【R・OO・M】

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(役表)

先輩♀

後輩♂

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先輩:私は怒っています。


後輩:そうですか。

   帰っていいですか?


先輩:待ちなさい。


後輩:何ですか。


先輩:早い。


後輩:何がですか?


先輩:帰りたがるのが早い。

   まだ起承転結の「起」に入ったばかりでしょうが。


後輩:だって、先輩がその切り出し方をする時って、大抵しょうもない話なんですもん。


先輩:そんな事無いでしょ。


後輩:ありますよ。

   むしろ、そうであった試ししかありません。


先輩:随分ずけずけと来るわね、今日は。

   例えば何よ、言ってみなさい?


後輩:前回は、「缶のコーンスープの最後の一粒が出なかった」、

   前々回は、「箸袋に入ってる爪楊枝が刺さった」、

   その前は、「缶のおしるこの最後の一粒が出なかった」、

   並びに、「缶のおしるこは粒が入ってるんだから、おしるこじゃなくてぜんざいじゃないのか」、

   更にその前は、「レシピ本の適量とか少々って何」。

   で、更に遡って一番最初の時ですら、


先輩:「どちら側のどこからでも切れません!!」


後輩:ですよ。

   しょうもないと言わずして何と言うんですか。


先輩:よく覚えてるわね。

   私ですら、今言ったうちの半分くらいは忘れてたのに。


後輩:覚えててくださいよ。

   完全に一時の感情に流されるがままじゃないですか。


先輩:……そう言われると、ぐうの音も出ないのは認めるわ。

   でも実際ね、少なからず、私の主張に賛同する意見もある筈よ。

   今改めて思い返しても許せないし、どれも日常生活を送っていく上での、重大なストレッサーでしょ。

   何と言うのかと問われればさしずめ、

   「人類が踏破すべき永遠のテーマ」と言っても過言ではないでしょうね。


後輩:過言ですよ。

   ただの日常の愚痴じゃないですか。

   おしることぜんざいの区別とか、地域によって違いますし、

   レシピ本の細かい所なんて、個人の匙加減に任せましょうよ。


先輩:論者が重大だと見なしたのならば、それは重大なのよ、覚えておきなさい。

   私が先輩で、あなたは後輩である以上、議場からの無断退席は許されないの。

   お分かり?


後輩:そうですか、分かりました。

   記憶の片隅の外側に置いておきます。


先輩:内側にして?

   どっか行っちゃうでしょ、それ。

   ……まあ、とにかくよ。

   ひとまず、話を聞くだけ聞いて。

   その上で、聞く価値が無いなって思ったら帰りたがって。


後輩:分かりました。

   流石にさっきのは、いくらなんでも早過ぎましたか。


先輩:ええ、そうよ。

   分かればよろしい。


後輩:はい、すみません。


先輩:でね、私は異を唱えたいんです。


後輩:帰っていいですか?


先輩:あのね、間髪を入れなさいよ。

   話進んでないでしょ?


後輩:すみません。

   帰りたい思いが先行し過ぎてしまって。


先輩:なんで今日はそこまで露骨に乗り気じゃないのか分からないけど、今は抑えておいて。

   そろそろ私のメンタルがめげそうだから。


後輩:はあ。

   で、今回は何ですか、藪からあげ棒に。


先輩:お腹空いてるのね。

   それは分かったから、お願いだから取り敢えず話を聞いてくれる?

   後で唐揚げ棒買ってあげるから。


後輩:あ、はい。

   ありがとうございます。

   で、何に腹を立ててるんですか。


先輩:やっと話に入らせてくれるのね。

   (咳払い)

   あのねえ。

   最近、「〇〇しないと出られない部屋」っていうのが急増してるでしょ。


後輩:ええ、言うほど最近の事でもないですけど。

   それがどうかしました?


先輩:増え過ぎなのよ。

   なに?

   みんな、イチャコラする為に、そんなに回りくどい理由と過程が必要なの?


後輩:その手の人達全方位に喧嘩を売る物言いですね。


先輩:いい?

