メリー・デリバリー
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(役表)
男♂:
メリー♀:
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メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:ん、電話?
……非通知じゃん、誰だろ。
ガチャ。
はい、もしもし。
メリー:もしもし?
私、メリーさん。
男:あ、間に合ってます。
ガチャン。
メリー:……ん?
待って待って、話が違う。
……も、もう一回、もう一回。
プルルルルル、プルルルルル。
男:ガチャ。
はい、もしもし。
メリー:もしもし?
私、メリーさん。
男:あ、結構です。
ガチャン。
メリー:えっ、あの、
……ッスゥーーー……
えーーーーっと。
え、んん……?
……ちょ、ちょっともう一回。
プルルルルル、プルルルルル。
男:ガチャ。
はい、もしもし。
メリー:もしもし?
私、メリーさん。
男:あ、大丈夫です。
ガチャン。
メリー:大丈夫って何!?
待って、ああ! もう切れてる!
プルルルルル、プルルルルル!
男:ガチャ。
ガチャン。
メリー:もしっ、あァ!!
ちょ、ガチャ切り!?
え、なんっ、なに、なにこいつ!?
プルルルルル!!
男:ガチャ。
いい加減にしてください。
メリー:もっ、ぁえ?
え、はい?
男:いや、はい? じゃなくて。
なんなんですかあなた、さっきから何回も何回も。
迷惑だって分からないんですか?
メリー:え、そんないきなり本気で怒られても……
……あの、あなた、私が誰なのか分かってないの?
男:なんですかそれ、新手のナンパですか?
メリー:うん、違うわ、全然違う。
私、メリーさんなのだけれど。
男:目利居さん?
変わったお名前ですね。
メリー:ううん、違う。
イントネーション全然違う。
メリーさんなの、目利居さんじゃなくて。
男:はあ。
で、そのメロンさんが何の用ですか?
メリー:いや、何の用っていうか……
今メロンって言わなかった?
男:言ってませんね。
メリー:言ったわよね?
男:言ってません。
メリー:言った。
男:切りますよ。
メリー:ごめんなさい待って。
私の聞き間違いだったわ。
男:分かれば良いんです。
メロンって言ってましたね?
メリー:はい、言ってな……
やっぱり言ってたわよね?
男:ええ、言いましたよ。
それが何か?
メリー:……ふ、ふふふ。
ジーザス。
男:は?
メリー:いいえ、何でもないわ。
男:で、なんですか?
メリー:私、メリーさん。
男:それはもう聞きましたけど。
メリー:今、あなたの家の前にいるの。
男:……いませんけど。
メリー:インターホン越しに確認しようとしても無駄よ。
見えないからね。
男:カメラにも映らないんですか?
メリー:そうよ。
届かない……じゃなくて、あの……あれよ。
私、この世のモノじゃないから。
男:そうですか。
メリー:……今、あなたの家の前にいるの。
男:それも今聞きました。
メリー:これ、オートロックっていうのかしら?
男:ええ、まあ。
メリー:開けてくれない?
男:嫌ですよ。
メリー:通れないんだけど。
男:良いことじゃないですか。
メリー:続きが出来ないじゃない。
男:何ですか、続きって。
メリー:……あなた、私の都市伝説知らないの?
男:マリオさんの都市伝説なんて知りませんよ。
メリー:配管工じゃないのよ私は。
メリーさんだって言ってるでしょ。
男:……もしかして、メリーさんって、あの?
メリー:ようやく分かったみたいね。
まあ、気付いた所で、もう遅いのだけれど。
男:………………
メリー:どうしたの?
うふふ、恐怖で声も出ないのかしら。
男:いや、このまま黙ってたら語ってくれないかなって。
メリー:微塵も分かってないのね。
こんなパターンは初めてだけど、仕方無いから教えてあげるわ。
男:あ、なるべく早くお願いしますね。
今からピザ注文するんで。
メリー:それ今する事じゃないわよね?
なんで今のタイミングでするの?
私からの電話は、宅配ピザより優先度低いの?
