アヤカシノハナシ ~落ちこぼれアカデミー~

(登場人物)

・ケイ:不問

この物語の主人公、吸血鬼。

ニンニク、聖水、十字架、太陽、血液まで嫌いな、ネガティブ思考強めなアカデミー生。


・チェスター:♂

ケイの親友の狼男。

満月でも変身できないどころか、変身の仕方自体をほとんど忘れているので、

見た目は普通の人間のアカデミー生。


・シャーリィ:♀

ケイの親友でチェスターの喧嘩友達の魔法が使えない魔女見習いのアカデミー生。

危険な新薬の開発が趣味で、度々問題を起こして浪人しているので、上2人よりも歳は上。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

ケイ:

チェスター:

シャーリィ:

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


シャーリィ:皆さんは、こんな存在を考えたことは無いですか?

       血が吸えない吸血鬼、変身できない狼男、 魔法の使えない魔女、包帯がうまく巻けないミイラ等々。

       え、無い?

      あらあら、それは残念。

      でも、今回はそんな、怪物になりきれなかった者たちの物語です。

      存在が空想的でありながら、誰もが思い浮かべる完成されたモンスターや怪物の類の中で、

      たまたま生まれた、落ちこぼれさんたちのお話。


チェスター:アヤカシノハナシ。


ケイ:落ちこぼれアカデミー。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


チェスター:おーい、ケイ!

      起きろってば、ケイ!

      おいってば!!


ケイ:んぁ……チェスター……?


チェスター:なーに寝ぼけてんだよ。

      講義、もうとっくに終わってるぞ!

      また遅くまでコウモリたちと喋ってたのか?


ケイ:んー……違うよ。

   なんか棺って、寝心地悪くてさ……

   最近寝不足気味なんだよねー……(欠伸)


チェスター:お前なぁ……

      そういうことあんまり外で言うなよ、仮にも吸血鬼なんだから。


ケイ:そんな事言われても、ここくらいでしかこういう話は出来ないもん。

   そういうチェスターだってさ、


チェスター:あ?


ケイ:えーと……あれ?

   チェスターって、なんなんだっけ?


チェスター:……なんなんだっけっていう聞かれ方は、なんか凄くムカつくんだが……

      狼男だよ、狼男。


ケイ:そうだっけ……

   僕、チェスターが狼男に変身したところ見たこと無いけど。


チェスター:ああ、もうずいぶん長いこと変身してないからなー……

      ていうか、そもそもどうやってたのか、よく覚えてないわ。


ケイ:それじゃあチェスター、狼男じゃなくて、ただの男じゃん……


チェスター:それもそうだなー。

      まあ、そのうちなるようになるだろうし、いいんじゃね?

      そんなことより、メシ食おうぜ。メシ。


ケイ:ノリが軽いというか、楽観的だなあ……


シャーリィ:ほーんと。

      そんなんでこの先、大丈夫なのかしらねー。


チェスター:ぶっ!

      おまっ、いつから俺の後ろに……!


シャーリィ:さーていつからでしょー。

      10秒前かなー、10分前かなー、それとも最初からかなー?

      ……へへっ、唐揚げいただきっ!


チェスター:あ゛ーーーー!!

      お前よりにもよって、一番でかいやつを……っ!


ケイ:やっぱり仲良いよね、ふたりはさ。


チェスター:……ケイ、今のやりとりを見て、本気でそう思ったんだったら、

      悪いことは言わん、眼科行ってこい。


ケイ:失礼だなぁ、思ったことを言っただけなのに。


チェスター:で、シャーリィは何の用だ、たかりか。


シャーリィ:違う違う、それもあるけど。


チェスター:あるのかよ、やめろ。


シャーリィ:いやね、そろそろ進路相談とか始まる時期だから、

      そういえば、ふたりはもう決めてるのかなー、って思って。


ケイ:………………


チェスター:あー、そんなのもあったな。

      お前はどうなんだよ。


シャーリィ:私はもちろん、とっくに決まってるわよ。

      民営の図書館で先輩が働いてるんだけど、そこで司書として働かないかって誘われてね。


チェスター:は、図書館?