   個人的な見解だけど、そのドキドキは、

   「〇〇をしないと部屋から絶対に出られない」という、

   一種の強迫めいた観念から来る擬似的な吊り橋効果であって、

   必ずしも相手を恋愛対象と見なしているとは限らないのよ。

   ましてやそんな、都合良く意中の相手と、都合の良い条件を満たしたら、都合良く部屋から出られるとか、

   むしろ怪しむべきでしょ、そんなの。

   当人達には得にしかならない、あまりにもご都合主義が過ぎるわ。

   何なら、どっちかが仕掛けた自作自演って言われた方が、説得力あるし、現実味もあるわよ。


後輩:そうは言いますけど先輩、そのブームに乗っかって、ひと財産儲けてましたよね?

   お得意の謎技術を駆使して、一部屋十何万円っていうぼったくり値段で貸し出して、

   そういういかがわしい企画に、幾度と無く喜んで協力を……


先輩:シー!

   バレなきゃ良いのよ、そういうのは。

   事実、良い財源になったでしょ。


後輩:まあ、今バレましたけどね。

   じゃあ何ですか、貸し出し業辞めるんですか?


先輩:違うの。

   今回は、身をもって体感してみようと思って。


後輩:はい?


先輩:頭ごなしに否定から入るのは良くない、っていうのは重々承知よ。

   とはいえ、いまいち人々がそういう部屋を求める意図が分からないっていうのも事実だから、

   実際に経験してみたら、その価値も分かるかなって。


後輩:やってみたいだけですよね?


先輩:勿論貸し出し業は続けるけど、やっぱり続けるなら需要というか、

   客層のニーズにも応えなきゃじゃない?

   だったら、どういう部屋が人気で、これからどういうのが流行るのかを先取りするのも、

   提供する側の義務だと思うわけ。


後輩:やってみたいだけですよね?


先輩:そういうのを理解しようと思ったらやっぱり、

   隠しカメラ越しに観てるだけじゃなくて、実際に当事者の気持ちになるのが一番だと思うのね。

   いや、本当は私個人の意志としては、そんなに興味は無いんだけど、

   ただ今後の為というか、研究の一端というか、

   人間の心理の奥深さを追求する重要なファクターとして、私自身の経験値をね?


後輩:やってみたいだけですよね?


先輩:やってみたいだけよ。


後輩:素直に最初からそう言ってください。

   そうやって意地張って回りくどい言い方するから、かえってこっちも面倒くさくなるんですよ。


先輩:じゃあ、素直に最初からそう言ってたら、付き合ってくれたの?


後輩:嫌ですけど。


先輩:知ってたわ。


後輩:え?

   ていうか、付き合うって、僕が入るんですか?


先輩:そうよ。

   やっぱり身近な人間の方が、興味深いサンプルになるかなって思って。


後輩:はあ。

   それはまあ、別に良いですけど。

   僕と、誰が入るんですか。

   先輩と親しい人間なんて、僕くらいしかいませんよね。


先輩:物分かりが良いのはありがたいんだけど、本当に今日は、

   人の心を土足どころか、スパイクで踏み締めて来るわね。

   一言一句の殺傷力高過ぎじゃない?


後輩:事実でしょう。


先輩:事実だけども。

   事実なら何でもかんでも指摘していい訳じゃないのよ。

   冷静に見えるけど、私のなけなしの乙女心はスクラップ寸前よ。


後輩:すみません。

   乙女心があるなんて考慮してなくって。


先輩:謝るのか追い討ちかけるのかどっちかにしてくれる?

   ……まあ、今は良いわ。

   キリが無いし、私の自尊心がもたないから。

   で、いい?

   あなたと、私も入るの。


後輩:は?


先輩:言ったでしょ?

   他ならぬ私自身が、まず体験してみたいって。

   だから、私とあなたが、2人で入るのよ。


後輩:……あの、先輩。


先輩:なに?


後輩:満を持して言うんですけど、バカなんですか?


先輩:そんな火の玉ストレートな暴言に満を持さないで。

   そろそろ満を持して泣くわよ。

   なんで?


後輩:だって、「〇〇しないと出られない部屋」って、

   入れられた2人共にとって、想定外の事態である事が大前提ですよね?

   なのに、その仕組みを知り尽くしてる当の先輩が入ってどうするんですか。


先輩:大丈夫。

   出る為の必要条件はあらかじめ、今までのパターンからアトランダムにしておいたから。

   私にすら、何をすれば出られるかは見るまで分からないから、

   実質、想定外と同じよ。


後輩:……相変わらず、妙な所で謎の技術発揮しますね。

   でも、ある程度はどうすれば開くかの攻略法も知ってるんじゃないんですか?


