タイトル:南国なリビング
作家 :片野 莉乃
画廊 :美の起源
展示会 :日本画NEOジェネレーション
購入日 :2020年8月1日
サイズ :F3
技法画材:日本画
絶妙という言葉が似合う作品である。一旦この作品を見れば、殆どの人は、片野氏の別の作品をすぐに見分けることができるだろう。それくらい特徴のある作風と言って良い。①俯瞰した構図、②色彩に満ちた点描、③刺激的で豊かな色彩、④岩絵具のマチエール、⑤滲むような色彩の塊による造形、といった特徴を上げることができる。これだけの個性を盛り込めば、普通はそれぞれの長所が失われ、喧嘩し、見苦しい絵画になってしまうはずだが、調和を生み、むしろ欠点を補っているように感じられる。この絶妙さがこの作品の最大の魅力である。
まず①俯瞰した構図は目に留まりやすいという利点がある。飛行機から見下ろす景色は思わす写真を撮りたくなるし、タワーや展望台が各地にあるのは、通常は目にすることができない高い景色に人は惹かれてしまうからであろう。しかし、真上から俯瞰した構図の絵画はあまり見かけないように思える。緩やかな傾斜をつけて眺めた方が形は捉えやすい。部屋の中を真上から見るには幽霊にでもなった気分で鑑賞することになってしまう。ところが、この作品では真上から部屋を眺めることに違和感がない。②から⑤の強い個性と合わせることによって、大胆な視点を安定化させている。
この作品の最も大きな特徴は、カラフルな点描である。点描といえばスーラを思い浮かべるが、筆触分割の極致として辿りついた技法で、色彩も形も全て点描で表現される。そのため、作品から一程度の距離をとって鑑賞する必要があり、間近では目が痛くなってしまう。ゆえにルノワールから酷評されている。また、水玉と言えば、草間彌生が有名であるが、これは一種の文様として生かしており、水玉は単色である。この「南国なリビング」は、下地の色と相まってドットが散りばめられており、いわゆる点描画でもなければ、ドットが全体として色彩を構成し、単純なアクセントでもない。主役のようで主役でない特異な趣向でドットが活用されている。意外なことにこれだけ細かいドットが打たれているのに近づいて眺めても疲れず、嫌な感じがしない。それどころか柔らかさ、優しさ、温かみを覚える。④岩絵具のマチエールとも関連するが、油絵やアクリルに比べて、艶や発色が適度に抑えられ、岩絵具の特性を活かしている。この作品の華やぎは、下地とドットの色彩を微妙に調整していることの成果であり、卓越した色彩感覚と地道な作業の賜物と言えよう。
刺激的で豊かな色彩は、遠目からでも非常に映える。しかし、これだけ強い色を合わせるのは難しい。また、絵画の中心となるモチーフの彩度を高めたり、背景は薄くし、強弱をつけると個性が失われてしまう。そこで、パッチワークのように全体の構図を調和させることで解決を試みている。この作品は、床、ラタンソファ、クッション、観葉植物がバランスよく配置されている。右上から対角線上に画面を大きく分割、さらに4つのクッションを斜めに置き、安定した形になっている。ソファと植物の棚に補助線を引くと画面の上部1/3程度で区切ることもできる。そのため、遠目からでもデザインとして整っていることがわかる。ラタンソファが南国なリビングを引き立てている。床やクッションからは強い日差しを感じ、ラタンソファは風を意識させる。ラタンソファが夏に似合う家具ということもあるが、ドットに対する細かい線、唯一の白ということがより涼しさを演出している。植物柄のクッションも夏らしい。また、俯瞰的に見下ろす構図では、丁度クッションは正面を向くことになるため、特異な視点を利用し、モチーフを適確に配置しているのも評価できる。四角形のクッションと対をなして、丸型の植木鉢とタイルを描いていることでバランスが取られていることにも気がつくだろう。
岩絵具の性質を上手く利用し、温かみのあるマチエールを生み出しているのも特徴である。真上からの視点は平面になりがちだが、クッションは、胡粉を使った盛り上げにより立体感が生まれている。また、近くで観察すると植物が置かれている棚など岩絵具の鉱物特有の煌きを強く感じることができる。銀色系統の箔のラインもアクセントとして良い。正面から眺めるだけでなく、角度を変えて観察するとこの作品の特徴をより感じることができる。観葉植物のとなりあるタイルを敷き詰めたモザイクも面白い。
⑤滲むような色彩の塊による造形は、観葉植物によく現れているが、片野氏の他の作品に共通する特徴である。この作品の観葉植物では、青、緑、赤、黄緑といった塊が地図の国境線や等高線のようなイメージになって、全体の形が構成されている。床も同様にいくつかの色彩のプレートがパズルのように組み合わさり、ドットが重なることによって一つの床になっている。本来の色や形、光の当たり方を基調としつつ、作者の感性によって物の形を見直し、再構成しているものと考えられる。
「南国なリビング」を飾るだけで、無機質な部屋が一変するエネルギーに満ちた絵画である。(2021年3月7日)