世にも不思議なナニガシ ~一寸法師とヒトヨノマチ~

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(役表)

不問

不問

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A:一寸法師って話、知ってる?


B:ああ、そりゃあ勿論。

  有名な御伽噺の一つじゃないか、知ってるよ。


A:じゃあ、その一寸法師の、主人公の名前知ってる?


B:え?

  一寸法師じゃないの?


A:そう、正解。


B:どういう事?


A:いや、今の質問に、特に深い意味は無いんだけど。

  じゃあ、なんで、一寸法師っていう名前なんでしょうか?


B:そりゃあ……身長が、一寸しかないからでしょ?


A:そう。


B:なんなの?


A:いや、御伽噺の主人公っていうのは、その出生に纏わる命名をされてる場合が、結構あるでしょ?

  桃から生まれたから、桃太郎。

  親指くらいしかないから、親指姫。

  一寸しかないから、一寸法師……ってな具合にさ。


B:そうだね。

  まあ、親指姫は御伽噺というよりかは、童話だけど。


A:どちらにせよ、でしょ。

  そして、問題はここから。

  桃太郎は桃から、親指姫はチューリップから、ついでに言えば、かぐや姫は竹から。

  何でかは知らないけど、その手の主人公達は、だいたい変なとこから生まれてくるよね。


B:変なとこって……

  まあ、常識で測れば変だけども。


A:それじゃあ、質問。

  一寸法師は、一体どこから生まれてきたでしょうか?


B:え?

  ……えーっと……

  親指姫は、チューリップから生まれたっていうくらいだし……

  一寸って、どれくらいだっけ。


A:日本においては、約30.303mm。

  まあ、およそ3cmだね。


B:……土筆?


A:は、土筆?


B:土筆。


A:ちょっと待って、土筆どっから出てきた?

  なに、あの先端の、団栗みたいなチビっちゃい所から生まれたって言いたいの?


B:だって、知らないんだもん。

  因みに言っとくけど、あくまで土筆は、茶色い胞子茎の方だけの名称であって、

  あの植物自体の名前は杉菜だからね?

  栄養茎の方を、杉菜って呼ぶらしいけど。


A:噛み付いてくるポイント違うんだよなあ……

  土筆の知識は、今は必要無いんだよ。

  いい?

  一寸法師が生まれたのは、人間から。


B:え?

  でも、一寸法師は生まれてから、生涯通して一寸しかないんじゃないの?


A:正確には、最終的に打出の小槌の力で6尺になるから、生涯通してってわけではない。


B:6尺ってどれくらい?


A:およそ182cm。


B:モデル級じゃん。


A:うん、もっと縮めばいいのにね。

  今も昔も、高身長男子がモテモテっていう法則は、変わらないって事じゃない?

  ……それで、さあ。

  そうなると、ちょっとおかしいと思わない?


B:何が?


A:よく考えてみなよ。

  普通人間が生まれる場合、まずお腹の中で少しずつ大きくなっていって、

  何ヶ月もかけて、漸く生まれてくるんだよ?

  調べてみたら、胎児は生まれる前までに、およそ50cmくらいにはなってるって。

  約3cmといったら、せいぜい妊娠3ヶ月いかないくらいの大きさだよ。


B:調べたんだ。


A:調べたよ。

  ただ口で「おかしい」って言うだけじゃ、説得力無いからね。

  何事も、裏付けが無いと始まらない。


B:さいですか。


A:さいです。


B:それで?


A:それでも何もあるかって。

  ここまでの時点で、ツッコミどころは山程あるんだよ。


B:ほう、例えば?


A:まず一つ。

  そんな小さい子どもを腹の中に授かったとして、どうやってそれに気付いた?

  検査薬だの、エコー検査だのみたいな文明の利器は、その時代にはあるはずも無い。

  せいぜい、お腹に異物感があるとか、そんな程度じゃないのか?

  という疑問。


B:そりゃあ……なんか、昔の時代だったらよく使われる、あれじゃない?

