Love & Pieces

(登場人物)

・香織(かおり):♀

・飴井(あめい):♂

・日越(ひごし):♂

・蜂野(はちの):♀


・翔(しょう):♂※名前のみ

香織と同棲中の彼氏。


​・水需(みずもと):♀※名前のみ

上5人の後輩。

・ニュースキャスター(C1~4)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

香織/C3:

飴井/C1:

日越/C4:

蜂野/C2:

​━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


C1:続いて、天気予報です。

   今日一日は全国的に雨となるでしょう。

   気温も例年より下がりにくく、ジメジメした過ごしにくい一日となりそうです。

   しかし、明日以降は一転して一気に晴れ間が広がります。

   今月は先月よりも更に天気が不安定なため……


香織:あー、やっぱりかぁ……

   よかった、今日にしといて。


(呼鈴の音が響く)


香織:あっ、来たかな。

   はーいっ!


日越:よう、来たぞ。

   雨の中、わざわざ来てやったぞ。


蜂野:お待たせー。

   ごめんね香織、飴井君が寝坊しちゃって。


飴井:だからぁ、それは何回も謝っただろー。


香織:ううん、こっちの方こそ、ごめんね。

   こんな雨の日に、引越しの手伝いなんて頼んじゃって。


蜂野:そんなのいーのいーの。

   どうせ私達だって、暇を食いつぶしてただけだし。


香織:あはは、なにそれ。


日越:あれ、水需は?

   ドタキャン?


蜂野:知らなーい。

   なんか、電話しても出ないし、寝てんじゃないの?


飴井:マジかよー、あいつ最悪だな。


香織:あ、水需さんだったら、今日来れないからって言って、一昨日来たよ。

   少しだけ手伝ってもらって、ゴミまで持って帰ってもらっちゃった。


蜂野:あ、そうなんだ。


飴井:なーんだ、サボりだったらそれをネタに、飯でもおごってもらおうと思ったのに。


香織:あははは。

   まあ、立ち話もなんだからさ、上がってよ。


日越:おう、さっさと片付けなきゃな。


飴井:お邪魔しまーっす。


蜂野:あ、ちょっとこら飴井君、靴くらい揃えなさいよ。


飴井:いいだろー、それくらい。

   お前は俺のお袋かよ。


香織:いいよいいよ、私がやっとくから。

   準備だけしといてくれる?

   軍手とかハサミとか、ゴミ袋とか散乱してるけど。


蜂野:ほんとごめんねー。

   全くもう、飴井君は香織をもうちょっと見習いなさいよね。


飴井:なんで俺ばっかに言うんだよ、日越だって……


日越:俺は、ちゃんと揃えてるから。


蜂野:あんただけよ、テキトーに脱ぎ散らかしてるのは。


飴井:あーはいはい、悪うござんしたー。

   それよか、とっとと始めようぜ。

   香織、どっからやればいいんだ?


香織:んー……

   正直、考え無しに詰め込んでたから、割とテキトーでいいよ。


飴井:いいのかよ……


蜂野:ま、とりあえず、大きいものからまとめていこ。

   香織、ダンボール箱ってまだある?


香織:うん、押入れにいっぱい入ってるはず。


蜂野:はいはーい。

   飴井君、あんた大きいやつ全部運んでね、一番力あるんだから。


飴井:お、おう。


日越:んじゃ、俺は先に、雑誌とか束ねとくわ。


香織:あ、うん、お願い。

   ビニール紐はたぶん……そのへんにあるから。


日越:そのへんってどこだよ。


香織:ごめん、分かんない。

   箱の中とかに無いかな。


日越:えーっと……あー、あった。

   ったく、しっかりしてくれよなー。


香織:あはは、ごめんごめん。


蜂野:ねえ香織ー。

   押入れからなんか、凄い大きい袋がごろごろ出てきたんだけど、これ何入ってんのー?


香織:あっ、ああ……それ?

   えっと、なんか、思った以上にいらない服とか、着ない服とかが多かったから、

   この機会に、全部捨てちゃおうと思って。


飴井:え、じゃあこれ全部服か?

   凄いな、45リットルの袋が1、2、3……4つ分?

   どんだけ服溜めてたんだよ。

   ていうか、よくクローゼットに収まりきってたな。


蜂野:まあまあ。

   女の子はおしゃれに敏感だから、そういうこともあるんだって。


飴井:そういうもんかなあ。


香織:ほんとは、もう1袋あったんだけどね。

   水需さんが欲しいって言うから、あげたの。


蜂野:あー、なるほどね。


日越:とりあえず、ちょくちょく休憩挟みながら、各々やれることをやってくか。

   香織、要る要らないの判断は、流石に香織に一任するぞ。


香織:あ、うん、分かった。


飴井:なんで日越が仕切ってんだよ。


蜂野:いいじゃないの、別に。

   あんたは黙って、手を動かしなさい。


飴井:へいへーい……


(間)


C2:17時になりました、ニュースをお伝えします。

   今日のピックアップニュースは……


飴井:おーい香織、なにのんびりテレビ見てんだよ!


