う。
「嘘を吐くような悪い子が、すぐにご褒美を受け取れると思いましたかな?」
え、もしかしてさっきのか? 思わず言ってしまったが、そう言えばそんなこと言った気がする……程度のレベルなんだが。そうだとして、あれは言葉の綾というか、なんというか。じ、とカゲロウさんを見る。えへへ、と笑って誤魔化せそうな空気ではない。つまりこれは、欲しいならご奉仕が先、ということか。
俺は股を閉じて起き上がると、四つん這いになってカゲロウさん自身に鼻先を近付けた。むわりと鼻の粘膜に纏いつくような、濃い雄のにおい。ちろ、と先端を舐ると、しょっぱいような苦いような、独特の味。それを感じるだけで下半身に熱が集中して、イキそう。これが欲しい。はやく。だけど、手をかけて口に含もうとすると、カゲロウさんに手首を掴まれた。
「ぅ……?」
「足」
「あし?」
「足だけで、奉仕頂けますかな?」
足。あし。……あし? 足か? 足でご奉仕? どういうことだ? 一応確認してみる。もともと修行で鍛えてはいたが、双剣や弓といった機動力と手数重視の武器を好んで使うせいか、ハンターになってから腿も脹脛も更に太くなった気がする。今は濃紺色のインナーに包まれているが、その上からでも筋肉の凹凸や張りが十分見て取れた。この、何処からどう見ても逞しい、しかも洗ってなくて多分けっこう臭い男の足で……何をするって?
どうしていいかわからずに固まっていると、カゲロウさんが正座を崩した。前に脚を伸ばして、俺の魔羅の先っぽ辺りを爪先でちょんとつつく。
「ひぇっ、」
「こうして、足で……ね?」
カゲロウさんの、少し俺とは違うかたちの足が、俺の魔羅を指で挟むようにしながら下から上へなぞり上げる。履いたままの足袋の摩擦は強烈な刺激で、喉の奥から情けない悲鳴が洩れ出た。
「や、やぅ、まって、出ちまうッ」
慌てて止めると、カゲロウさんはあっさり引いてくれた。だけど、その代わりと言っていいのか、恐ろしい提案をされる。
「では、こうしましょう。一つ、足だけで某を満足させてください。二つ、途中お一人で達しないこと。いずれも守ることができた暁には、お望み通りにして差し上げましょう」
「ぅ……でも俺、こんなのやったことない、し……」
もう出したいのに、とポツリ。尻を弄られて何度も達してはいるのだが、中イキばかりで射精には一度も至っていなかった。視線を落とすと、パンパンに張りつめた魔羅が揺れている。既に鈴口からじわりと先走りが滲んでいるし、さっきカゲロウさんに爪先でつつかれただけで出そうになったし……正直、提案された条件はかなり厳しい、と思う。せめて一度出してからなら、と思わず魔羅に手を伸ばすが。
「おや……約束ができないとは、やはり悪い子ですな。よい子になって頂くため、明日、当店の店先に品物と共に並んで貰いましょう。もちろん、その格好で」
「ヒッ……!」
「ふふふ、冗談です」
いや、冗談を言う声ではなかった。これは抵抗すると本気でやられる。
それはさておき、だ。
準備ができていないという理由で挿入を拒否したのはこちらの方だ。カゲロウさんだってあんなになっているし、いつも通りできるならしたいと思っていたのだろうに、それを抑えてくれていた。にも拘らず、手の平返しでやっぱり欲しい、では、誰だってムッとくる。それでもなお痺れを切らさず続けてくれるのだから、こちらからだって奉仕しなければ不公平だ。あと、普通に怖い。怖いのに、全く魔羅が萎えていないことは……気付かなかったことにする。