男:シーフードベジタブルミックスピザの、Mサイズ1つお願いします。
メリー:店に掛けなさいよ。
男:あ、間違えた。
じゃあ、一旦切りますよ。
メリー:ええ。
男:ガチャン。
メリー:…………
…………
……やられた。
やられたっていうか、私は馬鹿なのかしら。
何の違和感も無く自然な流れで、電話を切るのを許してしまったわ。
……そろそろ、終わったかしらね。
プルルルルル、プルルルルル。
男:ガチャ。
お掛けになった電話番号は、現在使われております。
メリー:使われてるのよね?
男:ええ、使われてますよ。
だから繋がってるじゃないですか。
メリー:……ええ、それもそうね。
男:それより、まだ何か用なんですか、マックスピザさん。
メリー:それピザ屋の名前よね?
薄々感じてたんだけど、もしかしてあなた、喧嘩売ってる?
男:いえ、そんなつもりは全然。
メリー:そんなつもりじゃない対応とは思えなかったけどね……
まあ良いわ。
あなた、私の都市伝説を知らないみたいだから、簡単に教えてあげる。
男:それはどうも。
メリー:あなた、ここに引っ越してくる時、人形を捨てたでしょう。
男:えーと……
ああ、捨てましたね。
もう随分古くなってたので。
メリー:それが、私なのよ。
男:……はい?
メリー:私を捨てて行くだなんて、許さない。
絶対に許さない。
あれだけ大事にしてたくせに。
あれだけ、大事にしてくれたくせに。
許さない、許さない、許さない、許さない、許さない。
ふ、ふふ、ふふふふふっ。
……だから、今からあなたを殺しに行くのよ。
逃げても無駄よ?
どこまで逃げたって、どこまででも追いかけて、必ず殺してやるんだから。
私を捨てた後悔の念と恐怖に苛まれながら、怯えて待つが良いわ。
男:………………
メリー:……私、メリーさん。
今から行くわ。
あなたの、後ろに。
男:あの。
メリー:……なに?
男:違います。
メリー:なにが?
男:僕が捨てたのは、メリーじゃありません。
メリー:何を寝ぼけた事を言ってるの?
あなたが捨てた私の名前は、メリーよ。
他でもないあなたがそう名付けて、そう呼んでたんじゃない。
……それとも、なに?
それは、命乞いのつもりなの?
命が惜しいからって、醜い嘘を吐いたって、
死ぬとき、余計に苦しいだけよ?
男:いや、だからそうじゃなくて。
メリー:じゃあ、何よ。
男:人違いなんですよ。
正確には、人形違い。
メリー:はあ?
男:僕が捨てたのは、
「ルイス・エリザベス・エンデ・ラ・バルバロッサ・リーオ・デジャロ・マイニ・サン・
ロマネ・コンプレックス・ホニャリ・ホニャララン・ボルギーナ・モス・ド・
ロング・ロング・タイムア号13世 feat.メリー」、です。
メリー:……なんて?
男:だから、
「ルイス・エリザベス・エンデ・ラ・バルバロッサ・リーオ・デジャロ・マイニ・サン・
ロマネ・コンプレックス・ホニャリ・ホニャララン・ボルギーナ・モス・ド・
ロング・ロング・タイムア号13世 feat.メリー」
なんですって、僕が捨てた人形の名前は。
略して、メリーって呼んでたんです。
メリー:あなた、フィーチャリングの意味分かってる?
男:知りません。
雰囲気で付けました。
メリー:でしょうね。
なにその名前、初耳なんだけど。
男:呼んだ事ありませんからね。
脳内設定ですよ。
ぶっちゃけ、フルネームで呼ぶのめんどくさくて。
メリー:ちょっと名付け親。
略すくらいなら、長ったらしい部分、全部要らないわよね。
最初から「メリー」だけで良いじゃない。
男:そんな事はありません。
ただの「メリー」だけじゃ、オリジナリティに欠けるじゃないですか。
メリー:欠けるどころか、もはやオリジナリティが単体として独立してるレベルなんだけど?
男:なので、ただメリーさんと名乗られても、あなたが僕が捨てた「メリー」である確証がありません。
だから、人違いなんじゃないかと言ってるんですよ。
メリー:……なんなのかしらね。
言い分は筋が通ってる気がするのに、全く以て納得いかないこの感じは……
じゃあ、この際逆に聞くけど、どうしろって言うのよ。
男:証明して下さい。
メリー:なにを?
男:あなたが、僕の「メリー」であるという事を。
メリー:……嫌な予感がしてきた。
それは……どうやって?