      勉強がゴキブリの次に嫌いなお前が?

      ……どうした、変な薬飲み過ぎたか、それとも頭打ったのか?


シャーリィ:失礼ね!

      私は勉強そのものが嫌いなんじゃなくて、小難しい召喚魔法とか、呪文の暗記が嫌いなの。

      この違いがおわかりかしら?


チェスター:まがりなりにも魔女として、その発言はどうなんだ……?


シャーリィ:アーアー、ナニモキコエナーイ。

      私ね、小さい頃から本は大好きなのよ、勉強以外の。

      だから、図書館に勤めていれば知識は深まるし、あっちでの見聞も広められるし、

      事実上の弟子入りだから魔法も鍛えられるしで、一石で二鳥も三鳥も取れるかなって。


チェスター:ふーん。


シャーリィ:で、チェスターは?

      何か具体的な予定あるの?


チェスター:ああ、まあ一応な。


シャーリィ:えっ、マジマジ?

      どうすんの、どうすんのっ?


チェスター:近い、寄るな、バカがうつる。


シャーリィ:うーわ、ひっど!

      毛も無けりゃデリカシーも無い狼男ね!

      ……デザートいただきっ!


チェスター:あ゛あ゛ーーーー!!!


シャーリィ:はっはっはっ、隙だらけよのう、チェスターくん。

      ね、ケイは?


ケイ:……あぁ、え、なにが?


シャーリィ:もー、まだ寝てるの?

      進路よ、し・ん・ろ。


ケイ:僕は……その……


ケイ:(M)

   ……進路、というのは、このアカデミーを出た後のこと。

   というのも、このアカデミーに所属している生徒たちには、

   「その種族として生きる為に必要不可欠な条件が欠落しているが,

    社会的に生きるにあたっては何ら問題は無い者」、という共通点がある。

   種族の中での、いわゆる落ちこぼれである僕たちは、このアカデミーで様々なことを学び、

   卒業を迎えると同時に、人間たちの住む人間界に送り込まれ、そこで新たな生き方をしていくこととなる。

​   進路とは要するに、人間界に行ってどう生きるか、という事。

   僕たちの卒業も、半年後にまで迫り、普通ならそれなりに、進路のイメージを持っているんだけど……


シャーリィ:……なによ、黙りこくっちゃって……

      ……もしかして、決めてない……?


ケイ:……うん……


シャーリィ:あらら……

      いや、さすがにそれは、いくらケイでも、のんびりし過ぎじゃない……?

      ……自虐的な物言いになるからイヤだけど、ここの浪人生って、相当にバカにされる烙印よ?


チェスター:お前が言うと、説得力あるな。


シャーリィ:ほっといてよ。


ケイ:……シャーリィたちには、分かんないよね。


シャーリィ:え?


チェスター:……ケイ?


ケイ:……僕は、ふたりみたいに出来てないもの。

   シャーリィは魔女って言ったって、見た目は元々人間に一番近いし、

   魔女っぽい恰好をしなければ、どこにでもいる、かわいい女の子にしか見えないでしょ。


シャーリィ:え、そ、そう?

      かわいい?


チェスター:ケイ、やっぱりちょっと一回眼科にいk


シャーリィ:おだまり!!(ぶん殴る)


チェスター:ごぶふぉッ!!


ケイ:チェスターはもうさ、ほとんどただの人間の男と変わらないし。


チェスター:いや、そんなことは無いぞ、ケイ。

      俺は一日に必ず六食は食べないと、とめどない食欲が暴走して、

      満月の夜じゃなくても変身してしまう、らしい。


シャーリィ:らしいって何よ。


チェスター:いや、こないだ医者志望のマンドラゴラにそう言われたから、そうなのかなって。


シャーリィ:鵜吞みにし過ぎでしょ。


ケイ:……僕はさ、血が飲めないってだけで、体はしっかり、吸血鬼として出来てるんだよ。

   人間に、血を飲むための鋭い牙なんて無いでしょ?


チェスター:そりゃあ……まあな。


ケイ:それに、知ってる?

