R.A.D.E -レイド-

(登場人物)

・ライト=アーヴェルング:♂

UMIに所属するR.A.D.Eのパイロット。25歳。

パイロットになってから日が浅いが順応力が高く、新型もすぐに乗りこなす。

また、技師志望だったことから、機体のミリ単位の精密操作を得意とする。

階級は一等軍曹。

決断力と正義感は、組織内でも随一。


・レオ=フィルダート:♂

ライトと同じく、UMIに所属するR.A.D.Eのパイロット。25歳。

身体能力は並だが、類稀な射撃技術を持ち、R.A.D.E搭乗時でも遺憾無く発揮できる。

主に戦闘では狙撃での先制攻撃及び奇襲を担当し、「楽な仕事」と宣っている。

幼い頃からの腐れ縁で、何かとライトの世話を焼く。

階級は曹長。

シャルロッテに好意を抱いているが毎回軽く流される。


・アロイ=リヒタルト:♂

R.A.D.Eのパイロット。30歳。

ガレンに劣らない実力を持つが、目立つのが嫌いだからという理由でガレンに首位を譲っているという説もある。

高い状況判断能力となんでもこなす万能性を買われ、中尉まで一気に昇り詰めた。

階級に恥じない操縦技術を持っており、場面を選ばず安定して力を発揮する。

戦場にいる時は厳しく容赦のない一面もあるが、普段は温和な性格。

・ガレン=シュウラ:♂

R.A.D.Eのエースパイロット。33歳。

階級は大尉。

演習での個人成績は常に首位であり、白兵戦を中心とした卓越した操縦技術は他の追随を許さない。

やや性格に難があるものの、小隊長としても優秀で間違ったことは言わない。

努力で中尉まで昇ってきたアロイに何かと突っかかるが、なんだかんだで認めている。


・シャルロッテ=メイオ:♀

UMI所属の情報処理技術者兼、戦闘オペレーター。

24歳、愛称は「シャル」。

若いながらも他の追随を許さない情報処理能力を備え、何事にも冷静に対処する。

ただ冷静過ぎて他人への配慮が苦手だったり、予想外の事態の対応に難がある。

しかし彼女がオペレーターを務めた小隊はことごとく全員生還しており、絶大な信頼を得ている。

階級は三等准尉。

R.A.D.Eパイロットの経験有り。

・アニス=フォン=トルーマン:♀

UMI最年少のオペレーター。19歳。

何かとオーバーリアクションだが度胸が座っていて、立ち直るのも早い。

シャルロッテとは凸凹コンビと呼ばれ、噛み合っていないようで意外と仲がいい。

最年少且つ最低階級でありながら、ムードメーカーを担う大物。

階級は伍長。


・グリードルフ=G=シュマイダー:♂

UMI本部参謀長官、のちUMI連合軍艦隊艦長。

54歳、通称はグリード。

射撃技能、体術、操縦技術、戦略頭脳全てにおいて優れた才能を持つ。

巨漢で強面だが人格者で、部下からの信頼も極めて厚い、ガレンすら認める「非の打ち所の無い上司」。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

ライト:

レオ:

アロイ:

ガレン:

シャル:

アニス:

グリード/N:

