ふくふくふたり
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(役表)
男♂:
女♀:
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女:あのさぁー。
男:んー。
女:みかん取ってー。
男:自分で取れよー。
女:見れば分かるでしょー、今手が離せないもーん。
男:へえー、大層なご身分なことでー。
推しは出たかよ。
女:うるせえー。
男:やっぱり、まだか。
今何連目よ?
女:次でもう100連目だよー。
要らないキャラばっかり、ことごとくすり抜けてきやがってぇー。
男:ほどほどにしとけよ。
ほれ、みかん。
女:んー。
皮剥いといてー。
男:何様だこのやろうー。
女:私様だー。
ついでに、ひと房ずつに分けといてー。
男:何様だこのやろうー。
女:私様だー。
100連目ー、頼む、頼む、頼む頼む頼むー……!
あ、あ、あ、あっ、あっ、あっ、
うぁっ、うそっ、うそっ、くっ……!
……っあぁー……推しピックガチャ100連、ものの見事に大爆死……
年初めから幸先悪過ぎかよー!
男:あーあ、ご愁傷さまだこって。
年初めから散財してんなあ。
月末やばくなっても貸さないぞ。
女:分かってますー。
そういうあんたこそ、運試しだーとか言って、宝くじ買ってたじゃん。
人のこと言えないんじゃないのー。
男:あれは、当たるなんて思ってない。
夢を買ってんだよ、夢をー。
女:はーん。
そんな天文学的確率でしか当たらないやつよりか、
ソシャゲのガチャの方が、遥かに良心的コンテンツだもんねー。
男:たった今目の前で、その良心的コンテンツで爆死したやつに言われてもなあー。
女:うるせえー。
みかんを寄越せみかんをー。
男:もう剥いたよ。
勝手に食え、エセ王族。
女:届かなーい、取ってー。
男:起きろこのやろう。
女:けーちー。
男:転がるな転がるな。
人の家のコタツをなんだと思ってんだお前ー。
女:私のコタツ。
男:何様だこのやろう。
女:私様だ。
男:良いから起きろって。
そのまま寝落ちして、風邪でも引かれたらたまったもんじゃない。
女:へーへー、召使がうるさいから起きますかね。
うんしょっ……と。
うーわ、みかん剥くの下手過ぎかよ。
男:うるせえ。
文句があるなら食うなー。
女:食べまーす。
……あーあ、明けちゃったなあー。
男:いつの話してんだ、もう割と過ぎたぞ。
女:あれ、私ら挨拶したっけ。
男:してないかもな。
女:しとこっか、一応。
男:そうだな、一応な。
女:あけおめー。
男:あけおめ。
女:ことよろー。
男:ことよろ。
女:明けちゃったなあー。
男:情緒も風情もあったもんじゃないな。
女:だってもう、お年玉とか貰える歳でもないしさあ。
年が変わったところで、だから何って話よ。
こうやってコタツでぐうたらぐうたらしてるうちに、貴重な休みがどんどん無くなっていくんだー……
男:そう言うなら、どっか出掛けたらどうだよ。
女:(食い気味に)嫌だよ、寒いもん、人多いしー。
男:そんな食い気味に即答することないだろ。
初詣とか行かないのか?
女:あんたは行ったの?
男:行ってない。
女:ほら見ろー。
じゃあ私も行かなーい。
男:「ほら見ろ」の意味が分からんが。
まあ、俺もお前も出不精だし、わざわざ行く理由も無いしな。
女:誰がデブだー。
男:おー、もう一個みかん食うかデブ。
女:あーん?
みかんよりお餅焼けよデブー。
男:よーし良いだろう、後悔すんなよ。
休み明けに体重計の上で、餅の秘めたるカロリー量に恐れおののけ。
女:うわぁー。
男:何してんだよ。
女:チラシの山にやられた。
私に100万のダメージ。
私は息絶えた。
男:おおデブ、死んでしまうとは情けない。
女:仮にも年頃の女に向かってデブデブ言うなあー。
男:仮にも年頃の女が、同僚の男の家でゴロゴロすんな。
いくら昔からの付き合いとはいえ、無防備が過ぎるぞ。
女:ヘンタイ。
男:少しは遠慮ってものを覚えろ、失礼な。
バカやってないでそっち行けって、チラシ片すから。
女:はいはーい。
……ふーん、福袋ねー。
男:なんだ、なんか気になるもんでもあったか?
女:いや、別にー。
最近の福袋とか、何が入ってるか全部分かってるし、味気無くない?