   吸血鬼って、鏡に映らないんだよ、もちろん僕も。

   そんなの、人間の日常生活で、普通なわけがないじゃん。

   おちおち人前で、トイレとかにも行けないんだよ。


シャーリィ:……それでも、あと3ヶ月もしたら自由登校になっちゃうし、

      相談室の先生とかも、毎日いつでもいるわけじゃないんだよ?

      ……だから、えっと……


ケイ:……ごめん、今日は帰るね。


シャーリィ:あっ、ちょっと、ケイ……!

(間)


チェスター:……行っちまったな。


シャーリィ:どうしよう、傷つけちゃったかな……


チェスター:心配すんな、ああ見えてアイツはそこまでヤワじゃねーよ。

      たまたまちょっと、よくない方にスイッチが入っちまっただけだろ、たぶん。


シャーリィ:そうだといいけど、でも……


チェスター:………………

      俺さ、町工場で、作業員として働くことになったんだよ。


シャーリィ:え? 何の話?


チェスター:いや、なんのって、進路だよ進路。

      さっきお前が聞いたんじゃねえか。


シャーリィ:いや、うん……確かに聞いたけど。

      なんで今、その話?


チェスター:一応、入社前の見学会ってのがあってな?

      特別にアカデミーから許可貰って、ちょっと前から、何回か職場に行ってんだよ。


シャーリィ:ああ、確かに時々いない日があったわね。

      てっきりサボってるのかと思ってたけど、それが?


チェスター:それが、向こうで会う同期とか先輩は、気さくなやつばっかでさ。

      ついつい身の上話とかもポンポンしちまうんだけど、

      ……ある時につい、ポロっとな、自分が狼男なんだっていうの教えちまったんだよ。

      アカデミーの学生証まで出しちまってさ。


シャーリィ:はあ!?

      あんたそれ、ここじゃ一番やっちゃいけない事じゃない!

      バレたら卒業ソッコー取り消しで、問答無用で退学まで持っていかれるわよ!?


チェスター:バカ、声がでかい!

      話は最後まで聞けって!


シャーリィ:う、うん……ごめん。

      それで、その相手はどうしたの、信じた?


チェスター:それなんだけどな、なんて言ったと思う?


シャーリィ:……そこでもったいぶらないでよ。


チェスター:思わず笑っちまったよ。

      そいつはな……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ケイ:(M)

   はあ……閉じこもってたって何も変わらないのは分かってるけど……あと3ヶ月かあ……

   あと3ヶ月以内に何かしらの進路を決めないと……シャーリィの言う通り、浪人……


(着信音)


ケイ:はぅあっ!?

   びっくりした……なんだ電話かぁ……

   もしもし?


チェスター:おー、やっと電話に出たかぁ。


ケイ:なんだ、チェスターか。

   え、やっとって、どういうこと?


チェスター:なんだとは失礼なやつだな。

      自由登校とはいえ、本当に全然顔見せねーから、

      なんか良からぬことでも考えてるんじゃないかと思って、

      俺もシャーリィも、何回か電話かけたんだが。


ケイ:そうなんだったんだ……

   ごめん、全然気づかなかった。


チェスター:まあ、いいや。

      今こうやって話せてるんだから、ひとまずは安心したわ。

      ってことでシャーリィ、あとはお前から頼む。


シャーリィ:ぇえ!?

      わ、わ私?

      えっと、えっと……もしもし、ケイ?


ケイ:シャーリィ……

   ごめんね、なんか、心配かけたみたいで。


シャーリィ:……ううん、いいの。

      私も、この間は無神経だったかなって、謝りたかったから。

      ごめんね、余計なことというか、お節介焼き過ぎちゃって。


ケイ:いや、なにもそこまでは。

   実際、シャーリィが言ってることはもっともだったんだし。

   ところで、急にどうしたの?

   もう結構時間遅いのに……


シャーリィ:ああ、そうそう、それなんだけどね。

      アカデミーの近くに、噴水広場があるでしょ?

      そこに来れる?

      来れるっていうか、来て

      なるべく急ぎで。


ケイ:えっ、今から?


シャーリィ:そ、今から。

      じゃ、そういうことだから、待ってるね。


ケイ:え、ちょっと、シャーリィ?