  神様とかが夢の中に現れて、それっぽい事を言って消えていく、みたいな。


A:まあ、それも無くはない話だね。


B:因みに、さっき、妊娠3ヶ月いかないくらい、とか言ってたよね。


A:言ったね。


B:それって、普通の妊娠だと、どれくらいの時期?


A:悪阻のピークらしいよ。

  妊娠の実感が湧いてくる時期とか何とか。


B:それじゃあ、気付けてもおかしくないんじゃない?


A:いや、腹の中でその大きさになって、漸くそうなんだよ?

  一寸法師は、もうその大きさになってる頃には生まれてんの。

  普通の胎児がやっとこさ3等身になって、顔立ちと手足の指が出来てきたなって頃には、

  一足先に、生命の産声をこの世に響かせちゃってんの。

  一足どころじゃないけど。


B:なるほど。

  つまり、普通の人間と同じように、胎内で少しずつ大きくなって生まれてきたのであれば、

  最初は米粒にも満たない大きさだったんじゃないかと。

  そんなサイズの人間を腹籠もったとして、どうやってそれに気付いたんだと言いたいんだね?


A:そう。

  しかも、その疑問に拍車をかける、追加の疑問もあるんだよ。


B:どんな?


A:一寸法師は、何年経っても一寸以上にならなかった、って描写がある。


B:うん。


A:生まれた子供は一寸しかなかった、って描写もある。


B:うん。

  ……うん?


A:おかしくない?


B:おかしいね。


A:生まれた時に一寸しかなかった。

  まあこれは、百歩譲っていいとするよ。

  何年経っても一寸しかないってのは、どういう事なの?


B:一寸法師は、ちゃんと人間的な成長はしてるんだよね?


A:してるよ。

  最終的に、何歳になったかは知らないけど。


B:大きさが変わらずに、体だけ成長していくって考えると、生命の神秘通り越してホラーだね。


A:でしょ?

  桃太郎はちゃんと、それに見合った大きさの桃から生まれてるし、

  かぐや姫だって、異常に発育が早かったって点を除けば、普通に人間と同じ成長の仕方をしてる。

  おかしいならおかしいなりに、ちゃんと辻褄を無理矢理にでも合わせてるんだよ、他の御伽噺は。


B:せめておかしいじゃなくて、不思議って表現を使って欲しい。


A:でも、一寸法師は、人間から生まれたって言ってる割に、

  やれ身長が一寸しかないだの、成長しても一寸しかないだの。

  よくよく考えるとおかしいって要素が、もう出生の段階でてんこ盛りなんだよ。


B:よくよく考えてしまうあたり、子供心を失ってしまってるって感じするよね。


A:ん?


B:子供の頃は、何もおかしさなんて感じず、ただただ不思議な話の虜になってただけなのに。


A:ちょっと?


B:嗚呼、あの頃のあなたの純真無垢な心は、一体どこに置いてきてしまったんですか!?


A:何の話してんの?


B:何の話をしてるんでしょうか?


A:一寸法師の話。


B:正解。

  議題の続行権を差し上げます。


A:はい、ありがとうございます。

  だからね、一寸法師は、どうやって成長したのかが、不思議で仕方がないんだよ。

  何年経ってもって言ってる以上、必ず成長過程を何段階か踏んでるわけだから。


B:何年経っても、とは言ってるけど、生まれた時は成長した状態じゃなかった、とは言ってないんじゃない?


A:いや、でも生まれてきた子どもは、って言ってるし。


B:赤ちゃん、とは言ってないんじゃない?


A:その時代において、赤ちゃんという単語は無かったと思う。


B:その時代その時代って言うけど、具体的にどの時代なの?


A:元になった話が掲載されてるのが御伽草子で、それが成立したのが、鎌倉時代から江戸時代にかけてだけど。

  室町物語って別名もあるみたいだから、ほぼ室町時代でいいんじゃない?


B:それも調べたの?


A:調べたよ。


B:どれくらい?


A:一寸法師に関連する事は、ほとんど全部。


B:全部?


