ジサツゲーム

(登場人物)


・GM(ゲームマスター):♂

※性別変更可。

本名…不明

職業…不明

年齢…不明


・進藤 彰文(しんどう あきふみ):♂

職業…大学生

年齢…22


・山辺 泰一(やまべ たいち):♂

職業…高校教師

年齢…37


・小椋 弓恵(おぐら ゆみえ):♀

職業…銀行員

年齢…28


・柳瀬 薫(やなせ かおる):♀

職業…女子高生

年齢…17


・烏丸 光梨(からすま ひかり):♀

職業…中学生

年齢…15


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(役表)

GM:

進藤:

山辺:

小椋:

柳瀬:

烏丸:

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GM:ロシアンルーレット。

   リボルバー式拳銃に1発のみ実弾を装填し、シリンダーを適度に回転させた後、

   自らの頭部に向け順番に引き金を引き、弾丸が当たった人間が敗者となるゲーム。

   ギャンブル、度胸試し、拷問など、その目的や用途は様々だが、

   いずれにせよ、参加者の最低1名が、確実に死に至る事は明白である。

   尚、自分の番で弾丸が出ると確信があった場合は、天井に向け発砲することも可能とされているが……

   ……それでは、面白くないね。

   死と隣り合わせにあってこそ面白いのが、このロシアンルーレットというゲームであり、​

   極限の恐怖と、死と隣り合わせとなるこのゲームにおいて醜く輝くのが、人間という物好きな生き物だ。

   ならば……

   このゲームに、私独自のルール改定を行い、目に見える莫大な報酬を与えたらどうなるのか……

   ……興味深いね。

   実に、興味深い。


小椋:……て。

   起……て。

   おーい、起きなさいってば……おーい!

進藤:ん……?

小椋:ねえ、ちょっと!

​   目を覚ましなさいったら!


進藤:……!?

   ……え、誰だ、あんた……!?


小椋:ようやく起きたわね。

   おはよう。


進藤:お、おはよう……?

   い、いや、そうじゃなくて!

   誰なんだ、あんた……

   って、どこだよ、ここ!?


小椋:起きるなり騒がしい人ねえ。

   他の人もいるんだから、もうちょっと落ち着きなさいな。


進藤:は?

   他の……人?


山辺:……ああ、起きたんだね、お寝坊さん。

   僕の事はお構いなく。

   状況把握と、現在位置特定に忙しいので。


柳瀬:これは夢だ……これは夢だ……これは夢だ……

   これは夢だ……夢だ……!


烏丸:おはよー。

   ボクの事も構わないでいいよー。


進藤:……知らない顔ばっかだ……

   それに……なんだよ、ここ。

   どこを向いても、真っ白な壁……窓一つ無いじゃねえか!


山辺:壁は目測で、およそ一辺10mの正方形、立方体の空間のようだね。

   窓どころか、通風孔も扉も無い。

​   特徴的なところを挙げるとするなら……方眼模様であることくらいかな。


進藤:そんなことは見ればわかるよ。

   そんなことを知って、なんになるってんだよ……


山辺:自分が思いもよらない状況に突然追い込まれた時、

   まずは自分が置かれている状況を、簡潔にでも理解することが大切なんだよ。

   判断能力を低下させずに済むし、なによりもまず、冷静になれる。

   情報が何一つ無い状態で、冷静さまで欠いてしまっては、悲惨な結果しか生まないからね。


烏丸:悲惨な結果ってなにさ、おじさん?


山辺:さあ、そこまでは。

   ここがいっそ、寂れた廃墟かなにかだったら、異常事態だという事が瞬時に理解出来るんだが。

   ここまで見事なまでに何も無いとね……考察のしようがない。


烏丸:……ま、そりゃそうか。

   それはそうとさ、いつまでそうやってるつもり? お姉さん。


柳瀬:……え……?


烏丸:そんなとこで蹲ってぶつぶつ呟いてたって、なんにも変わんないよ?

   ……あはっ、もしかして。

   これは夢なんだこれは夢なんだーって言い聞かせてたら、ここから抜け出せると思ってる?


柳瀬:……そうよ、悪い?

   だって、こんなのおかしいじゃない!

   私はついさっきまで……もうちょっとでうまくいってたのに……!

   あと少し、あと少しで……!!


烏丸:あと少しで? なにさ?


柳瀬:……あなたには関係ない。


烏丸:ふうん。

   ま、いいケド。

   ……とりゃっ。(デコピン)


柳瀬:っ!?

   なにするのよ!?


烏丸:あはっ。

   痛かった? 痛かったでしょ?

   ほら、分かった?

   これは現実なんだよ。


柳瀬:……っなんなのあんたは……馴れ馴れしい。

   もういいから、私のことはほっといて!!


烏丸:はーいはい。


小椋:……全く、あんまり刺激するのはやめなさいな。

   ああいうタイプはこういう時、一番面倒なんだから。


烏丸:だってさー。

   この中で見るからに一番年下のボクが、これだけ落ち着いていられてるのに、

   ボクより年上の人があんなんじゃさぁ、どうかと思うよ?


小椋:あなたはずいぶん、図太い神経をお持ちのようね。


烏丸:あはっ、まあねー。


進藤:お、おい……ちょっといいか。


烏丸:んー?


小椋:なにかしら?


進藤:あんたらは、その……俺と同じなのか?


小椋:どういうこと?

   質問の意図が見えないんだけど。


進藤:今、何時かわかるか?


小椋:……お生憎様。

   今は、時計は持ってないわ。


烏丸:ボクもー。

   携帯もどっか行っちゃったし、ここには時計も無いみたいだしね。


山辺:……17時36分だよ。


進藤:確かか?


山辺:電波時計だからね、ほぼ間違いないと思うよ。

   尤も、此処が電波すら遮断された、完全な密閉空間だとしたなら、必ずしも正確とは言えないがね。


進藤:そうか、ありがとう。


小椋:それで?

   それがどうかした?


進藤:……ここに来る前、何してた?


山辺:………………


小椋:……さあ。

   覚えてないわね。


烏丸:右に同じく。


進藤:……そうか。


山辺:それがどうかしたのかい?

   なにか、気がかりなことでも?


進藤:いや……別に。

   悪いな、たぶん気のせいだ。


烏丸:なにそれー、思わせぶりだなあ。


柳瀬:……っねえ、ちょっと!

   あなた達、少しは黙ってられっ……


​(ハウリング音)


​柳瀬:ひっ!?


進藤:な、なんだ!?


GM:エー、アーアー……うん、入ってるね。

   (咳払い)

   諸君、ようこそ。

   何も無い所だが、楽しんで頂けているかな?


柳瀬:なにこれ……どっからしゃべってるのよ!?

   あんた誰なの!?

   さっさとここから帰しなさいよ!!

GM:おやおや、いただけないな、淑女がそんなに声を荒げるなど。​

   まあ、それも無理もない話か。

   確かに、突然このような状況に陥っていては、思考が混乱するのも当然だ。

   特に、過程も分からず、結果のみを押し付けられたとあっては、憤慨したくなるのも仕方の無いことだろう。

   ……だがね、その過程がどうあれ、今ここにある結果が全てだ。

   ここから出たいのならば、君達は私の言うことを聞くしか、選択肢は無い。


柳瀬:なによ、それ……ふざけないで!!


山辺:君、ちょっと落ち着きなさい。

   方向性はどうあれ、進展が見えたんだ。

   ひとまずここは、


柳瀬:うるさい! 私に命令しないで!!

   なんの役にも立たない、ただの冴えないおっさんのくせして偉そうに!!


山辺:……落ち着きなさい、というのが、聞こえなかったのかい?


柳瀬:……っ。

   なんなのよ……なんで、私がこんな目に……っ!


小椋:手馴れたものね。


山辺:そうでもないさ。

   失礼、お話の続きをどうぞ。


GM:ああ、すまないね。

   さて、「私の言うことに従ってもらう」とは言ったが、

   なに、別に難しい事をしてもらうわけじゃあない。

   ちょっとしたゲームをしてもらうだけさ。


進藤:ゲーム……?


烏丸:ゲームったって、なんにも無いじゃん。

   なに? 鬼ごっこだの、だるまさんが転んだだの、体を使った遊びでもするの?


GM:まさか。

   それよりも、もっと刺激的なものだ。

   今、それに使う道具を、そこに提示しよう。


(床の一部が盛り上がり、その上には、特殊な形状の銃が乗っている)


進藤:なんだ、床が……!?


山辺:……なるほど、床が方眼模様なのはこういうことか。

   興味深いね。

   小説で読んだSFの世界に、よくこういうのがあったものだ。


小椋:……なかなか、近未来的ね、飛び出す床なんて。


GM:さて、諸君。

   今そこに提示したゲームの「遊具」、それがなにか分かるかい?


進藤:これ……銃!?


柳瀬:っ!?


山辺:……リボルバー式の拳銃、みたいだね。

   あまり見たことのない、随分と特殊な形状だが……特注品かな。


烏丸:うわぁ凄い、これ本物?

進藤:お、おい、迂闊に触るなよ!


GM:もちろん、本物だ。

   今回のゲームのために作った代物だが、実弾も撃てる。

   今は、弾は入っていないがね。


小椋:……今「は」?


GM:そう、今は。


小椋:回りくどいわね、いい加減言いなさいな。

   私達に、何をさせたいわけ?


GM:ロシアンルーレットだよ。


進藤:……ロシアン……


烏丸:るーれっと?


GM:そう。

   知らないかな?

   命知らずのプレイヤー2人が、互いの資産と命をBETし、自らの蟀谷に向けて、引き金を引き合う。

   シンプルながら、実に奥深い、命を捨て遊ぶ刺激的なゲームだ。


山辺:どういったものなのかは、一応知ってはいるが……


小椋:この5人で、たった1人の脱落者が出るまで、それをやれって?


