透明人間と時間を止める人間の話

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(役表)

A不問:

B不問:

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A:あーあ……


B:あーあ。


A:暇だなぁ……


B:暇だなぁ。


A:どうすっかなぁ……


B:どうすっかなぁ。


A:……真似すんなよ。


B:真似すんなよ。


A:ふざけんなって。


B:ふざけんなってー。


A:……勝手にやってろ。


B:勝手にやってろー。


A:……なんなんだよ!


B:勝手にやってろって言うから。


A:イラつくから。


B:気にしなきゃいいじゃん。


A:無理な話だろ。


B:それもそうかも。


A:ったく……

  そんな事してる場合かよ。


B:なんで?


A:自分たちの状況を見直してみろよ。


B:僕は別に慣れてるもん。


A:俺は慣れてないの。


B:そうなの?


A:当たり前だろ。


B:そんなこと言われても。


A:……まあいいけど。

  いや、よくねえけど。


B:どっちなのさ。


A:うるせえな、ちょっとは考えさせろ。


B:……透明人間ってさ。


A:あ?


B:透明人間。


A:なんだよいきなり。


B:どうせ暇なら、くだらない話しようよ。


A:くだらないって分かってる話できるかよ。

  ていうか、考えさせろって今言っただろ。


B:ダメ。


A:なんで。


B:なんでも。


A:意味分かんねえ。


B:じゃあ、これは僕の独り言ってことで。

  透明人間ってさ、実際なってみると、どんな感じなんだろうね。


A:そりゃあ、透明なんだから、好きなこと出来るだろ。


B:独り言だよ?


A:……お前むかつくな。


B:それはどうも。


A:(ため息)……いいよ、付き合ってやるよ。

  で? 透明人間がどうしたって?


B:透明人間ってさぁ、どこまで透明なの?


A:……質問の意図が読み取れないんだけど。


B:いや、だってさ?

  透明人間って聞くと、もう誰にも見えないわけでしょ?


A:透明だからな。


B:でもさ、実際の透明って言ったらどうよ?

  見えるじゃん?


A:……どういうこと?


B:だから、透明っていうのは、「透けてる」ってだけで、透過させてる本体も、ちゃんと見えてるじゃん。


A:例えば?


B:ガラスとか。


A:……ほんとに綺麗なガラスは、ぱっと見ただけじゃ見えねえよ。

  つまりは、そういうことだろ?


B:うーん……

  じゃあさ、透明人間に、透明人間は見えるわけ?


A:……は?


B:だから、透明人間本人には、透明になってる透明人間である自分は、見えるのかって話。


A:見えるんじゃねえの?


B:なんで? 透明だよ?


A:……そういやそうだな、考えたことなかった。


B:他は全部見えるのに、自分の姿は見えないって、相当不便だよね。


A:まあなあ。


B:じゃあさ、透明人間って、服着てるの?


A:着てるだろ。


B:なんで?

  透明人間本人はともかく、服着た状態で透明なら、どうやって服まで透明にしたの?


A:……そういやそうだな。


B:でしょ?

  だから、透明人間が、完全に誰にも見えない状態で大通りを歩こうと思ったら、

  完全に全裸じゃないといけないわけだよ。

  露出狂だよ、変態だよ!


A:……確かに、変態だな。


B:でもさあ、透明人間って、かわいそうだなーとも思うんだ、僕は。


A:なんでだ。


B:だって、なにをしても、誰にも気付かれないんだよ?


A:いいことじゃないか。


B:いいことじゃないよ。

  そんなの、いないのと一緒だよ。

  寂しすぎるでしょ、そんなの。


A:……確かにな。


B:だから、僕はこれから、透明人間を透明人間って呼ぶのをやめる。


A:なんて呼ぶんだよ。


B:無人間。


A:は?


B:無人間。

  だって、いるって分かんないんだから、いない事と一緒でしょ?

  だから、透明じゃなくて、無人間。


A:お前、割と酷いな。


B:そうかなあ。


A:お前ってさ、無意識のうちに他人を傷付けるタイプだろ。


B:さあー。

  仮にそうだとしても、無意識だから分かんないし。


A:あーそうだな。

  全く……真面目に聞いた俺が馬鹿だったよ。


B:なんでさー。

  自分を見直すきっかけになったでしょ、無人間の露出狂さん?


A:それやめろ!

  ていうか、俺は服着てるだろ!


B:あはははっ、冗談冗談。


A:ったく……

  ……あ。


B:なに?


A:透明人間と、似たようなジャンルあるぞ。


B:なにそれ?


A:時間を止める人間。


B:あー……


A:どっちも、あっち系のビデオじゃ鉄板だよな。


B:うわー、スケベー。


A:男なんだから仕方ねえだろ。


B:潔いねー。

  で、時間止める人がどうしたのさ。


A:時間止める人ってさあ、止めてる間は、透明人間以上に、好き放題出来るわけだろ?


B:そうだね。


A:でもさ、時間軸ずれるだろ。


B:時間軸?


A:たとえば、1分時間を止めたとするだろ?


B:うん。


A:そうすると、他の人より1分余分に時間を過ごしてるわけだから、

  他の人より1分、余計に年をくうわけだ。


B:そうだね。


A:そうするとさ、その時点で、それまで同じ時間軸を過ごしてた人たちとは、一線を画しちまうわけだろ?

  なんか、置いてきぼりをくらった、みたいな気持ちにならないか。


B:どっちかと言うと、置いてきぼりをした側だけどね。


A:なんかこう……嫌な気持ちにならないか?


B:少なくとも、今まではならなかったねー。

  これからなるかもね。


A:お、おう……なんか、すまん。


B:いーよ、別に。

  僕もさっき、ひどいこと言ったし。


A:そうかよ。

  ……で、さあ。


B:ん?


A:どうすんだよ、これから。


B:さあー。


A:お前がやったことだろ。


B:僕は時間の止め方は知ってるけど、戻し方は知らないもーん。


A:無責任だな……


B:そうかなあ。


A:俺まで巻き込むなよ。


B:巻き込みたくて巻き込んだわけじゃないもん。


A:そうだとしても、結果がこれだろ。


B:じゃあ、時間が動き出したら、今度は僕を透明人間にしてよ。

  それでおあいこでしょ。


A:やり方知らねえよ。


B:あはは、冗談冗談。


A:……もう少し、話してるか。


B:そうだね。


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