おいでませ幽霊屋敷

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

春人(はると)♂:

冬紀(ふゆき)♂:

ナツ♀:

アキ♀:

母親♀:

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


春人:(M)

   これからお話するのは、僕が体験した、少し、不思議な出来事です。

   ことの発端は、僕が古本屋から帰っている道中。

   少し薄暗くなり始めた、夕刻頃の事でした。

   帰宅途中の駅のホームで、偶然、幼馴染の冬紀と遭遇したのです。


冬紀:春人ー、はーるーとー。


春人:あれ、冬紀?


冬紀:お、やっぱり春人だ。

   久し振りだな。


春人:久し振りって言う程でもない気がするけど……

   ていうか、確証も無かったのにあんな大声で呼んでたの?


冬紀:いやー、長期休暇ってあんまり人と会う機会無いからさ。

   知った顔を見ると、凄く懐かしく感じちゃうんだよね。


春人:そういうものかなぁ。


冬紀:そういうものなんだよ。

   で、春人、今から帰るとこ?


春人:うん。

   買い物に来てたんだけど、目当ての物が無かったから、

   今度はもう少し、大きい店で探そうと思って。


冬紀:ふーん。

   じゃあさ、今晩、ちょっと付き合ってくれね?


春人:え?

   良いけど、何処行くの?


冬紀:それはまだ内緒。

   とりあえず、今日の夜10時くらいに、高校の正門前に来てくれ。


春人:高校って、僕達が卒業した高校?


冬紀:そうそう。

   あそこが一番近いし、分かりやすいからさ。


春人:うん……分かった。


冬紀:よっし、ありがと。

   んじゃ、また後でな!


春人:(M)

   そう言って、冬紀は止まっていた電車にそそくさと乗り込み、手を振りながら去って行きました。

   こうやって約束を急に取り付けて、颯爽と帰っていく。

   それ自体は、僕にとっては慣れ親しんだことだったけれど、

   夜分に呼び出しというのは初めてだったので、内心、少しばかり、嫌な予感はしていました。

   そしてその予感は、残念ながら、的中してしまう事になるのです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


春人:冬紀、お待たせ。


冬紀:お、来たねー。

   じゃ、早速行きますか、廃屋探検。


春人:……え?


冬紀:いやな、なんでも高校の近くに、ものすごく古びた一軒家があるらしいんだよ。

   そこでの霊的な物の目撃情報が、最近急増してて、いてもたってもいられなくなっちゃってさぁ。


春人:ああ……

   そういえば冬紀、そういうの好きだもんね。


冬紀:そうなんだよー。

   だから大学に進んでも、まず真っ先にオカルト研究会的な物を探して、即刻入部したくらいだからな。

   それに、廃屋とか廃墟って、なんというか、ロマンがあるじゃん?


春人:まあ、否定はしないけど……

   僕には、それの良さはよく分かんないから。


冬紀:勿体無いなあ。

   確かに、多少マニアックな趣味かもしれないけど、

   だからこそ、同じ趣味の人とはすぐ打ち解けられる、ってメリットもあんのよ?

   春人もさぁ、ひとつくらい、人とはちょっと違う趣味とか持ってみたら?


春人:考えとく。

   ……それより、その廃屋って、どんなところなの?


冬紀:お、興味湧いてきた?


春人:そういうわけじゃないけど……

   なにも知らないまま行くよりかはマシだし、止めても行くんでしょ?


冬紀:さっすが、よく分かってるねえ。

   えーとな、なんでも噂によると、それなりに裕福な家族だったらしいんだ。

   家も、一軒家と言っても結構大きくて、他と比べれば、敷地もかなり広いんだと。

   お手伝いさんとかもいた、って話もあるから、たぶん、結構な金持ちだったんだろうな。


春人:うん。


冬紀:で、ある時から、何故かその家に出入りする人間が、全然いなくなった。

   それの原因は未だに分かってないんだけど、何か事件があったとかの話も無いし、

   本当に、突然ぱったりと、音沙汰が無くなったんだってさ。

   それ以来、周りの人も気味悪がって、その家を避け始めた。

   ……それでだ、ここからが、ちょっとおかしいんだよ。


春人:おかしいって、なにが?


