Do,So.

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(役表)

男♂:

♀:

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男:あれ、ヤマシタ?


女:……えっ?


男:ヤマシタだよな、久し振りじゃん。

  隣良い?


女:っえ、あぁ、はい……どうぞ。


男:どうも。

  ……なんだよ、そんな身構えることないだろ。


女:いや、えっと。


男:え、もしかしてだけど、俺が誰か分かってない?


女:……すみません、何処かでお会いしました?


男:おいおい、薄情な奴だな。

  ハシモトだよ、ハシモト。

  ほら、西中の、3年の時さ、同じクラスだったろ?


女:西中の、3年の時。


男:そう。


女:の、ハシモトさん?


男:思い出した?


女:………………


男:えー、まだ駄目か。

  じゃあえーと、ほら、アレだ。

  3組の、リーダー的な4人組いたでしょ。

  俺と、タクミと、ユウコと、ミナ。

  覚えてない?


女:……ああ。


男:おっ、分かった?


女:まぁ……

  ええ、はい、たぶん。


男:その割には、随分他人行儀なんだけど。


女:すみません、性格なので。


男:ふーん。

  ま、良いや。

  んでさ、この間の同窓会、行った?


女:同窓会?


男:うん。


女:……あっ、ああ、同窓会。

  ありましたね、そんなの。

  先週の……土曜でしたっけ?


男:何言ってんだ、日曜日だよ。

  曜日感覚狂ってるんじゃねえの?


女:そうかもしれないですね。


男:今、仕事なにしてんの。


女:事務職です、小さい会社の。


男:事務職、ねえ。

  無難というか、取っ掛かりが無いな、話題の。


女:すみません。


男:いや、別に悪いとは言わないけどさ。

  ……えーと、何の話だったっけ。


女:同窓会?


男:そう、同窓会。


女:……凄かったですよね。


男:ああ、凄かった。

  何せ、同期が全員、一堂に会してたからな。

  俺達の代は特に人数が多かったけど、それでも全組合わせて、欠席は1人しかいなかったんだってよ。

  やっぱり、団結の世代は違うよなー。


女:ええ、みんな全然変わってなくて。


男:そうそう。

  やっぱり人間、10年とかそこらじゃ変わらないんだなって思ったよ。

  あ、でもさ、あいつは違ったよな。


女:え?

  ああ、あの人ですか?


男:そう、聞いたかやっぱり、ハセガワの話。


女:意外ですよね。


男:意外? なんで?


女:え、いや、ほら。

  あんまり昔は、そういう感じじゃなかったっていうか。


男:そうか?

  確かに驚きはしたけど、あいつ、元々ガリ勉気質だったじゃん。

  まあ、弁護士にまでなってるとは流石に思ってなかったけど、

  そっち系に行くんじゃないかなとは思ってたよ、俺は。


女:弁護士……へえ。


男:へえって、聞いたんじゃねえの?


女:あっ、いや、なんでもないです。


男:なんだそれ。

  でも意外と言えば、あっちの方が意外だったよな。

  ほら、キリシマ先生のあれ。


女:あれ?

  ……ああ、あれ。


男:そう、あれな。

  まさか、あんな絵に書いたような円満夫婦が、知らない間に離婚してたとはな。

  でも、それで面白いのがさ、ヤマシタそれの理由聞いた?


女:いえ、理由までは。


男:傑作だよ。

  なんか、奥さんにおつかいでコーンフレーク頼まれたらしいんだけどさ。

  いざ開封したら、それ、ドッグフードでやんの。

  そういう有り得ないようなミスは、昔から何回もやる人だったけど、

  まさかそれが原因で、離婚にまで発展するなんて、夢にも思わなかっただろうな。


女:タイミングが、悪かったんですかね。


男:そうかもな。

  女の人って、つまんねえ事ばっかりちゃっかり覚えてたり、意味分かんない所で急にキレたりするじゃん。

  不満が積もり積もって、って感じだったのかね。

  まあ、そこまで詳しくは知らないし、どうでも良いけどさ。

  な?


女:……ええ、まあ、そうですね。


男:うん。


女:元気そうですか、みんなは。


男:ああ、SNSやってる奴も多いし、元気なんじゃないか?


女:いや、そうじゃなくて。


男:え?


女:さっきの、えーと。

  ハシモトさん達、4人は。


男:元気もなにも……

  あれ、あの時ヤマシタいなかったっけ?


女:まあ、はい。

  ちょうど、御手洗に行ってたので。


男:なんだ、そうか。


女:何か、変わりが?


男:いやな、結婚したんだよ、俺ら全員。


女:……結婚。


男:そう、結婚。


女:誰と、誰が?


男:誰と誰って……ああ、組み合わせの話か。

  俺とミナ、で、タクミとユウコだよ。

  あの場で報告したら、みんな酒が入ってたからか、結構な祝い金くれちまってさ。

  まあ実際、それ狙いだった所もあるんだけど。


女:それは、でも。


男:あー、分かるよ。

  ヤマシタの言いたい事も分かる。

  お前が俺を好きだったっていうのも聞いたし、覚えてたけどさ。

  なんて言うか、真に受けてなかったんだよな。

  ほら、元々あんまり接点無かったし、

  ヤマシタもこう、臆病な性格というか、あんまり目立つようなタイプじゃなかっただろ?

  だから、からかってるのかと思ったって言うか、

  他の奴からも同じような事言われてたし、ピンと来てなかった、みたいな。

  それ以上何かそっちから言ってくるとかも何も無かったし、話半分で聞いとく程度で良いのかなってさ。


女:はあ。

  それは、誰かに相談とか、した上で?


男:そりゃあまあ、ユウコとミナには相談したよ。

  やっぱり一番つるんでたんだし、女心は、女が一番分かるかと思って。

  って言っても、笑い飛ばされて、聞き流しとけって言われて終わりだったから、

  何となく俺もそれで、まあ良いかって思っちゃってたな。


女:……なるほど、そうですか。


男:なるほどって、何が?


女:いえ、別に。


男:そういや、ユウコとミナが、ヤマシタと急に仲良くなり始めたのも、その頃からだよな。

  3人でよくどっか行ってたけど、やっぱりそっちも、恋愛相談とかしてたのか?


女:まあ、そうですね。

  そんな所なんじゃないですか。


男:なんでそんな、他人事みたいな言い方なんだよ。


女:………………


男:まあ良いや。

  んでさ、話題的にもちょうど良いから、確認したいんだけど。


女:はい。


男:ヤマシタってさ、まだ俺の事好きか?


女:……え?


男:いやまあ、別に好きまで行かなくても良いんだけど、少なくとも嫌いじゃないよな?

  昔好きって、ヤマシタの方から言われたんだし。


女:なんですか、急に。


男:俺達さ、付き合ってみねえ?


女:……結婚はもうされているって、聞きましたけど。


男:そうなんだけどさ。

  ほら、結婚して一緒に暮らすようになると、見たくないような所まで見えてくるっていうか?

  ぶっちゃけ、昔馴染みのノリでくっついたみたいな感じだからさ、俺もタクミも。

  ユウコとミナがどうかは知らないけど、多分、向こうもそうだろ。

  ダチとしてつるむ分にはちょうどいいけど、

  結婚までするのは、なんか違ったなって、感じ始めてきちゃったワケよ。

  昔から散々ヤッてるから、今更そういうのも盛り上がらないし、新しい刺激が欲しいなって思ってさ。


女:要するに、なんですか。

  私に、都合の良い愛人になれ、と?


男:いや、悪い言い方をすればそうなるけどさ。

  別に愛人とまで行かなくても良いよ、マジになられ過ぎても困るし。

  取り敢えず、セフレになってくれりゃ十分。


女:取り敢えず、ですか。

  それも、ご友人と相談された上で?


男:いやいや、出来るわけねえじゃん、こんな事。

  とは言っても、俺は結婚してからもユウコとたまにヤッてるし、

  タクミとミナも多分、隠れてヤッてるだろ。

  お互い知らないフリしてるけど、それくらいはよくある事って聞くし。

  だから、ある意味もう、暗黙の了解みたいな?


女:そうですか。

  それは何とも、お気の毒なことで。


男:で、どう?


女:……今すぐには、ちょっと。

  私は別に、今のところ、欲求不満とかはありませんし。


男:あ、そう。

  じゃあ、連絡先教えといてよ。

  次またいつ会えるか、分からないしさ。


女:その前に、私からひとつ良いですか。


男:ん、なに?


女:人違いですよ。


男:………………


女:………………


男:……ん?


女:人違いです。


男:え、ちょっと待って。

  いや、えっ?

  人違い?


女:はい、人違いです。


男:え、いやいやいや何言ってんの、それは無いでしょ。

  だって、ここまでちゃんと、会話成り立ってたじゃん。


女:成り立ってませんよ。


男:成り立ってない?


女:私は「あれ」とか「その」とか、暈した言い方しかしてませんし、

  あとは、適当に相槌を打っていただけですから。


男:あー……言われてみれば。

  ……あれ?

  でも最初、同窓会に行ったって。


女:行ったって、言いました、私?


男:言ってないわ。


女:言ってないでしょう。

  凄かったですよね、とは言いましたけど。


男:ええ……

  マジ、ですか?


女:マジですよ。


男:だけど、呼んだ時に返事したって事は、ヤマシタなのは間違い無いんだよね?


女:シミズです。


男:んん?

  え、最早そこから?


女:シミズですよ、私は。


男:おかしい、それは流石におかしい。

  じゃあ、なんで最初ヤマシタだって訊かれて、肯定したの?


女:肯定しましたか、私は。


男:……して、ませんね。


女:してないんですよ。

  ただ、奇遇にも、私の旧姓もヤマシタなので、完全に間違ってはいませんから。

  それで、つい返事をしてしまったんです。


男:旧姓、って事は、結婚してる?


女:ええ、まあ。


男:そんな事言ってなかったよ、さっき。


女:私がそれを、あなたに教える義理が何処に?


男:無いですね。


女:無いですよ。

  完全に初対面の、赤の他人なんですから。


男:まあ、はい、その通り、仰る通りです。

  ええー……マジかあ……

  でも、顔に面影はあるから、間違い無いと思ったんだけどなあ。


女:それこそ、ただの偶然でしょう。

  「世界には自分にそっくりな人間が3人居る」と言いますし、たまたま私がそれだったのでは?

  その、ヤマシタさん、という方の。


男:そうだったのかなあ。

  じゃあ、俺は延々と、何処の誰とも分からない、同級生のそっくりさん相手にくっちