viva -ビバ-!

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(役表)

如月♂

十(つなし)♂:

肆日(よつか)♂

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如月:えー、では、毎年恒例となりました、

   トリカタ学園所属、「バから始まる甘々な何某(なにがし)対策委員会」の、

   緊急集会を執り行いたいと思いまーす。


十:ういーす。


肆日:はーい。


如月:えー、皆様は重々承知の上の事ではあると思いますが、

   念の為、確認の意味も込めて、我々の方針を簡単に申し上げますと、

   来たる2月14日に、我が国において、法的な規則等は一切設けられていないにも関わらず、

   自主的、且つ大々的に行われる、

   正式名称「バレンタインデー」、

   俗称「バから始まる甘々な何某」、

   略称「バにがし」に対して、

   普段からそういった糖質高めな出来事に一切縁の無い我々が、

   あの空気そのものが芳醇なカカオの香りに塗れる24時間を、如何にして乗り越えるか、

   ないし、生き残るかを議論し、生存戦略を練り上げる、一大プロジェクトであります。


十:一昨年までは、結局どんな案を出しても、当日は見事に玉砕して、悔し涙で献杯し合ったもの。


肆日:で、去年から斬新極まりない打開策として、

   「バにがしを回避するのではなく、寧ろ参加する」、というのが挙がったと。


如月:「毒を食らわば皿まで」というやつですね。

   これまで講じてきた数々の案の中で、不本意ながら多かれ少なかれ、参加を試みた事もあった。

   ……が、結果としては、全て先に言ってくれた通り、全敗。

   甘ったるい日なのに、我々だけが、苦汁を舐める羽目になりました。

   ならば、今更完全拒否を目的とするのではなく、敢えてその逆。

   あまりにも強大な敵に立ち向かうのではなく、懐柔し、我らが物と化させ。

   陽の昇る丘に佇む石碑に名を刻みし、偉大なる嘗ての王に、我らが従僕たる証の烙印を刻み付け!

   それが成った暁には、見よ!

   大金星は今、我らの手にこそ在りけりと!!


十:喝采を上げよ、勝鬨を上げよと!!


肆日:怨敵の御首級、只今を以て頂戴仕ったと!!


如月:(同時に)viva(ビバ)!!

十:(同時に)viva(ビバ)!!

肆日:(同時に)viva(ビバ)!!


如月:……はい、そういった手法で、攻めてみようと考えたわけです。

   で、今回は、その具体案をそれぞれ出して頂き、多数決にて、今年決行する作戦を決める。

   ここまでがおさらいですね。

   大丈夫そうですか? 同志達よ。


十:うん……いや、それは良いんだけどさ。


如月:はい。


肆日:あの、如月?


如月:何でしょうか。


肆日:今日は、終始そんな喋り方で通すの?


如月:知的な雰囲気と、バレンタインデーに対する並々ならぬ意志を醸し出せれば、と思いまして。


十:知的な雰囲気って自分で言っちゃった時点で、知的な雰囲気はもう消え去ったけどね。


如月:そんな馬鹿な!!


十:諦めていつもの感じでやろうよ。

  正直、気色悪いし、その口調。


如月:き、きしょ……


肆日:あー!

   議論始める前から心折れかけないで!

   まだ話に入ってすらいないのに!


十:相変わらず、メンタル面がメレンゲなんだよなぁ……

  よくそれで毎年議長やってるよ、ほんと。


肆日:行動力が人一倍あるだけに、受けなくて良いダメージまで負ってしまう皮肉……

   可哀想に、お労わしや。


如月:あーあーあーはいはいはい、関係無い話はそこまで!

   いっつもこんな感じで冒頭グダグダするから、話がふわっとしたまま終わってしまうんだ、です!

   今年こそは、有意義な喧々囂々を経て綿密な作戦を立て、

   浮足立った有象無象共を、完膚無きまでに叩き伏せるのでございます!


十:もう早速キャラ崩れかけてるじゃないか。


肆日:しかも、言葉の意味違うし。

   それを言うなら、侃々諤々(かんかんがくがく)じゃない?


十:喧々囂々で良いならもう、今みたいな調子で最後まで行くよ。

  有意義かどうかは知らんけど。


如月:やっかましいと言っておろうがさっきからもー!

   良いから、持ち寄った具体案を挙げていけ!

   さあ!

   ほら!!


十:まあまあ、落ち着きなよ議長。

  感情的になっていても、意義深い話し合いなんて出来やしないぞ。


如月:誰のせいだ!


肆日:そうそう。

   冷静沈着でいてこそ、我らが議長でしょ。

   ほら、これでも飲んで。


如月:何これ?