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


N:西暦、2251年。

  第四次世界大戦勃発に伴い、軍事力で拮抗していた各国は、新たなる兵器に手を伸ばす。

  試験的に開発されていた、汎用人型機動兵器、通称・R.A.D.E(レイド)。

  比較的単純な操作系統でありながら、数多の重火器を携行可能であり、

  操縦者の実力次第では、小国をいとも容易く焼け野原にしてしまうポテンシャルを秘めたこの新兵器は、

  瞬く間に最前線に投入され、戦闘機や戦車を用いた戦争とは比較にならない、大戦火を巻き起こした。

  大戦終結後もその傷跡は深く、これを受けて世界は、各国から優れた軍人を選抜し、

  国際警察の更に上に位置する軍事的治安維持組織、通称・世界連合機動捜査局軍、略称UMIを結成。

  UMIは、主要国家に拠点を置き、各地の内乱・紛争やテロ行為に対し、

  R.A.D.Eを主軸とした、武力による無力化、鎮圧を任務とする組織である。

  紛争行為に荷担した者への処罰がより厳しくなってからは、テロ組織の活動も二極化し、

  大戦後、不法投棄されたR.A.D.Eを無断回収、違法改造し、利用する過激派も現れ始める。

  宇宙開発も進む23世紀。

  人類は未だ、真の平和を得られずにいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


UMI合同演習場)


ガレン:おらぁ10機目!!


アロイ:ガレン、あまり先行するな。

    連携を取らないと総得点は下がるんだよ。

ガレン:うっせーよ、アロイ。

    俺らの陣形は元から、俺の単機先行、残りのお前ら3機での後方援護だろうが。

    俺が出過ぎなくらいがちょうどいいんだよ。

    無理に足揃えようとされても足手纏いだ、邪魔くせえだけだっつーの。


アロイ:はぁ……はいはい。

    ライト、レオ。

    悪いけど、ガレンもこう言ってるし、フォーメーションもいつもと同じだ。

    如何に彼が白兵戦で無類の強さを誇っていようと、多勢に無勢じゃ不利だ。

    出来る限り、彼に4機以上近づかせないように。


ライト:了解!


レオ:了解です!

   ライト、俺は遠くの狙撃機を集中的に狙う。​

   お前は、足の遅そうな重火器持ってる奴を、迅速に撃墜してくれ。

   取りこぼしはアロイさんがやってくれる。


ライト:あ、ああ!


アロイ:あんまり僕に頼り過ぎないようにね。

    ただでさえ、ガレンのサポートだけでも、敵機を破壊するより大変なんだから。


レオ:はははっ、全く。

   謙遜してるふりして余裕かましてくるんだから、恐ろしい人だよ。

   ……おっと、そんなんで隠れてるつもりですか~? っと。

   オッケー、狙撃型全滅確認、実にクリアな戦場だね。

   ライト、そっちはどうだ。


ライト:いっぱいいっぱいだよ馬鹿!

    拠点制圧型複数に、一人で挑めなんて無茶言うなよ!


レオ:そこを難なく切り抜けてこそ、次なるエースパイロット様だろー。


ライト:ふざけんなぁ!!


アロイ:レオ、演習とはいえ遊び過ぎだよ。

    狙うべき場所は、分かってるね?


レオ:言われなくても、ってね。

   そんじゃぁま、助け舟出しますか。

   そらっ!


ライト:……あれ、弾幕が止んだ?


レオ:ライト、メインカメラを撃ち抜いたから、もうそいつらはただの木偶の坊だ。

   お得意の一刀両断にしてやりな。


ライト:お得意のって……

    まあでも、恩に着るよ、多少は。

    せぇいっ!!


レオ:お見事お見事ー。

   だいぶ接近戦も、サマになってきたじゃん?


ライト:うるさい、薄情者。


レオ:なんだよー、褒めただけだろー。


ライト:誰のせいであんな目に遭ったと……!


ガレン:オイこらお前ら!

    無駄口叩いてる暇があったら、後ろにも気を配れ!

    イタチの最後っ屁だ、3匹伏兵潜んでんぞ!


ライト:げっ、ステルスの接近型!?

    しまった!!


レオ:ライト!!

   くそっ、距離が近すぎる!

   そこから全速のバックブーストで離れろ!!


ライト:ダメだ、間に合わ……!!