先輩:ある程度はね。

   けど、出る条件が明示されてるのに、それが実際にやるとなると躊躇しちゃうような内容だから、

   大体の場合まごつく訳でしょ。

   例えばだけどあなた、ベタ中のベタだけど、

   「キスしないと出られない部屋」とかになったら、そう簡単には出来ないでしょ?


後輩:先輩とですか?


先輩:そう。


後輩:キスを?


先輩:そう。


後輩:出来ますけど。


先輩:は?


後輩:そうと決まれば、さっさとやっちゃいましょうよ。

   どこにあるんですか、その部屋。


先輩:え、ああ。

   えーと。

   ……え、聞き間違いかしら。


後輩:どうかしました?


先輩:……いや、別に、何でも。

   ていうか、嫌がらないのね?


後輩:え?


先輩:いや、自分で言うのもなんだけど、完全に私の独走からの無茶振りなのに、

   随分と簡単に乗っかってくるんだなあって。


後輩:だって、何だかんだで最終的にやる事になるなら、もう最初から乗った方が早いじゃないですか。

   駄々捏ねられて泣かれたりしたら、それこそ一番面倒くさいですし。


先輩:あなたの中の私って何歳児のイメージなの?

   駄々捏ねて泣いちゃうレベルなの?


後輩:やるなら早くしてくれませんか。


先輩:えっ、あー……はい。

   なんか、ごめん。

   えーっと、で、その部屋なんだけどね。

   ここなのよ。


後輩:はい?


先輩:この一室を、ちょちょいっと改造して、

   入る事は出来ても、条件を満たさないと出られないようにしたの。

   しかも、より意匠を凝らして、満たさなきゃいけない条件は3個という、

   ガチ勢御用達のスペシャル仕様よ。

   ただの普通の部屋だと思って油断したわね。


後輩:どこからガチ勢なのかとか、何がスペシャルなのかとかはさっぱり分からないですけど、

   何て言うか、ゴキブリホイホイみたいな仕様ですね。

   僕や先輩じゃなくて、赤の他人がこの部屋に間違って入ってたらどうするつもりだったんですか。


先輩:そうしたら、この部屋の実用性を測るサンプルが増えるだけよ。

   むしろ良い事だわ。


後輩:そうですか。

   で、何ですか?

   その3つの条件って。


先輩:……いつもの事だけど、怖いくらいブレの無い効率重視で、順応かましてくるわね。

   この急展開と状況の変化に、少しくらい動揺とかしないの?


後輩:いや、別に。

   先輩の奇行にはもう慣れましたし、早く帰りたいんで。


先輩:奇行とまで言わなくても……

   確かに否定は出来ないけど、言い方よ。

   ドライなのも失礼なのも、一貫してブレないわね。

   いっそ、一周して見習いたいまであるわ。


後輩:そういうの良いですから。


先輩:はいはい、ごめんなさいね。

   ……えーっと、で、3つの条件ね。

   そこの端末に送られてきてるはずだから、見てみて。


後輩:普通にスマホって言えば良いじゃないですか。


先輩:これを読んでる人の時代には、もうスマホって呼び方じゃないかも知れないでしょ。


後輩:何の話をしてるんですか?


先輩:何の話かしらね。

   私も、今の自分の台詞はよく意味がわからないわ。


後輩:大丈夫ですか先輩。

   若年性の何某かだったりしません?


先輩:そーゆーのはもう良いから、さっさと端末を見る。


後輩:あ、はい。

   ……えーと、

   ①「10回しりとりを続けないと出られません」

   ②「どちらかが本気で好きと言わないと出られません」

   ③「条件選択中……」

   だそうです。

   ……なんか、随分条件がゆるいですね。

   3つ目はまだ出ないみたいですけど、好きって言うにしても、どっちかだけで良いみたいですし。


先輩:試験的に入れといたやつも入ってたのね。

   まあ、いきなりとんでもない条件出されても困るし、ちょうど良いんじゃない?


後輩:良いんですかね。

   乗り気だった訳じゃないですけど、なんか、ひねりが足らないような。


先輩:何なら、条件選び直しても良いけど?


