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(役表)
A不問:
B不問:
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A:おまたー。
B:それほどでもー。
どっか席空いてる?
A:あそことかどうよ。
B:お、一番奥。
A:アンド、窓際。
B:いいね、最高。
A:でしょ。
B:それなに?
A:分かんない。
B:どゆこと?
A:覚えられなかった。
いっつも指差しで注文するから。
なんだっけ、タン、タングステン……
ロミオ、タンク……タンラ、タロット、ぺぺ……
ロマンチック・ラジオタイソウ・キャロライナ・ペペロンチーノ?
B:やっば。
麺類。
A:ひと口いる?
B:いらん。
A:あ、そう。
そういうそっちのは?
覚えてないでしょ、どうせ。
B:は、一緒にしないでよね。
こちとら常連なんだから。
A:ほう。
じゃあ、はい。
B:あっ、メニュー表。
A:暗唱。
B:えー……おほん。
エリ、エレスト、プレス……エラコキュウ、プラプラチック……
マキシマイズ・アトミック・チョコレナチョ・スコーピオン。
A:えっぐ。
B:どっちの意味で?
A:あらゆる意味で。
B:ひと口いる?
A:いらない。
B:ああそう。
……あ、最悪。
A:なにが?
B:コンセント使えないわ、こっちの席。
減点。
A:どれくらい。
B:2億。
A:つら。
腹切るわ、介錯して。
B:いいよ、そこまでしなくて。
共に生きよう、この素晴らしき世界で。
A:かたじけない。
B:良きに計らえ。
A:なにそれ、どういう意味?
B:知らん。
A:はぁー、働け脳細胞。
B:もう一生分どころか、来々世分くらいまで働いたって、今日は。
貴重な糖分補給を邪魔しないで欲しいよね。
A:まあ、それはハトムネ同感。
B:おー、オオムネ、な?
頭使え?
A:うーわ。
せっかくノリを合わせて些細なボケしたら、出刃包丁みたいなマジレス喰らいましたわ。
殺してやろうかしら。
B:やめてよ、シャレにならない。
A:ごめんって、シャレじゃん。
そんな文殊菩薩みたいな顔しないでよ。
B:どんな顔だよ。
A:………………
B:………………
A:今何時?
B:もうすぐ11時。
A:はっや。
思ったより時間かかったね。
B:そりゃあ、初めてだったからね。
A:……あ、やば。
B:なに。
A:明日の数学、小テストあるんだった。
B:ああ、二次関数?
A:そう。
B:私は来週だわ。
A:やったわぁ、ショック。
B:なに、自信あったの?
A:え、全然?
B:なんでこっちが変なこと訊いたみたいな反応なんだよ。
なに、そのキョトン顔は。
A:小テストは貴重な仮眠時間だよ?
B:違うよ。
ちゃんと勉強しな。
A:出たよ、優等生。
だったら教えてよ、ツーオンツーで。
B:あとふたり誰だよ。
A:ツートンツー?
B:それモールス信号。
A:なんだっけ、パイクーハン?
B:マンツーマン。
A:それだ、粒あんまん。
B:マンツーマン。
A:いくら?
ワンコインまでなら出すよ。
B:やっす。
なめんなよ、おとといきやがれ。
A:なんでよ、誰が500円なんて言った?
B:どこのコインよ。
A:ソマリア。
B:知らん。
A:およそ0.19円。
B:引っぱたくぞ。
A:じゃあ、相場は?
B:そうね。
まあ、ダブルイーグル持ってきたら、考えてあげなくもないよ。
A:なにそれ、なんぼ?
B:50。
A:円?
B:万円。
A:はっ倒すぞ。
なんでそんなの知ってんのよ。
B:そのまま返すわ。
どこで得た知識よ、ソマリアって。
A:堅苦しい教育の枠にとらわれない、
どうでもいい知識ほど、無性に仕入れたくなる年頃じゃん?
B:不本意ながら、全面的に同意。
なんならたぶん、一生そう。
A:それな。
で、二次関数は?
B:ムリ。
A:なんでよ。
B:分かるわけないじゃん。
A:なにそれ、教え甲斐が無いってこと?
B:違う。
それもあるけど。
A:じゃあ、なに。
B:二次関数なんて、私も分からん。
異国語。
ていうかもう、異界語。
A:情けな。
B:なんだとこのやろう。
教えを請えないと悟った途端、言うに事欠いて。
よしんば私が理解できてたとしたって、
円周率と麻雀の区別も付かないやつが、そんな高度な数学わかるかよ。
A:お互い様だこのやろう。
いっつも雰囲気だけインテリぶってるけど、
蓋を開けたら四則演算もまともに出来ないくせに。
B:ダイオウグソクムシがなんだってんだ。
A:なんだよ。
B:あんだよ。
A:………………
B:………………
A:やめとくか。
B:やめとこう。
あ、パトカー。
A:さっきから、よく通るねえ。
B:な。
そういえば、さっきから警官が店の前をやたらよく通るような気もするな。
A:バレた?