   ……切れちゃった。

   なんなんだろ、突然……?


(間)


ケイ:お待たせー……


シャーリィ:あ、ケイ!

      チェスター、ケイ来たよー!!


チェスター:おー、よく来たなケイ!

      今日は俺のおごりだ、たっぷり楽しんでいけよ!


シャーリィ:嘘言わないの。

      私だってお金出したじゃないのよ。


ケイ:これって……花火?


チェスター:そう!

      もう卒業が近くなって、思いっきり遊べる時間なんて限られてるからなー。

      言うなれば、前夜祭よ、前夜祭。

      騒音に関しては心配要らんぞ、ちゃんと許可取ったから。


シャーリィ:こういう時だけ抜け目無いのよねー。

      だからって普通、業務用なんて買う?


チェスター:果てしなく遊べる感じがして良いじゃねーか。


ケイ:それで……あの、あの人たちは誰なの?

   アカデミーで見たこと無い人ばっかりだけど……


チェスター:あー、全員アカデミーの卒業生だよ。

      せっかくバカ騒ぎするんだったら人数が多いほどいいかなって、片っ端から声掛けたんだ。

      そしたらまあ、張り切っちゃって釣れるわ釣れるわ。

      なぁシャーリィ?


シャーリィ:へっ?

      あ、ああそうそう。

      かわいい後輩と一緒に遊べるって、時間作って来てくれて。


ケイ:そう……なんだ。

   ……じゃあ、せっかくだし、僕も混ぜてもらおうかな。


チェスター:おう!


シャーリィ:うん。


ケイ:(M)

   そうして、何時間だったか、とにかく花火で遊び回った。

   花火ひとつで、ここまではしゃげるのかってくらい。

   先輩たちとも沢山話したけれど、何故だか、赤の他人とは思えないほどに話しやすくて、

   向こうもとても親身になってくれて、遊んでいる間にいつの間にか、

   将来の不安なんてものは、すっぽりと頭から抜け落ちていた。

   ……けれど、数があっても、人数がいればいつかは無くなるもので、

   だいたいの片づけが終わると、僕たち3人以外の人は、全員帰ってしまった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


チェスター:いやー、やっぱり使いきれるもんだなぁ。


シャーリィ:業務用を数時間で使いきるくらいはしゃぐバカは、世の中広しといえどチェスターくらいよ。


チェスター:人に向けて打ち上げ花火撃ってた暴れん坊将軍には言われたくねえなぁー。

      俺じゃなかったら死んでたぞ。


シャーリィ:え、な、なんのことかなー。

      覚えてないなー、あはははは。


ケイ:……ねえ、ふたりとも。

   楽しかったけど、何で急にこんなことを?


チェスター:お、まだ余ってたぞ、線香花火。

      しかも、おあつらえ向きに、ちょうど3本。

      誰が一番長持ちするか勝負すっか!


シャーリィ:お、良いわね、その勝負乗った!

      ビリは明日のお昼おごりね。


チェスター:ほれケイ、お前の分。


ケイ:え、あ……うん。


シャーリィ:ふたりとも準備はいいかしら?

      よーい……スタート!


ケイ:………………


チェスター:………………


シャーリィ:………………


(間)


チェスター:……なあ、ケイ。


ケイ:え?


チェスター:ごめんな。

      俺たち、お前にちょっと嘘吐いた。


ケイ:嘘……なにが?


シャーリィ:さっきの人たちね、アカデミーの卒業生なんかじゃないの。


ケイ:え、じゃあ……


チェスター:れっきとした真人間だよ、人間界のな。


ケイ:……どういうこと?

   だって、人間界からは、普通は……


チェスター:ま、ちょっと学園長に無理言って頭下げてな。

      今夜限り、この場所にだけな、来れるようにしてもらったんだ。


シャーリィ:それに、大事なのはそこじゃないの。

      あの人たち、ケイのこと見ても、軽蔑なんてしなかったでしょ?