GM:理解が早くて助かるよ。

   ……だが、脱落者の数は、1人とは限らない。

   ルールにいくつか、私なりのアレンジを加えているんだが……

   それを説明する前に、そこに出てくる箱の中を見たまえ。


(一部の床が盛り上がり、その上には、透明なドームに包まれた札束が乗っている)


山辺:これは……札束?


烏丸:うわ、すっご……

   いくらあるの、これ?


GM:そこにあるのは200万円。

   それが、君達が「引き金を引くごとに」得られる賞金だ。


進藤:引き金を引くごとに……?

   どういうことだ?


GM:先程も少し言ったが、その銃は特別製でね。

   普通は5発、もしくは6発入る銃に、1発だけ実弾を入れて行うものだが……

   ……そうだな。

   先に少しばかり、頭の体操でもしてもらいながら、

​   ロシアンルーレットというゲームに対しての、私の見解を述べようか。


柳瀬:……はあ?


GM:今述べた通り、元来のロシアンルーレットは、拳銃1挺に弾丸を1発のみ装填し、2名で行うものだ。

   ならば、仮にその2名をA、Bと仮定した時、それぞれが死ぬ確率はどれほどになるか。

​   尚、銃の装填数は6発とする。


進藤:そりゃあ……

   2人共、6分の1じゃないのか?


山辺:……いや、違うね。

​   そう単純な計算ではないよ。


進藤:え?


GM:そう、残念ながら不正解だ。

​   少しばかり、問題が難解過ぎたかな?

   まあ、一回引き金を引く度にシリンダーを回転させる場合や、弾丸の位置を毎回変える場合等、

​   回数と条件次第で、幾らでもその確率は変動する物だ。

   条件によっては、それが正解になる場合もあるだろう。​

   ……だが、そんな細かい話はどうでも良い。

   問題の核は、交互に引き金を引き合うというゲームの性質上、

   A、Bのうちどちらかが確実に死ぬという事は即ち、

​   どちらかは確実に死なない、という不公平な等式が成り立つ……という事実だ。

小椋:……そういうゲームなのだし、不公平も何も無いんじゃない?

   そもそも、その論点自体がイカれてるわ。

   全く道理も通ってないし。


烏丸:ボクも同感ー。

   言ってること滅茶苦茶だよ。


GM:大いに結構。

   これはあくまで私の主観だ、理解を求めようなどとは微塵も考えていない。

   ……さて、では本題だ。

   このA、Bそれぞれの死ぬ確率を平等にする……

   或いは、2人共死ぬという選択肢を与える為には、どのような方法がある?


柳瀬:っ……いい加減にして!

   今そんな話をして、何の意味があるって言うのよ!


山辺:2挺。


進藤:……なんだって?


山辺:1発のみ弾丸を装填した銃を、2挺準備する。

   単純だが、恐らくこれが、最も確実な方法だろう。


烏丸:あー、確かに。

   で、交互にじゃなくて、同時に引き金を引いていけばって話?

小椋:あぁ……言われてみれば、それもそうね。


柳瀬:……っあんた達、何を暢気に……!


GM:正解、お見事。

   聡明だねえ。

   単純明快だがその実、最も確実で、最も平等な方法だ。

   命を賭して行うゲームならば、「両者とも死ぬ」という選択肢も含まなければ、

   面白みも無いというものだ、そうだろう?


進藤:……その考えもその感覚も、一生分かる気がしないな。

   根っから頭おかしい奴だって事は、嫌ってほど分かるけどな。


GM:おやおや、それは残念。

   では、今の話を踏まえて、改めて、そこにある銃の説明をさせてもらおうか。

​   見ての通り、その銃は、世に出回っている在り来たりなモノではない。

   今回のゲームの為に作ったその銃は、参加人数分……

   即ち、君達5人分まで、装填数を増やしてあるんだ。

   先程の理屈に基いて考えると、何発になるかね?


烏丸:えっと、じゃあ……

   6発×5人分で、30発?


GM:ご名答。

   その銃の装填数は、30発だ。

   そして、これが面白い仕組みでね。

   「プレイヤーが指定した番号のシリンダーから弾が発射される」んだよ。


小椋:……それはそれは、ずいぶん面白いオモチャね。


柳瀬:ねえ……ちょっと待ってよ。

   それってまさか……嘘でしょ……!?


山辺:ん、どうしたんだい?


GM:おや、そちらのお嬢さんはもう気付いたようだね。

   本当に、実に理解が早くて助かる。

​   そうだよ、君の考えている通りだ。

   先程の理屈通りに装填数を増やすのならば当然、実弾数も、その分増えなければならない。


小椋:……ああ、なるほど、そういうことね。


烏丸:え、え?

   全然意味分かんない、どういうこと?


進藤:……つまり、俺たちが5人なら、銃に実弾は30発のうち、5発入ることになる……ってことだろ。


GM:君たち優秀だねえ、そのとおり。

   まあ、別に5発入れるかどうかは、君たちに決める権利が有る。

   君たちで十分に相談して決めてもらって構わない……し、

   5発入れたところで、結局確率は6分の1だよ、大した数字じゃない。

   あくまでも、上限は5発、というだけだ、安心したまえ。

   そして……


柳瀬:まだあるの……もうやめてよ!

   そんな狂ったゲームの説明なんか聞きたくない!!


GM:「弾1発につき、1回ごとの賞金を200万円ずつ増やす」。

   つまり、1発なら200万円、2発なら400万円、3発で600万、4発で800万、

   そして5発ならば、1回につき、1000万円だ。


柳瀬:……えっ……

   ……いっせん……まん……


​(一斉に重い沈黙)


​進藤:(M)

   なんだ……なんでみんな黙ってる……?


烏丸:……ねえ、質問、いいかな。


GM:どうぞ。


烏丸:その賞金って、山分け?


GM:いいや。

   もちろん、一人一人に1000万ずつだ。

   引き金を引くごとに、引いた人間に、1000万円を与えよう。

   信用出来ないと言うようであれば、こちらで準備してある賞金を、先にお見せしても構わないが?


烏丸:……やる。


柳瀬:はぁ!?

   ちょ、あんた本気!?


小椋:私もやるわ。

   いいじゃない、うまくやれば、一生遊べるだけの金が手に入るんでしょ?

   そんなうまい話、逃す手は無いわ。


山辺:……僕もだ。


柳瀬:な、なんなのあんた達……命よりも、お金のほうが大事だって言うの!?

   信じらんない、サイテーだわ!!

   ……で、あんたは……やるの、やらないの?


進藤:……俺は……

   ……やらない、という選択肢はあるのか?


GM:無論だ、無理強いはよくない、そちらの意見も尊重しよう。

   ただ、参加しない場合、ここから出る術は完全に無くなるがね。


柳瀬:…………っ。


進藤:やっぱりそうかよ……

   結局、やるしか選択肢は無いんじゃねえかよ……クソッ!


柳瀬:……わかったわよ。

   やればいいんでしょ、やれば……!


GM:では、全員参加だね。

   弾数はどうするかね?


山辺:1発増やすごとに200万円増加、最大で1000万円……だったね。


烏丸:そんなの、聞くまでもないよ。

   5発。


柳瀬:ちょっ、勝手に!


小椋:いいじゃない。

   なにも、5発入ってるからといって、5人全員が、確実に死ぬわけじゃないんだから。

   ……実際のところ、口でなんと言おうとも、あなたもお金は欲しいでしょう?


柳瀬:…………!


小椋:図星みたいね。

   じゃ、決まり。


GM:いいだろう。

   では、確率は6分の1。

   1発1000万円でコールだ。

   ルールは至って簡単だ。

   1~30までの数字を口頭で指定した後、引き金を引けば、

   その番号に割り当てられたシリンダーから、弾丸が発射、又は不発となる。

​   それ以外は、元来のゲームのルールに則って行う。

   ゲーム終了は、「実弾が全て無くなった時」か、「最後の一人になった時」だけだ。

   既に弾が装填された銃は、こちらで準備してある。

   ……ああ、そうそう。

   私にも何番に弾が入っているかは分からないから、ヒントなどは求めないでくれたまえよ。

   特にタイムリミットは設けないので、覚悟が出来たら、好きな時に、順に引き金を引くといい。

   私はゆっくりと、君達の行く末を観賞させてもらうとしよう。

   質疑は随時受け付けているから、何でも訊いてくれたまえ。

   ……では、健闘を祈る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


​【1巡目…残弾:30発、実弾:5発、生存:5人(1000万円/発)】


小椋:始まっちゃったわね、最凶最悪のゲームが。

   ……さ、誰から行く?


進藤:ちょっと、待ってくれ。


小椋:なに?

   今更「やっぱりやめた」なんて、通用しないと思うわよ?


進藤:そんな事分かってる。

   ただ……一つだけ、全員に、心に留めておいて欲しいことがある。


山辺:なんだい?


進藤:……全員、このゲームに乗っちまった時点で、揃いも揃って参加しちまった時点で、同じ穴の狢だ。

   奴が言う通り、過程がどうあれ、結果が全て……

   誰にも、互いを責める権利なんて、もはや無い。

   もし、この中の誰かが死んだ、としても……

   それは、こんなクソッタレなゲームに乗った自己責任……ってことだ。


柳瀬:………………


小椋:要するに、「恨みっこなしよ」ってことね?


進藤:そうだ。


小椋:オーケー。

   ま、そんな事を決めなくても、当たれば死ぬんだから、文句の言いようなんて無いでしょう。

   じゃ、今度こそ始めましょうか。

   誰から行く?


