僕の私のユウカイ計画

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(役表)

男♂:

女♀:

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男:……なあ。


女:はい?


男:やめにしないか、そろそろ。


女:何をですか?


男:俺達の、今の関係。


女:………………


男:………………


女:お水、取ってもらえます?


男:あ?

  ああ、どうぞ。


女:どうも。

  このペペロンチーノ美味しいですね、何処のお店で?


男:手作りだよ。


女:またそうやって。


男:いや、本当に。


女:へえ、凄いですね。

  いつの間にこんなに。


男:そりゃあまあ、これだけ長く練習してたらな。


女:他には、どんな?


男:リクエストがあれば、ある程度はなんでも。


女:それじゃあ、今度はナポリタンを。


男:分かった、練習しておくよ。


女:はい、楽しみです、お願いします。


男:おう。


女:………………


男:………………


女:で、何の話でしたっけ?


男:うん、まあ今のは、話に乗っていった俺も悪いわ。

  あまりにも華麗に受け流されたから、つい。


女:はい?


男:聞こえてたんだよな?


女:何がですか?


男:俺の、さっきの言葉。


女:ええ、ちゃんと。


男:じゃあ確認しようか、念の為な。

  俺は、なんて言った?


女:私達の今の関係を、やめにしないか、と。


男:オーケイ。

  俺はちゃんとそう言ってたし、お前はそれをちゃんと聞いてたな、良かった良かった。


女:はい。


男:それじゃあ、それを踏まえた上で訊くんだけどさ。


女:なんでしょう。


男:なんで、完全無視かました?


女:あまりにも、唐突な話だったので。


男:唐突だった。


女:はい、唐突でした。

  なので、聞き間違いかなと思って、ひとまず聞こえなかったフリを。


男:そりゃあそうだろうな。

  確かに、俺は唐突な話を振ったよ。


女:はい、あまりにも。


男:いや、それにしたってだよ。

  せめて、何かしらのリアクションが欲しかったよ、俺は。

  聞こえなかったフリとかじゃなくて。

  少なくとも、パスタの味の感想よりは、大事な話をしようとしただろ?


女:美味しいですよ、このペペロンチーノ。


男:うん、それはさっきも聞いた、ありがとう。

  今度ナポリタンも作ってやるよ、練習してな。


女:はい、お願いします。


男:おう。

  違うんだよ、そうじゃないんだよ、今は。


女:お水、取ってもらえます?


男:おう、取ってあげるよ。

  何なら俺が注いであげるよ、いい所でストップって言ってくれ。


女:ストップ。


男:よし、ストップな。

  まだ注ぎ始めてもいないんだけどな。

  あ、自分で注ぎます?


女:はい。


男:それは失礼しました。


女:すみません、折角のお気遣いを。


男:いえいえ。


女:それで、ひとつ良いですか?


男:はい、なんでしょう。


女:食事中に席を立つのは、どうかと思います。


男:うん、そうだな、その通りだ。

  食事中に席を立つのは、行儀悪かったな。


女:そうです。


男:すみませんでした。

  よし、じゃあはい、ちゃんと席に座り直しました。

  だから一旦、話を聞くだけ聞いてくれ、後生だから。


女:私は、聴く気が無い、とは言ってませんよ。

  あまりにも唐突だったから、聞こえなかったフリをした、というだけで。

  順を追って話してくれれば、ちゃんと聴きますよ。


男:それもそうだな。

  だけども取り敢えず、結論を先に置いておきたかったんだ、俺は。

  順を追って話すと、纏まらなくなるかもしれないから。


女:ご馳走様でした。


男:お粗末様でした。

  本当に聴く気あるか?


女:勿論。


男:さっきから、死ぬほどタイミング悪いけど。


女:そんなつもりは、全く。


男:そんなつもりしか無いかのようなぶった切り方なんだよな。

  ……まぁいいや、キリが無いし。

  んで、お前の希望通り、順を追って話すなら、だ。


女:はい。


男:俺達、此処で一緒に過ごし始めて、何年になる?