A:ほぼ全部。

  御伽草子に載ってる方の一寸法師も読んだ。


B:努力の方向性の見誤りっぷりが垣間見えるね。


A:ほっといてよ。

  因みに、現代で語られてる一寸法師は、鬼をやっつけてうんたらかんたらって感じで、

  桃太郎みたいなヒーロー的役割やってるけど、原作の一寸法師って、結構な外道だからね。


B:どんな感じで?


A:それは、自分で読んで確かめて下さい。


B:あ、そこはケチるのね。


A:で、話を元に戻すけど。

  一寸法師は生まれてから、大きさが一寸から変わらなかったなら、どうやって成長したんだと思う?


B:はい先生。

  私はさっき言おうとしましたが、生まれた時から、既に成長した状態だったんだと思います。


A:ほう。


B:何年経っても一寸から大きくならないというのも、そう仮定すればある程度は、筋が通ると思います。


A:では、あなたの答えは要するに、一寸法師は、生まれた時から成長が終わっていたと。


B:はい。

  そう解釈するのが、妥当だと思います。


A:成程成程。

  先生も何となく、そう解釈すれば良いんじゃないかと思ってます。


B:はい。

  もうこれが正解で良いとすら思います。


A:そうですね。

  ですが、却下です。


B:なんで!?


A:リアリティが無い。


B:うわぁー!

  このタイミングでこの人の口から、耳を疑う単語爆誕!!


A:それ以外で。


B:ええー……

  じゃあ、一応聞きますけどー、先生の見解は?


A:脱皮。


B:……はい?

  すみません、もう一度言って頂いてもよろしいでしょうか。

  なんか今、信じ難い単語が……


A:脱皮です。


B:……えーっと、どうしたんでしょうか。

  ここまで凄く、根拠とか裏付けも合わせて、何となく形だけでも論理的に見えていたのに。

  何故一番大事なこの局面で、こうなってしまったんでしょうか。


A:動物の成長方法の中で、最も一寸法師に該当しそうな物を吟味した結果の結論です。

  脱皮です。

  間違いありません。


B:この人一歩も退かない構えだぁー!!

  そのペラッペラで根拠も意味不明なのに、妙に絶対的な自信は一体何処から来ているんだ!

  ……もしかして、さっき私が提唱した見解が、思いのほか理屈に適っていたから、

  後に引けなくなってしまったのか?

  内心自分でもそう思ってるし、認めざるを得ないけど、

  ここであっさりそれを認めたら、ここまで力説してきた自分の立つ瀬が無い気がするから、

  変な意地を張っているのか!?


A:では、脱皮という結論でこの議題を終了したいと思います。


B:そうっぽい!

  やりきった顔すら見せてるあたりそうっぽい!!

  ……えーっと、じゃあまとめると、一寸法師は、広い意味で人間ではなかった、って事でいいの?


A:いや、そもそも一寸法師は一寸じゃなかったんだよ。


B:んっ?


A:もっと分かりやすく言えば、一寸法師が小さかったんじゃなくて、周りの人全部が大きかったんだよ。

  逆転の発想だよ。


B:なんか全然違う可能性を提示してきた!

  え、じゃあさっきの、脱皮のくだりは?


A:脱皮?

  何言ってんの?


B:無かった事にしようとしている!!


A:ちょっと何言ってるのか全然分かんないわ。


B:う、うーん……

  うん、うん。

  言いたい事は山程あるけど、敢えてそれは、全部飲み込んでおくよ。

  つまり、何?

  一寸法師が通常サイズで、他が巨人族だったと。

  だから、一寸法師の出生に関しては、何もおかしくないと。


A:そう。

  一寸っていうのは、あくまで名前だから、深い意味は無くて、普通の大きさだったんだよ。

  むしろ、人間が巨大になっているのが当たり前の時代の中で、普通サイズの子供が生まれちゃったから、

  それを揶揄するかのように、一寸法師、なんて名前を付けられたんだよ。


B:ヘイ、ヘイ。


A:そして、彼は同じく通常サイズの姫と幸せに生きるために、

  打出の小槌で姫と一緒に、周りと同じ巨人族になるのか、

  巨人達に蹂躙され食い物にされていく、数少ない通常サイズの人間達を救う為に、

  一寸法師であり続けるのかという、究極の選択を余儀なくされて、


B:ストップ、ストップ。


A:自分の中の紅蓮に燃える正義の心に従って、巨人族を一匹残らず駆逐……


B:シャラップ!