肆日:チョコレートドリンク。


如月:……そういうやつ?


肆日:違うやつ。


如月:ああ、びっくりした。

   それなら安心だ、頂きましょう。

   ……む、最近のチョコレートドリンクは、随分と濃厚ですね。

   味わい深いですが、それと同じくらいに業の深い……


十:……ねえ、あれってさあ……違うよね?


肆日:うん、湯煎しただけのチョコ。

   少なくとも、ドリンクする物ではない。


十:分からないもんなの?


肆日:いやあ……

   多分、あいつが異質なだけだと思う。


十:飲ませた本人がドン引きしてやるなよ……


肆日:だって……

   うわ、ほんとに飲み干した。


如月:……ふう、御馳走様でした。

   既にだいぶ、色々な所が苦しい。


十:そりゃそうだよ。


如月:で、お二方はさっきから何を?

   何やら小声で、ぶつぶつ喋ってましたけれども。


肆日:へっ?

   いや、べ、別に何でも?


十:うん、なんでもない、なんでもない。


如月:そうですか。

   では気を取り直して、まずは……

   じゃあ、十(つなし)。

   貴方が考えてきた作戦を教えて下さい。


十:お、はいはい。

  えーと、まず前提として。

  私は、我々がバレンタイン、もとい「バにがし」に参加し、勝利するというのは即ち、

  「誰よりも多くのチョコレートを入手、ひいては、ありとあらゆる全てのチョコレートを独占せしめる事」。

  そう定義付けました。


如月:ほう。


十:しかし、そうは言っても、武力を以て他者から略奪したチョコレートは、

  バレンタインデーという日に乗じて獲得した、異性の好意ありきのチョコレートとは到底言い難い。

  極端な話、それは何も、バレンタインデーでなくとも可能な手段と言えてしまう。


肆日:そりゃあそうだ。


如月:ならば、どうします?


十:ふっふっふっふっふ……御照覧あれ。

  これが、私が掲げる勝利への道標!

  募金箱ならぬ、「募チョコ箱」です!!


如月:……ん、はい?


肆日:チョコ……何?


十:正式名称、「募れ、チョコレートよ、いざいざ此の箱へ」。


如月:募れ……とは、ん、ん?

   それは……何?

   名前なんですか?


十:はい。

  通称が、さっき言った「募チョコ箱」。


肆日:いや、通称とか言われても……

   チョコを、……何、どうするって?


十:略称、「ボョ箱」。


肆日:なんて?


如月:……一応伺いましょう。

   その……募チョコ箱? で、どうしようと?


十:よくぞ聞いてくれた、説明しよう。

  まず募金箱とは、金子を持ち、善意持つ者ならば、無意識に其処へ入れてしまうもの。


肆日:そうでもないと思うけど……


如月:人によりますよね。


十:ならば募チョコ箱とは!

  募金箱の原理、人の深層心理を利用し、チョコを持ち、他者への好意持つ者ならば、

  等しく無意識下に此処へと入れてしまうという、現代に生み出されし悪意のオーパーツ!

  おお、愛の不労所得!

  ああ、残酷なる恋の簒奪者!!

  そして、最後に響き渡る音を聴け!

  我らの弛まぬ喝采と、悲恋と絶息の涙が奏でる、終焉のポリフェノールを!!

  viva(ビバ)!!


如月:却下。


肆日:異議無し。


十:何故!?


如月:いや、何というか……

   非の打ち所……じゃなくて、もうなんか……

   是の打ち所が無い、と言えば良いんですかね……

   起から結まで、何を言ってるのか分からなくて。


十:崇高過ぎて?


如月:下劣過ぎて。


十:はっ!?


肆日:余程の物好きか、憐れみの心を持った聖人でもなければ、こんな不審物にチョコは入れないでしょ。


十:そうかな? 或いは……


肆日:或いも無いから。


十:何故断言出来る?

  この世の全ての物事に、絶対など……


如月:仮に、十(つなし)が恋する乙女だったとして、学校の廊下にこれが置いてあったら、入れます?


十:絶対入れない。


如月:それみたことか。


肆日:自分で絶対って言っちゃったよ。


十:……う、うう…………


如月:……本当は?


十:……なん、にも……!


肆日:え?


十:なーーーんにも思い付きませんでした!

  ここに来る途中で、職員室の目安箱見て、何をトチ狂ったか「これだ!」と思って!

  そのまま拝借して来ちゃいました!


如月:その発想の奇想天外っぷりは……まぁ、評価して差し上げます。


十:有難うございます!


