赫キ月ノ沈ム夜

(登場人物)

・アルカ=ティペーシェ:♀

アルドの妹で、真祖の吸血鬼。

愛する者と契りを交わすことで、それを自身と同じ真祖に進化させ、

それ以外の者を屍肉(しにく)喰いに退化させる能力を持つ。

日光も十字架も銀の弾丸も効かない、最狂のブラコン。


・アルド=ティペーシェ:♂

アルカの兄で、真祖の吸血鬼。

生きた人間を串刺しにして芸術品を称する「串刺し卿」の渾名を持つ。

アルカと同じく明確な弱点が存在しない、最恐のシスコン。


・シング=V(ヴァン)=ヘイルド:♂

化物専門の殺し屋。

吸血鬼兄妹の討伐を依頼されていたが、依頼人が死んだため二人と行動を共にする。

目的の為には手段を選ばない、最強のエゴイスト。


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(役表)

アルカ

アルド:

シング:

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アルカ:I'm home !

    お兄様! ただいま戻ったわ、アルドお兄様!


アルド:嗚呼、ああ、お帰りアルカ。

    どうだった? 散歩は楽しかったかい?


アルカ:ええ、とっても!

    聞いてお兄様、今日は12人もお迎えを出来たの!

    どれもこれも、とっても綺麗な御顔と躰だったわ。

    3日もすれば、すっかり死んで、素敵なお人形に成り果ててくれる筈よ。


アルド:ああ、それは素晴らしい事だ。素晴らしい事だよ、アルカ。

    君は本当に、狂おしい程に恋しい、最愛の妹だ。

    君を壟断出来るこの夜が、永遠に続く夢が叶うまで、もう少し。

    もう少しだ。

    もう少しなんだよ、アルカ。


アルカ:ええ、ええ。お兄様。

    私はお兄様だけのモノ。

    お兄様だけが、私を愛して、犯して、本当の意味で蹂躙して良いの。

    そんな甘美な夜が永久に訪れるまで、もう少しなのね。

    ……ああ、そうだわ、お兄様。

    今日はお土産も多いの。

    ほら、見て?

    臭くて、汚くて、とってもとても、醜い我楽多達。

    こんなのが仲間になるだなんて、他のお人形が可哀想だわ。

    だったらせめて、何時ものように、お兄様の芸術へと昇華させてあげて頂戴?

    そうしてあげた方が、人間なんかだった頃より、余程幸せに違いないわ。


アルド:……ああ、君は何て優しい娘なんだ、アルカ。

    そうだね、君の言う通りだ。

    そうする事こそ、彼らへの最大の慰霊だろう。

    それに、とても丁度良かったよ。

    彼らを合わせれば、僕の芸術品は、444体になる。

    僕らだけの愛の巣を彩る装飾になれるなら、彼らも本望だろうさ。

    御覧、今日も3体出来上がったところだ。


アルカ:……ぁあ、素晴らしいわ、お兄様。

    「串刺し卿」の手にかかれば、お人形の成り損ないでも、こんなに綺麗になれるのね。

    これに較べたら、ミケランジェロのダヴィデ像が、まるで幼子の造る粘土細工のようだわ。


アルド:そう言ってくれるのは君だけだよ、アルカ。

    昔も今も、僕が僕でいられるのも、この芸術が続けられるからこそ。

    そしてこの芸術を続けられるのも、アルカ。

    君がいてこそだよ。

    僕に芸術を与えてくれ、僕の芸術を讃えてくれる。

    この世で僕だけの、たった一人……

    (アルカの首筋に舌を這わせる)


アルカ:……んっ……あ、駄目よ、お兄様……

    彼が見ているわ。


アルド:……ああ、何だ居たのかい、シング。

    何時から?


シング:最初からだ。

    今更俺に気遣う心算など、全く無いだろうが。

    お前達の所時分構わず始まる目合は、疾うに見飽きた。

    ……随分と、腑抜けた不用心になったものだな。

    アルカ=ティペーシェと、アルド=ティペーシェ……

    稀代の最強吸血鬼兄妹と名高いお前達が。


アルカ:あら、それはお互い様じゃない?

