オオヨツハモガニ
Pugettia ferox
Otsuchi & Kawamura, 2019
レア度:いつでも見られる
形態:長らくヨツハモガニ P. quadridens の地理的変異とされていたが、近年分類学的再検討がなされ、新種として記載された(Ohtsuchi & Kawamura, 2019)。モガニの仲間では最大で、最終脱皮後の甲長は4㎝程度になる。近縁なヨツハモガニ、ヨツハモドキ P. intermedia と異なり甲背表面に明瞭な顆粒が分布し、頬部肋線が肝域の突起と同程度に位置する。成熟オスのはさみの歯列、第一腹肢の形態で同定するのが最もわかりやすい。また近縁2種とは分布域が異なり、北海道に分布するのは本種のみと考えられるため、葛登支の個体は基本的に本種と考えられる。
生息域:北東アジアの広い海域と日本沿岸に広く分布するが、日本海側の富山湾以北、太平洋側の福島県いわき以北には本種のみが分布する。葛登支では小型個体は海藻中、大型個体は転石帯にいる傾向にある。
生態:本種は岩礁藻場に最も優占するカニ類。生活史初期にはデトリタス食性を示すが、成長に伴い肉食性の強い雑食性になる。室内実験でテナガホンヤドカリの殻を割って捕食する様子が観察されている(松尾ら, 2015)ほか、エゾアワビやウニ類の生活史初期の捕食者と考えられている(白石, 1997)。一方で、東北以南では同所的に分布するヨツハモガニは主に藻類を摂餌していることが示唆されている(Sato & Wada, 2000)。藻類を摂餌するだけでなく、背甲表面の鉤状剛毛につけて擬態する。攻撃性は弱く、ヒトを挟むことはあまりない。かわいい。
その他:市販のカットわかめで飼育することが出来る。米粒や魚肉ソーセージを与えると食べる。頭にもつける。かわいい。食べられないこともないが、あまりおいしくはない。
引用文献:
松尾謙人・石原千晶・和田哲, 2015. 右鋏脚の自切によるテナガホンヤドカリの捕食者回避行動. Cancer 24: 21-23.
Ohtsuchi N. and Kawamura T., 2019. Redescriptions of Pugettia quadridens (De Haan, 1837) and P. intermedia Sakai, 1938 (Crustacea: Brachyura: Epialtidae) with description of a new species. Zootaxa 4672: 001-068.
Sato M. and Wada K., 2000. Resource utilization for decorating in three intertidal majid crabs (Brachyura: Majidae). Marine Biology 137: 705-714.
白石一成, 1997. 肉食動物のキタムラサキウニに対する捕食に及ぼす水温の影響. 水産増殖 45巻3号: 321-325.