男:最初から、やり直してください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:ん、電話?
……非通知じゃん、誰だろ。
ガチャ。
はい、もしもし。
メリー:もしもし? 私、
ルイス・エリザベス・エンデ・ラ・バルバロッサ・リーオ・デジャロ・マイニ・サン・
ロマネ・コンプレックス・ホニャリ・ホニャララン・ボルギーナ・モス・ド・
ロング・ロング・タイムア号13世 feat.メリーさん。
今、ゴミ捨て場にいるの。
男:……はあ?
メリー:ガチャン。
男:あ、切れた。
……なんだ今の、イタズラ電話か?
メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:また掛かってきた。
ガチャ。
はい、もしもし。
メリー:もしもし? 私、
ルイス・エリザベス・エンデ・ラ・バルバロッサ・リーオ・デジャロ・マイニ・サン・
ロマネ・コンプレックス・ホニャリ・ホニャララン・ボルギーナ・モス・ド・
ロング・ロング・タイムア号13世 feat.メリーさん。
今、あなたの家の前にいるの。
ガチャン。
男:家の、前……?
……誰もいないじゃん、アホらしい。
メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:………………
メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:……まさか、な……?
メリー:プルルルルル、プルルルルル。
男:ガチャ。
……はい、もしもし。
メリー:オートロック開かないんだけど。
男:でしょうね。
メリー:開けてくれない?
男:嫌ですよ。
メリー:ここまでやらせといて!?
男:だって、入れたら殺されるんでしょ?
だったら、こっちが入れてあげる理由ありませんよね。
それに、やり直したら入れるなんて、一言も言ってませんし。
メリー:……ほんと、底無しに性格悪いわね。
変な話だけど、私がメリーさんじゃなかったとしても、あなたは個人的に殺したいわ。
男:そういう性分なんで。
分かったら、もう諦めて、ゴミ捨て場に帰って下さいよ。
若しくは、大人しく成仏して下さい。
メリー:……分かったわ。
こっちも準備が足りなかったみたいだし、今日の所は諦めることにするわ。
……言っとくけど、私は執念深いわよ。
曲がりなりにも、怨霊の端くれだから。
これくらいで、撃退出来たと思わないことね。
それじゃ、さよなら。
ガチャン。
男:……ふう。
全く、このご時世に、何がメリーさんだよ。
イタズラ電話にしたって、もうちょっと凝るだろっつうの。
……まあ、いくら暇だったからとはいえ、ちょっとからかい過ぎたかもな。
メリー:ピンポーン。
男:おっ、来た来た、グッドタイミング。
変な電話は、ピザ食べて忘れよーっと。
はいはーい、今開けますー。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メリー:ピーンポーン。
男:はーい。
ガチャッ。
メリー:こんにちはー、マックスピザのメリーですー。
男:バタン!
(深呼吸)
……なんで?
メリー:ガチャッ!
バン!!
男:ひっ!?
メリー:私、メリーさん。
……今、あなたの目の前にいるの。
ほら、言ったでしょ?
執念深いのよ、私。
……それじゃあ。
男:あ、ああぁあ……!
メリー:今度こそ、さようなら。
男:これ、シーフードベジタブルミックスピザじゃないんですけど。
メリー:店に言いなさいよ……!
男:食べます?
メリー:……食べるわ。
男:食べるんだ。
ていうか、食べれるんだ。
殺さなくて良いんですか?
メリー:良い。
……もう、良い。
なんかもう、バカバカしくなっちゃった。
そういえば、そういう人だったわ、あなたは。
男:メリーさん。
いや、ルイス・エリザベス・エンデ・ラ・バルバロッサ……
メリー:メリーで良いわよ。
むしろ、お願いだからメリーにして。
男:じゃあ、メリー。
今頃言っても、遅いかも知れないんだけど。
メリー:……何よ。
そんな真面目な顔したって、私は……
男:割り勘にしてもらって良いですか?
メリー:……は?
男:いや、ピザ食べましたよね?
これ僕の金で買ってるんで、ちゃんと食べた分、払って下さいよ。
食べてから言うのも、遅いかなって思ったんですけど。
メリー:………………
男:メリー?
メリー:……やっぱり、死ね!!!
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