    貴方を殺す機会こそ、ここ数年は、欠伸をするよりも多かったくらいだわ。

    五百年に一人、百万人に一人の天才吸血鬼殺しと謳われた貴方も、堕ちたものね?

    シング=V=ヘイルド……

    いいえ、Mr.ヘルシング、と呼んだ方が馴染み深いかしら。


シング:大衆が勝手に呼んでいるだけだ。

    俺は吸血鬼を殺しはしてたが、それが民衆の助けになっていたのは、あくまで結果に過ぎない。

    俺自身の目的は、そんな物よりも遥か先にある。

    その為に築かれる屍が人間であれ、吸血鬼であれ、物の数でもない。


アルド:ハハ。

    君を救世主だと崇める人間達が今の言葉を聞いたら、今の事実を知ったら、どう思うだろうね。

    今大都市を脅かしている化物と、それを討ち倒す筈の猟人が、手を組んでいる、だなんて。


アルカ:あら。

    貴方まさか、まだ私達を殺す事を諦めていないの?

    最初に出逢った時に、無駄だって分かったでしょう?

    私とお兄様は、真祖……

    いいえ、最早吸血鬼をも超越した存在なの。

    貴方の持ち備えてる玩具じゃ、私達に掠り傷を付ける事すら、叶いはしないわ。

    二人の愛の前では、神の祝福の力でさえも、総てが闇夜へと還り逝くの。

    ……ねえ、お兄様?


アルド:ああ、そうだとも。


シング:……確かにそうだな。

    太陽も水もニンニクも、銀十字の弾丸すらも意に介さない吸血鬼等、今まで聞いた事も無い。

    馬鹿々々しい程に死に損ないなお前達を、どうすれば殺し切れるのか、興味が無いと言えば嘘になるが。

    お前達を討て、と俺に依頼した者は、今やお前達の芸術品とやらの、悪趣味なモニュメントに成り果てた。

    そして、今の雇い主はお前達だ。

    俺は、無暗に人との契約を、反故にはしない主義でね。

    ……少なくとも、今は、だが。


アルカ:ふふっ、無駄よ、無駄。

    貴方もそこそこに悪くないから、眷族に迎え入れたいのは山々だけれど……

    生憎と私の力は、お兄様専用なの。

    それに、人間如きの脆い肉体じゃあ、真祖どころか吸血鬼にも……

    いいえ、人形にすらなれない。

    血という血、精気という精気を喪って、肉と骨を獣に食い散らかされるだけの木乃伊が関の山だわ。

    それでも構わないって言うのなら、一夜限りの常若の国へ誘ってあげるというのも、

    私は吝かではないわよ?


アルド:……それはいけないよ、アルカ。


アルカ:お兄様?


アルド:君の躰は、僕だけのモノだ。

    僕だけのアルカなんだ。

    君の瞳を嘖み、君の口腔を嬲り、君の舌を舐り、

    君の首筋を喰い千切る程に口付け、君の蓮の花弁を散らすまで。

    その総ては、僕だけの権利。

    それら総てが、僕だけが持っていい特恵なんだよ。

    それを斯くも不当に侵害されてしまうのなら、僕は今此処で、彼を灰へと還してしまうかもしれない。

    「Ash to ash.」……

    その言葉の儘に。


シング:……ほう、面白い事を抜かす。

    あの無限に殺し損ない、無間に死に損なった、死染めの夜のやり直しか。

    やってみるが良い。

    尤も、今のお前が今の俺を一度殺すまでに、百一度は死ぬ事になるぞ。

    それでも尚そうすると言うなら、

    「Dust to dust.」

    その導きの儘に、お前を塵へと還してやろうか。


アルド:ああ良いとも、是非そうしてくれ。

    やれるものなら……ね。


アルカ:待った。


シング:……あ?


アルド:アルカ?


アルカ:ストップ……

    いいえ、ステイよ、お兄様?

    嫉妬に喘ぐお兄様も素敵……

    とてもとても愛おしいけれど、今彼を亡くすのは得策ではないわ。


アルド:ああ……あぁ。

    そうだ、……そうだね。アルカ。

    その通りだった。

    僕とした事が、君を奪われてしまうんじゃないかと、少しでも邪推してしまった。


アルカ:ふふふっ、ほんの冗談、戯言よ? お兄様。

    そんな事を憂慮せずとも、濡羽色に滲む朱殷の月に誓って、私は永劫お兄様のモノだわ。


アルド:ああ、有難う、アルカ。


シング:……拍子も抜けるというものだな、アルカ=ティペーシェ。

    「自身と恒久の愛を契り、三日三晩の飽くなき交わりの果て、其の伴侶を真祖と成す」

    ……だったか?