冬紀:その家は、住宅街からは少し離れたところにあるんだけど、住人の音沙汰が無くなったのが、3年前。

   それまでは、当然人が住んでたわけだから、綺麗そのものだし、廃屋でもなんでもなかった。

   ところが、今はガラス割れ放題、壁も罅割れ放題な状態らしいんだな。

   確かに3年間、人は寄り付かなかったらしいけど、

   それでも、たった3年程度で、そこまで建物が荒廃すると思うか?


春人:それは……確かに、おかしいかもね。


冬紀:それに加えて、霊の目撃情報とかも後を絶たないんだけど、こっちはあんまり信憑性は無いかなぁ。

   子どもが遊んでる声が聞こえたとか、足音が聞こえたとか、建物の中を歩き回る人影を見たとか。

   まあ、よくある話だよ。


春人:へえ。


冬紀:どうよ、怖くなってきた?

   もしくは、ワクワクしてきた?


春人:……別に。


冬紀:はは、声が震えてるよー、春人君?

   ま、どうせ尾ヒレが付いて出回った噂だろうしさ、

   ここまでの話は、作り話半分だとでも思っとけばいいって。

   あとは、自分たちの目で確かめてやろうじゃないの。

   ちょうどもう着いたし。


春人:えっ……いつの間に。


冬紀:余所見しながら歩いてるからだよー、気い抜くなって。

   うへー、しっかしまあ、ホントに荒れ放題だなあ……


春人:(M)

   そう言いながら冬紀は、僕の手を引いて、ヒビ割れた石段を躊躇いなく上がり、扉の前へ立ちました。

   木製の扉でしたが、話に聞いたとおり、3年しか経っていないとは思えないほど朽ちていて、

   鍵も壊れてしまっており、引いてみれば、簡単に開いてしまう程でした。


冬紀:呼び鈴もあるけど……鳴るわけないわな。

   さーて、そんじゃ、いよいよ潜入開始と洒落込もうかね!


春人:……楽しそうだなぁ……


冬紀:お邪魔しまーす。

   誰かー、いませんかー。


春人:誰かいたら怖いよ。


冬紀:あはは、そりゃそうだ。

   しっかしまあ、広い家だこと。

   玄関からして格が違うなぁ。


春人:うん……

   あっ!


冬紀:うわっと……!

   なに、どーした?


春人:あ……ごめん、ネズミだった。


冬紀:あー……あはは。

   またベタな驚き方だなあ。


春人:本物のネズミって、初めて見たかも……


冬紀:そうか?

   ちょくちょくいるぞ、うちの屋根裏とかに。


春人:それは……どうなんだろう。


冬紀:大運動会するほど五月蝿いわけでもないし、割と可愛いから良いかなって。


春人:そ、そう……

   まあ、冬紀が良いなら良いんだけど。


冬紀:……お、家族写真らしきもの発見。


春人:どんなのが写ってる?


冬紀:んー……見たとこ4人家族だったみたいだな。

   父親と、母親と……2人姉妹、かな?

   どっちが上かまでは、見た目だけじゃ分かんないな。


春人:歳はそこまで、離れてないのかもね。


冬紀:これで、家族間での確執を感じさせるようなのがあったら面白いのになー。

   顔にでっかくバツ印書かれてたりとか。


春人:流石に、そんなのは無いと思うけど……


冬紀:まぁなあ。

   ドラマとか、漫画の中くらいなもんだよな、そういうのは。

   お、二階へと続く階段を発見。


春人:行くの?


冬紀:当然!

   隅々まで調べ尽くす所存でありますよ!


春人:やっぱり……

   落ちて怪我とかしないでよ。


冬紀:分かってる分かってる。

   ……とは言っても……うへぇ、こりゃ酷いな、床がボロボロ……

   1階も酷かったけど、2階も相当……

   うわっ!!?


春人:えっ!?


