エンドレバトライバ

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(役表)

♂:

B♂

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A:……本気で、言ってるのか。


B:ああ。


A:冗談なんかじゃ、ないんだよな?


B:冗談でこんな事、言うと思うかよ。


A:一週間後には、俺達にとって、最後の大会が控えているんだぞ。


B:分かってる。


A:なのに、それにも拘わらず、お前は……そうするのか。


B:そうだ。


A:……理由を、聴かせてはくれないか。


B:それを聴いて、お前はどうする?


A:場合によっては、止める。


B:ほう、止める……か。

  お前が、俺を?


A:そうだ。

  事と次第によっては、どんな手を使ってでも、止めさせてもらう。


B:万年俺に負け越していたお前が言っても、説得力に欠けるな。


A:なんだと。

  今の勝率は五分五分だろうが。

  言葉を選ばないと、無駄に寿命が縮まる事になるぞ。



B:ふん、相変わらず、減らず口だけは達者だな。

  ……まあ、いいか。

  無闇にはぐらかしても、お前には逆効果だろうからな。

  教えてやるよ。

  なんで今、このタイミングで、俺がお前と、袂を分かつ決意をしたのかを。


A:ああ。

  是非とも、お前自身の口から聴きたいね。

  俺たちはずっと2人で、「無敵」の称号を目指して来た。

  そして、今度の大会でようやく、その目標に手が届くんだ。

  それなのに今、他ならぬお前が、俺たちの悲願を……

  夢を、ドリーまないなんて決めちまった、そのわけを。


B:………………


A:………………


B:……ちょっと良いか?


A:どうした?


B:今なんて言った?


A:なにが?


B:いや、今お前、変な言葉口走らなかったか?


A:何の話だ?


B:……いや、いい。

  たぶん、俺の聞き間違いだ。


A:何なんだよ。

  はぐらかさないって、お前が自分で言ったんだろ。


B:うん、はぐらかすとか、そういうのじゃないんだけどな。

  ……まあ、兎に角、だ。

  時間もたっぷりあることだ、順を追って話そう。

  お前、俺達が初めて戦った時の事、覚えてるか?


A:今更なにを。


B:良いだろ、思い出話くらい。

  どうせ、お前と他愛も無い長話が出来るのも、これで最後なんだ。

  本命を語る前に、少しくらい、廻り道させてくれよ。


A:本気、なんだな。


B:最初からそう言ってるだろ。

  で、質問の答えは?


A:……ああ、勿論覚えてるよ。

  俺の記憶のメモリーに、まざまざと刻み込まれているさ。

  あの日、あの時味わわされた、あの鮮烈な思い出は……


B:ちょっと良いか?


A:どうした?


B:いや、えっとな。

  あの、記憶の……なに?

  なんだって?


A:え?

  だから、俺の記憶に、まざまざと刻み込まれている、って。


B:最初からそう言ってたか?


A:最初からそう言ってたよ。


B:……そうか、悪いな。

  また何か、おかしな聞き間違いをしちまったらしい。


A:どうしたんだよ、一体。

  今日のお前、なんか変だぞ。


B:……今のお前にそれを言われると、なんか無性に腹立つな。


A:なに?


B:いや、何も。

  話を遮って悪かったな。


A:全くだよ。

  続けていいか?


