ふらぐブレイク!

(登場人物)

・輝(てる):♂

主人公。出ずっぱり。


・彩(あや):♀

シーン毎にキャラが違う。

名前はあるが呼ばれる事は無い。


・咲(さき):♀

輝の幼馴染。


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(役表)

輝:

彩:

咲:

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輝:俺には、呪いがかけられている。

  その名も、「ありとあらゆるフラグが折れる呪い」。

  ……そこの君、今バカバカしいって思っただろ。

  大いに結構、俺もそう思ってるから。

  だが、だがだ。

  忌々しいことに、これは事実であり、現実だ。

  別に、魔女だの悪魔だの、そういう超常的な力を持ってる類の、

  ファンタジーな輩に面と向かって呪いをかけられたってわけじゃない。

  ただ単純に、「呪われてるとしか思えないほど出会いがない」。

  言い換えれば、そんな感じだ。

  ……それなら僕だって、私だって、と思ったそこの君。

  残念ながら、俺のは一味違う。

  一味違うからこそ、尚更タチが悪いんだ。

  まあ、冒頭から俺ばっかりが、長々と喋ってても仕方ない。

  とりあえず、俺の呪いがどういうものなのかを、ありのままお伝えするとしよう。

  ……とは言ったものの、だ。

  メタい事を言ってしまえば、この話の中ではぶっちゃけ、俺はずっとこんな感じで喋りっ放しだ。

  そこ、嫌な顔するな。

  俺だってホントは嫌だよ、一人でずっと喋るのは。

  まあ、構成上仕方がない事なんだ。

  大目に見てくれ。頼む。


  ……で、だ。

  長ったらしい前置きはこれくらいにして、今、俺がどういう状況なのかというと?

  ちょうど、学校への通学路だ。

  付け加えるなら、がっつり遅刻してる。

  ちなみに、今日は入学式の日。

  だというのに、俺は一人、いろんな意味で出遅れてるわけだ。

  ……しかし、ちょっと待ってくれ、早合点しないで頂きたい。

  これは全て、俺の計画のうちなんだ。

  というのも、間もなく俺は、とても見通しの悪い十字路に差し掛かる。

  この辺は、車で通るには狭すぎるから、いたって平和で静かなもんだ。

  ……そう、俺が狙っているのは、お約束中のお約束。

  いわゆる、こういうやつだ。


(以下、脳内イメージ)


彩:あーん、遅刻遅刻ー!!


輝:あーやべー! 遅刻だ遅刻ー!


彩:うわわわっ!? 危ない危なーい!!


輝:えっ!? どわぁ!!


彩:きゃぁ!!


輝:っつつつ……

  いきなりなんなんだ、一体……

  ……あ。


彩:あいたたたぁ……

  もー、散々だよー……

  あの、ご、ごめんなさい、大丈夫でした?


輝:……あー、えっと……


彩:えっと?


輝:いや、ちょっと、……見えちゃってる……的な。


彩:見えちゃってる?


輝:いやー、その……

  お……


彩:お?


輝:お……オパンティ大明神のご尊顔が、ね……


彩:……へ?

  ……~~~ッ!?


輝:いや、これは事故だから!

  俺だって、決して見たくて見てしまったわけじゃ!


彩:………………


輝:あの、もしもし?


彩:いやあああぁぁぁぁぁ!!


輝:あ、ちょっと!?

  君、ちょっと待っ、足速ッ!!


(脳内イメージ、終了)


輝:……と。

  うん、もはやこんな展開は、おそらく絶滅危惧種だろうな、保護せねば。

  食パン咥えた女子高生、絶滅絶対反対!

  守れ、萌え要素!

  まあここまで調子の良い出来事なんて、そうそう起こらないだろう……なんて思うだろ?

  ……起こっちゃうんだよ、俺の身には。

  信じられないだろうが、見てれば分かるさ。

  アクト1、通学路。


咲:あー、遅刻遅刻ー!!


輝:ほら来た。

  一応、こっちもイメージ通りに行くとしよう。

  (咳払い)

  あーやべー! 遅刻だ遅刻ー!!


咲:あ、輝!


輝:えっ!?


咲:何のんびりしてんの、遅刻だよ!

  ほーら、急いだ急いだー!!