(床に穴が開いて崩れ、2人転落する。)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アキ:……しちゃおうよ。

   大丈夫だって、バレないよ。


ナツ:ダメだって言ってるでしょ。

   それに、バレないなんて絶対無理よ。

   もしそんなことして……


アキ:もう。

   心配性だなあ、お姉ちゃんは。

   いいよ、それだったらあたしが……


ナツ:あ、ずるい!

   そんなこと言われたら……


春人:……んっ……


ナツ:あ。


アキ:あ、起きた!

   おはよ、具合はどう?


春人:……あれ……

   僕、なんで……?


アキ:あれ、まだ寝ぼけてる?

   おーはーよーうー。


ナツ:アキ、少しは黙ってられないの?

   あなた達、2階から落ちて倒れてたのよ。

   結構派手な崩れ方してたけど、大丈夫だった?


春人:……2階……落ち……?

   ……!!

   そうだ、冬紀は!?


アキ:フユキ?

   ああ、一緒にいた人ならこっちだよ。

   よかったね、ちょうどベッドが2つ空いてて。


冬紀:へへ……

   おはよーさん、春人。

   見事なフラグ回収だったな。


春人:ああ……よかった。

   ……それで……あの、


ナツ:ストップ。


春人:え?


ナツ:色々聞きたいことはあるでしょうけど、それに答えるのは、

   まずあなた達が、私達の質問に答えてから。

   いい?


春人:あ……はい。


アキ:お姉ちゃん、もう少し優しく対応してあげたらー?

   完全に怖気づいちゃってるじゃん。


ナツ:うるさい。


アキ:あー、こわこわ。


ナツ:それじゃあまず、ひとつめの質問ね。

   あなた達は、人間?

   それとも違う?


春人:え……


冬紀:そ、そりゃあ人間だよ!

   どう見てもそうだし、それ以外に何も無いだろ!?


ナツ:おっけー、じゃあ次。

   あなた達は、ここに何しに来たの?


冬紀:えっと……

   まあ、平たく言えば、肝試し……かな?


春人:うん……


アキ:あー、やっぱり。

   そうでもなきゃ、こんなトコにずけずけ上がり込んで、あちこち漁り回ったりなんてしないもんねー。


春人:ご、ごめんなさい。


冬紀:ていうか、なんで知ってるの?


アキ:んー?

   なんでって、そりゃあ最初からあなた達の後ろにい、ムグッ!


ナツ:(ナツの口を手で塞ぐ)

   余計なことは喋らなくてよろしい。

   あんたがいると、話がややこしくなるのよ。


アキ:ぷへーっ。

   はいはい、分かりましたよーだ。


ナツ:……で、あとひとつだけ。

   さっきも聞いたけど、怪我とかはしてないのね?

   いたみも特に無し、ね?


春人:え……はい。

   僕は特に、何処も痛みは無いです。


冬紀:俺も。


ナツ:そう、それなら良かった。

   ごめんなさいね、急に尋問みたいなことして。


春人:い、いえ……


ナツ:じゃ、今度はそっちからの質問もしていいわよ。

   色々聞きたいことあるでしょ?


春人:えっと……

   じゃあ、まず……ここは、何処なんですか……?


アキ:どこって、あたし達の家だよ。


ナツ:正確に言えば、あなた達が入った家の、3階にある寝室ね。

   ここはまだまともだけど、2階は虫食いが随分酷くなってるから。


冬紀:君らの家、って、此処に住んでた人達は、みんな消息不明になってる筈じゃあ……


ナツ:ああ……表向きはそうなってるらしいわね。

   まあ実際の所、消息不明というか、うちの家族はもうみんな死んで、白骨化してると思うわよ。

   ただ如何せん、いつ何処で死んだのかが全く分からないから、死体が見付けられないんだけど。


春人:え、死ん……?

   白骨?

   え?


冬紀:は?


アキ:まだ分かんないかなあ。

   あたし達は、幽霊なの。

   平たく言えばお化けだよ、お・ば・け。

   成仏しようにも出来ないし、特に不便も無いから、この世のこの家に留まってるだけ。


冬紀:ゆ、幽霊!?

