ぼくらのタイムカプセル
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(役表)
上子(かみこ)♂:
釧呂(くんろ)♂:
階氏(しなし)♀:
蓼田(たでた)♀:
井内(いない)♂:
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井内:(M)
僕らは、ずっと友達で、ずっと一緒だった。
いいことをする時も、悪いことをする時も。
誰か一人を、除け者にしたりしない。
誰一人として、欠けていい奴なんていない。
「一蓮托生」 なんて言葉は、大袈裟かもしれないけれど、
僕らの絆の強さは、世界一と言って差し支え無い程に、強固な物だと。
……そう、思っていたんだ。
(間)
階氏:ごめんくださーい。
上子:おっ、来た来た。
はいはーい、今出ますよー。
釧呂:よう、久し振りだな。
階氏:やほー、お久し振り。
元気してた?
上子:ああ、元気だよ。
二人も、変わってなさそうで何よりだ。
階氏:へへ、まあねー。
釧呂:蓼田は?
上子:リビングに居るよ。
釧呂:そうか。
階氏:あの子に会うのも久し振りだなー。
なんか変わった?
上子:俺に聞かなくても、直接見ればいいだろ。
居るんだから。
階氏:それもそっか。
上子:まあ、立ち話も何だし、上がりなよ。
階氏:はーい。
階氏:お邪魔しまーす。
釧呂:お邪魔します。
上子:はいはい、どうぞ。
二人来たぞー。
蓼田:あ、うん。
いらっしゃい、二人共。
井内:ああ、釧呂君に階氏さん。
久し振りだね。
釧呂:………………
階氏:………………
井内:あれ?
蓼田:ど、どうしたの?
釧呂:なあ、階氏……
俺が知ってる昔の蓼田とはかけ離れた美女が、今俺の目の前にいるんだが……
お前の目に映ってるのは、俺たちの知ってる蓼田か?
階氏:それがねえ、釧呂君。
私もなんか、目の前の美女と、面識がある気がしないのよね。
声とか顔のパーツのところどころには、確かに蓼田さんっぽい要素が含まれてるんだけど、
如何せん、昔のイメージとかけ離れすぎててね……
井内:……あー……
確かに、綺麗になったもんなー。
僕も、今日久し振りに見た時はびっくりしたよ。
蓼田:え、ええ?
上子:なんか、さりげなく失礼だなお前ら……
さすがに十何年も経ってたら、人の見た目なんて、いくらでも変わるもんだろ。
釧呂:いやいやいやいや。
階氏:いやいやいやいや。
上子:なんだよ……
蓼田:そ、そんなに変わったかな、私。
釧呂:……うん、まあいいや。
言われてみれば、俺達が変わってなさ過ぎなだけの気もするし。
階氏:まあそれもそうかもねー。
井内:あはは、言えてる言えてる。
釧呂:それはそうとさあ、さっきからずっと気になってたんだけど。
上子:なにが?
釧呂:ここ、蓼田の家だよな?
蓼田:そうだよ?
釧呂:で、お前は上子だよな?
上子:そうだよ。
何が言いたいんだよ。
釧呂:さっきお前、我が物顔で俺らを出迎えたよな?
あれって、何で?
階氏:あ、そういえばそうよね。
なんか、当然のように出てきたから、全然違和感感じてなかった。
上子:……は?
蓼田:え、えーっと……あれ?
井内:あれ、二人は知らなかったんだっけ。
上子:……えーっと……教えてなかったっけ?
蓼田:ううん、みんなに間違いなく伝えた、はず……
住所、変わったりとかしてないよね?
釧呂:え、え?
どういうこと?
階氏:一応、私は今は、一人暮らしだけど……
釧呂:俺も。
井内:あー、なるほどね。
上子:ああ……だからか。
階氏:なになに、どういうことなの?
上子:まあ……結論から言うとな。
俺ら、結婚してんだわ。
蓼田:う、うん、そういうこと。
釧呂:……はぁああああ!?
階氏:嘘、ほんとに!?
蓼田:ほんとに。
上子:何の意味があって、そんな嘘つかなきゃいけないんだよ。
釧呂:え、いやだって、お前ら。
その、昔はこう……だから、あの、もっと……
えーっと、……あー……つまりその、
……ええええええ!?