​(間)

アロイ:……ふぅ。

    これは大幅減点対象だよ、ライト。


レオ:……パルスナイフ3本を、あの一瞬で投擲して、全部コックピットに……うへえ。


ガレン:ったく……

    だから油断すんなっていつも言ってんだろうが。


ライト:す、すみません。


シャル:……全機沈黙を確認、お疲れ様でした。

    ガレンチーム、演習を終了。

    得点を集計しますので、すぐに帰投してください。


ガレン:了解。

    ガレン=シュウラ、これより帰投する。


アロイ:アロイ=リヒタルト、帰投します。


レオ:ライト、どうやら今回の勝負も、また俺の勝ちみたいだな。

   約束通り、昼飯奢れよー?

   レオ=フィルダート、帰りまーす。


ライト:はぁ……これで通算、12連敗か。

    ライト=アーヴェルング、帰投します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


シャル:ガレンチームの皆さん、お疲れ様でした。


レオ:あ、シャルロッテちゃーん!

   どうだった、俺どうだった!?

   かっこよかった!?


シャル:残り6チーム全ての演習終了後、1、2時間ほどで得点の集計結果が出ますので、

    それまではご自由にお過ごし下さい。


レオ:完全無視……ッ!!


ガレン:ま、どうせ今回も、俺らのチームがトップだろ?

    結果は見るまでもねーよ。


アロイ:ガレン、あんまりそういうのは、他のチームがいる前では……


ガレン:ハッ、文句があるなら言葉じゃなく、レイドの腕で語れっての。

    俺はしばらく寝る。

    シャル、なんかあったら通信よこせ。


シャル:分かりました。


レオ:……あーあ、あれくらい自信満々な男になってみてえ~。


アロイ:あそこまでになる必要は無いけれどね。

    なんだかんだ言っても、ガレンはUMIのエースだ。

    操縦技術じゃ、1対1、いや、2対1でも勝てるパイロットは、何人もいるかどうか……


レオ:いやー、味方で良かったですよ、ほんと。

ライト:あれ、そういえば、長官は?

シャル:グリードルフ長官は現在、UMI首脳会議の為、出張中です。

    おそらく、お戻りになるのは来週になるかと。


ライト:そっか。


レオ:首脳会議?

   あれって、ついこないだやったばっかじゃなかったっけ。


シャル:今回は臨時会議です。

    招集がかかったのも、つい一昨日の事ですので。


レオ:はぁ~……大変だなぁ。


ライト:……あ、そうだ、シャルロッテさん。


シャル:はい?


ライト:演習の映像記録って、録ってあるかな。


シャル:ええ、全て録ってあります。

    データは既に、管理コンピューターに保管してありますので、

    データベースを検索すれば、他のチームの物も閲覧可能です。


レオ:なに、反省会でもすんのか? ライト。


ライト:まあね。

    俺はどうも、ステルス型に咄嗟に反応しきれないんだ。

    いくらそういう技術をテロリストが持ってないとはいえ、

    いざという時に対応できないんじゃ、命がいくつあっても足りない。


レオ:ふーん、相変わらずガリ勉君だこって。

   俺には、そういうのは向いてないなあ。


アロイ:そうでもないよ、レオ。


レオ:えっ。


アロイ:君も、さっきの演習の中で、改善すべき部分は多かった。

    時間があるんだったら、一緒に見直してみたらどうだい?


レオ:うぐ……ハーイ……

   ……あんだけ動き回りながら、ちゃっかり他のも見てんだもんなー。

   目いくつ付いてるんだか……

   とりあえずさ、先に飯行こうぜ、ライト。

ライト:ああ。

    あ、アロイさんも来ますか?


アロイ:いや、僕は他のチームの演習も見ていくよ。

    二人で行っておいで。


ライト:分かりました。

    それじゃあ、また後で。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(食堂)

レオ:さーてと、何食おうかなー。

   今日はライトの奢りだし、ちょっと贅沢しちまおっかなー。


ライト:勘弁してくれよ。

    俺だって、今そんなに持ち合わせがあるわけじゃないんだからな?