輝:……ぶつからなかった。

  食パンではなく、何故か箸を咥えた女子は、颯爽と申し訳程度の挨拶を置いて走り去っていった。

  パンよりご飯派か、あいつは。

  ていうか、転んだら大惨事だろ、あれ。

  いや、そんな事は、今はどうでもいい。

  しかし、今のでお分かりいただけたんじゃないだろうか。

  ……お分かりいただけてないか、そりゃそうだろうな。

  ちょっと今のは、一瞬過ぎて分かりにくかった。

  次のステップに移るとしよう。

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輝:春。

  それは、出会いの季節。

  今日は入学式ってのはさっき言ったよな。


  「そうだ。今日は入学式なんだ。

   学校が変わり、地区が変わり、人が変わり。

   何もかもが新鮮で、何もかもが、新しい世界。

   これから自分には、どんな学校生活が待っているんだろう。

   そんな不安と期待が入り混じり、胸も高まる日。

   いい出会いが、あるといいな。」


   ……なんていうのは、新入生の話。

   俺は二年生だから、まあ、そういうのとは無縁なわけだ。

   じゃあ今何をしてるのかっていうと、俗に言う、サボリってやつだな。

   図書館で一人、こっそりと本なんて読んじゃってるわけだ。

   こんな場所で、このタイミングで出会いなんて……とか思ってるかもしれないが、

   意外とそういう事も、あったりするかも知れない。

   例えば……そうだな。

   同じ本を取ろうとして、偶然お互いの手が軽く触れる、みたいな感じからかな?


(以下、脳内イメージ)


輝:あ。


彩:あっ。

  ……ごめんなさい。


輝:い、いえ、こちらこそ。


彩:あの、今、入学式の最中のはずじゃ?


輝:ああ、俺は新入生じゃないですし、めんどくさかったんで、サボっちゃいました。


彩:え? そ、そんな。


輝:君だって、人のこと言えないですよ。

  こうやってここにいるって事は、同じようなもんでしょ。


彩:……あはは、それもそうですね。


輝:ね。


彩:一本取られました。


輝:それはどうも。


彩:……本、お好きなんですか?


輝:え?

  ええ、まあ、それなりには。


彩:あの、よければ少し、お話しませんか?


輝:へ?


彩:私、昔から本が友達、みたいなタイプで、趣味が合う人ってあんまりいなくて……

  こうやってここで出会えたのも、ただの偶然かもしれないけど……

  それでも、ちょっと嬉しくって。


輝:………………


彩:……あはは、迷惑ですよね。

  ごめんなさい、急に変なこと言って。


輝:……いいですよ。


彩:え?


輝:いいですよ、俺なんかでよければ。


彩:あ……

  ……ありがとうございます……!


(脳内イメージ、終了)


輝:……こんなのが理想。

  出来過ぎで、逆に怖いくらいの理想。

  さて、こんな事を夢見てる時点で、一般的良識を持った目で見たらすこぶる気持ち悪いのは重々承知だが、

  だが!?

  もしかしたら、と願ってしまうのが、青春真っ盛り男子の悲しい性。

  ……そして、この願いを中途半端に叶えてくれるのが、この呪いってわけだ。

  果たして、どんな結果になるんだかな。

  アクト2、図書館。


咲:……あ。


輝:あ。


咲:……なーんだ、先客がいたのかあ。

  しかも輝。


輝:「しかも輝」は余計だろ。

  俺で悪かったな。


咲:何してんの? 今入学式中でしょ。


輝:サボリ。


咲:うわー、不良だー。


輝:人のこと言えないだろ。


咲:あっはは、まあねー。

  ……にしても珍しいね、本なんて読むんだ?


輝:ああ、まあそれなりにはな。


咲:へー。

  さーて、あの本はどこかなーっと。


輝:……そんだけか?


咲:なにが?


輝:もっとこう、食いついてこねえの?


咲:え?

  だって嘘でしょ?