肆日:募チョコ箱ですか?


十:目安箱です!


如月:チョコ入れましょうか?


十:生徒の忌憚の無い意見を入れてください!


肆日:返して来なさい。


十:後で!


如月:今。


十:はい!!


(間)


如月:えー、というわけで。

   十(つなし)の案は却下、もとい……もうなんか、無しという形になりました。


十:取り乱してしまってすみませんでした。


如月:無いものは仕方無いので、ここからは、我々の案に対する意見を、なるたけ多く出して下さい。


十:分かりました。


如月:では次、肆日、お願いします。


肆日:はーい。

   えーとね。

   私のはある意味、十(つなし)の……募チョコ箱?


十:ボョ箱。


如月:静粛に。


肆日:まあ、十(つなし)の案とは、ある意味対照的な内容になるかなと思います。


如月:ほほう。


十:対照的というと?


肆日:十(つなし)の募チョコ箱は、言わば、他者への直接的な関与が主流。

   視覚と深層心理に訴えかけ、疑似的なマインドコントロールによって、利益を得る事を目的としていました。


如月:絶対無理でしょうけどね。


十:何故だろう、それっぽく言ってくれているのに、凄くみっともない。


肆日:それに対して私の案は、他者への作用を目的とする所までは一致してますが、その手段が違います。


如月:して、それは?


肆日:情報社会を逆手に取った、電子的洗脳作戦。

   名付けて、「ミステリー・ミステイク」!!


十:……ミステリー……


如月:ミス、テイク……?

   それは、具体的にどういった作戦なのですか?


肆日:名は体を表す、ですよ。


十:えっ、どの辺が?


肆日:現代におけるインターネット、その情報量、影響力は圧倒的です。

   我々は今や、取るに足らない雑学から、日常社会の礼儀作法に至るまで、

   ありとあらゆる情報を、電子の海から仕入れて生きている、と言っても過言ではありません。


如月:それは確かに、一理ありますね。

   しかし、それと貴方の案とに、どう関係が?


肆日:如月、十(つなし)。

   貴方達は、バレンタインデーに渡す物によって、込められる意味が異なるのは、ご存知ですか?


十:……聞いた事があるような、無いような。


如月:クッキーとか、キャンディとかですかね?

   なんとなく違いがある、というのは噂程度に聞いた事はありますが、流石に内容までは……


肆日:そう、そこなんです!!


如月:何がですか?


肆日:何となく、意味が違うことは知っている。

   しかし、詳しくは知らない。

   その曖昧な知識の浅さにこそ、我々が付け込む隙が存在するのだよ。


十:……なんか、方向性が変わってきた気がする。


如月:同感。

   まあ、本人は楽しそうだから、もう少し聞いてみよう。


十:もう既に、ちょっと諦め入ってんじゃん……


如月:詳しく、お願いします。


肆日:やる事自体は、至極単純。

   インターネット上に、バレンタインデーの常識を覆す嘘の情報を流し、大混乱を誘う。

   幸い、トリカタ学園のホームページには、生徒専用の交流掲示板があるからね。

   適度な範囲で、最短最速で、生徒の目に入る。

   偽りの情報の発信源には、これ以上無い媒体と言える。


如月:ほう。

   それは確かに、最新の技術を利用した、最先端の作戦と言えますね。

   ……ところで、肝心のその、偽りの情報とは、どのような内容で?


肆日:「本当の大本命には、チョコレートではなく、別の物を渡すのが、本来のバレンタインデーのしきたり。

    真に愛する者に対して、バレンタインデーという特別な日に、チョコレートを渡すという行為は、

    無作法、無礼極まりなく、相手に対しての、この上無い侮辱行為である」!

   勿論、文面は後でもっとそれっぽくした物を考えるけど、大体こんなニュアンスの物。

   これをバレンタインデー当日に、でかでかと掲示板に記載、拡散する!

   思春期、且つ中二病を拗らせ気味の年代である生徒達にとって、

   無視出来ない事案になるのが、容易に想像出来るでしょ!


十:まあ確かに、本来こういうもの~とか、真に愛する者とか、そういう表現好きそうだもんね。


肆日:そう。

   そして、突如として現れた、如何にもマジっぽいガセネタを鵜呑みにした女生徒達は、

   意気揚々と持ち寄ったチョコレートの処分に困る!

   丹精に真心込めた一品なだけに、捨てるのは忍びない。

   しかし、本命に渡すのは無礼という新事実!

   さあ、その健気な行き場を失ったチョコレートを、どうする!?

   それらはどこへ往く!?


如月:……まさか。


十:その捌け口となるのは……?