レオ:冗談だって。

   とりあえず、席とっといてくれ。

   お前の分も頼んどいてやるから。

ライト:ああ、わかった。

    俺のは、レオのと同じやつでいいから。


レオ:おう。


(間)

ライト:さて、と……

    今のうちに、少しでも見直しておくかな。

    統合サーバーにログインして、映像ファイル、演習……の、

    ガレンチーム……ガレン……Gだからもうちょい下か……


アニス:あ、あのぉ~……


ライト:え?


アニス:しょ、正面いいですか?

    他にどこも空いてなくって……


ライト:ああ、どうぞ。

アニス:あっ、ありがとうございます。


ライト:珍しいね。

    こんな一番混んでる時間帯に、オペレーターの君がここにいるなんて。


アニス:そうですよね……

    普段は空いてる時間に、シャルロッテさんと一緒に来るんですけど、

    なんだか今、すごい忙しいらしくって、先に行っていいって言われちゃって。


ライト:そっか。

    それにしても、意外だな。


アニス:え、何がですか?


レオ:お待たせー。

   あれ、アニスちゃんじゃん。


アニス:あ、レオさん、こんにちはー。


レオ:おう。

   珍しいねー、この時間に、アニスちゃんが食堂にいるなんて。


ライト:レオ、もうそのくだりやったから。


レオ:俺はやってない。

   で、なんの話してたんだよ、恋バナ?


ライト:違うよ。

    シャルロッテさんとアニスがさ、仲が良いのが意外だって話。

    まあ、もちろん良い事なんだけどさ、典型的なくらい、真逆な二人だから。


レオ:あー、それは確かにな。


アニス:そんなに違いますか? 私達。


レオ:そりゃあもう。

   かたや冷静沈着、UMI内で誰も笑ったところを見た事が無いという大人オペレーター! と、

   かたや純粋無邪気、ある意味UMIのアイドル的存在の子どもオペレーター!

   真逆だよ、真逆。


アニス:子どもってひどい!

    これでもちゃんと、みんなと同じように任務受けて、ちゃんとそれをこなしてるんですから!


レオ:あははっ、ごめんごめん。

   大したもんだと思ってるよ、ホント。


ライト:……?


レオ:んぉ?

   どーした、ガリ勉くん。


ライト:その呼び方は止めてくれ。

    いや、なんか、データが飛び飛びなんだよな……

    いくつか消えてるやつがあるみたいで。


レオ:んー……?

   ……ホントだ。

   管理コンピューターのバグかなんかじゃね?

   そこまで気にすることじゃねえだろ、たぶん。


ライト:……それもそうか。

(通信)

アロイ:二人共、食事中にすまない。

    ちょっといいかな。

レオ:うぉう!!

アニス:あ、アロイさん。


アロイ:ああ、アニス君もいたのか、ちょうどよかった。

    実はね……

シャル:至急お伝えしたいことがあります。

    今すぐに、第5ロビーまでお越し下さい。


アロイ:そういうこと。


ライト:了解。

    行くよ、レオ。


レオ:はーいはい。


アニス:えっ、ちょ、二人共いつの間に食べ終わっ……

    ちょっと待ってくださいー!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(第5ロビー)


ライト:ライト=アーヴェルングです。


レオ:並びに、レオ=フィルダート。


シャル:はい、どうぞ。


ガレン:おう、おせーぞお前ら。


ライト:あれ、ガレンさんも呼ばれてたんですか?


ガレン:まあな。

    ちょーど気持ちよく寝れそうってなった途端に、シャルに大音量でアラーム鳴らされてよ。

    寝るに寝れなかったんだよ。


シャル:申し訳ありません。

    ですが、急を要したので、最善且つ最速の方法をとらせていただきました。


ガレン:あーそうかいそうかい。

    何の用件だか知らねえが、いいからさっさと始めてくれ。


アニス:す、すみませんっ!

    アニス=フォン=トルーマンっ、ただいま参りましたっ!