A:なに。


B:うん……

  もう何か、どっかで聞いた事ある別の話になって、盛り上がってる所に水を差すようで悪いんだけどさ。

  ……根本的に、何も変わんないよ?


A:なんで?


B:だって、他の人みんなが巨人族だったなら、その人達にとっては、一寸法師は結局小人でしょ?

  だから、一寸法師の大きさだけ等身大にするならともかく、

  周りもそれに比例して大きくさせたら、一寸法師という扱いは変わらないってこと。

  出生と成長に関しての問題は、母親も通常サイズなら解決してるけど。


A:……確かに。


B:あ、この人、下積みが無いと全然ダメなタイプだ……

  なんか……ごめん。

  あ、でも、等身大の一寸法師と巨人族の話は、それはそれで、面白そうかなとか思ったけど。

  なんか、進撃してそうで。


A:いや、いいよ、そういうの別に。


B:尋常じゃないくらい冷めてる!!

  じゃ、じゃあ、とりあえずこれで、話は終わりだね?


A:うん。


B:まあ、なんというか、観点は面白かったけど、今回のテーマには合ってなかった気がするよ。


A:そうかな?

  「世にも不思議なナニガシ」ってテーマじゃなかったっけ?


B:うん、そうなんだけど……

  今のは、ただ個人的に不思議に思った話ってだけで、世にも不思議なっていう話ではないと思う。


A:……そっか。


B:いちいちがっつり凹まないでくださいー!

  めんどくさいですー!!


A:すみませんでした。


B:……全くもー……

  えーと、それじゃあ今度は、こっちからね。


A:はい、どうぞ。


B:「ヒトヨノマチ」って、聞いたことある?


A:ヒトヨノマチ?


B:そう。

  漢字で書くと、こう【一夜の街】ね。

  その名の通り、一夜限りの街なんだって。


A:何が?


B:その街の姿が。

  夜が明けた頃には、違う街並みになってるんだよ。


A:違う街並み……?


B:そう。

  概要はこうだ。

  ある旅人が遭難の末、行き倒れた。

  このままここで野垂れ死ぬのか、と思っていたら、不思議な温もりに包まれた。

  不気味だけれども、何だか、どこか心地良い。

  そんな事を考えながら、遠くなる意識に抗えず、そのまま眠ってしまった。

  そして、眼が覚めると、知らない家のベッドで眠っていたんだ。

  設備を見るに、宿屋だったらしい。

  窓から外を見てみると、特別栄えているわけではないにせよ、そこそこ人も家も多かった。

  ……だけど、なんだかおかしい。

  街には人はいるけれど、何というか、凄く余所余所しい感じがしたんだって。

  で、とりあえず何はともあれ、まずは礼を言わねばと、旅人は宿の主人に、挨拶に行ったんだ。

  話の流れで、興味本位で何となしに、街の事を尋ねてみたら、こう返された。

  「ここは、ヒトヨノマチですから。

   みんなが余所余所しいのも、仕方が無いですよ」ってね。


A:それって、どういう意味?