輝:嘘だけど。


咲:だよねー。

  ……あ、あった。

  って言っても、委員の人いないし、今は借りれないか。

  んじゃ、私は先に、教室戻ってるから。

  輝もさっさと教室戻りなよー、不良クン。


輝:……はい、以上。

  惜しいところまでは行くんだけどな、如何せん、相手が悪い。

  あ、ちなみにさっきから現実の方に出てくる奴は、咲っていう幼馴染だ。

  近所付き合いからの腐れ縁で、とうとう高校まで同じになった。

  ……そして、俺の呪いの、体現者でもあるわけだな。

  なにがどういう因果律でそうなってるか知らんが、

  ことごとく俺のフラグを、立った傍からちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げしやがる奴だ。

  この先まだまだ何回も出てくるから、一応名前だけでも出しとかないとな。

  既に、だいぶ遅い気もするけど。


  ……ああ、そういえば。

  ちょっと順番が狂ったが、下駄箱に手紙が入ってる、なんてのもよくあるよな。

  ……王道的な意味でな。

  現実ではそうそう無い、むしろほぼ無い。

  夢見過ぎるなよ、虚しくなるだけだからな。

  でだ、重要なのはここから。

  何回も言うが、俺の呪いは一応、フラグは立つ。

  ありえないくらい立つ。

  つまり、現実ではほぼありえないと思っている事でも、起こっちゃったりするんだ。

  要約すれば、俺の下駄箱には今朝、手紙が入ってた。

  その内容は、こうだ。


彩:山下君へ。

  突然のお手紙ごめんなさい。

  もしよかったら放課後、どうしてもお話したいことがあるので、校舎裏に来てください。

  待ってます。

  P.S.メールアドレスも一緒に添えておきます。


輝:甘酸っぱいだろ? 可愛らしいだろ?

  もう絶対に告白されるじゃんこれ! とか思うだろ?

  俺の苗字、棚部(たなべ)だからな。

  山下っていうのは、隣のクラスの奴。

  うん、俺宛じゃないんだわ、この手紙。

  HAHAHA、最高のジョークだぜ。


  ……でも、俺は諦めなかった。

  もしかしたら、名前を間違えて書いたんじゃないか。

  照れ隠しで全然違う名前を書いたけど、本当は俺宛なんじゃないか。

  そんな幼稚園児でもありえないと分かる可能性に賭け、手紙に書いてあるアドレスに、メールを送ったんだよ。

  ……届かなかったよね。

  たぶん、手紙書いた子が、アドレス書き間違えたんだろうな。

  どおりで返信がマッハなはずだよ、送信失敗してんだもん。

  ……ま、頑張れよ、山下。

  名前知ってるだけで、知り合いでもなんでもないけどな。

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輝:……さて、そろそろ分かってもらえただろうか。

  こんな感じで、呪いであるかのように、フラグは立てられるだけ立つ。

  そして、立ったフラグから折れていく。

  これがもう、かれこれ10年以上続いてるわけだ。

  いい加減、心が折れない俺を褒めてもらいたいくらいだな。

  そろそろ聴く側も飽きてきただろうから説明は省くが、最近ではこんな事もあった。


(以下、脳内イメージ)


彩:あっ、雨……

  嘘、傘持ってきてないよ……


輝:……使います?


彩:え?


輝:これ。

  男物の傘でも良ければ。


彩:そっ、そんな、悪いですよ。

  それに、私に傘貸しちゃったら、あなたの傘が……


輝:だいじょーぶだいじょーぶ。

  俺、家近いから。


彩:でも……


輝:いいからいいから。


彩:……それじゃあ、せめて家まで、ご一緒させてください。


輝:へ?

  いやでも、それだと……


彩:………………


輝:……いわゆる、相合傘っていうものになっちゃうけど……いいの?


彩:……意識、させないでください。


輝:あ、ああ……ごめん。

  ……それじゃ、行きますか。


彩:はい。


(脳内イメージ、終了)


輝:はい。

  もう言わずともわかるな、これは願望だ。

  こうなって欲しかったっていう、俺の悲痛な叫びだ。

  こんなうまい話、本当にあったら、そりゃただのギャルゲーだわな。

  ……え? 実際はどうなったか?

  毎度のごとく、咲がやってくれたよ、一応話すけどさ。

  アクト3、雨の日。


咲:うわー、雨かあ……

  傘持ってきてないよー。


輝:……俺の傘使うか?


咲:え?

  輝、傘持って来てるの?


輝:置き傘だけどな。

  男物でも良ければ、貸してやるよ。


咲:え、でもそれじゃあ、輝が使う傘は?


輝:俺はいいよ、濡れてもどうってことないし。


咲:えー、さすがにそれはなあ。


輝:遠慮すんなって。


咲:ていうかさ、家が近いんだから、一緒に帰ればいいじゃん。


輝:は?