ケイ:え、うん……そういえば……


チェスター:そういうこったよ。

      向こうの奴らは俺らが思ってるより、ずっと大ざっぱな性格なんだよな。


ケイ:そう、なのかな……


シャーリィ:チェスターってば、自分が狼男だって、人間に教えたこともあるけどね。


チェスター:その返し言葉なんて、あっけないもんだったよ。

      「本当なら、それはそれで面白いな」、だってさ。


シャーリィ:そうそう。

      だから、ケイも。

      自分の見た目なんて、気にすること無いんだよ。


ケイ:でも……僕ってやっぱりほら、こんな性格だし……

   社会に出て、うまくやっていけるかって……


チェスター:……あー、だめだー落ちたー!


シャーリィ:はい、チェスターおごり決定ー。

      ……あ、私のも落ちちゃったわ。

      ってことは、ケイの一人勝ちね。


チェスター:ケイ、前にお前が俺たちに言ったこと、覚えてるか?


ケイ:前、って……いつ?


チェスター:俺とシャーリィは、見た目はほとんど人間だって。

      まあ、確かにそうだ。

      シャーリィはコネもあったにせよ、人間に近い見た目だからこそ、

      割とあっさり進路が決まったってのもある。


ケイ:……うん。


シャーリィ:でもね、その反面、ほとんど人間に近いのは良いことばっかりじゃなくて、

      人間が当たり前にごった返す人間界では簡単に埋もれてしまって、

      あっさり消えちゃう可能性も高いってことなの。

      この、私たちの花火みたいにね。


チェスター:でも、ケイのは違う。

      落ちないどころか、弱まりもしない強い花火だ。

      水にでもつけねえと、消えないんじゃないかってくらいにな。

      つまり、あれだ。

      お前は人間と違うからこそ、輝ける可能性があるんだよ。


ケイ:そんな……大げさだよ。

   この線香花火だって、たまたまで……


シャーリィ:それが、大げさでも、たまたまでもないのよ。

      実はこれ、私が作った、未来を占う線香花火でね。

      持った人の出世が大きければ大きいほど、玉も大きく、落ちるまでの時間も長くなるって代物なのよ。

      私たちの勝手なこじつけなんかじゃなく、未来がそう言ってるんだもの。

      自信を持って、生きていこうよ。


チェスター:だから、ケイ。

      わざわざ自分で、自分の芽を摘むな。

      諦めるなよ、自分を、未来をさ。


ケイ:……うん。

   ありがとう、ふたりとも。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


シャーリィ:こうして、私たちは3ヶ月後、無事に卒業。

      人間界に転送された後、私とチェスターは予定通り、

      それぞれ町工場の作業員と、図書館での司書見習いになった。

      ちなみにチェスターの勤める工場は、小さくても名の知れた花火工場なのだとか。

      全く、どれだけ好きなんだかね。

      じゃあ、残りのケイは、っていうと……


ケイ:まずは、コンビニのアルバイトからスタートする事になった。

   人間の出入りが激しいけれど、マスクさえしていれば、人目から牙を隠すことは出来る。

   それに、色んなお客さんが来ることで、こっちの世界での色んな情報も入るし、良いことづくめだ。

   アルバイトからなんて、普通は進路としては認めてもらえないけれど、

   目指していること、やりたいことを話したら、学園長直々に許可をもらい、支援までしてくれるとのこと。

   それは……


チェスター:卒業してからしばらく経って、驚いたことにケイは、自分で広告会社を立ち上げた。

      しかも、わざわざ俺の勤める町工場を探し当てて契約を締結

      それを皮切りに、衰えつつあった花火業界の火を、一気に復興させた立役者となり、

      しかもしかも、その社長になったケイの秘書には、

      知らないうちに自立したシャーリィが……と、図らずも、それとも図ったのか、

      あの日の花火を絆として、俺たち3人は再び一緒に働いていく未来になるのだった。


ケイ:落ちこぼれアカデミーは今でも、卒業者を人間界に、毎年転送してきているらしい。

   その種族は、僕たち同様、本当にさまざまだ。


チェスター:だからもしかしたら、あなたの近くで働いている、あの人は、


シャーリィ:実はその正体は、人間じゃないのかもしれないね。

      なんて。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━