山辺:それじゃ、僕から行こうかな。


小椋:あら、勇敢だこと。

   どうぞ。

   1発目から大当たり、なんて勘弁してよ?


山辺:気を付けるよ。


烏丸:あ、そうだ。

   ねえ、ボクから提案がひとつあるんだけど。


柳瀬:……なによ。


烏丸:そんな邪険にしないでよ。

   どうせだからさ、1巡目はお互い、自己紹介しない?

   どのみちもう、誰も死なないなんて事は、有り得なくなっちゃったわけだしさ。​

   名前も知らないんじゃあ……ね?

   やりづらいでしょ、色々とさ。

山辺:ああ、そうか。

   そういえば、お互いの事をなにも聞いてなかったな。

   すっかり忘れていた。


烏丸:決まりっ。

   じゃあ、名前と職業と、年齢とー……

   あとは、ここに来る直前に、なにをしていたか。


柳瀬:……っあんた……


小椋:……ちゃっかりしてるわね。

   自己紹介なんて建前で、それが聞きたいだけなんじゃなくて?


烏丸:あはっ、ばれた?


進藤:……まあ、いいだろ、彼女の言うことも一理ある。

   それに、この場で隠し立てなんてしたって、何も良い事なんて無い。

山辺:同感だね。

   さて、じゃあ僕から。

   名前は、山辺泰一。

   都内の高校で、社会科を担当してる教師だ。

   年齢は、今年で37。

   ここに来る直前は……ま、単刀直入に言えば、首を吊ろうとしていた。

   いや、正確には、吊って意識が遠のいた後、もう一度気がついたらここにいた……という方が正しいかな。


烏丸:へえー、おじさんもなんだ。


柳瀬:……「も」?


小椋:ちなみに、理由を伺っても?


山辺:……恥ずかしながら、どうも僕は、性格的に教師に向いていなかったらしくてね。

   うすうす自覚はしていたんだが、それを認めたくなかった。

   当然、僕を慕う生徒もいれば、嫌う生徒も多かった。

   同期もほとんど辞めてしまって、学校内で僕は、ほぼ完全に孤立していたんだ。


進藤:……教師の中にも、そんな人はいるんだな。


山辺:僕はほんの一例だよ。

   もっと酷い境遇の人も、きっといるさ。

   ……で、ある時に、「山辺に体を触られた」「山辺が誰々を殴った」みたいな内容の、

   出処不明のデマが流れてね。

   ろくに調べもしないまま、周りは完全に信じきっていた。

​   ……まあ、正確には出処が分からなかったんじゃなく、隠蔽されていたんだがね。

進藤:隠蔽?

山辺:ああ。

   そっちから話した方が分かりやすいかな。

​   同僚に、10歳以上歳下で、職員内でも生徒にも人気がある女性教師がいたんだが、

   少しばかり、性格に難があってね。

   常に自分が中心じゃないと、気が済まないタイプだった。

   それでまあ、そんな彼女に対しても、大して興味を示さない僕は、心底つまらない奴だったわけだ。

   加えて、ただでさえ孤立していて、普段から授業以外では、他人と話す事も少なかったから、

   「実は陰で悪事を働いていた」なんて噂を流せば、

   周囲は「やりかねない奴だ」と、同調してくるに違いない。

   有る事無い事ばら撒いて、学校での居場所を完全に無くしてやろう……とか。

   彼女が考えていたのは、さしずめそんなところだろう。

烏丸:うわぁー。

   悪質というか、幼稚というか。

   そのヒト、よく先生になんてなれたね。

山辺:小耳に挟んだ話では、理事長の血縁者だったらしいからね。

   コネだか金だかに、物を言わせたんだろうさ。

   ……で、結果としては彼女の思惑は理想通り……いや、それ以上だった。

   噂の発端が彼女である事は一切匂わせないままに、

   想像力豊かな生徒たちによって、話には尾鰭が幾重にも付いていき、

   最終的には、「山辺が女子生徒数人を強姦した」「山辺が人を殺しているのを見た」……と、

   バカみたいな噂にまで膨らみ上がった。

   普通に考えれば、そんなのは子供でも見抜ける虚言だ。

   信じる人間なんかいやしないだろうと、甘く見ていた。

   ……だが、人間の心理とは、恐ろしいものでね。

   特に、社会的に嫌われている人間なら、たとえ証拠も根拠もない事でも、

   それを事実として、社会に成り立たせるんだ。

   ……そこからは、おおよその想像はつくだろう?


小椋:悪質なイタズラやイジメが横行し、それに耐え切れなくなって……

   といったところかしら?


山辺:ご明察。

小椋:その女性教師さんに、復讐したい、とかは考えなかったの?

山辺:まさか。

   確かに、噂を最初に流したのは彼女だが、その噂を取り返しがつかない程拡大させたのも、

   イタズラやイジメ等の直接的な実害も、大半は生徒によるものだ。

   何処かで聞いた言葉を借りるなら、「過程よりも結果が全て」。

   家が全焼しようかという状況の中で、火のついた煙草に意識を向ける人間なんていないだろう?

   それに、誰一人として味方がいない境遇に追い込まれた僕に、女王と化した彼女を蹴落とす手段など無い。

   出来る事と言えば精々、遺書に彼女の名前と悪行の全てを、一つ残らず認める事。

   そして、その遺書が逸早く生徒たちの手に渡り、噂話が彼女を破滅させる未来を願う事ぐらいさ。​

   皮肉にも、僕の時と同じようにね。

   ……以上だ。

   何か質問は?

進藤:……いや……別に。

烏丸:ありませーん、せんせー。

山辺:そうかい。

   じゃあ、引き金を引くとしようか。

   ……そうだな、「17」。


烏丸:……あたり。

   あ、この場合は、「はずれ」って言ったほうがいいのかな?


山辺:さてね。

   さ、次は誰だい?


小椋:じゃあ、私が行こうかしらね。


山辺:扱いには気をつけてくれよ。


小椋:分かってるわよ。

   ……ええっと、まずは自己紹介だったわね。

   小椋弓恵、28歳。

   銀行に勤めてる、どこにでもいるOLよ。

   ここに来る直前は……そこの山辺さんと同じよ、自殺しようとしてた。

   理由は聞きたいなら話すけど、どうする?


烏丸:あ、じゃあ聞きたい。


柳瀬:あ、あんたね、デリカシーってもんがないの!?


烏丸:うるさいなー、いいじゃん別に。


小椋:……されたのよ。


進藤:え?


小椋:あら、よく聞こえなかった?

   強姦されたのよ、強姦。

   絵に書いたような路地裏で……多分、5、6人はいたかしらね。


進藤:……警察には、言わなかったのかよ?


小椋:言う気にもなれなかったわ。

   男にはわからないと思うけど、人によっては痴漢されるだけでも、精神的ダメージはかなり大きいのよ?

   ……まあ、私は別に痴漢されようが、なんとも思わなかったけど、

​   流石に、その強姦グループの中に実の夫がいた……だなんて知ってしまったら、ねえ?

​   いっそ、ひと思いに死にたくなるのも、無理もないと思わない?


柳瀬:実の夫……って、嘘。

 

小椋:笑える話でしょ?

    ベッドの上では、据え膳に目もくれられない意気地無しが、

   仲間を携えた途端、ただの獣に変わるのよ。

   まさか、愛を誓った家族に身ぐるみ剥がされて、汚される日が来るなんて……ね。

   ……後は、自分でも呆れるくらい、あっさりしたものよ。

   白を切り通そうとした彼を、動かなくなるくらいまで、殴れるだけ殴って。

   よく知りもしない薬をありったけ飲んで、そのままおしまい。

   めでたしめでたし、よ。

​   ……どう、満足した?

烏丸:うん、ありがとう。

​   じゃ、どうぞ。

 

小椋:「3」。

   ……あたりね。

    次の人どうぞ。

 

烏丸:あ、じゃあ次はボクが行くねー。

 

小椋:あら、大丈夫?

   お子様に銃の扱い方なんて分かるの?

 

烏丸:それくらい分かるよ、バカにしないでよねー。

​   ……あれ? これ……

山辺:どうかしたかい?

烏丸:あ、ううん、何でもない。

小椋:……変な子ね。

   それじゃあ、自己紹介どうぞ?

 

烏丸:えーと、烏丸光梨、15歳。

   中学生ってのは、言わなくても分かるよね。

   職業っていうか、趣味でだけど、歌い手もやってる。

 

柳瀬:歌い手?

 

進藤:……ああ、どっかで聞いたことある声だと思ってたら、それか。

 

烏丸:あはっ、キミは知ってるんだ、嬉しいな。

    そうそう、「Más-Cara(マスカラ)」っていう歌い手いたでしょ?

   あれがボク。

 

柳瀬:あっ、そういえば、一時期ネットで話題になってた……

    ……なんで話題になってたのかまでは、興味も無いから知らないけど。

 

山辺:殺人事件……だね。

柳瀬:……え?

山辺:正確な日付は覚えていないが、都内で悲惨な強盗殺人事件があったんだよ。

   恐らく、その被害者が彼女なんだろう。

柳瀬:なんで、そんな事が分かるのよ……

山辺:ネット社会の怖さ、とでも言うのかな。

   勿論、ネット活動での名義が直接報道されたわけじゃないが、

   今時じゃ、そういう活動をしている人間の個人情報は、少し調べれば簡単に出てきてしまう。

   それこそ、僕みたいな何も知らない一般人が、興味本位でちょっと検索を掛けただけで、だ。

   有名税……とか呼ぶらしいが、皮肉な物だよ。

   そこの彼も、似たようなものじゃないかな?