B:ああ。


A:……俺は、あの日の事を忘れた事は、一度も無い。

  それまで俺とまともにやり合える奴なんて、一人も居なかったからな。

  狭い世界しか知らなかった当時の俺は、自分が最強だと思い込んでいた。

  何年経とうが、何処へ行こうが、

  俺の進む道に、阻むモノなんてある筈も無いと、そう信じ切っていた。

  ……そんな、俺の天狗の鼻っ柱を正面からへし折ったのが、お前だった。


B:そう、俺も驚いたよ。

  似た者同士、互いに「最強」という名の街道を、苦もなく歩んで来た者同士が、

  何の因果か、運命の悪戯によって出逢っちまった。

  ……今だから明かすが、正直、俺もギリギリだったよ。

  涼しい顔を何とか保ってはいたが、内心は、経験の無い拮抗に焦りまくっていた。

  それでもお前を一手退けられたのは、

  俺以上の焦燥と、慢心が、お前の中に透けて見えたからだ。

  だからこそ、同等の実力を持っていながらも、付け入る隙があり、

  そこからどう崩せば、堅固に見える城壁が一気に瓦解するかも、感覚で分かった。

  それもこれも、やはり、俺達が似た者同士、鏡写しだったからに他ならない。


A:……そうだ、そうだよ。

  あの時の苦汁の味は、嗚咽を漏らしたくなるほどに強烈だった。

  世界には、こんな強い奴がいるのかって、

  俺は、最強なんかじゃなかったのか、ってな。

  敗北ってモンの息苦しさを思い知るのも、

  人前で、人目を憚らずに泣いたのも、人生で初めてだった。


B:ああ、あの時のお前は傑作だったな。

  親とはぐれた子どもみたいに、大声で泣き叫んでさ。


A:うるさい、忘れろ。

  ……けど、だからこそ俺は、思ったんだ。

  お前と手を取り合って、共に己を高め合っていけば、

  途方も無い程に遥か上へ、駆け上がって行けるんじゃないかって。

  自分一人では辿り着けない、何人も越えられない壁の、その先に。

  「最強」すらも超越した、「無敵」という境地に。

  他の誰でもない、こいつとなら、やれる。

  そうだ、やろう、やってやろうって。

  俺の、一生涯の好敵手と共に、これから、ライバルんだってな!


B:ちょっと良いか?


A:どうした?


B:いや、うん……

  お前は凄い真面目に話してくれてるし、俺も、その話の邪魔をしたい訳じゃないんだが。

  どうにもな?

  なんか時折、小首を傾げたくなるフレーズが紛れ込むんだよ。


A:気のせいじゃないのか?

  俺は何も、変な事は言ってないだろ。


B:俺もそう思いたいんだけど、流石に3回目ともなると、そうもいかないんだよ。


A:そんなに真意を話すのが嫌なのか?


B:嫌ではない、むしろ話したい。

  包み隠さずに話したい。


A:そんなにか。


B:そんなにだ。


A:だったら、おかしな事を言って口を挟まないでくれるか。

  一向に話が進展していない。

  俺も早く、話の核心に迫りたいんだよ。


B:お、おう、悪い。

  じゃあ、今後はなんか聞こえても、全部気のせいって事にして、聞き流す事に徹するとするよ。


A:そうしてくれ。


B:うん。

  ……で、だ。

  話を戻すが、お前、俺に妹がいるのは知ってるよな?


A:ああ、知ってるよ。

  生まれつき体が弱くて、入退院を繰り返してる、ってくらいしか聞いてないが。


B:まあ、あんまり、人に深く話すような事でもないしな。

  元々内向的な性格だったのも相俟って、自分の置かれてる境遇にヘソを曲げちまって、

  医者の指示に従わない事も、最近は多くなってきていたんだ。

  食事を摂らなかったり、処方された薬を飲まなかったり、

  勝手に病室を抜け出して、あちこち歩き回ったりな。

  その度に叱責されてはいるんだが、改善する意思が見られないんだよ。

  ……当然、そんな事を続けていれば、あいつ自身にも、よくない跳ね返りが起こる。


A:なんだ、よくない事、って。


B:………………


A:……まさか、妹さん……シスッたのか?


B:いや、まだそこまでは行ってない。


A:シスッたんじゃないのか。


B:ああ、今の所はまだな。


A:なんだ、脅かすなよ。

  俺はてっきり、妹さんがシスッ、


B:いや大丈夫だ。

  大丈夫だから、そう何回も言わなくていい。


A:そうか?