   そんなにはっきりしてて、足だって生えてるのに!?


アキ:ええ?

   ……もー、なに?

   もしかして、幽霊がみんな、半透明な球体とか、足がにょろにょろしてるやつだとか思ってたの?

   もちろんそういう奴らもいるけど、あたし達だって、れっきとした幽霊だよ。


春人:そういう奴らも、って……?


ナツ:この家はなんか、そういう変な奴を、呼び込みやすい性質みたいでね。

   ちょくちょく勝手に上がり込んで、うろうろしてるのよ。

   私達みたいに、肉体を失っても成仏し損ねてる人とか、

   自分が死んでる事に気づいてない人とか、

   魂だけになっても往生際悪く、この世を彷徨って、肉体を探してる人とかね。

   あまりにもそういうのが多いせいで、家自体の経年劣化も、異常に早くなっちゃってるみたい。

   迷惑な話よね。


アキ:まあでも、同類ってことで、こっちに直接危害は加えてこないし、

   うちもそういう奴らは、見かけたら歓迎してるけどねー。

   一緒にご飯食べたりとか、ゲームしたりしてさ。


冬紀:じゃあ、霊の目撃情報ってのも、あながち全部嘘って訳でもなかったのか。


ナツ:ああ、勿論、そういう人達だけじゃなくて、あなた達みたいな物好きな人間も、

   話さえ聞いてもらえれば、いつでも歓迎してるのよ。

   ……話を聞いてもらえた試しは、一度も無いけどね。


春人:それは……

   む、無理も無いんじゃないかな。


冬紀:そ、そうだよな。

   俺もまだ、目の前の現実が、信じ切れてないのが本音だし……


ナツ:……あ、そういえば、


母親:あら、目が覚めました?


春人:えっ?


アキ:目を覚ましたのはだいぶ前だよ。


冬紀:あ、えっと……?


ナツ:……ああ、私達のお母さんよ。

   母さん、こちら……えっと、名前なんだったっけ。


春人:あ……は、春人です……


冬紀:冬紀です。


ナツ:ハルトさんに、フユキさん。

   うちに肝試しに来てたんだけど、床が抜けて、落っこちちゃったんだって。

   幸い、特に何処もいたみとかは無いみたいだけど。


母親:あらあらまあまあ。

   それじゃあ、さっきの凄い音はそれだったのね。

   それは大変でしたわねえ……

   すみません、うちの管理の不行き届きで、とんだ災難を。


冬紀:いやいやいや!

   むしろ俺達の方こそ、勝手に上がり込んで、好き勝手やっちゃって!


春人:ごめんなさい……


母親:いえいえ良いんですよ。

   元々、いつ抜けるか分からない有様だったので。

   それより、いつ頃までいらっしゃいます?

   よろしければ、あなた達の分も、お食事お出ししますよ?


冬紀:いや、お構いなく!

   今すぐにでも帰りますから!


アキ:それは、やめといた方が良いと思うけどなー。


春人:どうして?


アキ:どうしてって。

   さっきも言ったでしょ?

   この家は、色ーんな奴らがうようよしてるんだって。

   そいつらがみんな、あたし達みたいな対応をすると思う?

   タチの悪い奴に目を付けられたら最悪、まともなカラダで帰れないかもしれないよ?

   ていうかもう、此処から出る事も、二度と出来なくなっちゃうかもね。


春人:……うわぁ……


冬紀:それは……嫌だな、うん。


ナツ:それに、実はもう、あなた達の分も作っちゃってるのよ。

   その人達も、夜が明けてくれば勝手に帰るし、それまでは此処に居た方がいいわ。


母親:ちょっと急拵えの食事ではありますけど、それでも宜しければ。


春人:そ、そういう事なら……


冬紀:……お、お邪魔します……


母親:どうぞどうぞ。

   汚い所ではありますけど、ゆっくりしていってください。


アキ:やったぁ!

   それじゃあさ、人生ゲームやろうよ人生ゲーム!