女:どれくらい、でしたっけ。

  もうよく覚えてませんけど。


男:2年だ。

  明日で、ちょうど。


女:2年。


男:そう。


女:もう、そんなに経つんですね。


男:そうだよ。

  もうそんなに経つんだよ、あの日から。

  びっくりだろ。


女:びっくりです。


男:うん。


女:じゃあ、何かお祝いをしないとですね。


男:お祝い?


女:ええ、何します?

  何か、少し良いものを食べにでも行きましょうか。

  それとも、旅行とか?


男:祝えるような仲かよ。


女:え?


男:祝えるような間柄か、俺達は。


女:違うんですか?


男:違うだろ。


女:どうして?


男:いいか。

  そもそも、俺達は、どういう仲だ。

  いや、どういう関係だ?


女:私と、あなたの?


男:俺と、お前の。


女:どういうって、何処にでもいる、同棲している仲睦まじい2人じゃないですか。


男:表向きは、だろ。

  そうじゃなくて、元々は、だ。


女:元々、……ああ。


男:俺達は、誘拐犯と、


女:その被害者、ですね。


男:だろ。


女:忘れてました。


男:忘れるなよ。


女:だって、今更じゃないですか、そんなの。


男:今更なんだけどな。

  今更でも、これで良いのかって、思っちまったんだよ。


女:2年越しに?


男:2年越しに。


女:遅くないですか?


男:……確かに、遅いかもな。


女:私はいっそ、このままずっと、こうでも良いかなって思ってましたし、

  何も言って来ないから、あなたも諦めてたのかな、とばかり。


男:そうしようと思った、時期もあったよ。

  でも、違うだろ、俺が諦めるのは。

  2年も経つ今だからこそ、節目なんだよ。

  世間様がどう思おうが、年月が経てば経つほど、色々な物が、どんどん有耶無耶になっていっちまう。

  だから、その前に、俺達の関係は、一度終わらせなきゃいけないんだ。


女:そう、ですか。

  そうですよね。


男:……なんだよ、その煮え切らない反応は。

  俺、そんなに変な事言ってるか?


女:変な事……

  そうですね、少し、変な事です。


男:何が。


女:良いじゃないですか。

  今更蒸し返して、話を拗らせ直さなくたって。


男:何言ってんだよ。

  お前は、今のままで良いとでも?


女:今のままで良い、というより……

  今更終わらせた所で、私達も、世間も、何も変わらないですよ。


男:変わらない?


女:はい、変わらないです。

  2年も経っていようが、この先に何年経とうが、どうしようと、永遠に。

  だから、わざわざ今になって、終わらせる必要あるのかなって。


男:……何でだよ?


女:何でもなにも、単純な理由ですよ。

  そもそも、誘拐なんて、起こった扱いにすら、なっていないんですから。


男:……は?

  ちょっと待てよ、それはおかしいだろ。

  だって、


女:最初から、いないんですよ。

  誘拐した人も、誘拐された人も、そのどちらもが。


男:どういう事だ。

  お前、何を知ってる。


女:言葉通りの意味ですよ。

  私達がいなくなった事に、この2年間、誰も気が付いていないし、

  勿論、気が付いていない以上、誰も探してなんていない。

  ……より正確に言えば、いなかった、という事にされたから、気が付かれないし、探されもしない。

  だから、私達のそういう関係は、終わらせる以前に、始まってすらいないんです。


男:……詳しく、説明してくれないか。

  お前が言っている意味が、さっぱり分からない。


女:私は此処に来てから、何回、親に連絡をしたと思います?


男:身代金目的の、か?


女:そうです。

  当然ですよね、曲がりなりにもこれは、誘拐だったんですから。

  人質を盾にして、身代金、乃至、何かしらの要求を、相手に呑ませようとするのが普通です。


男:……そういえば、電話をしている所を、ほとんど見掛けてない。

  お前、いつ連絡してた?


女:してませんよ。


男:なに?


女:したのは、最初の、1回きりです。

  それ以降は、全く。


男:なんで。


女:なんで、だと思います?


男:いちいちはぐらかすな。


女:………………


男:なんだよ?