B:そうだ。


A:そうか、それなら良かったよ。

  ……けど、じゃあ何で今、妹さんの話を?


B:最悪ではないにせよ、良くはない、って事だ。


A:というと?


B:結論から言えば、もっと大きい病院に、移る事になったのさ。

  お前の言うその、なんか、アレしちまう前にな。

  今はまだ問題無いように見えていても、人間の体は想像より遥かに脆く、

  いとも容易く、笑えるくらい唐突に、悪い方向に向かっていく時だってあるんだ。


A:まるで、見た事あるかのような言い方だな。


B:まるでも何もな、単純な理由だよ。

  俺のばあちゃんも、じいちゃんも、母さんも。

  皆、最初は軽い風邪みたいなもんで、何事も無いと言われながら、

  ある日何の前触れも無く、最期の日を迎えて、神様に連れて行かれちまったんだ。

  ……だから正直、怖いんだよ。

  今はまだ、俺に小生意気な感情を零してるだけの、あの無垢な顔に、

  ある日突然、白い布を被せられちまうのが。

  直接死には繋がらないような病気だと、頭では分かっていても、

  どうしても……な。

  嫌な想像は、しちまうモンなんだ。


A:……そんな事が。


B:けどな。

  「それなら仕方ない」、なんて言うなよ。


A:え?


B:確かに妹の件も、大きな理由のひとつだ。

  けど、それと同じくらい、俺自身にも、譲れない大きな理由があるんだよ。

  そしてそれは、恐らくはお前も同じで、隠そうにも隠しきれない、内なる衝動……

  俺達が初めて出逢ったあの日から、ずっと消えてくれない、消えそうにもない、

  心の奥底で燃え広がり続ける、爆炎のような激情がな。


A:……それは、なんだ。


B:とぼけるなよ。

  お前だって、心の中ではずっと、こう思っていた筈だ。

  「次の大会で優勝すれば、俺達は自他共に認める、無敵の称号を得られる。

   ……だが、ちょっと待て。

   トーナメント表を見ても、どいつもこいつも弱小の寄せ集めか、

   聞いたことも無い、無名の雑兵ばかり。

   今の俺達から見たら、はっきり言って、雑魚の群れでしかないじゃないか。

   こんな程度の低い大会に、出場して、あっさり優勝して……

   本当に、無敵だなんて呼べるのか?

   本当に、勝ち上がる価値のある戦いなのか?

   ……いや、違う。

   居るじゃないか、一番身近に。

   俺が、他の誰よりも、勝ちたい奴が。

   俺が、他の誰よりも、超えたい奴が。

   だったら、今俺のやるべき事は、ひとつしかない。


A:……そうだ。

  俺はこいつと、決着を付けなきゃならない。

  最高で、最強で、最大の好敵手に……

  (同時に)ライバルんだ!!」


B:(同時に)ライバルんだ!!」


A:そういう事か。


B:うん、違うんだよ。

  なんか嫌な予感するなって思って、揃えにいっちゃった俺もどうかと思うけど。


A:え?


B:ああいや、違わない。

  違わないんだけど、違うんだよ。

  そうだけどそうじゃないんだ、分かるかお前?


A:何言ってんだ?


B:それはこっちの台詞なんだよ。

  満を持してもう一回言うぞ?

  それはこっちの台詞なんだよ。


A:どうした、一体。

  せっかく一番盛り上がった所だったのに。


B:(深呼吸)

  ……いや、なんでもない。

  我慢出来なかった俺が悪いんだ、たぶん。


A:大丈夫か?


B:ああ、大丈夫だよ、たぶんな。


A:そうか、それなら良いけど。

  しかし、そうだったのか。

  まさかお前も、心にハートしてる思いは同じだったなんてな。

  いや、むしろそれを分かっていたからこそ、お前は敢えて、形ばかりの栄光のグローリーよりも、

  最後のラストにもう一度俺と戦い、完全決着を付ける事を望んでいたって事か。

  ……全く、つくづく似てるな、俺達は。

  お前の言う通り、まるで、鏡写しのミラーみたいだ。


B:似てない気がしてきたわ。


A:ん?