    その力でアルド=ティペーシェもまた真祖と成り下がったなら、

    その兄とて所詮は、お前の隷属に過ぎないだろうに。


アルカ:……聞き過ごせないわね、Mr.ヘルシング。

    滅多な事を言わないで。

    定められた因果律がそうであっただけで、私達が交わした愛は、紛れも濁りも、有りようも無い物よ。

    私達がこうである前から、私達はそうであった。

    故に、だから今、こう有れかし。

    私達は、私達だから、私達が私達であってこそ、

    貴方にすら殺せない、無窮なる真祖であり続けられる。

    其処では主従の掟も、兄妹という血が定めた壁も、死という自然の摂理すらも、総てが無粋……

    ……嗚呼、お兄様。

    私、本当に待ち遠しくて、溺れてしまいそうよ。

    この身が穢れて涸れて満ちるまで、私の心も躰も、

    お兄様の欲する儘に、姦される儘に染められ尽くす。

    そんな無上の夜が絶えない、とこしえの極夜の果てが、

    早く訪れてそして、何時迄も訪れなければ良いのに。


シング:……全く、吸血鬼と言うよりも、色情魔だな。

    不滅の躰を持った淫魔吸血鬼とは、屍肉(しにく)を貪る腐った死者共よりも始末が悪い。


アルド:……三度目だ。

    そろそろその口を噤め、シング。

    これ以上、僕達を侮辱するような物言いをするなら、この計画の節目として、

    その死者の群れに、君を参列させなければならなくなる。


シング:……フン……計画、ね。

    この世界に於ける人類全てを、吸血鬼、屍肉喰いと化させ、お前達兄妹の為だけの楽園を創る……

    確かに、時の流れすら障害に成り得ないお前達の力を持ってすれば、容易い事だろうな。

    ……だが、その往く末に何がある?

    血が涸れ果て、肉が崩れ腐り、命という概念すらも軽薄に消失するその世界で。

    何が生まれ、何が育ち、何の価値が有ろうと考えてる?


アルド:さあね。

    僕もアルカも、そんな事には微塵も興味はありはしないよ。

    僕達以外の総てがどう成り果てようと、僕達には何の関係も無いのだから。

    終わらぬ闇夜が有り、沈まぬ月が在り、其処に僕が居て、其処にアルカが居る。

    この世界の総ては、それだけで十分なんだよ。

    他の何も、誰も、何もかも、誰も彼も要りはしない。

    だから手始めとして、僕達の意志で、好きな時に好きなように出来る眷族で、この世界を満たす。

    この主要都市の終焉はその序章、世界への見せしめ、そして、人類への絶望の布告だ。

    せいぜい限りある時と命を擦り減らして、生きるなり死ぬなりすれば良いさ。


シング:成程な。

    妹が妹なら、兄も兄という事か。

    ……で、この都市への侵略を始めてから、2年弱くらいか?

    人間の嗚咽やら悲鳴が響かなくなって久しいが、どの程度陥落したんだ。


アルカ:あら、此処で生き残ってる人間の数なんて、もう両手だけで数えられる程度よ?

    態々私達が直接手を下すまでもなく、10日も放置すれば、勝手に絶息するでしょう。

    そろそろ次の街への移動を提案しようと思ってた所。

    ……思ってた以上に、呆気無い物ね。

    少しは私の欲求を、満たしてくれるかと思ったのに。

    揃いも揃って皆、銃しか使って来ないのだもの。

    いい加減うんざりよ。


アルド:ああ、そうだったのか。

    それじゃあ、こんな場所に留まっている理由も、もう無いね。

    明日の夜、もっと大きな都市へ移動しよう。

    ……ああそうだ、シング。

    僕の作品達はいつも通り、全部燃やしておいてくれ。


アルカ:良いの、お兄様?