そろりと足を伸ばして、カゲロウさん自身に「ちょん」と拇趾の先で触れた。カゲロウさんの様子を窺うが、何を思っているのかはてんでわからない。
「その……一日具足で走り回ってたから、すげぇ蒸れて臭いと思いますけど、大丈夫ですか?」
「ほう。では一度確認させてもらっても?」
「な、なんでもないです……」
足の臭いまで嗅がれては、たまったものではない。
俺は観念して、カゲロウさん自身にそっと足をかけた。指先を丸めて、先端に引っ掻けてみる。爪は伸びていないはずなので、傷付けることはないだろうが、手と違って力加減が難しい。結局、そろりそろりと足裏で撫で擦ることしか出来ない。
「くふふふ……くすぐったいですな」
「すみません、よくわからなくて……」
「では、もう少し近くへ」
手招きされて、敷布の上に伸ばされたカゲロウさんの脚を、向かい合って跨ぐような体勢にさせられた。
「此方へ足を。両足で挟むように……そうそう」
言われた通り、両足の土踏まずでカゲロウさん自身の竿を挟み、手でそうするように上下に動かしてみる。カゲロウさんの脚に体重をかけてしまわないよう、手で身体を支えなければいけないが、これなら確かに巨根を上から下まで愛撫できる。
力を入れすぎないよう慎重に挟んで、足裏で抜くように擦る。薄いインナーの生地一枚に包まれただけの足裏は敏感すぎるほど敏感で、カゲロウさん自身の浮き上がった血管や、根本の鱗ののような無数の突起、果てはドクドクと熱く脈打つ様や熱までしっかりと感じる。これで串刺しにされ、中の弁を突き破られて更に奥まで犯され、腹の奥深い深い場所で灼熱の子種を溢れるほど注がれる───想像するだに、息が上がる。
「ん、ぁ、あッ……」
自分の股の間でも雄の象徴が揺れているというのに、同じ雄、更に強い雄によって快楽の前に完全屈服させられるのだ。考えるだけで腹の奥が疼き、腰が跳ねる。
「足の裏、気持ちが善いのですか。愛撫されているのは、某の方だというのに」
こんなに涎を垂らして、と優しく詰るカゲロウさんの視線が向かうのは、ガチガチに勃起している俺の魔羅だ。微妙な力加減を維持するのに集中していたせいもあり、なんだかんだで一度は落ち着いていたはずの、それ。また性懲りもなく、先走りを滲ませ始めていた。よくよく考えてみれば何もかも丸出しのまま大股を開いているわけで、向き合っているカゲロウさんからは全てが丸見えだ。恥ずかしい姿を見られているのだと思うと、後ろもひくんと疼く。
「ん、ふぅ、う……っん、ぁッ」
足の指先で軽くカゲロウさん自身の先端を掠めると、インナー越しでもはっきりとわかる、ぬるりとした感触。カゲロウさんも、俺のこんな拙い愛撫で興奮してくれている。こんな、汚れたまま、汗まみれのままの足で擦られて。滲んだ先走りを爪先に絡め、土踏まずに竿を挟んで扱くと滑りがよくなり、ぬちゅぬちゅと厭らしい音が立ち始める。カゲロウさんの言う通り、愛撫されているのは俺ではないのに息がどんどん上がって、粘膜が擦れるような音と俺の荒い息遣いが重なっていく。
「あっ、あっ、カゲロウ、さ」
「ふふ、これではお仕置きになりませんなぁ」
もういく、いきそう、と俺は泣きそうな声でねだった。だけど、勝手にイッては店先に並べられてしまう。そうこうしているうち、パンパンに張った玉がぎゅうう、と競り上がってきて、熱いものが駆け上がってくるのを直感した。不味い。とっさに根本をキツく握る。