進藤:……ああ、まあ……な。

烏丸:あはっ、さっすが。

   イマドキの思春期を相手取ってる先生だけあって、よく分かってるねー。​

   正確に言うと、ボクが直接殺されたわけじゃないんだけどね。

   ……もともと、結構粘着質なファンっていうのは、ボクらみたいな人間には、割とよくある話なんだ。

   アンチとファンは表裏一体だから、ネット上では分け隔てなく、

   その人たちのアイドルを演じなきゃいけないわけ。

   それでまあ……狂信者、って言ったらいいのかなあ?

   ボクの本名とか、住所まで特定して、執拗にストーキングしてきてた奴がいたのね。

   「マスカラたんは、僕が守ってあげるからね~」って。

   今でもはっきり憶えてるもん。

   デブで、フケツで、ニキビとフケまみれで、くっさいブタみたいな?

   お手本みたいな、「ザ・キモオタ」。

   寧ろ、ブタの方が可愛げあったかなって思うよ。

   そんで、遂には学校特定されて、出待ちとかまでされて、どんどんプライベートに踏み込んで来たのね。

   流石にボクも頭に来ちゃって、ある日に面と向かって、はっきり言ってやったんだ。 

   「キモイ」とか「臭い」とか「変態」とか、

   「死ね」とか「気狂い」とかもう、思い付く限り罵り尽くした。

   前々からずっと溜め込んでて、いっぱいいっぱいだったから、

   1つ溢れたらもう、止まんなくなっちゃって。

   相手がフラフラ帰って行って、すっかり見えなくなっても、ずーっとやって、泣き叫んで。​

   次の日には、声もまともに出ないくらいだった。

   ……で、そんな事があってから、1週間くらい経った頃だったかな。

   家に帰ったら、両親も兄弟も殺されてた。

   知らないうちに、合鍵まで作られてたみたい。

進藤:……そんな、しれっと言う事じゃないだろ……

小椋:ああ、やっと分かった。

   そういえば、そんな事件もあったわね。

   殺人事件の割に、世間での扱いが軽かったから、あんまり印象にも残ってなかったわ。

烏丸:まぁそんなもんだよ、世間なんて。

   いつ誰がどういう理由で、何をされてようが、所詮は他人事なんだからさ。

   ボクもいっそ、犯人が逮捕されて、適当に葬式とかして。

   只の不幸な一つの事件として、何事もなく静かに終わるなら、それでもいいやって思ってた。

   ……でも、世間一般が興味を持たなくても、

   報道を生業にしてる人達が、こんな面白い出来事、放っておくワケ無いでしょ?

   只でさえ、ネットで有名人だったボクに、そんな大事件が起きちゃったらさ。

   そうなったら……ねえ。

   次に、何が起こると思う?


柳瀬:……知らないわよ……そんな事。

烏丸:「表現の自由」を盾にした、集団暴力が始まるんだよ。

​   凄いんだよ?

   下手したら、ストーカーの方がマシだったかも、なんて思っちゃうんだから。

   来る日も来る日も、読んでもいないマスコミが、アポ無しで家まで押しかけてきてさ。

   好き放題フラッシュたいて、よく分からないマイクとかぐいぐい押し付けてきて、

   気色悪い猫撫で声で、「どんな気持ちですか」「どんな気持ちですか」って、

   嬉々として畳み掛けてくるわけ。

   そこでボクが、何か言おうが言うまいが、ある事無い事脚色して、ドラマチックに演出とかしてくれるの。​

   それで、ニュースで可哀想、可哀想って取り上げられてる裏では、

   アンチ達が挙って、ボクの個人情報漏洩の嵐!

   もうお祭り騒ぎだよね。

   匿名性をいいことに、言いたい放題言って、やりたい放題やっちゃってくれてさ。​​

   山辺さんじゃないけど、居場所を完全に失っちゃったんだよね。

進藤:……で、やっぱり君も自殺しようとしてた、か。

 

烏丸:うん。

   親戚の家に預けられることになったんだけど、とにかくボクの事を毛嫌いしてたからね。

   人に言いたくない事とか、売名目的で沢山してたし、それも全部表沙汰にされちゃったから、

   こんな奴と、少しでも血が繋がってると思われたくない、って思ったんでしょ。​

   ていうか、実際会った時に、開口一番そうやって言われたしね。


小椋:……あら?

   でもその事件、犯人ってどうなったのかしら。

   確か……

烏丸:あー!

   そうそうそれそれ! 忘れてた!

​   それもまた、思わず笑っちゃうんだよねー!

​   どうなったと思う? どうなったでしょーか?


進藤:どうって……

   そりゃあ、人を殺したんだし、相当重い罰が下ったんじゃないのか?

烏丸:ぶっぶー。

   残念、大外れ。

​   ……正解はねえ、無罪。

進藤:はあ!?

​   無罪って……それだけの事をして、何で……!

山辺:1項、心神喪失者の行為は、罰しない。

   2項、心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する。

小椋:なあに、それ?


山辺:刑法第39条だよ。​

   加害者に何等かの要因で、刑事責任能力が無いと判断された場合、時には殺人すら無罪になる。

   賛否両論ある法だが、それが悪い方に働いた、典型的な事例だね。

烏丸:おお、流石。

   そんな感じの事、ネットでも言われてた気がする。

   何でもそのキモオタ、ボクに怒られてから逮捕されるまでの記憶が、一切無かったんだってさ。

   で、精神鑑定してみたら案の定、そっち系まっしぐらの状態だったってわけ。

   後から言われたのは、元々いじめられっ子でそういう気質だった所に、ボクから直接罵倒されたから、

   それをきっかけに、糸が切れちゃったんだろうって。

   唯一の心の支えだった、他でもない貴女からーって、

   最後にはまるで、ボクが悪いみたいな言い方されてさ。​

   ああ、これはもうダメだ。

   なんでボクは、こんな奴等を喜ばせようと今まで頑張ってきたんだろう。​

   もう疲れた。

   バカみたい。

   ネットの世界からも、現実の世界からも、手を引こう、って思って。

   ベランダからぴょんっと行って、おしまい。

進藤:………………

小椋:まるで、社会の闇の縮図ね。​

   そこまで詰め込まれてると、作り話だとしても大した物だわ。

烏丸:作り話って、失礼しちゃうなあ。

   せっかく事細かに話してあげたのに。​

   ……あーもう、思い出したら気分悪くなってきちゃった。

   さっさと回しちゃうよー。

   「12」!


山辺:……あたりだね。

    後はお二方だけだけど、どうする?

 

進藤:……俺が行くよ。

    

烏丸:はーい、どーぞ。

   自己紹介よろしくねー。

 

進藤:……進藤彰文、22歳、大学生だ。

   ここに来る直前には……みんなと一緒だ。

   自殺しようとしてた。

 

小椋:あら、やっぱり。

 

進藤:ただ、理由なんてあえてここで語るほど、大したもんじゃない。

   みんなみたいに、正当性……って言っちゃおかしいけど、

   誰がどう聞いても酷い体験をした、ってわけでもない。 

   単なる自己嫌悪から、死を選んだんだ。

   ……説明すると長くなるし、曖昧にしかならない。

 

山辺:いいよ、無理して話さなくても。

 

小椋:そうね、別にそこまで興味があるわけでもないし。

進藤:興味を持たれても困るよ。

 

烏丸:あ、じゃあさ。

   どんな死に方をしようとしてたの?

   それだけ聞きたい。

 

進藤:……飛び込みだよ。

 

烏丸:電車?

 

進藤:ああ。

   確かに電車が来てから、飛び込んだはずだった……けど、

   ぶつかった衝撃とか、落ちた感触とか、何も感じないまま気を失って……

   もう一度目を覚ましたら、ここにいたんだ。

   ……これでいいか。

小椋:いいんじゃないの?

   最低限のことは聞いたし。

烏丸:うん、ボクはもういいや。

進藤:そうかよ。

​   ……「26」。

   …………っ。

 

烏丸:そんなに怯えなくても大丈夫だよー、1巡目から出たりしないってー。

   ま、よっぽど運が悪かったらわかんないけどね。


進藤:確率は最初から6分の1なんだぞ……

   絶対出ないなんて保証は、どこにも無いだろ。 

   ……ほら、全員やったぞ、あんたの番だ。

 

柳瀬:……頭、おかしいんじゃないの、あんた達……

 

進藤:え?

 

柳瀬:なんでここまで狂ったような状況に追い込まれて!

   全員死ぬかのようなゲームにホイホイ乗って!!

   あまつさえそんなにヘラヘラしながら、自分の頭に銃口突きつけながら、自分の不幸を語れるのよ!?

   さっきの奴も大概頭おかしいけど、ここまでの会話聞いてると、あんた達もいい勝負だわ!!

 

小椋:……さっき、そこの進藤君が言わなかった? 

   こうやって参加してる時点で、あなたも同じ穴の狢なのよ。

   欲に目がくらんだ、醜い金の亡者。

   いいからさっさと自己紹介して、引き金を引きなさいな。

 

柳瀬:……っ!!

   ねえ、ちょっと! 質問があるんだけど!

   聴いてるんでしょ!?

 

GM:聴いてるよ、どうぞ。

   ああ、そうそう。

   私の事は、ゲームマスターと呼んでくれ。

   すまないね、名乗るのをすっかり忘れていた。

 

柳瀬:あんたの名前なんてどうだっていいわよ!

   ……このゲーム、パスってありなの?

 

GM:それは構わないが。

   パス1回ごとに、大変なペナルティが発生する。

   それでもよければね。

 

山辺:……それは、初耳だね。

   そんなこと言ってたっけな。

 

GM:いいや、言っていない。

   というより、敢えて言わなかった。

​   ルールの一端として考えてはあったが、

   まさか本当にそんな事を言い出す者が出てくるとは、思っていなかったからね。

 

柳瀬:……なんなのよ、ペナルティって。

 

GM:パス1回で、「マイナス」5000万円。

   2回目はその倍、3回目は、更にその倍だ。

柳瀬:なにそれ……借金ってこと?