上子:うるせえな!
井内:あはは。
まあ、びっくりするのは無理ないよ。
昔の二人を知ってたら、尚更ね。
蓼田:一応手紙で知らせたんだけど、住んでる所が違うなら、上手く伝わらなかったんじゃないかな……
階氏:あー、そういうことかあ。
せめて、メールでも送ってくれればなあ。
ごめんねー、全然気付けなくて。
今更だけど、おめでとー。
蓼田:ありがとう。
……二人は、その……しないの?
階氏:え?
蓼田:結婚。
階氏:ええ!? 誰と誰が!?
蓼田:釧呂君と、階氏さん。
階氏:えええええええ!?
いやいやいやいやいやいやいやいや!
釧呂:ないないないないないないないない!
蓼田:そ、そう?
釧呂:と、突然なにを言い出すかと思えば!
なあ!
階氏:そ、そうだよ!
びっくりするなぁもう!
井内:……割と、お似合いかもね。
上子:んー……
確かに言われてみりゃ、結構相性いいんじゃないか?
釧呂:いや、ない!
階氏:ないね!
上子:そうかいそうかい。
釧呂:ったく……
……んで?
上子:ん?
釧呂:いや、「ん?」 じゃなくてさ。
目的を話せよ。
上子:目的?
階氏:なんで改めて、私達を集めたの? って話よ。
突然呼んだからには、何か特別な用事があるんでしょ?
このメンバーなら、尚更。
蓼田:それは……
上子:……旧友を呼んで、家に招くっていう行為に、目的なんて必要か?
釧呂:え?
……んー、それだったら特に必要は無い……のか?
階氏:いや、そういう問題じゃなく。
簡単に話の腰折られ過ぎだから。
釧呂:あ、そうか。
上子:冗談だよ。
実はな、 ……これ、覚えてるか?
井内:それは……
蓼田:………………
階氏:覚えてるもなにも……
ねえ。
釧呂:俺らがこっそり学校の敷地に埋めたタイムカプセルだろ、懐かしいじゃねえの!
……あれ?
でも、それって。
上子:そう。
「20年後にもう一回集まって、一緒に掘り起こしに行こう」って、約束したよな。
……けど、少しばかり事情が変わっちまったんで、こないだ急いで取ってきたんだ。
井内:事情が変わった?
釧呂:事情が変わったって……
階氏:それって、どういうこと?
蓼田:えっとね、私達が通ってた学校が、他の学校と合併するらしくて。
合併先の校舎は、全面的に改装して大きくなるんだけど、
私達の学校のほうは、取り壊すことになっちゃったんだって。
だから……
井内:誰かに見つかる前に、先に出してきたってことだね。
釧呂:……なるほど、そういう事か。
上子:悪いな。
俺達の思い出の代物なのに、こっちの独断で、勝手に掘り起こしてきちまって。
階氏:やだ、謝らないでよ。
そういう事情なら、仕方ないじゃない。
誰も責めたりしないわよ。
上子:……ありがとう。
蓼田:それでね、掘り起こしちゃった物を、もう一回他の場所に埋め直すのもどうかなって考えて、
いっそのこと、今日みんなを集めて、中身を見ちゃおうって話になったの。
……といっても、これも私たちが、勝手に決めちゃったんだけど……
階氏:そういうことなら……
ね?
釧呂:おう、俺はいいぜ!
井内:……僕はいっそのこと、誰かに見つかったほうが良かったかな……
上子:ん?
今、何か言ったか?
井内:……なにも。
釧呂:え?
俺は別に、なにも言ってないけど?
階氏:私も。
蓼田:私も、なにも言ってないよ?
上子:……気のせいか。
よし、それじゃあ開けるぞ。
ただのタイムカプセルだし、何が入ってるかは、分かってるけどな。
釧呂:そりゃまあな。
階氏:言えてる言えてる。
蓼田:……うん。
(間)
上子:……久し振り、井内。
釧呂:久し振りだな、井内。
階氏:久し振りだね、井内君。
蓼田:……久し振り、井内君。
井内:……そう思っていたのは、僕だけだったんだ。
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