肆日:そのまさか!!

   そこで満を持して、我々の再登場だよ!

   ガセネタを流布した事をひた隠しにしつつ、何食わぬ顔で、無作法の権化を一手に引き取る。

   きっと人々は、稀有なモノを見る目で我々を見るだろう。

   蔑視する者も現れるかもしれない。

   しかし、その日の終わりに彼らは気付く!

   そして、気付いた時にはもう遅い!!

   其処に紡がれしは、電脳の激浪に狂わされた、哀れな羊達のアポカリプス!

   さあ、傀儡達の死を祝え!

   聖なる侮蔑の挽歌を唄おう、クーベルチュールの名の下に!!

   viva(ビバ)! viva(ビバ)!!


如月:却下。


十:異議無し。


肆日:何で!?


如月:いやあ、何て言うんでしょう……

如月:凄く具体的だし、内容も現実的な話のように聞こえるんだけど、それにしては現実味が薄いっていうか……


十:バレンタインデーという文化が、ここまで根付く前だったら或いは、

  ちょっとは成功する可能性もあったかもしれないけども。


如月:そうですねえ……

   その作戦を敢行するにはちょっと、遅過ぎたかなって。


肆日:なんでさ!

   全然成功する可能性あると思うよ!

   真実味のある喧伝文句を書く文才があれば!


十:暗に、ここにいる全員に、そういう才能が無いって言ってる……


如月:事実だから仕方ないでしょう。

   そんな物はあったとしても、母の胎内に置いてきた。


十:あ、そう……


如月:因みに聞きますが。


肆日:なに?


如月:チョコレートが御法度で、何がベストだと広めようとしていたんです?


肆日:あられ。


十:ダメだ。


如月:ダメですね。


肆日:ダメかなあ。


十:ダメダメだ。


如月:どう転んでもダメでした。


肆日:そんなにかぁ……


如月:という訳で、肆日の案も却下。


肆日:くそう……

   あ、じゃあ柿の種だったら?


十:全然ダメ。


肆日:ダメか……

   あっ、じゃあじゃあ、煎餅は?


如月:一向にダメです。


肆日:一向にダメかぁ……


十:というか、「あっ」って言うのやめてくれる?

  全然斬新じゃないし、ほとんど系統変わってないし。


肆日:福豆。


十:お菓子かどうかすら微妙なラインになったよ。


如月:それは節分で使ってください。


肆日:鬼はぁー外ぉー。


十:福はぁー内ぃー。


如月:バレンタインの話をしてるんですけど。


肆日:すみませんでした。


(間)


十:……で?


如月:はい?


十:いや、「はい?」じゃなくて。

  如月の案は?


如月:ああ……

   ……えっと……


肆日:え、まさか……


十:……え、嘘でしょ?

  此処まで引っ張っといて……え?


如月:………………


肆日:……無い……の?


如月:……ごめん。


十:………………


肆日:………………


如月:……いや、違うんだよ、一生懸命考えたさ。

   どうやったら、毎年悔しい思いをせずに済むんだろう。

   どうしたら、周りを見返して、バレンタイン……「バにがし」を、謳歌出来るんだろうって。

   けどさ。

   結局、どこをどう考えて、どう考えを煮詰めていったって、最後には……

   同じ答えに、辿り着くんだ。


肆日:同じ、答え……


如月:うん。

   ……バレンタインが憎い訳じゃない。

   バレンタインをきっかけに芽吹くカップルが、恨めしい訳じゃない。

   そんな浅はかな想いじゃなくて、もっと単純な願望が、心の奥底からずっと消えてくれないんだよ。

   ……ああ、そうだ……

   みんなと同じように、バレンタインしたい……

   バレンたいんだ、って。


十:……うん、……ん?


肆日:えっと……えっ?

   あの……


如月:分かってるよ!

   みなまで言われなくたって、痛いくらい分かってる!

   「バから始まる甘々な何某対策委員会」の創設メンバーで、議長という大役まで担ってる奴が!

   ……言うに事を欠いて、本心では、甘々にバレンたかったなんてさ……


肆日:バレン……え、聞き間違い?


十:シー。

  本人は大真面目なんだ、せめてつっこむのは最後にしてやれ。


肆日:う、うん……?


如月:許される筈が無かった。

   許してもらえる筈が無かったんだ。

   でも、毎年毎年、こういう馬鹿な会議を開いてさ。

   3人で馬鹿みたいに、馬鹿な話をするのも、それはそれで、そういう時間も大好きだったんだ。

   馬鹿みたいな、馬鹿ばっかりだとしても。

   ……だから。

   毎度毎度、こんな馬鹿みたいな集まりに付き合ってくれる、他でもない馬鹿な2人には、いつになっても……

   とうとう今年の、今になるまで……口が裂けても言えなかったんだ。

   今年こそは一緒に、バレンた……

   バレンる、ん?