   それに、1回目から5000万円ってどういう事よ!?


GM:なにを不思議がっているのか分からないね。

   これくらいは、当然の処置だと思うが。

   いいかな?

   一度パスをするという事は、1周分、即ち君を含めて5回分を、

   君だけが、何のリスクも無しに通過することと同義だ。

   他の参加者が命を賭けて引き金を引いているというのに、それでは余りにも不公平じゃないか。

   よって、君がここにいて、このゲームに参加している限り、

   パスした分だけ、法外な借金を科させてもらう。

   全ての番でパスをしていたら、賞金以上の、一生かけても返済できないような額になるだろうね。

   なぁに、要は、パスをせずにやればいいだけの話だ。 

   もしくは、最後まで生き残ればいい。

   実に簡単な話だろう?

​   それでも命の方が大事だと言うのなら、どうぞご自由に、パスをするといい。

 

柳瀬:……わかったわよ……やればいいんでしょ、やれば……!

   貸して!!

 

進藤:うわっ!

 

山辺:おいおい、気を付けなさい。

   暴発でもしたらどうするんだ。

 

小椋:そうしたら、運がよければ2人脱落ね。

 

柳瀬:っあんたねえ!!

 

山辺:小椋さん、あんまり挑発的な言動はしないでくれ。

 

小椋:はいはい、ごめんなさいね。

 

柳瀬:じゃあやるわよ……えっと……

 

烏丸:ねえ。

 

柳瀬:え?

 

烏丸:自己紹介はー?

 

柳瀬:……ああ、そうだったわね。

   柳瀬薫、17歳、女子高生。

   ここに来る前……ここに来る前、は……その……

 

小椋:自殺しようとしてた?

 

柳瀬:っ……そうよ、そのとおり。 

   言っとくけど、それ以上の事は、聞かれても言わないわよ。

   言いたくもない。

 

小椋:あらそう。

   まあ、言いたくなくても、原因は想像しやすいけれどね。

柳瀬:はぁ?

小椋:当ててあげましょうか?

   虐待でしょ。

柳瀬:っ!?

   ……なんで……!?

小椋:あら、図星なのね、適当に言ったんだけど。

   分かりやすい反応ありがとう。

山辺:どうして、分かったんだい?

小椋:簡単よ。

   リストカットの痕に紛れて、不自然な痣とか、火傷がいっぱいあったから。

​   この子もなかなか、えげつない経験してそうじゃない?​

   進藤君のはあんまり面白くなかったし、聞けるなら是非とも聞いてみたいわ。

山辺:……君という人は……全く。

柳瀬:何で、そんなに楽しそうなのよ……!

   変な勘繰りして、人の事情を詮索しようとしないで。

烏丸:じゃあ、どうやって死のうとしてたのさ?

柳瀬:……あんたはあんたで、どうしてそう、人の死に方を知りたがるのよ……!

   何だっていいでしょ、私の勝手よ。

烏丸:えー、だって割と個性が出るところじゃない? 自殺の仕方って。

   それに、一人だけ何にも教えないなんて、ずるいと思うなー。

柳瀬:知らないわよ、そんなの……!​

   良いから、さっさとやらせなさいよ。

   こんな物、いつまでも持ってたくないんだから!

小椋:あら、自分で勝手に奪い取ったクセにね。

烏丸:ねー。

柳瀬:うるさい!!

   言えばいいんでしょ!?

   練炭よ! 練炭自殺!!

   これでいいでしょ!?

   教えたんだから、もう黙っててよ!!

烏丸:そんなに怒らなくてもいいのに。

山辺:ということは……ここにいる者は全員、過程や理由はどうあれ、

   自殺をしようとしたところで、気が付いたらここにいた……という共通点があるということか。

   ……随分なミステリーだね。

 

烏丸:ね。

   すごい偶然だよねー。

 

進藤:……本当に、偶然なのかな……

 

山辺:ん?

   進藤君、何か言ったかい?

進藤:いえ……なんでも。

 

柳瀬:……「8」。

   ……っ……はぁ……


小椋:あたりね、おめでとう。

柳瀬:………………

小椋:ところで、ねえ?

柳瀬:……何よ……

小椋:練炭自殺で、あと少しで、何が、上手くいきそうだったの?

柳瀬:……っ……関係無いって言ったでしょ……

​   あいつにも、あんたにも、言う筋合いは無いわ。

小椋:あらそう、残念。

​   今だったら聞けるかと思ったのに。

GM:1巡目終了だ。

   全員生還だね、おめでとう。

   言わなくても分かっているとは思うが、ここまでのリザルトを発表しようか。

   1人目、山辺泰一、獲得金額1000万円。

   2人目、小椋弓恵、獲得金額1000万円。

   3人目、烏丸光梨、獲得金額1000万円。

   4人目、進藤彰文、獲得金額1000万円。

   5人目、柳瀬薫、獲得金額1000万円。

   残弾数、25発中5発。

   以上だ。

    では、引き続き健闘を祈る。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【2巡目…残弾:25発、実弾:5発、生存:5人(1000万円/発)】

進藤:これで、確率は5分の1になったわけか……

 

小椋:25分の5と、5分の1は、こういう場においては全く別物よ、進藤君?

 

進藤:……楽しそうだな、あんたは。

 

小椋:そうかしら?

   ……ま、確かにそうかもね。

   この状況を楽しんでない、と言えば、嘘になるわね。

   こんな刺激的な体験、そうそう出来ないから。

 

烏丸:あはっ、悪趣味な人だねー。

 

小椋:あら、あなたには負けるわよ。

 

柳瀬:……どっちもどっちよ……気色悪い。

 

進藤:だから、そういうことを言うなって……

 

柳瀬:だって!!

   普通こんな状況に、ここまで順応して、楽しんでる、なんて言う奴いる!?

   いるわけないわ!

   むしろこの中じゃ、私が一番まともだとさえ思うくらいよ!

 

進藤:………………

 

小椋:フォローはしてくれないのね。

   大丈夫よ。

   言われなくても、自分が異常なのは、自分で分かってるつもりだから。

 

烏丸:同感ー。

 

柳瀬:……ほんと、嫌なヤツら。


山辺:……そろそろ良いかな、2巡目を進めていきたいんだが。

 

烏丸:山辺さんは真面目だねー、さすが先生。

 

山辺:すまないね。

   何においても、進行が滞ることが、どうにも我慢ならないんだ。

​   まあ、こういう融通の利かなさも、嫌われやすかった一因なんだろうがね。  

   「15」。

 

進藤:……あたりだな。

   けど、急にやらないでくれませんか。

   心臓に悪い……

 

山辺:ああ、それは失礼した、気を付けよう。

   はい、どうぞ、小椋さん。

 

小椋:どうも。

   ……そういえば、この銃。

   もしはずれを引いて、弾が出たら、どうなるのかしらね?

 

進藤:どうなる……って?

 

柳瀬:……死ぬに決まってるじゃない、バカじゃないの?

 

小椋:ま、よくある銃みたく、ただ単に弾が発射されて、死ぬだけならいいわよね。 

   ……けど、これだけ素敵な場を、周到に整えてもらってるのよ?

   普通に考えて、ただ死ぬだけ、なんて……ねぇ。

   あのゲームマスターさんのやる事にしては、ちょっと、甘ったる過ぎると思わない?

 

進藤:考えたくはないけど……有り得ない話じゃないな。

 

柳瀬:……っなんでそう、人の不安を煽るようなことを言うのよ!

   あんた、本当はあの変態とグルなんじゃないの!?

 

進藤:おい!

   あんたいい加減に、

 

柳瀬:だってそうじゃない!!

   そこの烏丸とかいう子も相当だけど、こいつは常軌を逸してるわ!

   ほんとに気でも狂ってるか、最初から全部を知ってる奴でもなきゃこんな!


小椋:バァン!!

 

柳瀬:ひっ!?

 

小椋:……うふふ、いい顔ね。

   びっくりした?

 

柳瀬:っ……最ッッッッッッ低!!

   あんたなんか、真っ先に死んじゃえばいいんだ!!

 

小椋:さあ、どうかしらねえ。

   「20」。

   ……残念、あたりね。

   次どうぞ。


烏丸:はーい。

 

山辺:全く……小椋さんには困ったものだね。

   だがしかし、柳瀬さん、だったかな?

   君も少しは、一度気を落ち着けて、冷静になったほうがいい。


柳瀬:どういう意味よ。

 

山辺:そのままの意味だよ。

   こういった非日常的な状況では、どれだけ冷静に、流されずに己を保てるかが大切なんだよ。

   君は、この中では一番まともだ、と主張しているが、

   その実、この中の誰よりも、精神が安定していない。

   そんなことでは……

 

柳瀬:……そんなことでは……なによ……?


烏丸:ばぁん!!

 

柳瀬:ひゃあっ!?

 

烏丸:あはっ、あたりー。

 

柳瀬:……っ……死ねばいいのに……!

 

進藤:じゃあ、あとは、俺と柳瀬さんか…… 

   ちなみに今、あんたは何番で引き金を引いたんだ?

烏丸:「あんた」だなんて、もー。

   進藤クンも、大概無愛想だよねー、もっと気軽に呼んでいいんだよ?

   「光莉ちゃーん」、なーんてさ、あはっ。​

   あ、それともやっぱり、ちょっとは馴染みがあるっぽいし、マスカラの方がいいかな?

   どっちがいい?