    ぜぇっ……ぜぇっ……


レオ:あれ、一緒にいたのに遅かったね。

   何してたの。


アニス:お二人が食べるのが早すぎなんですっ!


レオ:そうかなぁ。


アロイ:ほらそこ、静粛に。

シャル:よろしいですか?

    ……では、お待たせしました、長官。

レオ:えっ、長官?

(大型モニターにグリードルフが映し出される)

グリード:ああ。

     ガレンチームの諸君、この時間だと、ちょうどそろそろ合同訓練も終わる頃か。

     まずはお疲れ様、と言っておこう。


ガレン:そろそろ、シミュレーターの難易度調整を検討したほうがいいんじゃねえんですかい?

    あんなんじゃ、楽勝すぎて逆に調子が狂っちまう。

アロイ:ガレン。


ガレン:なんだよ、事実だろうが。


レオ:ガレンさんの人間離れした感覚に合わせられたら、誰もクリアできないんじゃ……


ライト:聞こえるよ、レオ。


グリード:はは、まあ、考えておこう。

     ……それより、だ。

     大至急で集まってもらったのは他でもない。

     君らは、この機体に見覚えが有るかね?


(モニターの画面が切り替わり、赤い機体が映る)


アロイ:これは……


ガレン:……見覚えもなにも、な。


ライト:真紅色の……レイド?


レオ:いや、こいつは……レイドに似てるけど……

   何かが違う……?


アニス:なんです、この機体……?


シャル:『R(アール)』。

    5年前に突如として現れ、世界各国の軍事組織を襲撃し、単独犯であったにも拘わらず、

    レイド計32機、戦車を含む戦闘車両50台以上を破壊、200人を超える死傷者を出し、

    現在も、所属やパイロットも明らかになっていない、神出鬼没の指名手配機です。


ライト:単機で?


シャル:そうです。

    何度となく襲撃を繰り返していますが、一度も僚機を連れていた記録はありません。


ライト:そんな馬鹿な……


レオ:とんでもねえのもいたもんだな。

   文字通りの化物じゃんよ。


グリード:ライト、レオ、アニスにとっては、UMIに配属されるよりも前の話だからな。

     知らないのも無理はない。

     逆に、他の3人にとっては、記憶に新しいだろう。


シャル:そうですね。

    出来れば、思い出したくはない名前でした。


アロイ:一度、僕とガレンの二人で半壊まで追い込んでから、全く消息が途絶えていたが……

    まさか、奴が活動を再開した、と?


グリード:残念ながら、そのまさかだよ。

     つい先日の事だ。

     首脳会議の最中、の管理下にある軍事工場の一つが、

     この『R』らしき機体に襲撃されたとの報告があった。

     建物はほぼ全壊、死傷者も、50人近くに上る。


アニス:そんな……


レオ:いや、でもちょっと待って。

   警備兵団は何してたんだよ。

   軍事工場の警備には、高性能型が最低でも10機以上は配備されてるはずだろ。


ガレン:バーカ。

    俺でさえ手を焼いた機体だぞ。

    あんな機体性能だけに頼ってる奴らに、こいつの相手が務まるわけねえ。


レオ:そう言われちゃうと……確かに。


アロイ:それにしても、妙だな。


ライト:何がです?


アロイ:いや、この機体……

    長官、これは、先日の映像なんですよね?

    5年前のではなく、つい先日の。

グリード:そうだ。

     シャル、ガレン、アロイはもう気付いているとは思うが、

     この機体の恐ろしいところはそこにある。


アニス:……もしかして……

    機体のカスタマイズがほとんどされていない、とか?


レオ:え?


アニス:だって、確かにところどころ既存のレイドと違う箇所は見られますけど、

    大半は目立った改造も施されてない、素体のままですよ。

    しかも、映像を見る限り、強力な火器を搭載してるわけでもなさそうです。


ライト:確かに……

    強いて言えば、異様に尖ったフォルムをしてるくらい、か?