女:……要らない、と言われたんです。


男:要らないって、何が。


女:子どもなんて、くれてやると。

  役立たずのゴミとして、勝手に消えてくれるなら、手間が省けて助かる、とのことで。


男:……そう言ったのか、あいつは。


女:はい。

  まるで、こっちの思惑を全部、見透かしているかのような口振りで。

  養子にしたのが失敗だったと、電話口で、吐き捨てるように言っていました。


男:自分の都合で無理矢理そうした癖に、思い通りに育たなかったらそれか。

  つくづく、腐ってやがるな。


女:………………


男:悪い、続けてくれ。


女:……はい。

  その後は、何度電話を電話を掛け直しても、通じませんでした。

  恐らく、誘拐されたという事実すら、この2年でとっくにもう、その存在ごと、無かった事にされてます。

  ……だから、遅いんですよ、今頃タネ明かしをしようしたって。

  始めから、誰にも……

  親にすら、相手にされてないんですから。


男:……なんでだ。


女:はい?


男:なんでそれを、もっと早く言わなかった。


女:もっと早く言っていたら、あなたはどうしていたんですか?


男:……それは……


女:だから、言いたくなかったんですよ。

  そんな現実は、口に出したらきっと、潰れてしまうから。

  こんな事を知っているのは、私だけで良いんだと、そう思って。

  いっそ、拐かされ続けていた方がまだ、こんな理不尽よりは、マシだろうと。


男:だから、黙ってたのか、2年も。

  何も進展が望めない事が分かりきっていながら、誘拐の体すら、殆ど見失ってしまっても。


女:そうです。


男:………………


女:……ごめんなさい。


男:ふざけんなよ。


女:え?


男:何が、潰れてしまう、だ、

  何が、知っているのは私だけで良い、だ。

  人の価値を勝手に決めて、勝手に諦めるなよ。

  知っていたなら、教えてくれていたなら、俺にだっていくらでも、やりようがあったかもしれないだろ。

  いや、断言するが、何とでもしようとしていた筈だ。

  事実を知っていたかもしれない、いつかの、過去の俺なら。

  2年もあればいくらでも、そんなクソッタレな能書きくらい、

  どうにでもしてやろうと、躍起になっていた筈なんだよ。

  でも、肝心の俺が、それを知り得る機会すら与えられなかったんじゃ、どうしようもないじゃないか。


女:……でも。

  元はと言えば、これは、あなたが。


男:そうだよ。

  確かに元を正せば、俺の我儘に付き合わせた、その成れの果てが、今のザマだ。

  「自分の価値を確かめたい」だなんて、

  そんな下らない欲求を満たす為だけに目論んだ、子供騙しの誘拐ごっこ。

  今更勝手な言い分で、お前を責め立てるのは筋違いだろうさ。

  俺だって、八つ当たりしたい訳じゃない。


女:………………


男:けど……

  きっかけが何であれ、過程がどうであれ、だ。

  結局何も得られないまま、2年も年月を浪費しただけの、今の俺達の有り様は、

  お前の我儘の積み重ねと、それをもっと早くに追及しなかった、

  俺の怠慢とで、組み上がってしまったモノだろ。

  だったらもう、今の俺達は、お互い様ってやつだ。

  どっちが悪いだなんて不毛な諍いは、今更していたって、仕様が無い。


女:……それじゃあ、どうするんですか、これから。

  元居た場所にはもう、今更帰れないんですよ?

  本心でどう思われていたにせよ、仮初にでも与えられていた居場所を、

  自ら捨てたに等しいんですよ、私達は。


男:だから、どうするかを最初に言ったんだろ、俺は。


女:……関係を、やめにする、って……


男:そう。


女:それって、つまり……

  そういう事、なんですよね。


男:ああ。

  親の心中が知れたなら尚更、こんな関係を続けていく意味が無い。


女:……そう、ですよね。

  やっぱり、一人で生きていく方が、気楽ですもんね。

  こんな事考えていたのは、ただの私の、勝手な願望でしか……


男:何をぶつぶつ言ってるんだ?


女:いえ、何も。

  ……それじゃあ、私はこれで……


男:なあ、コト。


女:え、はい?

  なんですか、キョウ。


男:お前は、どうだった。


女:何が、ですか?