   3人でばっかやってもつまんなくてー。


ナツ:いいけど、たまにはアキも片付け手伝いなさいよ。

   毎回途中ですっぽかして、先に寝ちゃうんだから。


アキ:はぁーい。


ナツ:あ、母さん、父さんは?


母親:書斎に篭もりっきりよ。

   昨日も徹夜だったらしいから、暫く起こすなって。


ナツ:そう。


母親:それじゃあ、また準備が出来たら呼びに来ますから。

   ナツ、アキ、手伝ってね。


ナツ:はーい。


アキ:今日のメニューなに?


母親:今日はねー、久し振りの……


アキ:えー、またぁ?

   もうちょっとさあ、バリエーションというか……


ナツ:またとか言わないの。

   それだからあんたは……


春人:なんか……凄い事になっちゃったね。


冬紀:ああ……


春人:(M)

   こうして僕達は、今でも信じられませんが、幽霊一家との食事を楽しむ事になりました。

   でも、何の食材を使ったどのような料理なのか、見ても食べても、よく分かりませんでした。

   失礼になるかと思い、言えませんでしたが、

   ……味が、無かったのです。

   一緒に食べていた冬紀の表情を見るに、同じ事を感じていたんだろうと思います。

   食事後は、とにかく時間を潰すだけ。

   生前も使われていたのであろうゲームをしてみたり、トランプをしてみたり。

   その感じが、何故だかとても馴染みやすくて、夜明けになる頃には、彼女達が幽霊であることなど……

   すっかり、忘れてしまっていました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アキ:ほんとにもう帰っちゃうの?


冬紀:ああ。

   流石に、ずっと帰らないのはまずいからさ。


春人:お邪魔しました。


ナツ:こちらこそ、なんかごめんなさいね。

   成り行きとはいえ、一晩中押し込めちゃって。


春人:とんでもない。

   むしろ、本来謝らなきゃいけないのは、僕達の方ですし……


母親:良いんですよ。

   よかったら、またいらしてください。

   久し振りの来客で、この子達も、随分楽しめていたようですから。

   その時は、ちゃんとした食事も、用意出来ると思いますので。


冬紀:あ、あははは……

   はい、考えときます。

   ……それじゃ、お邪魔しました。


春人:さよなら。


アキ:さよならー。


ナツ:また来てね。


(間)


春人:……はぁー……


冬紀:どした、でっかい溜息吐いて。


春人:どうしたもこうしたもないって……

   冬紀は、何とも思ってないの?


冬紀:なんで?


春人:なんでって……


冬紀:俺からすれば、これ以上なく貴重な体験を出来たんだから、

   今となっては細かい事は、もうどうだって良いかなーって。


春人:はあ……いいなあ。


冬紀:なにがよ?


春人:そうやって、すぐに割り切れるとこ。

   羨ましいよ。


冬紀:そうかなあ。

   俺は割と、昔からこんな感じだと思うけど?

   ……まあでも、今回少しだけ思ったことはあるよ、俺でも。


春人:なに?


冬紀:……興味本位で行くのは、良くないなってこと。

   あの人達の優しさで、逆に心が痛かったよ……


春人:あはは……うん、そうだね。


春人:(M)

   この日以来、僕達は定期的に、導かれるように、この家を尋ねるようになりました。

   その都度、例の食事も、当然のように出されるのですが、

   恐る恐る味について聞いてみたところ、意外なほど、あっさり答えてくれました。


母親:私達は幽霊ですから、味を感じることが出来ないんです。

   なので、盛り付けも雰囲気というか、彩りの為でしかありませんし、

   味付けという概念自体、必要が無くて。


アキ:そうそう。

   それに、もう慣れちゃったでしょ?

   だって、


ナツ:(アキの口を手で塞ぐ)

   はい、余計なこと言わない。


アキ:ムー、ムーー!


春人:(M)

   ……そうか、だから味が無かったのか。

   と、僕も冬紀も変に納得してしまい、次第に慣れていきました。


   ……あれ?

   そういえば……

   食材なんて、何処から手に入れてるんだろう?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━