香織:あ、ごめん、なんか気になっちゃって。


飴井:それなら消せばいいじゃんか。


香織:それはそれで気になるんだよ。


飴井:なんだそれ、変なの。


蜂野:ちょっと飴井くーん、ドアの真ん前に居られたら通れないんですけどー。


飴井:お、おう、悪い悪い。


日越:これで目立つ部分は、割と片付いた感じだな。


香織:お疲れ様。

   あともうひと頑張りってとこだけど……ちょっと休憩入れよっか。


日越:そうだな。

   あんまり無理にぶっ続けでやって、明日筋肉痛で動けないとか勘弁だし。


香織:ん。

   じゃあ、私何か飲み物持ってくるから、そのへんでくつろいでて。


日越:出た、「そのへん」。


香織:だって「そのへん」としか言いようが無いんだもん。

   良いでしょ、別に。


日越:別に良いけど。

   おーい、飴井、蜂野、一回休憩入れるって。


蜂野:はいはーい。


飴井:あいよー。


(間)


C3:……次です。

   X市の山林で、20代の男性の物とみられる右足のみが、ゴミ袋に入れられ捨てられていた事件で、

   昨日、新たに左腕が、10代女性の自宅から、同じくゴミ袋に入れられた状態で見付かりました。

   警察は女性を、殺人・死体損壊、及び死体遺棄の容疑で逮捕する方針を示していますが、

   女性は容疑を頑なに否認しており……


日越:ああ、あったなこんな事件。


蜂野:怖いよねー、X市って言ったら隣だしね。


飴井:最近このへん物騒だよなー。

   こないだもほら、なんか女の人が一人殺されたとかあったじゃん。


日越:Y市のほうで起こったってやつか。

   あれも確か、犯人がまだ捕まってないとか言ってたな。


蜂野:うへえ……おっかない。

   私も引っ越そうかなあ。


飴井:……にしても、香織のやつ相変わらず、ニュースばっか見てんだな。


蜂野:んー、そうみたいだね。


飴井:わかんねーなー、面白いかあ?


蜂野:報道番組に面白みを求める時点で、間違ってる気がするけど。


香織:お待たせー、飲み物持ってきたよ。

   麦茶とスポーツドリンクくらいしかなかったけど、どっちがいい?


飴井:お、じゃあ俺スポーツドリンク。


日越:俺も。


蜂野:それじゃあ私は麦茶もらおうかな。


香織:はい、どうぞ。


飴井:……そう言えばさあ、香織。


香織:ん?


飴井:今日、翔はどうしたんだよ。


香織:あ、えっと……


(蜂野・日越、飴井を殴る)


飴井:いってえ!

   なんだよ!?


蜂野:このバカ!

   あんた知らないの!?


飴井:知らないってなにが!


日越:翔が浮気してたらしくてな……別れたんだと。


飴井:うそぉ!?

   あいつが浮気!?


日越:まあ、お前は知らなくても無理ないか……

   デリケートな話だからな……


飴井:それどういう意味だよ!


蜂野:ご、ごめんね香織。

   飴井君も、悪気があって聞いたわけじゃないから……


香織:ううん、いいのいいの。

   それに、もうちゃんと仲直りして、もう一回やり直すってことになったから。


蜂野:あ、そうなの?


香織:うん。

   翔君も、悪かったってちゃんと謝ってくれたし。

   相手の人との関係も、円満に無かったことにしたって。


日越:……ま、何事も無く済んだなら何よりだ。


蜂野:うん。


飴井:へぇー……ん?

   じゃあ、なんで今日いないんだ?


香織:仕事先の飲み会だって。

   帰りが遅くなるみたいだし、お酒も入るし。

   それなら先に、出来るだけやっちゃおうかなって。


日越:休みの日でも、そんなことあるんだな。

   俺だったら絶対断るけど。


蜂野:確かにねー。

   まあでも翔君ってさ、頼まれたら断れない性格じゃない?

   それをいいことに、押し切られたんでしょ、きっと。


香織:そうなんだよね。

   新しい職場だから、特に人付き合いで苦労してるって言ってた。


蜂野:あはは、なんとなく想像つくなあ。


C1:以上、ニュースをお送りしました。

   この後は、プロ野球中継をお送りいたします。


(香織、テレビを消す)


日越:ん、もう見ないのか?


香織:うん、もういいや。

   あ、野球観たかった?