後輩:どれくらいあるんですか、他に。


先輩:20とか30とか、それくらいじゃないかしら。

   流石に内容までは、全部は覚えてないけどね。

   今回みたいに何でもない物から、とんでもない物まで多種多様な。


後輩:何でもないですか、これは。


先輩:私は別に、何でもないかなあ。


後輩:……あの、先輩。

   ひとつ良いですか。

   この機会に言うのも、どうかとは思うんですけど。


先輩:どうしたの。

   それはまた何か、私の心を抉る感じのやつ?


後輩:付き合って下さい。


先輩:……今、なんて?

   ん、えっ?

   え、なんで!?


後輩:ですから、付き合って下さい、と言ったんです。

   なんか、成り行きみたいな告白になったのは不本意ですけど。

   僕は以前からずっと、先輩に想いを寄せていたんです。

   素直になった時の反応が怖くて、つい冷たい物言いばかりしてしまってたんです。

   これまでの度重なる失礼な物言いは、この場を借りて謝ります。 

   ……でも、この気持ちだけは本物ですし、ちゃんと、本気です。

   僕は、先輩が好きです。

   僕と付き合って下さい。


先輩:……い、いや、え?

   だって、あの……

   ……ごめん、ちょっと待って。


後輩:何ですか。


先輩:いや、その……急過ぎない?

   心の準備とか、まるで出来てなかったんだけど。

   というかそもそも、まさかそっちから来るとは思ってなかったし。


後輩:心の準備なんて、そんなの待ってたら、いつまで経っても出られないでしょう。


先輩:それは……まあ、そうかもしれないけどさぁ……

   そうだとしても、流れるようにさらっと告白してくるのも驚きだし、

   かと思えば、またいつものトーンにしれっと戻るし……

   温度差が激し過ぎじゃない?


後輩:……そうですかね。

   それより、あと1つですよ。


先輩:え、何が?


後輩:脱出条件。


先輩:え?

   3つ無かったっけ?


後輩:はい。

   だから、さっき好きって言いつつ、しりとりも10回続けたじゃないですか。

   ほら、①と②が達成済みになってるでしょ。

   何故か未だに③が表示されないんですけど、壊れてるんじゃないですか、これ。


先輩:え、しりとりしてた?


後輩:してましたよ。

   先輩だって、ちゃんと続けてたじゃないですか。


先輩:そうだっけ……覚えが無いんだけど。

   ……で、え?

   ②も達成してるって事は、さっきのはマジの本気で、好きって言ってたの?


後輩:はい。


先輩:流れ的に仕方無くじゃなくて?


後輩:はい。

   僕なりに、マジの本気で言いました。


先輩:にしては、不気味なくらい仏頂面崩さないわね……

   ……というか、むしろなんか怒ってない?

   気のせい?


後輩:まあ、多少。


先輩:なんで?


後輩:なんでだと思います?


先輩:……ええ……?

   いや、ごめん、分かんない……

   やっぱり、こんなのに巻き込んだから?


後輩:まあ、それもほんの少しはありますけど。


先輩:あとは?


後輩:返事が来ないからですよ。


先輩:返事?


後輩:僕の、好きって意思表示に対しての返事。

   うやむやにして話進めようとしてますけど、このままはぐらかすんですか。

   それ、いくらなんでも、薄情過ぎやしません?


先輩:え、あー……

   そ、そうね、確かに。


後輩:どうなんですか。

   仏頂面なりに、絞り出したつもりだったんですけど。


先輩:……えーっと……


後輩:………………


先輩:と、取り敢えず、少し時間もらっていい?

   ちょっとあの、想定外過ぎて……今、うまく頭回ってないのよ、私。

   ちゃんとした返事は、後で絶対返すから。


後輩:……まあ別に、それでも良いですけど。

   そうは言っても、だから、3つ目が端末に全然表示されないんですよ。

   これじゃあ脱出しようが無いじゃないですか。


先輩:そういえばそうだった。

   おかしいわね、ちょっと見せて?


後輩:はい。


先輩:……あ。


後輩:なんですか。


先輩:壊れてる。


後輩:は?


先輩:エラーのままフリーズしちゃった。


後輩:何ですかそれ。

   条件が分からないんじゃ、ただの出られない部屋じゃないですか。

   ……もしかして、これが先輩の真の狙いですか?

