キサゴ

Umbonium costatum
(Valenciennes in Kiener, 1838)

レア度:いつでも見られる

形態:貝殻は碁石のような扁平な形状で、殻径25mm程度になる。上面には5本前後の溝が周回しているが、触っても滑らか。底面も平滑で、中心部は滑層(ピンク色の部分)に覆われて、まるで溶接されたかのような違和感がある。滑層を除いて、表面は密にジグザグの縦縞が表れる。色彩変異もあるが、函館湾の個体群は色彩が安定している。なお、摩耗するとエナメル質が露出して、美しい光沢を放つ。
軟体部はクリーム色で、匍匐中の外見はかたつむりに近い。足は扁平で幅広く、長く後方へ伸びる。上足前方には筒状に丸まった左頸葉 (=入水管、入口は房状でフィルター機能をもつ) と右頸葉 (=出水管) があり、海水を出し入れするほか、上足後方には4対の上足突起がある。頭部にはつぶらな眼があり、眼柄によって突出している。あくまで眼柄が伸びたものであり、かたつむりの大触角とは相同ではなく、眼を引っ込めることはできない。本種の触角は、眼の下から1対伸びている長いヒモ状のもので、縞模様に彩られている。

生息域:北海道石狩湾・函館湾以南~九州、韓国に分布し、潮間帯下部~潮下帯の砂底に生息する。七重浜では、海岸線に平行な帯状分布を形成している。0歳貝は汀線から320mほど沖合の水深4m以浅の場所に生息するが、1年で徐々に沖合に移動し、2歳以上の個体のほとんどは320–480mほど沖合の水深6–7mの場所に生息している (野田 1991)。

生態:潜砂性があり、海底では開口部を上にした仰向け状態で水管・触角だけを砂から出している。堆積物食者であると同時に懸濁物食者でもあり、水中や海底の有機物を食べている (Noda unpub. in Noda & Nakao 1996)。ヒトデ類・タマガイ類などの捕食者が体表に接触すると、足を伸長させて「とんぼ返り」し、それを何度も繰り返して距離をとる (土肥 1974, )。雌雄異体で、雌は13か月 (殻径8–14mm)、雄は10か月 (殻径8 mm) で性成熟する (Noda et al. 1995)。繁殖期は6–7月と9–10月の2回あり、抱卵・放精を行ったあと、生まれた子は5日間プランクトンとして浮遊する (Noda et al. 1995)。稚貝の加入量は年変動が激しく、数年に一回の頻度で大規模な加入が生じる (Noda & Nakao 1996)。そのような年級群は常に本種の齢組成において優占しており、函館湾個体群の存続を担っている (Noda & Nakao 1996)

その他:巻きと直角に入る「成長休止帯」を数えることで年齢が推定できる。成長休止帯は1年に1本、6–8月に形成される (Noda 1991)。

貝殻七重浜にたくさん打ち上がるため研究室では実験用のヤドカリの宿として重宝されている。ただし、本種の貝殻に入ったヤドカリを本種が生息しない葛登支に放すと、研究上のノイズになってしまうかもしれないので、できれば避けたい。
また、飼育水槽ではタニシ的な存在として一役買っている。水槽内で激しく動き、ひっくり返った際には足をいっぱいに伸ばして振り回すことで起き上がろうとする ("Righting" 土肥 1974)。

2021年3月 大友
2021年3月 大友
2021年4月 藤本目触角水管×2
2021年6月 とみよし
2021年8月21日 りった
2021年10月 とみよし虹色

引用文献:

  1. 土肥昭夫. 1974. ヒトデ (genus Astropecten) の摂餌生態 (予報) 1. キサゴ Umbonium costatum (Kiener) のヒトデに対する逃避行動. 日本ベントス研究会連絡誌, 7–8: 31–42.

  2. Noda, T. 1991. Shell growth of the sand snail, Umbonium costatum (Kiener) in Hakodate Bay. Bulletin of the Faculty of Fisheries-Hokkaido University, 42: 115–125.

  3. 野田隆史. 1991. 函館湾におけるキサゴ (Umbonium costatum (Kiener)) の個体群構造と分布. 北海道大學水産學部研究彙報, 42: 126–135.

  4. Noda, T., Nakao, S. & Goshima, S. 1995. Life history of the temperate subtidal gastropod Umbonium costatum. Marine Biology, 122: 73–78.

  5. Noda, T. & Nakao, S. 1996. Dynamics of an entire population of the subtidal snail Umbonium costatum: the importance of annual recruitment fluctuation. Journal of Animal Ecology, 65: 196–204.