B:堰を切ったように畳み掛けてくるじゃん。


A:なにが?

  今の俺の話、何かトークしてたか?


B:………………

  ……やっぱり、なんでもないわ、うん。

  なんでもない事にした。

  お前の喋り方が前からそんなんだったかとか、思えば気にした事無かったし。

  今日の俺が、いつもより少し敏感なだけなんだ。


A:そうか?


B:そうだ。

  気にしないで続けてくれ。

  今度こそもう、何言われても口は挟まないから。


A:いやまあ、実際おかしいんだけどな。


B:は?


A:わざと。


B:わざと……

  あ、そう。


A:普通に喋る事も出来るけど、どうする?


B:どうする……

  ……そうだな、どんな選択肢がある?


A:選択肢も何も、普通に喋るか、このままで行くかの2択だけど。


B:1発殴る、若しくは殺すって選択肢は無いか?


A:それはちょっと無いな。


B:それに準ずる物なら、何でも良いんだけど。


A:すまん、今はその選択肢は品切れなんだ。

  メーカーでの製造も、もうほとんどやってなくってな。


B:そうか。

  なんとか入荷したら教えてくれ、言い値で買う。


A:分かった。

  絶対に仕入れないように、問屋に頼んでおくよ。


B:それは残念だ。


A:俺は安心だよ。


B:……しかし、話を戻すが、さっきお前、似てるって言ったな?


A:言ったよ。


B:それは、どういう意味で言ったんだ?


A:いや、お前から先に言われるとは思わなくて、

  つい最初は、お前を止める口実として、目先の大会を重んじるような物言いをしちまったけどな。

  どのみち俺は、大会の出場は、辞退するつもりだったんだ。


B:……なんだって?


A:いや、お前から先に言われるとは思わなくて、

  つい最初は、お前を止める口実として、目先の大会を重んじるような物言いをしちまったけどな。


B:違う違う違う違う違う。

  言い直さなくて良い、聞こえなかったわけじゃないんだ。

  その、なんて言うんだろうな。

  どういう意味だ、って意味。


A:どういう意味だって意味ってニュアンス?


B:どういう意味だって意味ってニュアンス。


A:なるほど、分かった。


B:なにが分かったんだ、今ので。


A:実は、俺も少しばかり、ワケアリでな。


B:ワケアリ?


A:……この傷を見れば、見当が付くだろ?


B:……それは……


A:そうだ、お前も見てただろ。

  ……忘れもしない、忌々しい、あの時付いた……

  あいつに付けられた、癒えない傷だ。


B:………………


A:笑っちまうよな。

  最強だ敵無しだって、散々威張り散らして、騒ぎ散らしておきながら、

  こんなちっぽけな怪我ひとつに、選手生命を脅かされてんだ。

  かすり傷だと思って、甘く見て放置したのが、運の尽きってヤツだ。

  どんなに強かろうが、所詮俺も、一人の人間に過ぎないって事だな。


B:その怪我……


A:こいつのせいで、俺が戦えるのはせいぜい、あと一試合が限度。

  雑魚相手に不戦敗、なんて醜態を晒すくらいなら、

  せめてその一試合で悔いを残さず、死力を出し尽くして終わりたいんだ。

  ……何の事はない。

  お前と比べれば、心底くだらなくて、情けない理由だよ。


B:ちょっと良いか?


A:どうした?


B:それやったの、さっきだよな?


A:さっきだ。


B:ブランコから飛び降りて、思いっきり着地失敗してたアレだよな?


A:ブランコから飛び降りて、思いっきり着地失敗してたアレだ。


B:やっぱりそうだよな。

  そんな怪我、昨日まで無かったもんな。


A:そう、怪我したてほやほやだ。

  お前も見てただろ?