   進藤クンの好きな呼び方で、

進藤:何番で引いたんだ。

烏丸:ちぇっ、つまんないなぁ。

   「1」番だよー。

進藤:分かった。

 

進藤:(M)

   このあと、俺は「22」番、柳瀬さんは「30」番で、2人ともセーフ。

   そして、3巡目……

   ここから、このゲームの、本当の悪夢が始まった。

 

GM:2巡目終了だ。

   ここまでも全員生還だね、なかなか運がいい。

   では、またここまでのリザルトを発表しようか。

   1人目、山辺泰一、獲得金額2000万円。

   2人目、小椋弓恵、獲得金額2000万円。

   3人目、烏丸光梨、獲得金額2000万円。

   4人目、進藤彰文、獲得金額2000万円。

   5人目、柳瀬薫、獲得金額2000万円。 

   残弾数、20発中5発。

   以上だ。

   では、引き続き健闘を祈る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【3巡目…残弾:20発、実弾:5発、生存:5人(1000万円/発)】

山辺:さて、3巡目だね。

   確率としては、4分の1になったわけだけど……


小椋:ちょっと待って。

   ねえ、ゲームマスターさん? 質問いいかしら?


GM:ああ、どうぞ。


小椋:もし仮に、脱落者が出たとして、その賞金はどうなるのかしら?


GM:ああ。

   そういえば、それも説明していなかったね、これは失礼した。

   脱落者が出た場合、それまで脱落者が得ていた賞金の額が、他の参加者に上乗せされるよ。​

   例えば、賞金が全員2000万円になっている今、脱落者が出たとすれば、

   他の参加者の賞金が4000万円になる、といった具合だ。


烏丸:へー、山分けじゃないんだ。


山辺:数字が割り切れなくなることを防ぐ、という意味合いもあるだろうが……

   それにしても、ずいぶんな大盤振る舞いだね。

   その資金が一体どこから捻出されているのか、個人的にはとても興味があるけれども。


GM:それを聞くのは無粋というものだよ、山辺君。

   さて、他に何か聞きたいことは無いかな?


進藤:じゃあ、俺からもひとついいか。


GM:どうぞ。


進藤:確か、元々のロシアンルーレットってゲームには、

   「弾丸が出ると予想した場合には、天井に向けて発砲しても良い」、ってルールがあった筈だよな。

GM:ああ、あるよ。

   よく知ってるね。

進藤:元来のゲームに則ってやるなら、そのルールは、このゲームにも適応されるのか?


GM:されないよ。

   そんな抜け道は認めていない。​

   なぜなら、5人まで参加者が増えているこのゲームにおいては、その予想は限り無く不可能に近いからだ。

   未来を予知出来る人間でもなければ、そんなことは、ほぼ100%分からない。

   それに、そんなものを許可してしまっては、

   理論上、全員が全弾をあさっての方向に撃つ事も可能になってしまうだろう?​

   いや、むしろ狙いは、そこにあったんだろうがね。

   ……そんなものは、つまらない。

   何も面白くないね。

   そもそも、元来のルールですら、それをやって不発だったら、無条件で敗北なんだよ。

   どのみち、やるだけ無意味だ。

進藤:……やっぱりかよ。​

   そんなことだろうと思った。

GM:よろしいかな?

   では、引き続き3巡目をどうぞ。


山辺:じゃあ、また僕からだね。

   「5」。

   ……ふぅ、あたりだね。


小椋:それじゃ、次は私ね。

   ……ああ、そうだ。

   これが終わって、もし無事に生還出来たら、みんなで飲みにでも行きましょうか。

   祝賀会ってことで。

山辺:え?

進藤:なんだよ、いきなり……

小椋:少しでも、、空気を和ませようとしてあげてるのよ。

   終わった後どうなるかは知らないけど、そういうのを考えるのも、悪くないでしょ?


進藤:これまでのあんたの言動からすると、なにか裏がありそうに聞こえるんだよ。


小椋:あら、それは残念。


烏丸:それに、ボクと柳瀬さんは未成年だよー。​

   というか、行けない人へのあてつけだよね、それ。​

   最低でもひとりは絶対死ぬのに、つくづく性格悪い人だなぁ。

小椋:ふふ、そうなっちゃうわね。

   全員が生き残るなんて有り得ないって……最初に言ってたものね。

   そうよね、……何言ってるのかしらね、私。

柳瀬:……何、今更。

小椋:何でもないわよ、ごめんなさいね。​

   ……ま、柄にもないことは言うものじゃない、ってことかしら。

   さっさと終わらせて帰りましょうか。

   ……「6」。


進藤:(M)

   そう言って、彼女は先程までと同じように、引き金を引いた。

   ……その、1秒にも満たない刹那に、つい数秒前に軽口を叩いていた小椋弓恵の頭は、

   耳を劈くような、渇いた破裂音と共に、血煙と化した。

   彼女の身体は、理解が追いついていなかったのか、少しの間その場に立ち尽くした後、

   ゆっくりと、その場に崩れ落ちた。

   さながら、糸を切られたマリオネットが、力無く倒れるように。

   そして、その一瞬の惨劇の一部始終を見ていた、俺たち4人は……

   思考も、言葉も、感情も、凍りついた時間に、閉じ込められていた。

   この無機質な空間に、血と硝煙の匂いが立ち込めていくのが、嫌というほど伝わってくる。


山辺:………………


柳瀬:えっ……な、なに……?

   なに、が……起こっ……


烏丸:……うわぁ、えっぐ。


進藤:どういうこと、だよ……これ……!

(ハウリング音)


​GM:1人目、小椋弓恵、脱落。

   山辺泰一、烏丸光梨、進藤彰文、柳瀬薫は、2000万円獲得。


柳瀬:ちょ、……ちょっと……!!

   どういうことなのよ、これは!!?


GM:どういうこと、とは?


柳瀬:これ、ただの銃なんでしょ!?

   ただの銃で、頭が、……こんな……!

   ……ッウェッ……(嗚咽、嘔吐)


烏丸:うわっ、ちょっと。

   きったなーい。


GM:「ただの」銃、などとは一言も言っていない。

   良いかな?

   もう一度説明すると、その銃は、今回のゲームのために作った「特注品」だ。

   指定した番号に割り当てられたシリンダーから弾丸が発射される、というのは既に説明したが、

   もう一つ、面白い仕掛けが、この銃には備わっているんだ。


進藤:面白い、仕掛け……


GM:そう。

   普通のロシアンルーレットでは、はずれを引けば、弾丸が撃った人間の頭蓋を貫き終了だが、

   5人まで参加者が増えているというのに、それと全く同じでは、まるで面白みがない。

   そこで、私が考えたのはこれだ。

   「はずれを引いた時、そこまで引いたあたりの回数分、威力が増幅された弾丸が発射される」。


進藤:なっ……!?


GM:つまりだ。

   彼女は今、これまで引いた11発分の弾丸を、一気にその身で受けたわけだ。

   いやあ、なかなか素敵な威力じゃないか。

   頭がまるで、形を残さないとは。


柳瀬:……ッう……ェエ……(嗚咽、嘔吐)


進藤:……糞ったれだな……!

   本当に、てめえも、このゲームも糞ったれだ!!


GM:それはどうも。

   だが、君達はそんな「糞ったれなゲーム」に、自らの意思で参加している、ということをお忘れなく。

   ……では、引き続き健闘を祈っているよ。


進藤:おいこら、てめえ!!


烏丸:じゃ、次はボクの番ねー。


柳瀬:っ……あ、あんた……


烏丸:なに?

   一人脱落者が出ただけでしょ?

   ボク達はまだ生きてるし、賞金をもらえるチャンスも権利も、まだ残ってる。

   それに、小椋さんが死んでくれたおかげで、ボク達の賞金は倍になったんだよ?

   こんなにおいしいことってないじゃない。

進藤:お前……!

山辺:彼女の言うとおりだよ、進藤君。

進藤:山辺、さん。

山辺:いみじくも、このゲームを始める時に、君は自分で言ったじゃないか。

   「全員このゲームに乗っちまった時点で、揃いも揃って参加しちまった時点で、同じ穴の狢だ。

   奴が言う通り、過程がどうあれ、結果が全て。

   誰にも、互いを責める権利なんて、もはや無い。

   もし、この中の誰かが死んだとしても、それは、こんなクソッタレなゲームに乗った自己責任だ」

   ……と。

進藤:それは……!

   ……そう、だけど……

山辺:だろう?

   ならば、彼女の言葉を責める権利など、この場の誰も、持ち得ないんだよ。


進藤:……っ……


烏丸:そーゆーこと。

   もー、頭固いなー、進藤クンはー。

   「10」。

   ……あたり。

   さ、どうぞ、進藤クン。


進藤:……「29」。

   次……柳瀬さん。

   ……柳瀬さん?


柳瀬:……ス。


進藤:え?


柳瀬:パスだって言ってるの……!


山辺:いいのかい?

   ペナルティがかかるんだろう。


柳瀬:あんな目に遭うよりかは、よっぽどマシよ……!


山辺:そうか、分かった。


GM:では、3巡目終了だ。

   ここで、残念ながら脱落者が一人出てしまったが、ここまでのリザルトを発表しよう。

   1人目、山辺泰一、獲得金額5000万円。

   2人目、小椋弓恵、獲得金額0円。

   3人目、烏丸光梨、獲得金額5000万円。

   4人目、進藤彰文、獲得金額5000万円。​

   5人目、柳瀬薫、獲得金額マイナス1000万円。

   残弾数、16発中4発。

   以上だ。

   では、引き続き健闘を祈る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


​【4巡目…残弾:16発、実弾:4発、生存:4人(1000万円/発)】

​​

山辺:いよいよ後半戦、といったところか……

   こうして間近で犠牲者の姿を見ると、言葉で言い表せない物があるね。


烏丸:とか言いながら、内心楽しんでるんじゃないのー?