B:「夜が明ければ、分かりますよ」

  それ以上は、何も言ってくれなかった。

  気になって仕方がない旅人は、とりあえず何日か、この街に留まる事にした。

  そして、夜が更けても、ベッドの上で大の字にこそなれ、

  体も疲れているはずなのに、やっぱり何かモヤモヤして、なかなか寝付けなかったんだ。

  すると、遠くの方で何かが崩れ落ちるような音。


A:ズズ、ズズズーン、ガラガラガラガラ。


B:そして、続け様に結構近くで、隕石でも落ちたかのような轟音。


A:ドォーン、ドドォーン。

  ミシミシミシ……


B:旅人は飛び起きて、窓から身を乗り出して、外を見た。

  ……何も見えない。

  街灯も点いてなかったんだね、何故か。


A:都合のいいぼかし方だね。


B:そういう事を言わない。

  ……で、翌朝。

  何があったのかと宿の主人に聞いたら、こう言った。

  「ご自分の目で確かめるといいですよ。

   そうしたら、この街の事も分かるでしょう」って。

  釈然としない思いがありつつも、とりあえず、宿から出てみた。

  幸い、見通しが良い街だったから、すぐに何がおかしいか分かった。


A:「昨日、あそこにあったはずの建物が消えている……

   しかも、昨日まで何も無かった場所に、見覚えの無い建物が増えている!」


B:文字通り、一夜で街並みが変わってしまったんだね。

  でも、おかしな事は、もう一つあった。

  街の隅っこに、立ち入り禁止の看板とロープが、まるで国境のように、ズラッと並べられていたんだ。

  これが何なのかと、旅人が誰に尋ねても、

  「そこから先へは、絶対に行ってはいけません」の一点張り。

  その国境線の向こうには、海のような水面が、遠くに見えたそうだ。


A:「どういう事なんだ……一体何なんだ、この街は」


B:そして、訳も分からないまま、明くる日も、また明くる日も。

  少しずつ少しずつ、でも確実に、街並みがどんどんと変わっていった。

  ……でも、何一つ分からなかった訳じゃない。

  一つだけ、気付いた事もあった。

  尤も、気付いたところでどうしようもないし、時既に遅し、だったんだけど。

  それは、何か。


A:「国境線が、宿屋に近付いて来ている……」


B:恐ろしい話だよ。

  国境線と宿屋の間には、最初は凄く距離もあったし、間に建物もいっぱいあった。

  けど、日を追う毎に、どんどんそれらが無くなって、遂には、すぐ隣まで来ていたんだ。

  嫌でも気付くよね。

  元々あった街並みが、新しく現れる街並みに押しやられて、国境線の向こうへ、消えていっているんだって。

  得体の知れない、海が広がっているだけの空間が、この世の何よりも不気味に思えたのも、無理もない。

  だって、どこまで逃げた所で、いつかは一夜の中に、消し去られるんだから。

  そして、全てを悟った男は諦めたように、また一夜、眠りについた……

  ……と、これが「ヒトヨノマチ」って話。


A:それで、その人は、結局どうなったの?


B:分からない。


A:分からない?


B:そう、分からないんだよ。

  街から逃げ出して、人知れず行き倒れて、今度こそ命を落としたとか、

  恐怖心よりも好奇心が勝って、自分から、ヒトヨノマチの一部となったとか。


A:いずれにせよ、生きてはいないよね。


B:まあ、話がそこまでしか伝えられていない以上、憶測の域を出ないよ。

  そもそも、ヒトヨノマチっていうの自体が、死人の世界にある街で、

  街の人々は、成仏の順番待ちをしている、っていう解釈もあるみたいだけどね。

  個人的にはその解釈が、一番信憑性もあるし、そうっぽいかなって思うけど。


A:冒頭で、如何にも旅人は死にましたってとれる描写があったもんね。


B:そうそう、そういう事。


A:成程。

  これは確かに、「世にも不思議なナニガシ」というテーマに相応しいね。


B:でしょ?


A:うん。

  ……でもさ、一つだけ、異論を唱えたいんだけど。


B:なに?


A:どうせなら、フィクションが良かったな。


B:……それは、お互い様でしょ。


A:まあ、そうだけど。


B:さーて、この家は、あと何日もつのやら。


A:その日まで、なにして過ごす?


B:世にも不思議なナニガシ、なんてどうだろう。


A:無限で夢幻の物語に思いを馳せて、みたいな?


B:そんな感じかな。


A:それじゃあ、今度はねえ……


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