B:ああ、一部始終見てた。


A:どうだった?


B:バカみたいだった。


A:俺もそう思う。

  正直、今もめっちゃ痛い。


B:泣いてたもんな。

  足もグネってなかったか?


A:足もグネった。

  超痛い。


B:泣いてたもんな。


A:今日はいけると思ったんだよ。


B:なにが。


A:一子相伝の大技、「ムササビ演舞」。


B:ああ、あれムササビを模した動きだったのか。

  風に飛ばされてるティッシュかと思った。


A:ティッシュじゃない、ムササビだ。

  まるで、木々の間をひゅるりと滑空するムササビのように、

  優雅且つ滑らかに、それでいて風雨に負けない野生の強さをも表現する、

  難易度、危険度共に超Sランクの、ブランコダイバー殺しという別名もある絶技だ。

  そのあまりのヤバさ故、公式ルールでタブー扱いを受ける程だが、

  反面、完成されたその技の現実離れした美しさもあってか、その技を体得しているだけで、

  あらゆる大会に出ずとも、無冠の帝王として後世まで語り継がれる、

  なんて伝説もあるくらいだぞ。


B:へえー。

  で、さっきお前がやったのがその、伝説のティッシュか。


A:ムササビだ。


B:ああそう、ムササビか。


A:そう、それ。


B:なるほどな。


A:どうだった?


B:バカみたいだった。


A:バカみたい?


B:みたいっていうか、バカだった。


A:もはや?


B:もはや。


A:そうか……


B:そうだよ。

  満身創痍の原因が、ただのバカなんだよ。


A:でも、それはそれとしてだ。

  何にせよ、こんな体でも、一試合だけなら全力を、本気を出せる。

  まあそれで、間違い無く俺の選手生命は……

  ヘタをすれば、人生すらも、絶たれることになるだろうが、

  その相手がお前なら、むしろ本望ってやつだ。

  我儘かもしれないが、どうか、最大最強の好敵手としてではなく、

  最愛最高の親友として、黄泉の国への渡し舟を、拵えてはくれないか。


B:……今更過ぎるな。

  散々言ってるだろ、それは俺とて、望んでやまない事だ。

  ジャッジもギャラリーも居ないが、俺達にとっては、むしろ好都合だろう。


A:そうだな。

  俺達の戦いは、俺達にしか測れない。

  周りに人が居たんじゃ、余波の巻き添えが気になって、本気の1割も出せやしない。

  ……思えば最初も、こんな感じだったっけな。


B:ああ、懐かしいよ。

  あの頃泣きべそをかいていたお前が、どれだけ粘ってくれるか楽しみだ。


A:言ってろ。

  今日此処で這い蹲るのは、お前の方だからな。


B:フン、良い覚悟だ。

  ……さあ、それじゃあ、火蓋を切り落とすとしよう。

  正真正銘、俺達の、最後の戦い。

  今世紀最高峰の、名も無き頂上決戦だ。


A:ああ。

  ……セット。


B:レディ……


A:………………


B:………………


A:(同時に)たたいてかぶってジャンケンポン!!

B:(同時に)たたいてかぶってジャンケンポン!!


A:(同時に)ハィィイイイイッッッ!!!

B:(同時に)ァアアァァアアイッッ!!!


A:………………!!


B:………………!!


A:……ッッシャァァアアアッッッ!!

  俺のォォ勝ァアアちだァァアアッッ!!!


B:オアァァアァアアァ……!!

  ……む、……無、念……!!

  ガクッ。


A:……これで……9999敗、そして……10000勝……!

  俺の、勝ち越しだ……!!

  ……へへっ、ざまぁ……み、ろ……

  ガクッ。


(間)


A:第13話「宿敵(とも)との決別」、これにて終幕……!