   バレ、バレンたろう、って……


肆日:無理しないで、無理しないで!!


十:分かった、分かっ……?

  いや、分かんない!

  なんかやたら馬鹿にされてる事以外何も分かんなかったけど、よく分かったから!!


如月:えっ……


肆日:ダメだよ、全然耐えられなかったよ!


如月:えっ、な、何が?


十:うん、もう全然ダメ!

  何にも頭に入ってこない!

  とりあえず如月が、根っからの馬鹿っていうのだけは、凄く良く分かった!


如月:ええ……

   折角、やっと本心で話せたと思ったのに……


肆日:本心で物凄く馬鹿にされてるって事だよね、それ。


如月:うん。


十:真顔! 即答!!


如月:いやぁ……事実だし。


十:おい!


肆日:ひっどい奴、親の顔が見てみたいね。


十:全くだ。

  ……まあでも、如月議長の本心は分かった。

  だったらもう、これ以上の不毛な議論は不要じゃないか、肆日?


肆日:そうだね。

   全く以てその通りだよ、十(つなし)。


如月:え、なに、何か仲間外れにされてません?


肆日:まさか。

   私達に限って、そんな事しないよ。


如月:……?


十:さて、議長さん。


如月:なに?


肆日:もう完全に、キャラ作り諦めたね……


十:全員の案は無し、もしくは却下。

  「バにがし」対策委員会議長本人は、バレンタインしたい。


如月:うん、バレンたい。


十:……うん、そうだな! バレンたいんだよな!


肆日:しまらないなあ……


十:それじゃあ、今年の2月14日、我々はどうする?

  決議。


如月:えー、今年のバレンタイン……「バにがし」は……


肆日:「バにがし」は?


如月:3人で……


十:3人で?


如月:……チョコを、交換し合います。

   反対意見があれば、どうぞ。


十:……異議無し。


肆日:異議無ーし。


如月:……ありがとう。

 

(間)



肆日:……じゃ、折角だし、いつものアレで締めとこうか!


十:ええ……やるの?

  あれダッサいからあんまり……


如月:ダサ……


肆日:あー!

   ここまで来て心折れないでー!

   ほらやるよ、早く!


十:もー……はいはい。

  やればいいんでしょ、やればー。

  いつでもどうぞー。


肆日:viva(ビバ)!


十:バにがし!


如月:(同時に)ビバニガシ!!

十:(同時に)ビバニガシ!!

肆日:(同時に)ビバニガシ!!


十:……うん、やっぱりクソダサいって。

  語呂悪過ぎだし、何回やっても全然合わないし。

  やめよ。


如月:クソ……


肆日:ああー!!

   だからそうやって!

   バカ! めんどくさいなもう、バカ!!

   もう中止! バレンタインも中止!

   よって対策委員会も全部中止!!

   やったね! 世界は平和になったよ!!

   ざまあみろってんだバーカ!!


如月:肆日が壊れた。​


十:相当我慢してたんだなあ。


肆日:……ああ、ごめん。

   つい、建前という名の本音が。


十:大丈夫だ、肆日。

  此処にいる全員、それ言っちゃったらおしまいだから言わないだけで、心の中では同意見だから。​


肆日:言っちゃったじゃん。


如月:あーあ、肆日が言っちゃったー。


十:あーあ、言っちゃったからおしまいだなあー。


肆日:あーあ、言っちゃったからおしまいかあー。


十:あーあ。


肆日:あーあ。


如月:あーあ。

   言っちゃったーけど、おしまいになると思ったら大間違いだァ!!


十:(同時に)な、なにィイーーー!?

肆日:(同時に)な、なにィイーーー!?


十:……はい。

  結局、例年と全く同じ結果になりました。


肆日:今年も駄目だったなあ。

   どう頑張っても、最終的に3人でチョコを交換する会になってしまう。


如月:もういっそ、最初からそれで良くない?


肆日:え、議長が真っ先にそれ言っちゃう?


十:この3人でチョコを渡し合う事に、ロマンスを見出せるならそれで良いよ。

  はい、チョコ渡し合いました。

  ときめきましたか。


如月:ときめきません。


肆日:ときめきませんねえ。


十:ときめかないんだよなあ。


如月:……じゃあ、来年も、通常営業って事で宜しいですか。


十:異議無し。


肆日:異議無ーし。


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