「ゔぐぅっ! い゛ッ、んぎぃっひいィ……~~ッ!」
下半身全部が灼けそうだ。視界にバチバチ火花が飛び散って、急激に白く染まっていく。出そうで出なかった熱が、尾骶骨から脳天まで突き抜けて神経をショートさせる。あ、やばいこれ、脳味噌爆発する。
「お、ぉ、ッぉお゛あ゛ああぁァ~~……ッ♡」
腰が音爆弾を食ったデルクスみたいに跳ねて、獣みたいに吼えながら絶頂した。背が勝手に反り返って、天を仰いだまま舌を突き出して痙攣する。ぶっ飛びそう。だけど、ちんぽの根本を握ったままの手は意地でも離さなかった。少しでも油断したら、白濁が噴き出すに違いない。
「ぅ、あ゛、あ、」
「ふむ……これは“せぇふ”、ということにしておきましょう」
鈴口から滲んだ白濁を見て、カゲロウさんはさも愉快そうだ。未だに絶対の余韻から抜け出せない俺を抱き寄せ、よく頑張りましたね、と褒めてくれた。俺がふにゃ、とだらしなく笑むと、御札を少し捲って口づけ。よしよし、と髪を撫でられて、流れるように髪紐を解かれた。俺は褒めてもらえたのが嬉しくて、カゲロウさんの顔に御札の上からぶちゅぶちゅと口づける。
「んむ、ん、ん……カゲロウ、しゃん……」
「如何なさいましたか?」
「ちんぽ……カゲロウしゃんのデカちんぽ、くだしゃいぃ……♡」
のそのそとカゲロウさんの脚の上から這い降りて、敷布の真ん中で四つん這いになる。自分の指で穴の位置を探って、ぷくりと膨らんだ縁を二本の指で拡げた。にちぃッ……と昼間なら聞くに耐えないだろう、厭らしい音がする。そこに、ひたりとあてがわれる灼熱の楔。期待に震えて、ちゅ、ちゅ、と穴が吸い付くように収縮性する。二、三度ぬるぬると焦らすように穴の周りを行き来していた先端は、やがて、ぐにゅううぅ、と媚肉の輪を押し拡げてきた。あ、あ、と勝手に声が洩れる。そして、ぐぱ、と肉輪が限界まで大きく拡がったかと思った次の瞬間、ごちゅんっ! と一息で突き当たりまで挿入された。
「ん゛あ゛あァッ♡」
「さあ、少し息んで」
あ、これ、もっと奥までぶち抜かれる。興奮で荒くなりそうな息を抑え、ふうう、と深呼吸。息むように下腹に力を入れると、一度抜けていったカゲロウさんがまた腹の中の弁みたいなところを突いた。ん、と息んで弁が弛んだところに、ぐり、ぐり、と熱い先端が擦りつけられる。カゲロウさんが背中にのしかかってきて、挿入りますよ、と耳元で湿っぽく囁かれた。さっきまであんなに落ち着いていたのに、狡い。カゲロウさんの静かな、でも確かな興奮にあてられて、ぶわりと全身に熱が回る。もう我慢できなくて、はひ♡、と馬鹿みたいに上擦った声で返した。途端、俺の腰を掴んでいたカゲロウさんの手にぐっと力が入って、ぐぼんッ! と奥の奥までぶち抜かれる。
「おほお゛ぉッ♡ お゛ひぃィんッ♡♡♡」
ぐるん、と視界が上に半回転する。衝撃で肘から力が抜けて、尻を高く上げたまま敷布に突っ伏した。直後、はち切れそうなほど膨らんでいたちんぽから白濁が噴き出す。二、三回に別れてどぴゅどぴゅと敷布に向けて吐き出し、それでも足らないとばかりにとろとろと零れ、敷布に粘液の水溜まりを作る。
「あー、あー、でちまったぁ……っ♡」
「もう我慢せずとも」
よろしいのですよ、と言いながら、カゲロウさんが腰を引く。あ、これは、やられる。瞬間、尻の肉が波打つくらい強く、腰を打ち付けられた。何度も何度も、最奥を突く。その度に役目を放棄した弁が貫かれて、腹の中でぐぽんっ! ぐぽんっ! と抉じ開けるような音が響く。