日越:いや、俺は別に。

   ただ、今までつけっぱなしだったから、何となく聞いただけ。


香織:んー、私はニュース見たかっただけだから。


日越:そうか。

   そんじゃ、休憩はこのへんで切り上げて、残りさっさとやっちまうか。


香織:そうだね。


飴井:だから、なんで日越が仕切ってんだって。


日越:ん?

   それならお前が仕切ってもいいぞ。


飴井:えっ!

   あー……えーっと……じゃあー、えっとー……

   が、がんばろー。


香織:……あはは……


日越:…………ハァ……


蜂野:……ま、やっぱりそうなるよね。


飴井:「やっぱり」ってなんだオイ!


日越:ほら、筋肉バカはおとなしく、馬車馬の如く働け。


飴井:く、くそぅ……覚えとけよ……


香織:それじゃ、悪いけどもうひと頑張りお願いね。


日越:了解。


飴井:うーい。


蜂野:はーい。


(間)


日越:ふぅ……とりあえずこんなもんか。


蜂野:だいぶ片付いたねー。


飴井:見た目的には、片付いてない気がするけどな。

   ダンボール箱の山が出来てるし。


日越:それはしょうがないだろ、自力での引越しなんてこんなもんだ。


飴井:ふーん。


香織:みんな、本当にありがとね。

   たぶん、私一人じゃ無理だったよ。


飴井:いいってことよ。

   ……で、さあ、ずっと気になってたんだけどさ。


香織:ん、なに?


飴井:なんで引っ越すの?


蜂野:今更!?


日越:ほんとに何も聞かされてなかったんだな……


飴井:え、知らなかったの俺だけ?


香織:翔君の職場がね、今でもまあ無理ではないんだけど、

   やっぱり少し遠いから、もうちょっと近いところに引っ越そうって話になって。

   でも、業者さんに頼むほどの距離じゃないから、自分たちでなんとかしようって。


日越:トラックとかは借りるのか?


香織:うん、そのつもり。

   ちょうどうちの親が、トラック持ってる筈だから。


日越:運転手必要だったら言えよ、俺、中型までなら免許持ってるから。

   翔も香織も、普通免許しか持ってなかっただろ、確か。


香織:あ、うん、ありがと。

   まあでも、大丈夫だと思うよ、これくらいの量なら軽トラでも。


日越:そうか、それなら良いけど。


飴井:おーおー、日越さんはやさしーねー。


日越:なんだよ飴井、そのニヤケ面は。


飴井:べっつにぃー?


日越:殴っていいか?


飴井:駄目。


日越:分かった、後でな。


飴井:駄目って言ってんだろ!


蜂野:それじゃ香織、私達はそろそろ帰るけど、また何かあったら呼んでね。

   っていうか、引越し先教えてよ、また手伝いに行ってあげるからさ。


香織:あ、うん。

   ちょっと今すぐはわかんないから、後でメールで送るね。


蜂野:りょーかーい。


日越:……あ、そうだ。

   これ、服の入ったゴミ袋だけど、ちょうど明日可燃物の日だし、ついでに出しとくわ。


香織:えっ、あ、うん……ありがと。

   ……あ、ちょっと待って!


日越:ん?


香織:それ、袋に小さく番号書いてない?


日越:……ああ、書いてあるな。

   なんだ、これ?


香織:優先順位……みたいなものかな。

   「1」って書いてあるやつだけ、返してもらっていい?


日越:……? ああ。


香織:ありがと。


飴井:それじゃーなー香織、向こうでも元気でやれよー。


香織:う、うん。

   別に、ほんとにそんなに遠くないんだけどね。


蜂野:おやすみー。


日越:お邪魔しましたー。


香織:うん、おやすみ。

   ありがと、お疲れ様ー。


   ……ふぅ、危なかった。

   これだけは、本当に捨てられちゃったら困るもんね。

   ……ふふっ、ごめんね?

   でも、あなたが悪いんだよ。

   私と別れて、あの人とうまくやっていきたいだなんて。

   ……許すわけないじゃない。


(間)


C4:……只今入ったニュースです。

   本日未明、W市のマンション付近のゴミ捨て場で、バラバラに切断された人体の一部が、

   それぞれゴミ袋に、衣服等と一緒に詰められた状態で、捨てられているのが見付かりました。

   警察の調べによりますと、数日前にX市の山林で発見された右足と、同一の人物の物である可能性が高く、

   捨てた犯人は、可燃ゴミに偽装して、処分を謀ったものと見られています。

   尚、見付かった遺体の損傷は極めて激しく、また、頭部のみが未だに発見されていない為、

   被害者の身元の特定は、依然難航しており……


香織:これからもずっと、ずっと、ずうっと。

   一緒だよ……翔ちゃん。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━