山辺:そんなことは無いよ。

​   「27」。

   ……あたりだ。

   それじゃあ、次は……

GM:あー、お楽しみのところ失礼。

   ここから少し、特別ルールを追加させてもらうよ。


烏丸:特別ルール?

GM:そう。​

   一言で言えば、脱落者は死んでいようと、このゲームから完全には除外されない、

   というルールなんだがね。

柳瀬:どういうことよ……それ……


GM:なに、簡単なことだよ?

   つまりだ、このゲームにはまだ彼女……

   いや、「それ」は、参加している、という扱いのままなんだ。

   だが、今や「それ」は、自力で引き金を引くことはかなわないだろう?

   だから、まだ生き残っている君達が。

   「それ」の代わりに、「それ」に向かって、引き金を引く役割を担うんだ。


進藤:はぁ!?


柳瀬:そんなこと……頭おかしいんじゃないの!?


GM:ちなみに、誰がそれを執行するのかは、

   その時点でのゲーム状況を鑑みて、私が厳正に選ばせてもらう。

   だが、「それ」には賞金を与えても、もはや意味は無いからね。

   代わりに引き金を引いた人間が、賞金を得る事が出来る、というわけだ。

   勿論、賞金を得られるのは、弾が出なかった場合だけ、そこは変わらない。​

   お分かり頂けたかな?


烏丸:立候補は?


GM:出来ない。

   それでは、チャンスは均等にならないからね。


烏丸:そっかー、残念。


GM:では。

   早速だが、特別ルールの1回目を執行するとしようか。

   今回の代行者は、「柳瀬薫」。

   君だ。


柳瀬:なっ……!?​

   ふざけないでよ、なんで私が!?


烏丸:よかったねー。

   はい、どーぞ。


柳瀬:ッ触るな!!


烏丸:っ……痛いなぁ、何するのさ。


柳瀬:私は、あんた達みたいな気狂いとは違う!!

   私は……!

   私はただ、ここから帰りたいだけなのに!!

   なんで、こんな目に遭わないといけないのよ!

   もううんざりだ!!

   今すぐここから出して! 出してよ!!

   出しなさいよ!!

   出せぇええええええッッ!!!


進藤:………………


烏丸:気が済んだ?


柳瀬:……なに、を……!


烏丸:まだ?

   だったら、好きなだけ叫びなよ。

   嘆いてもがいて、醜く喚き散らしたらいいじゃない。

   それで気が済んだら、さっさと引き金を引いて。​

   今そうしてあなたが暴れまわるだけ、時間と酸素の無駄なの。

   分かる?

柳瀬:なに……なにが……!​

   あんた、一体なんなのよ!!

   ほんとに人間なの!?

   なんでそこまで、平然とした態度でいられるのよ!

   人が、人が死んでるのよ!?


烏丸:だから?

   誰が死のうが、ボクは生きてるもの。

   ていうかそもそも、これは元々そういうゲームじゃん、何言ってんの、今更?

   そこにいる小椋さん、だったっけ?

   その人が死んだところで、ボクの人生には、なんの影響も無いの。

   ボクにとって今、一番大事なのは、このゲームでいくら得られるのか。

   それだけ。


柳瀬:……変態……気狂い!


山辺:柳瀬さん、君の気持ちは分かる。

   ……が、君がそうして駄々を捏ねている限り、永遠にこのゲームは終わらないんだ。

   たとえどんなに不条理な現実だとしても、今は、それに従うしか無いんだよ。

   君が僕達のことを、どう思おうと、何と言おうと勝手だが、

   この場においては対等な、ゲームのいち参加者でしかないんだ。

   ……分かりなさい。

柳瀬:……そんな……そ、

   ……ふ、ふふふふっ……あっ、そう……


山辺:……柳瀬さん?


柳瀬:分かった、わよ……やればいいんでしょ……?

   そうだよ、弾が出ようが出まいが、私には実害は何も無いじゃない。


烏丸:そうそう。

   君にはなーんにも、危険は無いんだからさ。


柳瀬:番号は、私が決めていいのよね?


GM:ああ、どうぞ。


進藤:(M)

   「壊れた」。

   一言で表すなら、こうだ。

   つい数分前まで、辛うじて正気を保っていた、「柳瀬薫だった者」は今、

   光の無い目で、歪んだ笑みすら浮かべながら、覚束無い手付きで、

   「小椋弓恵だったモノ」に向けて、発砲する。

   彼女が選んだ、「11」の数字が意味したものは、

   ……はずれ。

   これまでのあたりの回数分、即ち、3回分の弾丸が、

   首から薄く血溜まりを伸ばし、不自然な体勢で転がっている、元・小椋弓恵の腹部を貫く。

   血飛沫が舞い、赤く染まる傷口からは、内臓と思しき、ピンク色の、ゴムのような物体が覗いていた。

   ……喉の奥に、強い酸味を覚えた俺は、目を逸らさずにはいられなかった。


柳瀬:あーあ……当たっちゃった。

   ふふ、あははははっ。


烏丸:あはっ、小椋さんも運悪いねー。

   まあ、良かったじゃん、結果としてはさ。


山辺:……そうだね。

   残弾数はこれで3発、人数はあと4人だ。

   仮に全ての弾を、運悪く引き当てたとしても、確実に一人は生き残れる。


進藤:……もう、なにを言っても、無駄なんだな。


烏丸:ん、なにか言った?


進藤:何も。


烏丸:じゃあ、今のは小椋さんの番だったって事だから、次はボクの番でいいんだよね。

   「2」。

   ……よし、あたり。

   それじゃ、次は進藤クン、どーぞ。

進藤:……ああ。

   「21」。

山辺:あたりだね。

烏丸:進藤クンもなかなか、引きが強いねー。​

   でも、そんな思い詰めた顔しなくてもいいじゃん。

   いっそ柳瀬さんみたいに、何も考えずに、バカになっちゃえば?


進藤:冗談やめてくれ。


烏丸:もー、堅いなぁ。


柳瀬:じゃあ、次は私ね?

   うふふ……あたりかな、はずれかなあ?

   「16」っ。


烏丸:あたりだねー、おめでとー。


柳瀬:あーあ、ざーんねん。

   ……あれ? いい事なんだっけ?

   もう考えるのめんどくさいなぁあ。


進藤:……見て、いられないな……


GM:4巡目終了ー。

   柳瀬薫の幸運により、弾が1発消費されたね。

   では、ここまでのリザルトを発表しようか。

   1人目、山辺泰一、獲得金額6000万円。

   2人目、小椋弓恵、獲得金額0円。

   3人目、烏丸光梨、獲得金額6000万円。

​   4人目、進藤彰文、獲得金額6000万円。

   5人目、柳瀬薫、獲得金額0円。

   残弾数、11発中3発。

   以上だ。

   では、引き続き健闘を祈る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【5巡目…残弾:11発、実弾:3発、生存:4人(1000万円/発)】


山辺:11分の3……か。

   数字上の確率としては、大したことは無いが……


柳瀬:なぁに? 怖いのー?


山辺:……そりゃあもちろん、怖いさ。

   不思議なものだね。

   ここに来る前は、自殺しようとしていたはずなのに。

   こうして死の確率が、どんどん上がってくるに従って、

   首を吊る前はまるで感じなかった恐怖感が、みるみる膨張しながら、近づいて来るのがわかる。

   スリルがある、なんて、言ってられないね……ははは。


進藤:……やっぱりあんたは、順応して、気が狂ったフリをしていただけか。


山辺:そうだね。

   それが一番、賢明だと思ったのさ。

   下手に常識人ぶって、そこの小椋さんや、柳瀬さんのように成り果ててしまうよりは、

   余程マシだろうと、ね。

   ……だが、ダメだった。

   やはり僕も、臆病者で脆弱な、ただの一人の人間なんだ。

   精一杯の虚勢を張っても、今の今まで結局、絶対的な恐怖と絶望感には、打ち勝つことは出来なかった。

   ……死にたくない……ね、やっぱり。

   きっと小椋さんも、死の間際は、こんなぐちゃぐちゃな気分だったんだろう。


烏丸:ここにきて泣き言?

   情けないなぁ。


山辺:はは、全く、若さとは恐ろしいね。

   ……「24」。


(銃声と共に、山辺の頭部から血飛沫が舞い、崩れ落ちる)


進藤:……っ。


柳瀬:あーあ、あはははっ。


GM:2人目、山辺泰一、脱落。

   烏丸光梨、進藤彰文、柳瀬薫は6000万円獲得。


烏丸:ついに1億超えたね、すごいすごい。


GM:では、次の小椋弓恵の代行は……そうだな。

   烏丸光梨、君にお願いしようか。


烏丸:はーい。

   えーと、じゃあ……

   「10」。

   ……ありゃ、あたりかぁ。

   もう1回くらい、当たるの見てみたかったんだけどなー。


柳瀬:なぁに、嫌いなの、その人?


烏丸:あはっ、そうだねー。

   ボク、こういうタイプの人、大っ嫌いなんだよね。

   他人の言葉をいちいち揚げ足取って、あたかもこの場では、自分に主導権があります、みたいなのがさ。​

   ……ま、ボクも人の事言えないから、同族嫌悪ってヤツかもだけど。

   こうして他人の死体を見るのは2回目だけど、不思議だね。

   全然可哀想とも、なんとも思わないんだ。


柳瀬:うふふ、ちょっと同感、かも。

   ああ、でも……もう、どんな人だったかも、覚えてないかも。

   こぉんな、ぐちゃぐちゃな顔じゃなかったわよねぇ、最初は。

(柳瀬、小椋の死体と血溜まりをぐちゃぐちゃと掻き回す)

進藤:……ッ……!