「お゛ッ♡ あ゛っ♡ あ゛あァッ♡ なかぁっぐぽぐぽっ♡ んい゛ッ、いい゛い゛ぃッ♡♡」
最奥を突かれるたび、ぴゅ、ぴゅ、と粘度の高い白濁がちんぽから噴き出す。カゲロウさんもそれに気づいていたようで、俺のちんぽの先っぽの方に指が絡んだ。だらしなく零れ続ける白濁を出し切らせるみたいに、ぐりぐり、ごしゅごしゅと扱かれる。
「あ゛あァッ♡ あっぉ、お゛ぉッそれ、それだめ♡ ちんぽぐりぐりだめ、だめぇ♡」
俺は痛いやら気持ちいいやらで訳がわからなくなって、獣みたいに吼えながら悶絶する。
「あ゛あぉっ、お゛ッ♡ んおぉっまって、まっ、お゛ぅッ♡ お゛っ♡ でる、でるッ、なんかでるうゔゔ~~……ッ♡♡」
こしこしと先端を擦られて、何かが下腹の奥から込み上げてきて───ぷしゃあああっ、とちんぽの先っぽからさらさらとした液体が迸った。無色透明の液体は、既に白濁でべとべとになっていた敷布を、更に酷く汚していく。
「あ゛あ゛ァ~~~ッ♡ でちゃッあっ、ああ゛ぅ、しょんべんでちまううぅっ♡ ばかっ、カゲロウしゃんのばかぁっ♡ まってっていったのにいぃッ♡♡」
敷布に拡がる染みを見て、やってしまったという恥ずかしさやら、気持ちよさやらで訳もわからないまま、子供みたいに舌足らずでカゲロウさんを責める。その間も、ぷしゃぷしゃと液体は噴き出て止まらない。
「やらぁっ、アッ♡ しょんべんっ、しょんべんとまんねぇよぉ……♡」
「これは御小水とはまた違うものですよ。気持ちが善いと出るものです。お漏らしではありませんから、安心してください」
安心していいのかどうかは知らないが、カゲロウさんの言葉は優しい。優しいが、責める手は一切緩めない。俺の腰をがっちり掴んだ手は爪が食い込むほどで、小刻みに腰を突き上げては、ぐぽぐぽ、ぱんぱんと腹の奥を責めまくってくる。
「お゛っあ゛ッあっあっあ゛ッ♡ だめ、んおっおッお゛あ゛ぁッいく♡ い゛っひィッやだぁっやっあ゛ァッ♡♡ おくやだああぁンッ♡♡」
あまりに強烈な刺激に耐えられなくなりそうで、やだ、やだと思わず口走った。そうすると、カゲロウさんがゆっくりと最奥から抜けていく。ぬぽんっ、と腹の中の弁から先端が抜けて、んお゛っ♡ と声が洩れてしまった。
「奥はお辛いですか? なら、もう少し浅いところを……」
そう言って、カゲロウさんは腹の中の弁がある辺りをちんぽで行き来し始めた。くぽ、くぽ、ととうに陥落してゆるゆるに弛んでいる肉弁を前から後ろから擦られて、強過ぎる快感で腰が面白いほどびくんびくん跳ねる。いや、待ってそれ、死ぬほど気持ちイイ、から───
「んおぉっ♡ おほお゛ぉんッ♡ それだめ、だめぇッ♡」
「ふむ、これも駄目ですか」
駄目、なんて口走ってしまっているが、ほとんど意味なんかない。事実、胎内の媚肉はぎゅうぎゅうとカゲロウさんのちんぽを締め付けて、行かないで♡ もっと奥♡ と訴えている。そんなことはカゲロウさんが一番わかっているだろうに、無視してちんぽを抜こうとしている。俺はそれに追い縋るようにして、カゲロウさんの腰に尻を押し付けた。
「あっ、ア、や……ぬかないでッ」
「しかし奥は嫌だ、と」
「ゔっ……ちが、ちがぅ、やっぱおくまでほしいっ、ほしいれひゅっ♡」
だから早く、と腰を揺らす。カゲロウさんは、そんな浅ましい俺を無言で見下ろしていたが、不意に手が動いた。
───ぺちん!