    今回は自信作も、いっぱいあったのに。


アルド:良いんだよ、アルカ。

    君の不朽の美に勝る物なんて有りはしないけれど、元が醜い彼らでも、

    作品として燃えて消え逝く時、其処には一縷程度の美しさがあるんだ。

    僕達の食事にすらなれやしないなら、せめてそうすれば、彼らも幸せだろうさ。


アルカ:……ええ、ええ、その通りね。

    素晴らしいわ、お兄様。

    ……ねえ、お兄様。


アルド:ん?


アルカ:……その……あのね。

    今夜だけでも、駄目……かしら?

    今度はちゃんと我慢するから、……今夜だけ……お願い。


アルド:……全く、僕が断らないのを知っている癖に。

    良いよ、僕だけの愛しいアルカ。

    後で僕の部屋においで。


アルカ:ええ、お兄様。

    大好きよ。


シング:………………


アルド:……シング、どうした?


シング:此処はあらかた片付いた、明日移動する。

    それで間違い無いか?


アルド:ああ、そうだよ。


シング:そうか。

    じゃあ、アルド。

    お前はもう、用済みだな。


アルド:……何?


(シング、アルドの胸を撃ち抜く)


アルド:ッ!?


アルカ:お兄様!?


アルド:がっぁ……は!?

    ……シング、貴様ッ……何をする!?


シング:何を?

    愚問だな、アルド=ティペーシェ。

    お前達と比べれば雑魚とは言え、吸血鬼も屍肉喰いも、人類を脅かすには十分な数になった。

    だったらもう、母体の付属品に過ぎないお前は要らんと言ってるんだ。


アルカ:母体……って、何を言って……!


アルド:……チィッ……全く……!

    随分唐突で、苛烈な契約違反じゃあないか!

    無暗に契約は反故にしない主義とやらはどうした!?


シング:「人との」、だ。

    間違うなよ、アルド。

    化物と交わした契約何ぞに、元より従う義務も、守る価値も有ろう筈も無い。


アルド:……は、ハハハ!

    成程、元からそういう魂胆だったって事か、シング=V=ヘイルド……!!

    ……けど、だからどうした、だったらどうする!?

    そんな玩具で僕達は殺せないという事は……


(突如、アルドの躰が歪に変形し、崩壊を始める)


アルド:……ッ!!?

    あ゛ぁがッ……う゛ぁッああぐぁあ!?


アルカ:お兄様!?

    なに、なんで!?

    どうしたの、お兄様! お兄様ぁ!!

    なんで……なんで、只の銃で撃たれただけで、そんな……!?

    ……一体、お兄様に一体何をしたの!!

    何をしたのよ!

    答えなさい、シング!!


シング:何て事は無い、ただ撃っただけだ。

    お前達の言うところの、この玩具の銃でな。


アルカ:ふざけないで!!

    そんなので、真祖たるお兄様が、こんな事になるわけ!!


シング:但し、弾丸は少しばかり、手の込んだ代物だがな。

    ……聖水でもなく、銀十字でもなく。

    お前達自身が、生み出しては棄ててきた、無数の吸血鬼の成り損ない共。

    そいつ等を刻み、砕き、潰し、粉末にして弾薬として調合、加工させて貰った。

    ……そうして出来たのがその弾丸だ。

    お前達を殺す、それ専用の、それだけの為のな。


アルド:……そんなッ、馬鹿な、ぁ、あ゛ぁあああ!!

    そんな、そんな物で……どうしてぇえ゛、僕がぁッ!!


アルカ:お兄様ぁ!!