男:ああ、何円の福袋ならこのセットってやつな。
良いんじゃないか、高い金出して、要らないもん引き当てるよりは。
新生活応援福袋とかもあるくらいだし、そういう感じの方が、大衆には需要あるんだろ。
女:んー……
話は分かるんだけどさあ。
なーんか、イメージと違うんだよなー。
男:なにがよ。
女:いやね、前々から思ってたんだけど、福袋ってさあ……
男:あっつ! あっっつ!!
女:なに、何してんの?
男:餅が網にくっついた、全っ然取れん!
くっそ、あっつ!!
女:ばっかでー。
男:うるせえー。
女:下にクッキングシート敷かないからだよー。
私綺麗なほうねー。
汚いやつは、責任持って焼いた人が食いなー。
男:何様だこのやろう。
女:私様だ。
男:で?
福袋がなんだって?
女:あー、そうそう。
「残り物には福がある」って、よく言うじゃん。
男:言うなあ。
女:あれがね、よく分からないのよ。
男:なに、どういうこと?
女:例えばよ?
売り場に100個の福袋があったとして、99個売れました。
残りはいくつある?
男:1個だろ、バカにしてんのか。
女:そう、まさしく「ザ・残り物」。
絵に描いたような、いかにも福がありそうな残り物だよね。
男:なんだ「ザ・残り物」って。
女:じゃあよ?
100個中、50個売れました。
残りも、あと50個です。
これは、「残り物」と見なしていいと思う?
男:……まあ、福のありがたみは薄れる気はするけど、残り物ではあるんじゃないか。
女:ふーん。
じゃあ、100個中、1個売れました。
残り、あと99個です。
これは?
男:いや、流石にそれは。
女:なんで?
男:なんでって……
女:見方の問題よ、結局は。
99個減って、1個残ろうが、
1個減って、99個残ろうが、
どっちにしろ、そこに残るのは「残り物」じゃん。
だから、残り物には福があるって言われても、何言ってんのってなるわけ。
数が減るほど福のレアリティが上がって、虹福袋になるとかじゃあるまいし。
数がいくつになろうが、全部ノーマルのまんまでしょって。
男:ソシャゲに例えるなよ。
なんだ虹福袋って、確定演出でも入るのか。
女:白福袋、金福袋、虹福袋と変わっていくってこと?
それはアツいわ。
男:アツくねえ。
餅持ったまま立つな、醤油が垂れる。
女:きな粉って無いの?
男:欲しけりゃ買うんだな、俺は磯辺焼き一択。
女:はぁー、もったいな。
あんこ餅ときな粉餅の美味しさを知らずに死んでいくなんて。
男:甘いの苦手なんだよ。
女:かわいそー。
男:好みは勝手だろ。
あとせめて、嘘でも可哀想がってるっぽい顔をしろ。
女:いや、でもね。
それはそれとして、別の考え方もあるんだよね。
そもそもの話、福袋ってさ。
男:まだ福袋の話すんのか。
女:終わってないし。
男:あ、そう。
で?
女:で。
そもそも福袋ってリアルな話、店の残り物の詰め合わせじゃん、要するに。
男:要するなよ。
それは分かってても言わないのが、福袋の暗黙のルールだろうが。
女:それとさっきの話を踏まえると、「残り物には福がある」んだったら、
福袋って形になった時点でもう、福がある状態なんじゃないかって思うわけ。
で、更にそれの売れ残りともなれば、福が上乗せされるわけだから、
言うなれば、「福2乗袋」なんだよね。
男:なんだよね、じゃないんだよ。
次から次へと福袋の解釈で、常識の新天地を開拓していくなよ、ついていけないだろ。
女:ワンチャン、福袋の起源というか由来は、
「『残り物には福がある』からの、
福がある残り物を詰めた袋で、『福袋』になった」、っていう説ない?
男:俺はそこまで福袋について血眼になって考えた事ないから、知らん。
もっと言ったら、どうでもいい。
女:わざわざもっと言わなくても。
男:これ以上、お前の謎理論で宇宙を広げられると困るんだよ。
地球人は地球にいさせてくれー。
女:なにぃー?
誰が宇宙人かー。
男:あっぶな。
だから餅を持ったまま立つなって、醤油垂れるんだよ。
座れ、グレイ。
そして、その餅は俺のだ。
女:バレたか。
男:ところで、お前たまには、実家に帰ったりはしないのか?