「あひっ♡」
カゲロウさんは手を振り上げると、俺の尻目掛けて結構強めに振り下ろした。肌同士がぶつかる弾けたみたいな音がして、ついでに俺の変な声が重なる。
「また、嘘を言いましたな?」
カゲロウさんが俺の背にのしかかるみたいに身を屈めて、耳元で囁く。その間もぺちん、ぺちんと尻を叩く手は止めない。どこか愉快そうにも思える声や仕草。もう色々おかしくなっている俺は、当然のようにそれに乗っかった
「そう、そうれしゅ♡ おれぇっ、またウソついちゃった♡ だからぁ、いっぱいいじめてくだひゃい♡♡」
「ふふ、悪い子ですね」
カゲロウさんは俺の背中を押して上半身を完全に敷布に押し付けると、いったん浅いところまで抜いていたちんぽをまた奥までぶち込んだ。ゆるゆるになっていた肉弁も突き破って、ずっぽり奥まで。
「んぉごッッ♡♡ ぉ、お゛……~~~ッッ、ッ♡♡♡」
中イキでぎゅんぎゅん腹の奥が締まって、カゲロウさんの形をとろとろの肉壺で感じてしまって、立て続けにもう一度イッた。挿入だけで連続イキがキまったのに気を良くしたのか、カゲロウさんは心なしかいつもより弾んだ声で、動きますよ、と。とちゅ、とちゅ、と最奥の突き当たりを突き上げ始める。
「んん゛ぁ♡ あッあ、あ゛、あ゛、お゛ッおくぅっ♡」
「こうですかな?」
「んひい゛ィッ♡♡ それだめ、らめぇ♡」
ごちゅ、と強めに突かれて、またも心にもない「駄目」が口から飛び出てしまう。また嘘を言って、とカゲロウさん。
あ、これマズった。めちゃくちゃにされちまう。
「ふぎゅッ♡♡ あ、ぁ、ぉ、んおぉあ゛ァッ♡ あ゛あぁぅんッ♡」
ごちゅ、ごちゅ、と何度も。何度も何度も一番感じる結腸の奥を擂り潰される。もともと開きっぱなしだった口から涎がダラダラ溢れて、涙も鼻水も壊れたみたいに噴き出して、気持ち良すぎて、何がなんだか。
「ほお゛ぉッ♡ ごぇ、ごめんなしゃ、んぅあ゛ッ♡ おッ♡ ひも、ひもちいい、れしゅ♡♡ またウソついちゃっ、たああ゛ぁッ♡ ゆるして、ゆぅしてくらひゃいい゛ぃィッ♡♡♡」
「駄目です、赦しませんよ」
「あ゛~~♡ あ゛あ゛ぁ~~~ッッ♡♡ おくッずぼずぼっ♡ ずぼずぼされてりゅぅうっ♡♡ あっあッ、あ、お、お゛おぉっん゛お゛おぉいくッ♡ いぐ♡ ちんぽでずぼずぼされていぐゔうぅッ♡♡♡」
ばちゅ! ばちゅ! どちゅ!
尻を左右に思い切り割り開かれ、敷布についた膝が浮き上がりそうなほど激しく突かれる。尻も腹の中もちんぽも、全部溶けそう。視界のあちこちで白い火花が飛んで、自分でも何だかわからない叫び声を上げて、また敷布に向かって白濁を撒き散らした。それでもカゲロウさんの責めは止まらない。俺は俺でイッたことなんてお構いなしで、もっともっと奥にほしくて、カゲロウさんの動きに合わせてめちゃくちゃに腰を振る。またイく、と思ったその瞬間、ばすんっ‼ と一際強く腹の奥を抉られた。
「おごぉっ♡ んお゛あああぁ……ッ♡♡ ……~~~ッッ♡♡♡」
結腸の更に奥に向けてごぷごぷと熱い迸りを注がれて、もう何回イッたかわからないってくらいイッた。全身がぶるぶるがくがく震えて、視界も白くなったり赤くなったりして、このまま死ぬのかなと思うと同時、ふにゃりと力が抜けてしまった。どうにかこうにか下半身を支えていた膝が役目を放棄して、色んな液体でベチャベチャの敷布の上に崩れ落ちる。
「おっと、」
だけど、カゲロウさんは俺の腰に後ろから腕を回して支えてくれた。ああ、やっぱりカゲロウさんは優しいなあ、幸せだなあ、なんて遠退いていく意識の中で思っていると、ただでさえぐにゃぐにゃだった下半身から更に力が抜けた。イきまくってぷらぷら揺れていたちんぽの先から、ぷしゃあああぁ……と何かが漏れる。あれ、なんだこれ。
「おや……今度こそ本当にお漏らしですな」
ああ、そっか。
もう下半身の感覚が馬鹿になっていて、今こうしているのも気持ちいいってことしかわからない。
まあ、気持ちいいのならそれでもいいか。
あの後。
