インマイライフ
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(役表)
マリナ♀:
ナツミ♀:
タクマ♂:
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(メールでのやりとり)
マリナ:タクマー、ねえタクマ。
タクマ:なに?
マリナ:今、何してた?
タクマ:何も。
マリナ:何もって、素っ気ないなー。
タクマ:そうかな?
マリナ:そうだよー。
もっと無いの? 何か。
タクマ:何かってなんだよ。
マリナ:何かって言ったら、何か。
タクマ:……暇なの?
マリナ:まあね、そんなとこ。
タクマ:気楽なもんだな。
マリナ:そう?
タクマ:そうだよ。
マリナ:なんで?
タクマ:なんでも。
マリナ:よく分かんないよ。
タクマ:そうかよ。
マリナ:……ねえ。
タクマ:なに。
マリナ:会いたい。
タクマ:なに、突然。
マリナ:突然でもないよ。
駄目?
タクマ:駄目、かな……今日は。
マリナ:どうして?
タクマ:どうしても。
マリナ:そう言われてもなー。
実はもう、向かっちゃってるんだよね。
タクマ:は?
マリナ:もう、そっち向かってるの。
あと5分もしたら着いちゃう。
タクマ:おいおい。
今日はやめてくれよ。
マリナ:何かこの後、用事とかあるの?
タクマ:特に無いけどさ……
マリナ:それならいいじゃない、家には居るんでしょ?
お昼ご飯作ってあげるから。
タクマ:居るけどさ……
とにかく、今日は無理。
そのまま帰ってくれないか。
マリナ:駄目ー。
そろそろ着くから、メール止めとくね。
また後で。
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(マリナ、呼び鈴を鳴らす)
マリナ:タクマー、いるー?
タクマー?
……あれ、留守かな……そんな筈無いんだけど。
タクマー、居るんでしょー、開けてよー。
……ん?
あれ、鍵開いてる……?
タクマー……入っちゃうよー……?
……お邪魔しまーす、と……鍵開いてるんだから、入ってもいいんだよね。
ナツミ:……あ……
マリナ:え?
ナツミ:……マリナ?
マリナ:ナツミ……?
……なんで、あんたがここにいるの?
ナツミ:え?
マリナ:え? じゃないわよ。
ここ、タクマの家よ?
なんでタクマじゃなくて、ナツミがいるの?
ナツミ:……で、でも、マリナだって、勝手に入って来たじゃない……
マリナ:はぁ?
なにそれ、意味分かんないんだけど。
私はタクマの彼女なんだから、別に問題ないでしょ?
ちゃんと来る前に、メールだってしたんだから。
ナツミ:………………
マリナ:何黙ってんのよ、何か言ったら?
ナツミ:……別に……
マリナ:だいたい、それ、何してんの?
人の家の冷蔵庫、勝手に漁ってさ。
まさか、泥棒でもする気?
ナツミ:違う。
マリナ:じゃあ何よ。
ナツミ:……おすそ分け。
最近カップ麺ばっかりって言ってたから、栄養偏るといけないと思って……
マリナ:頼まれたの?
ナツミ:え?
マリナ:タクマがそうして欲しいって言った?
彼女でもなんでもない、あんたの手作り料理が食べたいって、そう言った?
ナツミ:……それは……
マリナ:言ってないわよね?
ただの、あんたの自己満足のお節介でしょ?
いらない世話よ、余計なお世話。
ゴミが増えるだけ。
ナツミ:……でも……
マリナ:でも、なによ。
ナツミ:………………
マリナ:(M)
腹立たしい。
心の奥底から、そう思う。
このナツミという子は……否。
この女は、昔の私の親友であり、タクマの近所に住んでいる幼馴染。
私が気を許していた数少ない友人で、絶対的な絆で結ばれている、とまで思っていた。
私とは何もかも正反対の人間で、初めて会った時は正直、あまり関わろうとも思わなかったけれど、
成り行きで少しずつ話す機会が増えるうちに、知らない間に打ち解けていて、
気が付けば、お互いの人生相談なんかまでするような、親密な関係になっていた。
と言っても、相談していたのはほとんど私で、ナツミは私の話を聞いてくれていただけだったけれど。
……私達の関係が、崩壊へと歩み始めたのは、
私がタクマについての話を、ナツミに持ちかけてからだった。
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(回想)
マリナ:それでね、その時そいつ、何て言ったと思う?
ナツミ:何て言ったの?
マリナ:「それは俺には関係ない、お前たちで解決するべき問題だろう」って!