    でも、それにしたって……


アロイ:そう。

    この機体は、初めて姿を現してから、僕らと戦った時もそうだった。

    火器は全てその場で調達し、撃ち尽くしたら、撃墜した機体から奪う。

    余計な物を何一つ積んでいないから、その分、異常なまでに軽量化されてる。

    尖った形状をしているのも、空気抵抗を可能な限り減らす為だろう。

    事実、僕とガレン以外のその場にいた機体のほとんどは、パルスナイフ1本で制圧されてる。


シャル:この機体の計算上の機動力は、UMIが保有する最高性能のブースターを積んだレイドの、

    およそ2.78倍にもなる、とされています。

    正面からの戦闘においては、一般兵の実力では、まず歯が立たないでしょう。


レオ:……はは、次から次へとまあ、とんでもない情報が出てきますことで。


ガレン:何だよ、怖気づいてんのか?


レオ:ま、まさかぁ。

   これはあれですよ、武者震いってやつですよ。

   ほら、演習用機体みたいな動く的相手じゃ、正直退屈してましたからねー。


ガレン:お、言ったな?

    んじゃ、もしもこいつと遭遇したら、俺は手出ししないからな。

    お前一人でやれよ。


レオ:えっ。


アロイ:ガレン、それは意地悪を通り越して、死刑宣告だよ。

    君でも僕でも、流石に1対1じゃ難しいだろ。


アニス:(小声)

    アロイさん、難しいとは言っても、無理とは言わないんですね……


ライト:(小声)

    ああ……ほんと、謙遜なのか自信家なのか分からないよ。


グリード:この情報はまだ、上層部以外でUMI内部で知っている人間はいない。

     数時間後には一斉通達が送られるだろうが、その数時間の間にも、

     『R』が別の場所を襲撃しないとも限らない。

​     そうなれば、大混乱は免れんだろう。

     UMI屈指の実力を誇るチームである、君達だからこそ話した事だ。

     被害を最小限に抑える為にも、他の者以上に、警戒にあたって欲しい。


ガレン:屈指じゃなく、トップの間違いでしょう。

    要するに、他の奴等じゃ到底手に負えっこねえから、引っ込ませておけって事でしょ。


グリード:そこまでは言わんがね。

     過去のように、戦果や名声に囚われ、勝手な行動をする者が出んとも限らん。

     それを防ぐ為にも、という事だ。


シャル:それでは、皆さんの個人端末にこの機体の情報を送ります。

    各自、十分に目を通して……


(警報)


ガレン:あ?


ライト:警報!?


アロイ:まさか……


シャル:アニス、確認を。



アニス:はっ、はい!

    ……合同演習場に、超高速で接近する熱源有り!

    信じられないスピードです!


ガレン:何倍だ?


アニス:2.78……3.2、いえ、3.5……まだ上がってる!?

    嘘でしょ……正気じゃないです、こんな速度!


ガレン:……フン、時を置いてますますって感じか。

    面白そうじゃねえの。


レオ:おいおいおいおいおい!

   噂をすれば何とやらにしたって、早過ぎんだろ!?


シャル:緊急警報発令、緊急警報発令。

    演習上に接近する、所属不明機が確認されました。

    現在演習中のチームは演習を中止し、直ちに帰投して下さい。

    繰り返します。

    演習上に接近する、所属不明機が確認されました。

    現在演習中のチームは演習を中止し、直ちに帰投して下さい。

    レベル4以上のチームは、各自出撃準備。

    ガレンチームの指揮に従い援護、接近機体に応戦して下さい。


グリード:……やはり、か……

     考えたくはなかったが、これは……


シャル:長官?

    どうかされましたか?