柳瀬:あぁ、ええっと、誰だったっけこれ……オオクラさん……?​

   あれ、なんか違うなぁ……コグレさんだっけ……?

   ……あは、もう忘れちゃったぁ。


烏丸:うえー、ばっちぃなあ。​

   絶対その手でボクに触らないでよ?

   ……えーと、じゃ、そのまま次もボクだね。

   あと2発かあ……怖いなあ。

   「13」。


進藤:あたりだな。

   ……悪いが、俺は、次はパスだ。


柳瀬:えー、うふふふっ。

   なに、臆病風?


進藤:まさか。

   気分が悪いだけだよ……次どうぞ。


柳瀬:もったいないなあ、5000万円マイナスだよ?

   どうせなら、思い切っちゃえばいいのに。

   じゃあー、次の私が選ぶ番号はー……

   「4」っ。

(銃声が響き、衝撃で柳瀬の首がだらりと折れ曲がる)

柳瀬:あー……ははっ……

   残……念、でし……たぁ。

   (絶命)

烏丸:あはっ、あーらら。

   さよならー、弱虫のいかれポンチさん。

   結局最後まで、ヒトには戻ってこれなかったね。


GM:3人目、柳瀬薫、脱落。

   烏丸光梨、進藤彰文は6000万円獲得。

   そしてここで5巡目終了だ、とうとう、残り2人になったね。

   何とも怒涛の展開で、私も目が離せないよ。

   では、リザルトを発表しようか。

   1人目、山辺泰一、獲得金額0円。

   2人目、小椋弓恵、獲得金額0円。

   3人目、烏丸光梨、獲得金額2億円。

   4人目、進藤彰文、獲得金額1億3000万円。​

   5人目、柳瀬薫、獲得金額0円。

   残弾数、7発中1発。

   以上だ。

   ちなみに、代行ルールはここからは廃止とし、パスも禁止とさせてもらうよ。

   いよいよ、クライマックスというわけだ。

   最後まで、気を抜かないようにね。

   では、引き続き健闘を祈る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【6巡目…残弾:7発、実弾:1発、生存:2人(1000万円/発)】


​烏丸:2億円、だってさ。

   あはっ、ここまで来るともうなんか、金銭感覚とか狂ってきちゃうよね。


進藤:………………


烏丸:一気に2人になっちゃったねー。


進藤:……そうだな。


烏丸:ボクのこと、最低な人間だと思ってる?


進藤:………………


烏丸:いいよ、本音言っちゃって。

   自覚あるし、今更誰になにを言われても、ボクはなんとも思わないから。


​GM:6巡目、終了。

   残弾数、5発中1発。

進藤:……そうだな、最低な人間だと思ってるよ。

   正直、クズみたいな奴だ、とまで思ってる。


烏丸:あはっ、やっぱりねー。​

   それが普通で、まともな感覚だよ。

   さすが進藤クン、ザ・まとも。

進藤:馬鹿にしてるのかよ。

烏丸:さあ、どうだろ。

   でもさ、これまでの皆との遣り取りで、嫌ってほど分かったでしょ?

   世の中には色んな人がいて、こういうどうしようもないクズだっているんだ、ってさ。

   何もかも失った人間っていうのは、ここまでクズに堕ちられるものなんだよ。

   ……一回死んで、生まれ変わることが出来たなら、

   少しはまともな人生も歩めるかなー、なんて思ったけど、

   まともな死に方すら、ボクには許されないみたいだし。

   だったらいっそ、このゲームのプレイヤーであるうちは、

   思いっきり吹っ切って、思いっきりクズになっちゃおうかな、ってね。


進藤:……なにを言ってる?


烏丸:本当はね!

   ……ボクだって、本当は嫌だったよ。

   生きるか死ぬかのゲームだなんて、そんなの、いくらもらったって嫌だった。

   最初の時、ボクがなにを考えていて、どうして嬉々としてこのゲームに乗っちゃったかなんて、

   正直言って覚えてない。

   ……あはっ、言い訳だよね。

   今更、なにを言ったって、ね。


​GM:7巡目、終了。

   残弾数、3発中1発。


​進藤:お前……?


烏丸:……とか、言えばー……

   同情する人だよね、君は。


進藤:……は?


烏丸:あはっ。

   なにをそんなマジになって聴いちゃってんのさ、バカじゃないのー?

   ボクは心からこのゲームを楽しんでるし、誰が死のうが知ったことじゃないの。

   さっきもそうやって言ったのに、もう忘れちゃった?

   そんなんだから、ここまで来てもこんなクズに、いいように遊ばれるんだよ。


進藤:なっ……!

烏丸:あははははっ。​​

   ……あーあ。

   最期に、一番笑わせてもらっちゃった。

   やっぱり、バカ真面目な人を揶揄うのは面白いや。

進藤:こんな時まで何言って……!

   …………?

   ……最期……って言ったか、今?

烏丸:言ったよ。

   最後じゃなくて、最期、ね。


進藤:どういう、意味だよ……?

烏丸:「9」。

   ……あたり。

   はい、進藤君。​

   これで、最後だから。

   (銃を渡す間際、何かを耳打ち)

   …………ね。

進藤:……「14」……

烏丸:……はい、あたり。

   じゃあ、次はボクの番だね。

進藤:……何言ってるんだ?

   次って、残弾はもうこれで……

GM:8巡目、終了。​

烏丸:……あはっ。​

   やっぱり、人の話聞かないなあ、進藤クンは。

   ゲームマスターさんは、最初になんて言ってたっけ?

   このゲームの、終了の条件は?

   なんだったっけ?

進藤:​……っ!!​

   ……ゲーム終了は、「実弾が全て無くなった時」か……

   「最後の一人になった時」、だけ……

GM:残弾数……

   1発中、1発。

烏丸:そういうこと。

   実弾はまだ無くなってないし、最後の一人にも、まだなってない。

   そして、次の順番はボク。

   つまり、これでボクが引き金を引けば、正真正銘、晴れてキミの一人勝ちってわけ。

   結局、賞金いくらになるんだっけ?

   あはっ、もうよく分かんないよね。

   先に、おめでとうって言っといた方が良いかなあ。​

   たぶん、あたりの回数からして、ロクな死に方しないだろうし。


進藤:……烏丸……

烏丸:あ、初めて名前で呼んでくれたね。

​   なーに、進藤クン?

進藤:お前は……お前はいいのかよ、こんなんで……!​

   納得できるのかよ!?

烏丸:さあ。

   納得しようがしまいが、結果は一緒だし。

   誰かさんも言ってたじゃん、「過程がどうであれ、結果が全てだ」、ってさ。

進藤:だけど!!

烏丸:……良いんだよ。

   どのみちボクは、あの時、あれに気付いた時から、

   このゲームの最後には、こうするつもりだったんだから。

   散々皆に嘘吐いた挙句、死に損なったら生きたがるなんて、滑稽でしょ。

   だから……良いんだ、これで。

   最後に残ったのが、進藤君で良かったよ。

進藤:何、言って……!

烏丸:……でも、さ。

   もしかしたら……ボクは……

   (口を動かすが、言葉にはならない)

進藤:烏丸……?

   今、なんて。

烏丸:……っ。

   バイバイ。


(銃声が響き、烏丸の頭部の半分以上が消し飛び、倒れる)

GM:4人目、烏丸光梨、脱落。

   進藤彰文は、2億2000万円獲得。

   そして、この瞬間生存者が1名になり、実弾も全て消費された。

   これにてゲームは終了だ。

   いやはや、おめでとう、進藤彰文君。

   君はこの過酷なゲームを見事生き抜き、総額3億7000万円の賞金と、現実への帰還の権利を得た。

   私は敬意を持って、惜しみない賞賛を贈らせてもらおう。


進藤:……ああ。


GM:君達の協力に感謝するよ。

   実に、実に有意義な時間だった。

   君達の名前と勇姿を、私は生涯忘れないことだろう。 

   そこに出る扉が、君達が死ぬほどに、死に果ててもなお求め焦がれた、現世への切符だ。

   進藤君、勝者たる君は、晴れて自由の身になると同時に、

   屍のように尊き命を賭して勝ち取った、莫大な財産を手に入れることとなる。

   さあ、第二の人生を歩むための第一歩だ。

   いざ勇気を持って、踏み出して往きたまえ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


​進藤:(M)

   そうして、俺は言われるがまま、促されるままに扉を抜けて、

   今、暗闇の中を歩いている。

   ……全てが夢だったのならいい。

   全てが、幻だったのならよかった。

   でも、俺の脳裏に焼け付いた記憶が、そんな薄い願望すらも焦がして、消してしまう。

   小椋弓恵の、黒々しくも淡白な微笑が。

   山辺泰一の、ひた隠しされた臆病が。

   柳瀬薫の、狂いそうなほどの純粋が。

   そして……

   烏丸光梨の、虚白の遺言が。

   何を言っていたのか、或いは、何かを望んでいたのか。

   何一つ、知ることもできないまま。

   仮に、得られた金を全て返したなら、あの時間は、無かったことに出来るのだろうか。


   ……馬鹿な。

   何度も聞いたじゃないか。

   何度も……つい、さっきも。

   「過程がどうであれ、結果が全てだ」と。

   ……そうだ。

   これが……結果、なんだ。

   それなら、俺のこれから為すべきことは、きっと……


​(間)


​GM:……5人目、進藤彰文、脱落。

   あーあ、ダメじゃないか。

   ちゃんと言っただろう?

   「最後まで、気を抜かないようにね」 ……と。


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