B:まさかぁ。
A:お、あの人。
B:ん?
A:見てよ、あれ。
いかにも、ベテランの堅物刑事っぽくない?
ボサった髪、無精髭、くたびれたロングコート。
B:ホントだ。
今どきあんな、まんま昔のドラマから飛び出してきた、みたいな格好した刑事いるんだな。
略してドラデカ。
A:牛乳とアンパン持って張り込みしてそう。
B:署にいるときは、専らブラインドから外見てそうだよな。
写真撮っとこうか。
A:なんで?
B:さすがに、ファッションとしたって不自然というか、わざとらし過ぎるだろ。
なにかの撮影かも。
A:まさかぁ。
それに関しては、私らだって人のこと言えないじゃん。
B:それもそうだ。
さてと、そろそろ出るか。
ふたり揃って、二次関数の悪魔の供物となろうぜ。
……おい、どうした。
A:ねえ。
B:ん。
A:さっきの人さあ。
B:おお、ドラデカがどうした。
A:……なんか、こっち見てない?
B:そうか?
A:すごいこっち見てない?
B:そうか?
A:指差してない?
B:そうかも?
A:ちょいちょいちょい、こっち来てるって。
B:そうかな。
A:あいつ私ら目当てだって、どう考えても。
まっすぐこっち来るじゃん。
B:そうだな。
A:え、なんで?
やっぱりバレてんの?
早過ぎない?
B:なんかボロしたっけ。
A:いや、今はとりあえず逃げないとって、
……あ。
B:お、何やらかした。
A:身分証。
B:身分証?
A:そういえば、部屋に落としてきたかも。
B:あぁ。
A:あぁってなに。
B:あれお前のだったのか。
A:私のじゃないよ。
いや、私のだけどさ。
え、回収しといてくれた?
B:いや?
A:なんでよ、そのリアクションは拾っといてくれてるやつじゃん。
せめて気付いたときに言ってよ。
B:いや、まさかそんな、
名探偵が見たら逆に容疑者から外れるレベルっていうか、
自白(物理)みたいな初歩的なミスしてるなんて思わないだろうがよ。
あれよ、夢かと思って。
A:そんなわけあるか。
B:よし。
このまま捕まったら、主犯格はお前な。
A:いやいやいやいや、そういうアンタだって。
B:なに。
A:ずっとツッコミそびれてたけど、
引くほどべっとり血痕、付いてますけど?
B:……気付いてたなら言えよ。
A:いや、てっきりそういう、前衛的なファッションなのかなって。
幼児がカレーうどん食べたんかってくらい染み付き散らかしてるのに、
まさか気づいてないなんて思わないじゃん。
あれだよ、幻かと思って。
B:そんなわけないだろ。
とりあえず脱いで隠しとくわ。
A:手遅れだっての、ばっちり見られてんよ。
ほんとにさあ、肝心なときに限って足手まといになるのやめてよね。
こんなオチになるんだったら、ひとりの方が万倍マシだったわ。
B:ほおー、聞き捨てならんな、おい。
人のこと言えないだろうが。
最後まで足引っ張りやがって、ポンコツの役立たず。
略してポン酢。
A:なんだよぉ。
B:あんだよぉ。
A:あーあ、アンタなんかと組むんじゃなかったなぁー。
B:あーあ、お前なんかとつるむんじゃなかったなぁー。
A:……はい、お縄でーす。
お疲れ様でしたー。
B:なんかもう、馬鹿馬鹿しくて、逃げる気も失せちゃった。
A:あ、どうもご苦労様です。
ああいや、逃げるって言うのは別に、
なんでもないっていうか、こっちの話で。
B:いや、この服はその、あれなんすよ。
ここに来るまでに、ナポリタンの沼で足くじいちゃって。
ソマリアってところにそういう珍スポットがあって……
……あ、そういう話じゃない。
え?
A:ん?
じゃあなんの……はい?
……え、はぁ、数ヶ月前から。
B:数時間前じゃなくて?
A:はぁ、学生ふたりが。
B:ひとりじゃなくて?
A:はぁ、失踪してる。
B:殺人じゃなくて?
A:……はぁー……
B:……あぁー……
A:なんだぁ。
B:そっちか。
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