グリード:……いや、何でもない。

     それよりも、事は一刻を争う。

     恐らく『R』は、5年前よりも、更に強くなっていると予想される。

     ガレン、アロイ。

     お前達2人は、すまんが前線指揮を頼む。

     被害を最小限に食い止める為に、そして、UMIの存在意義を守る為に、だ。

​     ライトとレオは、2人のサポートに回れ。

     無理に相手はしなくていい。

     シャルとアニスは情報統制を行い、混乱の回避に努めてくれ。

     間違っても、先走るパイロットが出ないように。


ガレン:了ー解。


アロイ:了解しました。


シャル:はい。


アニス:りょ、了解です!


ライト:はい!


レオ:はーい!


グリード:では、各自出撃準備!

     無力化、又は鹵獲がベストだが、少しでも不可能と判断したら、即時破壊せよ。

     絶対に、1対1には持ち込まれるなよ。

     常に一定距離を取り、1対2以上を維持。

     いくら絶対的な機動力を持っていようと、レベル6の連携には手を焼くはずだ。

     UMIの威信と秩序にかけて、『R』なる過去の亡霊に、徹底的に抗戦せよ!!


アニス:カタパルトゲート、開きます!


シャル:『R』、演習場内へ侵入を確認。

    火器の携行は見られませんが、既に臨戦態勢に入っている模様。

    皆さん、お気を付けて。

ガレン:おうよ、言われなくても分かってらあ。

    ……さあて、『R』さんよ。

    あん時とどれだけ変わってくれたのか……見せてもらおうじゃねえか。

    ガレン=シュウラ、出るぞ!


アロイ:全く……過去の亡霊だなんて、悪い冗談で済ませて欲しかったな。

    ……『R』……出来れば君とは、二度と会いたくなかったよ。

    アロイ=リヒタルト、出撃します。


レオ:いや、マジで冷や汗が……手汗が止まんねえ、やべえなこれ。

   もう明らかに、やばい感じガンガンに伝わって来るもんなー……

   ……まあ、何とかなるっしょ!

   俺だって、何だかんだで最近活躍してるし!

   ……たぶんだけど。


シャル:レオさん、出撃を。


レオ:シャルロッテちゃんは相変わらずだし!

   こういう時くらい、優しい言葉の一つや二つあった方が、俺みたいな奴はね?


シャル:出撃を。


レオ:ハーイ、ワカリマシター。

   レオ=フィルダート、出まーす!


ライト:………………


アニス:……ライトさん? どうされました?


ライト:……あ、ああ……いや、何でもないよ。

    ちょっと、緊張してるだけで。


アニス:……あ、あはは。

    実は、私もだいぶ……


ライト:……けど、今は俺達がやらなくちゃいけないんだよな。

    それが、エースのチームの、宿命なんだから。


アニス:……そう、ですね。

    私達オペレーターは、こんな無責任な言葉しか送れませんけど……

    頑張って下さい、……お気を付けて。


ライト:ああ。


シャル:……無事に、戻って来て下さいね。


ライト:え?


シャル:……何でもありません。

    それよりも、一刻も早い出撃を。

    敵は、眼前まで迫っています。


ライト:了解。

    ライト=アーヴェルング、行きます!


レオ:ライト。


ライト:ん?

    何だよ、怖い顔して。


レオ:せいぜい後ろには気を付けるんだな……


ライト:何でだよ!


レオ:だってお前……なんでお前ばっかり……


ライト:そんなこと言われても……


アロイ:ほら、2人とも、お喋りはそこまでだ。

    来るよ!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


グリード:『R』が再び現れた、となると……

     我々も、覚悟を決めねばならんかもしれんな。

     ……過去の災厄には、過去の災厄を……か。

     全く、上層部はとんでもない事を簡単に言ってくれる。

     ……今のUMIの戦力では、『R』に太刀打ちしきれん事は明白、だが……

     今はその時ではない……いや、その時など、来てはならんのだ。

     『G.A.I.A(ガイア)』を、再び目覚めさせるなどと……

     絶対に、あってはならん。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━