男:この、2年間。


女:……質問の意味が、よく。


男:誘拐した、されたって建前こそあったにせよ、

  俺達は2年の間、ひとつ同じ屋根の下で生活をしてきた。

  始めにお前が言った通り、表向きに演じる為とはいえ、仲睦まじく、同棲をしていた訳だよな。


女:はい……

  それが、何か?


男:楽しかったか?


女:え……


男:俺との、生活は。

  楽しかったか。


女:……それは……

  なんで今、それを?


男:その答え次第で、俺がこれからやるべき事が、変わるから。

  ……っていうのが建前で、いい加減、本心を聴いておきたかったのさ、コトの。


女:私の、本心。


男:お前は果たして、好きとも何とも思っていない奴の、この偽りの誘拐計画に付き合って、

  成り行きで、好きとも何とも思っていない奴と、2年も一緒に過ごしていたのかどうかを。


女:……意地悪、ですね。

  薄々分かっている癖に、敢えてそんな訊き方で、問い質すなんて。


男:さあ、どうかな。


女:ええ……その通り、あなたの考えている通りです。

  私は、キョウが好きだったから、この偽りの誘拐計画に付き合って、

  例え成り行きだったとしても、キョウと一緒に過ごせていたのは、楽しかったです。

  ……この計画に、すぐに意味が無いって気付いてしまっても、言い出せなかったのは……


男:それっきり、あっさりと俺との関係が終わってしまうのが怖かった、

  ……とでも?


女:……そんな打算的な考えも、自覚は無くとも、あったのかもしれません。


男:そう、か。

  お前の口からそれを聞けただけでも、収穫があったと思えるよ、今なら。


女:……はい。

  でも、どのみち、これっきり……ですから。

  せめて、未練は残したくなくて。


男:未練?

  なんの?


女:だって……

  私達はもう、これでお別れ、って事ですよね?

  関係を、やめにする、っていうのは。


男:ん?


女:はい?


男:えーっと……?

  なんか、認識が食い違ってるな。

  コト、お前、なんか勘違いしてないか?


女:何をですか?


男:俺がやめにするって言ったのは、

  「誘拐犯」と「被害者」っていう、設定の話なんだけど。


女:……は?


男:全くやる意味が無いって分かったんだから、続ける必要も無いだろ。

  それに、そうでなくとも、2年も経ってると、

  お互いにその意識も殆ど薄れて、普通に生活してるだけになってたから。

  だから、一応形だけでも終わりって明言して、区切りを付けておいた方が良いかなって思って。

  それで「やめにしないか」って言ったんだけど。


女:……そう、なん、です、か。

  へえ……あ、そういう意味で……

  そうだったんだ、なるほどね。


男:うん、そう。

  え、どういう意味だと思ってたんだ?

  というか、なんでちょっと涙目なんだ。


女:キョウ。


男:なに。


女:ちょっと、手出して。

  机の上に、パーで。


男:え、手?

  なんで?


女:良いから。


男:待て、なんでフォークを構える?


女:刺そうかなって思って。


男:刺す?


女:刺す。


男:フォークを?


女:フォークを。


男:俺に?


女:そう。


男:手に?


女:目に。


男:目に?


女:うん。


男:なんでだよ、洒落にならんわ。

  そこは手に刺せよ。


女:分かった、じゃあ手に刺すわ。

  早く手出して。


男:嫌だよ、持ち方と目がマジだもの。

  刺すっていうかもう、貫通させてやるってくらいの意気込みをひしひしと感じるもの。


女:自分で刺せって言ったじゃん、今。

  言質は取ってんのよ。


男:酷い誘導を見たわ、物は言いようだな。

  良いからしまえ、フォークを。


女:チッ。


男:舌打ちしなかった今?


女:気のせいよ、幻聴じゃない?


男:ほほう、えらく鮮明な幻聴もあったもんだ。

  ……ていうか、戻ったな、喋り方。

  お前もそういうの、やらされてたクチか。


女:あー、うん、まあね。

  女の子はお淑やかに喋れって、散々教え込まれてたから。

  慣れてたつもりだったけど、やっぱり疲れるわ。

  キョウが相手だと、特に。


男:うん、正直俺もむず痒くて仕方無かったから、そっちの方が気楽でいいわ。


女:あ、そう、それは良かった。

  で?