  それだと相合傘になっちまうだろ。


咲:そうだね。

  いいんじゃない?


輝:お、おう……

  まあ、お前がいいならいいけどさ。


咲:うん。


輝:んじゃ、傘持ってくるわ。


咲:ほーい。

  ……あ。

  ごめん、そういえば今日、親が迎えに来るんだった。


輝:は?


咲:ごめんねー、やっぱり傘大丈夫だった。

  気持ちだけ受け取っとくから!

  ほんとごめん!


輝:……なんだそりゃ、ちょっと喜んじまったじゃねえか。

  ま、そんな事だろうと思った。

  いいさいいさ、こういうのは慣れっこだよ。


(間)


輝:ちなみにこの後、雨は本降りになって、俺はずぶ濡れで帰った。

  別に、センチメンタルぶりたくてそんな馬鹿な真似したわけじゃないってことは、先に言っておく。

  と言っても、理由は極めてシンプルだ。

  置き傘パクられた、そんだけだ。

  まあ、この時ばかりは、咲が一緒に帰ることにならなかった事に感謝したよ。

  いくら幼馴染相手とはいっても、そんなのカッコつかないどころの騒ぎじゃないからな。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


輝:……と、まあ。

  あんまり例を挙げていくと、いよいよキリが無くなるから止めておくが、

  この後にも、それはもう色々なフラグが、立っては折れ立っては折れを繰り返した。

  屋上で昼飯に誘われたけど鍵が開かなかったり、ハンカチ拾ったかと思ったら担任のだったり、

  保健室で二人きりかと思ったら普通に先生がいたり、転校生が来たけど別のクラスだったりな。

  ちなみに、話し始めた時は入学式とか言ってたけど、今はもはや冬だ。

  気が付けば丸一年が過ぎようとしている。

  ……早過ぎる。

  恐怖すら感じる。


咲:へー、そんな事があったんだ。


輝:どわっ!?

  咲、お前いつから!?


咲:え、結構前からだけど。

  なんか、一人でぶつぶつぶつぶつ喋ってるから、何してんのかなーって。


輝:……聞いてたのか?


咲:聞いてたよ。


輝:全部?


咲:おおよそ。


輝:うわあ……

  恥ずかしいことこの上なし。


咲:なにそれ、日記?


輝:呪いの黙示録。


咲:……は?


輝:なんでもない。

  それより、何の用だよ。


咲:んー?

  さて、何の用でしょー。


輝:なんだそれ。


咲:別にー。


輝:……ああ、そういや、今日はバレンタインか。


咲:そうだね。


輝:あーあ、ここでもどうせあれだな。


咲:なに?


(以下、脳内イメージ)


彩:あの、輝君。


輝:ん?


彩:今日、何の日か知ってる?


輝:……さあ。


彩:……わざととぼけてるでしょ。


輝:あ、バレた?


彩:それくらい分かるよ。


輝:ですよねー。


彩:もう。


輝:ごめんごめん。


彩:それでね、その……

  ……こういうの作るの初めてだったから、あの……

  美味しくないかもしれないんだけど。


(脳内イメージ、終了)


咲:……はい。


輝:うん、……うん?

  うん!?


咲:な、なによ。


輝:いつの間に入れ替わった!?


咲:は?

  な、何の話?


輝:いや、だって……え?

  今までだって散々……


咲:……まあ、だいたい言いたいことは分かるけどさ。

  いい加減、気付いてくれたっていいじゃん。


輝:えーっと……

  ……つまり、そういうこと?


咲:そういうこと。


輝:あー……


咲:ね、ねえ。

  それよりさ、折角だし、今そのチョコ食べてみてよ。

  一応ちゃんと作ったつもりだからさ。


輝:お、おう。


咲:あーん、でもする?


輝:しない。


咲:妄想の中では散々してるくせに?


輝:それは言うな!(食べる)


咲:……どう?


輝:……美味い。


咲:ほんと?


輝:うん、買ったやつって言われても分からない。


咲:あはは、良かった。


輝:……いやー……そうか、そういうことだったのか……

  なんか、悪かったな、今まで。


咲:んー、まあいいよ。

  結果オーライって事でさ。


輝:そりゃどうも。


咲:うん。


輝:……でもさ。


咲:ん?


輝:それでもどうせ、フラグ壊すんだろ?


咲:……ばーか。


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