色々な液体でびしょ濡れになってしまった敷布の上ではまぐあい続けられず、カゲロウさんの部屋に備え付けの風呂場に移動した。移動するのも身体を洗うのも何もかも、魔羅を尻に入れたまま持ち上げられたり運ばれたりして済まされた。身体も髪も綺麗になって、仕上げとばかりに風呂場でもう一度種付けされて、へろへろになって座敷に戻った。俺は何のために風呂に連れていかれたんだろう。考えても仕方ない、か。
風呂から戻ると、いつの間に宿の人が来たのか、敷布は新しいものに交換されていた。あの、口に出すのも憚られるような液体でとんでもない汚れ方をしていただろう敷布を見て、宿の人はどう思っただろう。まあ、これも考えても仕方ない。仕方ないが、その後真新しい敷布の上でもう一度抱かれて汚す羽目になったので、申し訳なさだけは多分にある。
ちなみに、風呂に入る時に当然脱いだインナーは、その後座敷で抱かれる前にわざわざまた着せられた。わざわざ。
流石に、空が白み始める頃にはお互い満足した。御札のせいで確かめられないが、あの布一枚向こうのカゲロウさんのご尊顔は、さぞや艶めいていることだろう。きっちり着物を着込んで、座布団の上に正座してのんびり茶を啜る姿からも、満ち足りた様子が伺える。対して俺はといえば、汗まみれ白濁まみれのインナー姿のまま、ぐちゃどろになった敷布の上にぐったりと転がっていた。もちろん、尻も何もかも丸出しのままだ。股引きは最初からなかったからな。
「カゲロウさんが、こういうの好きだったなんて予想外っす……」
「何の話ですかな?」
「何のって……汗まみれ埃まみれでムレムレのくっせぇ足でコスられたり、洗ってないきったねぇ穴弄って指とか諸々突っ込んだりすることが好きだったなんて、ってことですよ……」
「ふふふ」
「いや、余裕の笑み、みたいなので誤魔化さないでください」
カゲロウさんのすけべ、と追い討ちをかけるが、どこ吹く風で茶を啜る様を見せつけられ、口撃は早々に諦めた。敷布の上でコロンと転がって横向きになり、カゲロウさんに背を向けてやる。が。
「んぇ……」
「如何なさいましたか?」
「いっぱい出てきた……」
体勢を急に変えたせいか、腹の中に出されていた、何回分かを数えるのも嫌になるほどの子種が流れ出てきた。ぶぴゅ、と恥ずかしい音がして、顔に熱が集まる。背を向けてはいるが、どうせ耳まで真っ赤になっているのでカゲロウさんにはバレバレだろう。案の定、くすりと笑う声。
「……もうっ、笑い事じゃないですよ。俺今回はけっこう頭にきてるんすから」
もうカゲロウさんなんか知らないです、と子供みたいな文句を並べて、布団に顔を埋めて黙りを決め込む。どうやらこれは少し刺さったようで、カゲロウさんの笑い声が聞こえなくなった。
「そうでしたか……それがしもつい調子に乗ってしまいました、申し訳ない……」
少しして、本当に申し訳なさそうな声。たまには俺だって怒るんだぞ、と主張すると同時……そんな声で申し訳ないなんて言われたら、なんだかこちらが悪いように思えてくる。実際のところ、俺だって途中から理性をぶっ飛ばしてノリノリになっていたわけだし、お互い様と言えなくもないわけで。
「べ……べべ別に? 許さないって言ってるわけじゃないですけど?」
「では、某は何をすれば赦して頂けますかな?」
「何って…………ええと、じゃあ一緒に風呂入って、背中流して、それから髪洗って乾かしてください。あとは。えーと……」
「あとは?」
「え、ええ? ……あっ、そうだ! うさ団子! うさ団子奢ってください! 五本、いや十本! 昨日晩飯食いそびれたし!」
ガバッと身を起こして言う。と、最高のタイミングでぐう、と腹の虫が鳴いた。またカゲロウさんに笑われてしまって、恥ずかしくて俯くしかない。今度は座ったままで背を向けると、するりとカゲロウさんの腕が首筋に回ってきた。後ろから、きゅっと抱き寄せられる
「それで、すけべなそれがしを赦して頂けますかな?」
「う……『許さない』なんて、言うわけないと思ってるでしょ」
いいですよ、これでゆるしてあげます。
振り向きざま、お札をすこし捲って薄い唇に吸い付いた。
その時の俺の顔がデレデレに弛んでいたことなんて、お札の向こうからでもきっとお見通しなんだろう。