信じられる?
仮にも、教職についてる人間の台詞とは思えないでしょ?
ナツミ:それはひどいね……
本当にそれだけだったの?
マリナ:本当にそれだけよ。
その後は我関せずを決め込んで、完全に知らん顔してたの。
もう頭来ちゃってさぁ。
あいつの授業なんて、これから絶対聞いてやらないって思ったもんね。
ナツミ:……確かにあんまり感じのいい先生ではなかったけど……
なんか、ショックだなぁ。
マリナ:ナツミも気を付けなよー?
生徒指導部の教師があんななんだから、いざとなったら自分の身は、自分で守らなきゃいけないかもね。
ナツミ:そんな大袈裟な……
マリナ:まあ何にしても、先生とは言っても、味方ばかりじゃないって事だよね。
……それはそうとさ。
ナツミ:ん?
マリナ:ナツミって、タクマって男子知ってる?
ナツミ:タクマ……って、隣のクラスの?
マリナ:そう。
ナツミ:知ってるよ、ご近所さんだもん。
マリナ:あ、そうなの。
ナツミ:うん。
といっても、あんまり話したことも無いんだけどね。
……でも、タクマ君がどうかしたの?
マリナ:んー……まあどうかしたっていうわけじゃないんだけど……
ちょっと……ね。
ナツミ:……あ、もしかして。
マリナ:何よ。
ナツミ:そういうこと?
マリナ:……こういう時ばっかり、察しが良くなるんだから。
そうよ、そういうこと。
ナツミ:そっか……
マリナ:……どうかした?
ナツミ:別に。
うん、頑張ってね。
私に出来る事があったら、何でも言って。
あんまり力にはなれないかも知れないけど、協力するから。
マリナ:……あ、ありがと。
マリナ:(M)
意外だった。
いつも控えめな性格のナツミが、ここまで協力的な姿勢を見せてくるなんて。
正直な話、こんな色恋沙汰の話を持ち出した所で、聞き流されてしまうだろうと思っていたのに。
……でも、内心、嬉しかった。
バカにもせず、茶化しもせずに、純粋に私を応援してくれたのは、ナツミだけだったから。
「ナツミと友達でよかった」と、心から、そう思っていた。
……タクマに告白する日、その時が来るまでは。
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マリナ:タクマ。
タクマ:ん、何?
マリナ:……放課後、時間ってある?
タクマ:放課後?
……なんで?
マリナ:ちょっと話したいことがあるから……
駄目?
タクマ:……うーん……
駄目ってわけでは無いんだけど……
ちょっと……な。
マリナ:どういうこと?
タクマ:……いや、別になんでもないんだよ。
マリナ:なんでもないならいいじゃない。
お願い!
タクマ:あー、……えーっと……
マリナ:……どうかしたの?
タクマ:………………
マリナ:(M)
渋々ながら、タクマが語ったその理由。
それを聞いて私は、愕然とせずにはいられなかった。
私を応援すると言ってくれたナツミが。
唯一の味方だと思っていた、ナツミが。
タクマに、恋文を送っていたと言うのだ。
そんな現実を突きつけられても、自分でも驚くほど冷静だった私は、
諦めた振りをして、放課後、タクマの後をつけた。
(間)
ナツミ:あ、タクマ君。
タクマ:よう。
ナツミ:来てくれたんだ。
タクマ:ま、そりゃあな。
んで、話ってなんだ?
ナツミ:それは……その……
……!?
タクマ:どうした?
マリナ:……そうよ、どうしたの?
早く言えばいいじゃない。
好きです、付き合ってください! って。
タクマ:マリナ!?
なんでここに?
ナツミ:えっ……あ……
マリナ:ねえ……ナツミ?
ナツミ:ち、違うのマリナ。
これは……ごめんなさ……
マリナ:……何が違うのよ……
タクマ:マリナ? ナツミ?
どうした?
ナツミ:えっと……その……
マリナ:何が違うのよ! ねえ!
(ナツミに掴み掛かる)
ナツミ:……っ……
タクマ:お、おいマリナ!
マリナ:あんなに応援してくれてたじゃない!
あんなに、関係を取り持ってくれてたじゃない!!
あんなに……あんなに……!!
ナツミ:……それは、その……!
マリナ:頑張ってねって、応援してるからって!
そう言いながら、本心では私から、タクマを掠め取ろうとしてたってわけ!?
タクマから好かれようって努力してる私を、陰で嘲笑いながら!
ねえ! 答えなさいよナツミ!!