男:ん?


女:結局どうすんのって、これから。


男:ああ、それなんだけどな。

  生活費、あとどれくらいあったっけ?


女:まあ、節約してもあと2ヶ月が関の山、ってくらいだけど。


男:充分だ。


女:どういうこと?


男:それを元手に、まずは遠くに引っ越そう。

  罷り間違っても、俺達の音信が、絶対に親達に通じなくなるくらいの距離まで。


女:うん。

  ……え、その後は?


男:知らん。


女:大丈夫なの、それ。

  いくらなんでも、後先考えてなさ過ぎじゃない?

  引っ越したら、もうそれで手持ちゼロって事でしょ?


男:大丈夫だろ。

  これさえあれば、ひとまず暫くは。


女:何それ、クレジットカード?


男:そう。

  ただし、俺のじゃない。


女:え、誰の?


男:親の。


女:使えるの?


男:使える。

  時々確認してるけど、普通に支払い出来る。


女:うーわ。


男:まあまあ、そんな目で見るなよ。

  俺も、ここまでするつもりは無かったよ。

  けど、養子とはいえ、自分の子をゴミ呼ばわりするような親に、

  遠慮する心なんて、生憎と持ち合わせてないんでな。

  それに、使ってないとはいえ、カードを盗られて2年も気付かずに、止めもしない方が悪い。


女:まあ、それは確かに、不用心が過ぎるわ。


男:というか、改めて訊くけど、お前は良いのか?


女:なにが?


男:いや、俺はもう、自分の家に思い入れは一切無くなったから何の後悔も無いけど、

  お前は別に、煙たがられてる訳じゃないんだろ。

  なのに、そんな軽々しく、こんな行き当たりばったりな奴に、付いて行って良いのかって。


女:なに、あれだけの事言わせておいて、今更突き放すつもり?


男:そういうつもりじゃ無いけど。


女:良いよ、別に。

  元々、様式だの作法だのって、堅苦し過ぎてウマが合ってなかったし、

  それに、ニセだとしても、誘拐の前科者なんて要らないでしょ、たぶん。


男:性格悪いな。


女:親のカード盗む人にだけは言われたくない。


男:それもそうだ。


女:うん。

  ……あ、そうだ。

  今更かもしれないけど、この際だから訊いていい?


男:なに。


女:これ、逆の方が良かったんじゃないの?


男:逆って?


女:ほら、お互いの役割よ。

  キョウが誘拐する側で、私がされる側の方が良かったんじゃないの、って。

  たぶん、身代金くらい払ってたと思うよ、うちの親は。


男:今更過ぎるだろ、それを訊くのは。


女:だから、ちゃんと前置きしたじゃん。


男:計画の最初にも話しただろ。

  俺達のユウカイは、最初は単なる出来心で、そんなガチの犯罪にしたかった訳じゃないんだって。

  少なくとも俺の目的は、身代金がどうこうなんかじゃなかったんだから、これで良かったんだよ。

  ……結果が、どうであれな。


女:そうだったっけ。


男:そうだよ。

  ……それに、俺はもう、暫く誘拐されるのは懲り懲りだ。

  何回されても、慣れられるもんじゃない。


女:なに?


男:なんでもない。

  それより、食器片付けるから退いててくれ。


女:あ、じゃあ今日は私が洗い物やるよ。

  どうせ暇だしね。


男:お、いいね、それ。


女:え?


男:今の台詞。

  初めて一緒に住んでる感出たわ。


女:2年越しに?


男:2年越しに。


女:まあ、今まで手伝えなかったもんね。

  なんか、中途半端に変な気遣っちゃって。


男:むしろ邪魔だったからな。

  自分でやった方が、確実だし早い。


女:うわ、ひっど。


男:事実だから仕方無い。


女:はいはい、そうですか。

  ……ふふっ。


男:ん?


女:なんか、ちょっと良いね。

  こういうの。


男:……ああ、良いな。


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