シング:お前達は、異常、病的という言葉でも足りない程に、

    兄であり、妹である互いを愛した。

    そして、幾度となく互いを求め合い、何度となく満たし合った果てに、

    お前達の肉体は、お前達しか受け入れられない肉体へと変化していったのさ。

    それこそ、たった一発の弾丸分程度の異物が侵入しただけで、そこまでの拒絶反応が出る程に。

    それも、只の拒絶反応じゃない。

    決して混ざり合わない肉塊達は、次第に細胞レベルで対消滅を引き起こし始め、

    その肉体は、自ら崩壊し、死滅を選ぶ。

    しかも面白い事に、その素材は人間でも屍肉喰いでもなく、

    あくまで吸血鬼でないと、最大限の効力を発揮しない。

    ……全く、皮肉な物だよな。

    或いは、酷く滑稽とでも言うか。

    お前達は血の繋がった者を愛し過ぎた結果、極限まで同族嫌悪を拗らせた、

    真祖とは名ばかりの、脆弱で淫奔な、只の吸血鬼兄妹風情に成り下がった訳だ。

    まあ、元よりお前達は、存在自体が常識の埒外。

    こうして説明した所で、理解も、況してや納得等、到底出来ないだろう。

    ……なあ、どんな気分だ、アルド。

    一握りにも満たない、お前達が生み出した化物の成れの果てのせいで、

    自分の体が瓦解していくのは。


アルカ:……そんな、そんな事……どうやって……!?


シング:おかしな事を言う。

    調べる方法も時間も、お前達は幾らでも与えてくれただろう。

    人間、屍肉喰い、吸血鬼、それらの死体は際限無く、手元に勝手に届いていたからな。

    そして、お前達はお前達で、

    場所も時間も関係無く目合を繰り返していた御陰で、体液の採取も容易だった。

    あとはお前達の目を盗んで、実験を繰り返していけば、

    自ずとこの結果に辿り着くという訳だ。

    ……人間の探求心、そして、それが内包する残虐性を甘く見たな、吸血鬼。


アルド:……嘘だ……うそだ……ぁ……どうして……アルカ……

    ……だって、僕達は……これから、じゃないか……なのに……!

    アルカと……ふたりで、

    ……むげんの、よるを……ゆめ……せかい、をォ……!!


シング:灰は灰に、塵は塵に、だ。

    じゃあな、アルド。


(シングが撃ち放った弾丸がアルドを貫くと、その体は粉微塵と砕け散り、消滅する)


アルド:…………あ、……る……


アルカ:いやぁあああぁああ!!!

    お兄様!! お兄様ぁあぁああ!!


シング:……さて、お前もやるか、アルカ=ティペーシェ?

    お前達の御陰で、お前達を殺す弾は、まだまだストックがある。

    その総てに当たらない、若しくは耐えきる自信があるのなら、受けて立つが。


アルカ:……して。


シング:何?


アルカ:……殺してよ。


シング:ほお、随分と潔いじゃないか。

    寸刻前までの挑発的な態度は何処へ行った?


アルカ:……お兄様がいない世界なんて……そんなもの……

    だったら、せめて同じ世界へ逝かせてよ。

    同じ世界で、同じ夢を……


シング:駄目だな。


アルカ:……え?


シング:自分の死に際まで、何もかも思い通りになると思うなよ。

    お前はこれから、その真祖の躰を存分に利用される為だけに、独りで無限の夜を生きて貰う。


アルカ:なに……なにを言ってるの……?


シング:お前は何も考える必要は無い。

    両眼を抉り、舌を千切り、四肢の全てを捥いだ後、

    寂れた教会の十字架にでも磔刑に処してやる。

    俺の欲求を満たす為だけに、際限無くお前の眷族を産み出すだけの母胎へと成り果てろ。

    ……俺の殺人衝動を昂らせる、只それだけの為のな。


アルカ:……いや……いやよ、そんなの……ぜったいにいや……!!

    殺して、殺してよ……お願い……!!

    ……殺して、死なせて……お兄様の所にいかせてえ!


シング:何をそんなに嫌がる事がある?

    お前は眷族を増やしたいだけ、そして俺は、際限なく命を奪い続けたいだけだ。

    今まで通り、元々の互いの目的通りじゃないか。

    只の化物狩りも、化物の名を借りた、只の人間狩りも最早飽きた。

    出来損ないの吸血鬼が人間を狩り、

    その人間は軈て吸血鬼、或いは屍肉喰いへと成り果て、

    化物となった元人間共は、また新たな人間を狩り……

    そして、その尽くを、この俺が、狩る。

    それこそが、その阿鼻叫喚こそが俺の求めていたモノ。

    ……さあ、往くぞ、母なるアルカ。

    終わる事の無い、地獄の時間だ。


アルカ:ッやだ、やめて! はなしてよ!!

    やだ、やだぁ!!

    助けて、助けてお兄様!

    お兄様あぁああぁあああ!!!


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