知ってる限り、ずっとこっちにいるけど。
女:しないよ。
帰るとことか、無いし。
男:は?
女:あれ、言ってなかったっけ。
うちの親、私が家を出るのに猛反対しててさ。
縁を切るんだったら好きにしろ、って感じで喧嘩別れして、無理矢理出てきたの。
だから、帰省どころか、連絡も全然取ってないんだよね。
訃報くらいは来るだろうから、生きてはいると思うけど。
男:ふーん、大変そうだな。
女:反応うっす。
男:だって、嘘だろ。
女:嘘だよ、面倒臭いだけ。
男:そんなことだろうと思った。
女:そういうあんたは?
男:うちの親、今地球にいないから。
女:宇宙人かなんか?
男:実はそうなんだよな。
ずっと地球人のフリをしていただけで、俺の正体は宇宙人だったんだ。
すまんなあ、今まで黙ってて。
女:もうちょっとくらい、やる気のある嘘吐いたら?
男:なんだよ、やる気のある嘘って。
女:実際のところは?
男:別に、深い理由は特に何も無いよ。
お前と同じで、単純に面倒臭いっていうのもあるけど、
なんていうか、居心地が悪いんだよな。
いい加減いい人見付けたらって圧力が、常にのしかかってくるから。
女:あー、分かる。
私も、それと似たような感じだわ。
たまには帰ろうかなーとも思うんだけど、そろそろ身を固めてくれないかなーみたいな、
親からの期待の視線、みたいなのが耐えられなくってねー。
男:ふーん。
やっぱり、自分の子どもがそれくらいの年齢になってくると、そうなるのが親心なのかね。
女:さあー。
他の兄弟とか親戚はみんな結婚して、子どももいるから、余計に私が際立つんじゃない?
どうでもいいけど。
男:あー……だからか。
女:そっちも?
男:うん、結婚も交際もしてないのは俺だけ。
女:そんなもんなのかなぁ。
男:そんなもんなのかもなぁ。
女:ふーん……
男:うーん。
女:………………
男:………………
女:ぶっちゃけた話さぁ。
男:んー。
女:恋愛って、してみたいと思う?
男:んー……
したくない、とまでは言わないけど。
正直、今さら新しい出会いの機会があるとは思えないし、特に飢えてもいないんだよな。
女:だよねえ、同じく。
肩肘張った人付き合いとか、わざわざしたくないしねー。
なんとまあ素晴らしき、エコな人生。
男:何も生み出さないだけだろ。
女:そうとも言う。
……一応聞くけど、もし私に彼氏とか出来たら、どう思う?
幼馴染の立場としては。
男:出来ない。
女:もし、万が一。
男:万が一、ねえ。
どうって言われても、良いんじゃないか、別に。
おめでとうって言ってやるよ、一応。
女:冷たいなー、もっとなんか無いの?
男:出来ると思ってないからな。
万が一出来たとしても、傍若無人っぷりに呆れられて、半年以内に別れる。
女:なにそれ、予想?
男:予知。
女:決まっちゃってんじゃん。
男:決まっちゃってるよ、他の人ならそうなるだろ。
女:くそう、失礼千万棒々鶏(しつれいせんばんバンバンジー)め。
男:なんて?
おい、また横になるな、回鍋肉(ホイコーロー)にすんぞ。
女:知りませーん、この青椒肉絲(チンジャオロース)星人。
不貞寝してやるんだから。
男:何に対しての不貞腐れだよ。
女:さあー。
男:………………
女:………………
……なんかさぁ、さっきの話じゃないけど、今の私らって、売れ残りの福袋っぽいよね。
男:どのへんが。
女:ほら、だってよ?
同じような生き方をして、同じような経験をして、
同じくらい年齢を重ねながら、同じくらい成長して、
要るモノ要らないモノ色々ひっくるめて出来上がった人間がごまんといる中で、
誰ともくっつかなかった、言い換えたら、誰にも買われなかった人間が、ここにふたり居るわけでしょ。
なんか、残り者ってことで、逆に福ありそうじゃない?
男:福があるとどうなるんだ。
女:何気ない日常が、ちょっとだけ楽しくなる。
男:なんだその、小洒落たエッセイのキャッチコピーみたいな福。
女:どうよ、良くない?
男:まあ、悪くはないな。
女:でしょう。
男:それで、あれか?