ナツミ:い、痛いよマリナ……!
タクマ:おいマリナ、もうよせって!
どうしたんだよ2人とも、何があったってんだよ!
マリナ:……何があった?
何があったかって?
タクマ:そうだよ。
お前、なんかおかしいぞ、マリナ。
そりゃあ、確かに2人から同時に告白されるなんて、俺は正直、予想外だったけどさ。
だからって……
マリナ:「だからって、逆上するのはおかしい」って?
タクマ:ああ、そうだ。
だいたい、お前達2人は、親友じゃなかったのかよ。
ナツミ:………………
マリナ:……ふふ、親友……ね。
私だって、そう思ってたよ。
つい、さっきまで。
タクマ:……は?
マリナ:いいよ、教えてあげる。
ナツミが……この女が、私に何をしたのかを。
(回想終了)
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マリナ:懐かしいよね。
あの時、あんたが引き下がらなかったら私、首くらいは絞めてやってたかもしれない。
ナツミ:そう……
マリナ:正直な所言うとね?
今だって、だいぶ我慢してるのよ。
彼女でもなんでもない、ただのご近所付き合い程度の間柄で、
タクマの部屋に、ぬけぬけと居座ってるこの状況にも。
ナツミ:……そう。
マリナ:………………
ナツミ:………………
マリナ:……ハァ。
なんか、拍子抜けした。
ナツミ:え?
マリナ:これだけ煽ってるのに、死んだ魚みたいな目しちゃってさ。
頭でも打ったんじゃないの?
ナツミ:……別に……
マリナ:とにかく。
あんたはさっさと帰って。
私はこれから、タクマのお昼ご飯作ってあげなきゃいけないんだから。
それ、持って帰ってよね。
ここにあっても、誰も食べないから。
ナツミ:……マリナも、いらない?
マリナ:はぁ?
当たり前でしょ。
ナツミ:そっか……勿体無いなあ。
マリナ:あんた何言って……
ナツミ:別に、なんでもないよ。
……それじゃあね、マリナ。
お幸せに。
マリナ:なによ、それ。
余計なお世話よ。
(間)
マリナ:あーあ、全く。
せっかく久し振りにタクマに会えると思ったのに、なんか気分台無しって感じ。
当の本人すらいないし……どうなってんのよ。
……ま、いいや。
こうなったら、立派なご飯作り置きしといて、びっくりさせちゃうんだから。
……あれ、メール……タクマから?
なんだろ……
(メールでのやりとり)
タクマ:冷蔵庫
マリナ:冷蔵庫?
タクマ:の
マリナ:なに、どうしたのタクマ?
今どこにいるの?
タクマ:タッパー
マリナ:どういうこと?
意味分かんないよ。
早く帰ってきて、お昼ご飯、一緒に食べよう?
タクマ:調べろ
マリナ:え?
タクマ:はやく
マリナ:ちょっと待って。
なに、どういうこと?
タクマ:はやく
マリナ:タクマ?
タクマ:はやく はやく はやく はやく
マリナ:タクマ! どうしちゃったのよ! ねえ!
タクマ:はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく
マリナ:タッパーなんて無いよ!
タクマ:無い?
マリナ:無いよ!
ナツミが、持って帰っちゃったもの!
(間)
マリナ:……あ、あれ?
急に返事来なくなった……なんで?
……な、なんなのよ、タッパーって……なんで、あんな必死に……
絶対おかしい……あんなの、まるで何かにとり憑かれたみたいに……
……あれ、奥の方に何か……
もしかして、タッパーってこれの事……?
ナツミの奴、まだ……
!!?
これ……え……?
まさかこれ……う、嘘、でしょ……!?
(マリナの携帯が鳴り響く)
マリナ:ひっ!?
……タ、タクマ!?
も、もしもし……タクマ?
今、その……タッパーみ、見たんだけど……これ……
タクマ:………………
マリナ:……タクマ?
な、なんで、黙ってるの?
タクマ:………………
マリナ:タクマ……?
ねえ、タクマ!?
タクマ:………………
マリナ:なんとか言ってよ!
ねえってば!! タクマぁ!!
ナツミ:マリナ。
マリナ:!?
ナツミ……!?
何で、なんでタクマの携帯からあんたが、
ナツミ:いつまでも、お幸せにね……マリナ。
マリナ:……え?
(間)
ナツミ:せめて、私の心と……体の中で、生きていてね。
そうすれば、3人いつまでも……一緒だよね……
ふふ、ふふふふ。
あはははははっ……
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