芝公園(東京都港区)
~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~
芝公園、と一口に言っても、実はあちこちに点在していると知ったのはほんの数時間前のことだ。
調べたのは、『彼』が通りざまに「芝公園、19時」と囁いたから。数秒後には同行者と角を曲がってしまい、彼に聞き返すことはできなかった。
少し前から彼に誘いをかけていた。
食事に。季節イベントに。
でも未だに色よい返事をもらえたことはなく、さてこれは作戦変更が必要か、と思案し始めていたところだった。
自席のPCに表示された、霞が関から芝公園にかけての地図を凝視する。
さて、『彼』の言う「芝公園」とはどこのことか。
ちっ。
「舌打ちではなく、誉め言葉が欲しいな」
「なんで、ここだと思ったんです」
「君なら、この光景が好きそうだなと思ったから」
そう言って、赤井は背後を振り返った。
100mほどの直線遊歩道。
その延長線上、すでに暗くなった夜空に、すっくと赤と白のタワーがそびえ立っている。
「シンボルタワーだろう、東京の」
「……そうですね」
「ここと、あと伊能なんとやらの記念モニュメント、そちらも君が好きそうだなとは思ったが」
「……」
「この時間だからな、こちらかと」
む、と口をへの字に曲げていた降谷は、おもむろに歩き出すと、赤井の脇をすり抜けて遊歩道の奥に向かって歩を進める。
振り返った赤井の視線の先で、東京タワーを背にした降谷もこちらを見ていた。
「次は負けないからなっ」
勝気な表情の裏で、声に楽し気な響きを聞き取ったのは気のせいか。
次、とは、次があるのか。
負けない、ということは今夜は俺が勝ったのか。それ以前に、今夜の誘いは勝負だったのか。
なにやら可笑しくなって、ふっと笑えば、降谷が不審げに口を結ぶ。
その彼の隣に並ぶべく、赤井も足を踏み出した。
~~*~~*~~*~~*~~*~~*~~
芝公園は、その東の北端に「御成門」駅、東の南端に「芝公園」駅があり、その距離ざっと800Mほど。
どちらを選ぶかで、目的地点への到達はずいぶんと変わります。
我が家の猫さんぽは車での移動なので、公園外周道にある時間制駐車スペースを利用。日曜日午前中の早い時間なら、まぁなんとか停められます。
「もみじ谷」がある、東京タワー崖下のブロック(19号地)もよく探検しましたが、こちらはタワーに近いためか停めづらいことも多かった。観光客っていうよりも商業車の休憩とかで。
なので、プリンス パークタワー東京の傍らの、「梅園」があるブロック(1号地)を利用することが多くなりました。
「梅園」の傍らには小山(芝丸山古墳)があり、その高さは10Mほど。3階建てくらいですね。
うちの子たちが特別なのかもしれませんが、猫はどうも崖を登るのが好きみたいです。歩きやすい遊歩道の脇に崖があると、ますそちらへ行こうとします。
いや、その角度は、ちょっと。
ひるんだ一瞬の隙に登り始めてしまうので、大慌てで付いていくしかなくなります。
もうね、人目なんか気にしちゃいられない。
あの、観光客も多い芝公園のど真ん中で、公園管理の人たちだってそうそう登らないんじゃないか、という急こう配を、ぴんと張ったリードだけは離さないようにしながら、へっぴり腰で登っていく。足を踏ん張れるところがあるかどうか。時には手をついて。
首都東京のど真ん中で両手に土をつけて崖登りをすることになるなんてね。おネコさまがいなかったらしてないでしょう。