残り者同士のふたりなら、福も2乗の福袋でお似合いなんじゃないか、ってオチをつけたいのか。
女:そうそう。
男:やっぱりな。
女:さすが、私の話の流れを読むのはうまいね。
男:そりゃ、何年も散々、意味の分からん話に付き合わされ続けたらな。
女:意味の分からんとは失礼な。
これでもこっちは大真面目に……
……ん?
男:どうした。
女:あれ、今私、肯定した?
男:した。
女:誘導に乗って、まんまと?
男:誘導に乗って、まんまと。
女:うわ、やられた……
男:そんな露骨な話題の変え方してたら、誰でも分かるわ。
女:え、なにそれ。
うわ、えっ、ちょ、待っ……
うわうわうわ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
男:暴れんな、コタツが壊れる。
女:違うのよ、違うじゃん。
もっとこう自然な感じで、良い感じのムードに少しずつ切り替えながら言おうとしてたのにさあ。
なんであんたが先に汲み取って、オチというか、言いたい所まで言っちゃうのよ。
そういうとこだぞ。
男:そんな良い感じのムードになれると思うのか、今さら。
俺とお前だぞ。
女:無理だわ、気色悪いまである。
男:だろ。
良いんだよ、肝心なところで締まらないくらいで。
女:ええー……
ていうか、もうこの際だから聞くけど。
平然としてるけどさ、あんたの気持ちはどうなの。
男:なにが?
女:なにがって、だから、私らの関係よ。
私が言いたいことは、もうほぼ分かっちゃったわけでしょ。
その上で、どう思ってるのかなって。
今のままの方が良いって言うなら、今なら引き下がるよ。
まだ、具体的にどうしたいのかまでは言ってないし。
男:……仮に、俺らがそういう具体的な関係になったら、
今のままから、なにがどう変わるんだ?
女:分かんない。
何か変わるかもしれないし、特に何も変わらないかもしれない。
いかんせん、恋愛ってものが何なのか、未だによく分かってないしね。
じゃあ試しに、「付き合って下さい」って言ってみて。
男:俺が?
女:あんたが。
こういうのは、男から言うもんでしょ。
男:そうなの?
女:いや、知らないけど。
ほれ、言ってみ。
男:じゃあ。
ずっと前から好きでした、俺と付き合って下さい。
女:いいよ。
男:………………
女:………………
……何も変わらないね。
男:そりゃそうだろ、変身の呪文じゃないんだから。
知らないうちにちょっとずつ、変わっていくんじゃないの。
分からんけど。
女:で、え?
私らは、付き合うってことでいいの?
男:いいも何も、お前が言い出したんだろ。
俺はちゃんとそのつもりで、付き合って下さいって言ったよ。
女:それは失礼しました。
いやでも、こんなロマンスのロの字もない交際の始まり方ある?
男:そりゃ、俺もロマンチックさは微塵も無いなとは思うけど。
こういうのでいいだろ、俺らは。
女:まあ、そうだね。
こういうのがいいね、私らは。
実家でも行く?
なんか、やっぱりなって顔されそうだけど。
男:気が早過ぎる。
こっちはまだ、なんの実感も持ててないっての。
女:えー。
でもこのまんまじゃ、ランクアップしたって感じしないじゃん。
なんかそういう、現実味を味わうためのイベントが無いとさ。
男:だからソシャゲに例えるなって。
じゃあ、初詣にでも行くか。
女:三が日過ぎてるけど。
男:節分までならセーフだ。
女:わあ、神様は寛大だなあ。
今から?
男:今から。
女:じゃあ、ちょっと着替えてくるわ。
男:良いのかよ。
寒いし、まだまだ人多いぞ。
女:良いよ別に、今年くらい。
男:そうかい。
女:そうそう。
手でも繋ぎながら行くかね?
男:嫌だよ、変な気分になる。
女:うん、私も気色悪い。
男:おい。
女:冗談だって。
ちょっとずつね、ちょっとずつ。
あ、片付けは任した。
男:何様だこのやろう。
女:私様だ。
……あ、ちなみになんだけどさ。
男:なに。
女:さっきの予知の話の時、「他の人ならそうなる」って言ってたけど。
どういう意味で言ったか聞いても良い?
男:……うるせえ。
さっさと着替えてこい。
女:おっけー。
私の独りよがりに付き合わせてるわけじゃないって、確認したかっただけだから。
男:聞き流せよ、そんなの。
女:残念でしたー。
駅前の神社でいい?
男:ああ。
女:りょうかーい。
んじゃ、また後で。
男:……あ、ちょい待ち。
女:なに?
男:今年から、よろしくな。
女:……うん、よろしく。
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