B:とうとう1クールやっちまったな。


A:ああ、これはもう、歴史に名を残すべき、「超」が付く名作だな。

  ゴールデン放送は間違い無いし、グッズ化が待ち遠しいよ。

  来たる第2期の展開が楽しみだな。


B:ああ、全く以て「(苦笑)」が付く迷作だよ。

  結局ここまで付き合っちまった俺が言うのもなんだけど、

  毎回毎回、無駄に凝ったストーリーを入れる必要あるか?

  完全な蛇足だろ。


A:なんだ、お前はまだこの遊びの神髄に気付いてないのか。


B:なにが?


A:蛇足だって、決して捨てたもんじゃないって話だ。

  イメージしてみろ。

  地を這う蛇だって足を生やしたなら、立派な天翔ける竜になるだろ。


B:ならない。


A:ならないな。


B:せいぜいトカゲとかだわ。


A:つまりは、そういう事だ。


B:どういう事なんだよ。


A:……あ、なぁ。


B:ん?


A:今何時?


B:18時。


A:うわ、やっべ!

  あと1時間で、「魔法少女伝コックロー★チカ」が始まっちまう。


B:まだ観てんのか。


A:良いだろ、好きなんだから。


B:いや、好きなのは勝手だけど。

  あれってゴキブリだろ?


A:あれとか言うな、あの子って言え。


B:言い方変えても同じだよ。

  あの子ゴキブリだろ?


A:ゴキブリだよ。

  一人暮らしの女の子チカちゃんが、家の冷蔵庫下で繁殖した無数のゴキブリ達と契約して、

  自分勝手な地球汚染を続ける人類を成敗していくんだ。

  CGを一切使わないこだわりと、画面がたびたび黒く塗り潰される描写は、圧巻の一言だぞ。


B:なんでそんなおぞましい内容なのに、ゴールデンタイムでの放映が許されてるんだよ……

  お茶の間が凍り付くだろ、色んな意味で。

  チカちゃん役の人とかもう、ノイローゼになってるんじゃねえの。


A:俺に言うなよ、制作スタッフとテレビ局に言え。

  まあ確かに、キャストの入れ替わりが激しい番組だから、今のチカちゃんも4代目とかだけど。


B:もうほぼ手遅れじゃねえか。


A:んじゃ、そういう訳だから、俺先に帰るわ。

  ゴッキーとブリっちにも、ご飯あげないといけないしな。


B:それの影響を受けて、ゴキブリを飼い始めるお前もお前だよ。


A:良いだろ、可愛いんだから。


B:まあ、それもお前の勝手だけどさ。

  じゃあな、おつかれ。


A:おう。

  ……あ、そうだ。


B:なんだよ、まだ何か?


A:次回、エンドレス・バトル・ライバルズ、待望のセカンドシーズン。


B:マジで2期やんのか。

  ていうか、誰に向かって言ってんだ。


A:第1話、「黒き侵攻、ゴキブリライバルズ」!!


B:は?


A:来週も絶対、観てくれよな!!


B:おい、ちょっと待て。


A:……じゃ、次回告知も終わったって事で。

  今度こそ帰るわ。


B:おい、ゴキブリ連れてくる気か、お前。


A:それじゃな、また来週!


B:おい待て、とりあえず自転車をしまえ。

  確認したい事が山ほどあるんだ。


A:さーて、これからまた忙しくなるぞー。


B:おい跨るな、おい漕ぎだすな。

  一旦止まれ、話し合おう。


A:あ、お前もちゃんと、手頃なゴキブリ捕まえて連れて来いよ。

  たぶん、古いエアコンの中とか漁れば出てくるからさ。


B:え、なにそれ気色悪。


A:じゃっ!


B:あっ、おい待て!

  生々しいアドバイスを残して颯爽と走り去るな!

  考え直せって、おい!!


A:待ってろチカちゃん!

  ゴキブリ王国の未来は明るいぞ!!

  ははははははは……!!(フェードアウト)


B:おおい!!!


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