シマハマツボ

Alaba picta (A. Adams, 1861)

レア度:めったに見ない

形態:殻幅2mm、殻高6mm程度の小型巻貝。表面はなめらかである。貝殻は半透明な白色で、褐色の細い横縞が周回しているが、それを華麗に避ける褐色の縦縞が不連続にある。軟体部にもよく似た模様がある。

生息域:本州から九州、中国大陸に分布し、潮間帯から水深50mの藻場に生息する。本種はこれまで函館湾を含め北海道からは報告されていないが、対岸の陸奥湾からは報告されているため (石山 1970)、流れ着いて成長したものと考えられる。

生態:アマモ場やガラモ場における葉上動物 (phytal animal) の代表種。雌は葉や茎に卵塊を渦巻き状に付着させる (網尾 1963; Kulikova et al. 2003)。雌は繁殖期の間に3–5個の卵塊を産出するが、一つの卵塊に含まれる卵嚢数は50000–70000個であり、卵数は100000個に達する (Kulikova et al. 2003)。子はプランクトンとして産まれ、20–22日ほど浮遊する (Kulikova et al. 2003)。沿海州では7月後半から8月後半に卵塊が、7月中旬から9月中旬に浮遊幼生が確認されている (Kulikova et al. 2003)。日本での卵塊の確認時期は3–6月に集中しているが (波部・菊池 1960; 網尾 1963; 倉持 2001a)、複数の季節級群が存在するため (倉持 2001a, b)、秋頃にも産卵しているか、どこかから流れ着くと考えられる。ノコギリモクやマクサ上では加入後に大型にならないまま消失するパターンがみられるため、着底場所が生息に適さないと成長できないか、アマモ場のような別の場所に移動していると推測されている (向井 1976; 倉持 2001a, b)。

2021年10月3日 りった
2021年10月3日 りった

引用文献:

  1. 波部忠重・菊池泰二. 1960. 天草臨海実験所近海の生物相 第1集. 軟体動物. 九州大学臨海実験所, 熊本.

  2. 網尾勝. 1963. 海産腹足類の比較発生学ならびに生態学的研究. 水産大学校研究報告, 12: 229–358.

  3. 石山尚珍. 1970. 浅虫・函館・恵山周辺における貝類の生息環境の比較についての研究. 地質調査所月報, 23: 165–186.

  4. 向井宏. 1976. ガラモ葉上の貝類について. 貝類学雑誌, 35: 119–133.

  5. 倉持卓司 1998. 三浦半島におけるアマモ場の貝類相一出現種の季節変化とシマハマツボの成長. 潮騒だより, 9: 2–6.

  6. 倉持卓司. 2001a. 相模湾のアマモ葉上におけるシマハマツボの成長と出現個体数の季節変化. ちりぼたん, 32: 19–23.

  7. 倉持卓司. 2001b. 相模湾のマクサ葉上にみられる貝類群集の季節変化と優占種の成長. 横須賀市博物館研究報告 (自然), 48: 23–34.

  8. Kulikova, V. A., Omel'yanenko, V. A. & Aizdaicher, N. A. 2000. Reproduction and larval development of the gastropod Alaba vladivostokensis in Vostok Bay, the Sea of Japan. Russian Journal of Marine Biology, 26: 367–369.