   何だかんだと言いくるめて僕と自分をここに閉じ込めて、

   先輩の本当の目的は、僕の貞操ですか。


先輩:そんな訳無いでしょ。

   確かに自作自演の方が説得力も現実味もあるとは、私が自分で言ったけども。

   そこまで色々こじらせてはいないわ。

   落ち着いて、らしくないわよ。


後輩:すみません。


先輩:あくまでこの端末は表示するだけだから、部屋自体は、条件を満たせば開くはず。

   ……たぶん。


後輩:たぶん?


先輩:たぶん。


後輩:確証は無いんですか。


先輩:無い……


後輩:………………


先輩:ご、ごめん。

   私もまさか、こんな事になるなんて思ってなくて……

   でも、流石に何しても開かないなんて事にはならないはずだから、

   取り敢えず、試してみるだけ試してみた方が、


後輩:……じゃあ、先輩が何やるか決めて下さい。


先輩:え?


後輩:脱出条件の、何パターンかは知ってるんですよね。

   だったら、それをどんどん出してって下さい。

   僕はそれに従うので。


先輩:それでいいの?


後輩:良いですよ。

   完全に当てずっぽうでやるより、当てられる確率も高いでしょうし。


先輩:……後で、文句言わない?


後輩:それは内容によります。


先輩:ちょっと躊躇っちゃうから、そこは嘘でも「言わない」って言って。


後輩:後で文句は言いません。

   嘘ですけど。


先輩:……こんな時ですら、清々しいくらい融通利かないわね。

   この際もう、それでも良いわ。

   覚えてる限り言っていくから、忠実にやってね。


後輩:はい、お願いします。


先輩:じゃあ、まずは……



(間)



先輩:中略、


後輩:数時間後。


先輩:……いやー、それにしても時間掛かったわね。

   うわ、もう外真っ暗じゃない。


後輩:そうですね。

   散々色々やったのに、まさかあんな簡単な条件とは、思いもよりませんでした。


先輩:本当よね。

   ……本当、一生分の恥ずかしい思いをしたのを嘲笑われてる気分だわ……


後輩:まあ、良いじゃないですか。

   結果論ではありますけど、僕達の煮え切らない関係も終わった事ですし。


先輩:煮え切らないって、自分で言っちゃうのね……

   ……まあ、それに関しては同意するけど、随分満足げな顔してるわね?


後輩:そんな顔してますかね。


先輩:してるわ。

   部屋出た時から、ずっとしてる。


後輩:それは失礼しました。


先輩:どうしてか、当ててあげましょうか。


後輩:はい?


先輩:思惑通り、だからでしょ?


後輩:何がですか。


先輩:とぼけても駄目。

   端末に細工して、簡単に出られなくしたの、あなたでしょ。


後輩:……さあ、何の事やら。


先輩:部屋と端末を準備した張本人の私が、分からないと思った?

   私に振り回されてたフリしてその実、あなたの掌の上だったわけよね、全部。

   どこからが計画だったのか知らないけど、末恐ろしいわ。

   これから付き合う相手がこんなのだなんて。

   体がいくつあっても足らなさそう。


後輩:人聞きの悪い。

   そう思いたいのなら、そういう事にしておいてくれて良いですよ。


先輩:嘘が下手ね。

   今ならその仏頂面の下、全部見えるわよ。

   ちなみに今は、ここに来て全部バレて、内心焦ってる、って顔してる。


後輩:はいはい。

   それより、先輩はどうなんですか。


先輩:何が?


後輩:「○○しないと出られない部屋」、実際に体験してみて。

   求める人の気持ち、少しは分かりました?


先輩:あー……

   ……まあ……分かったわよ、うん。

   ご都合主義も、本人達にとってはハッピーなんだもんね。

   ちょっとは、気持ちも分かったわ。


後輩:へえ。


先輩:ちょっと、ね。

   ほんのちょっとよ。

   少なくとも、私はしばらくは御免だわ。


後輩:そうですか。


先輩:……なに、その顔。


後輩:いいえ、別に。


先輩:うわ、今日イチで悪い顔だわー、むかつく。

    ……さて。

   流石に、もう帰らないとね。


後輩:そうですね。

   僕は最初からですけど、お腹も空きましたし。


先輩:私も、もう空腹が限界だわ。

   何か買ってかない?


後輩:じゃあ、リクエスト良いですか。


先輩:どうぞ。


後輩:唐揚げ棒。


先輩:賛成。


後輩:先輩の奢りですよ。


先輩:はいはい、分かってるって。

   ……それじゃ、帰りましょうか。


後輩:はい。


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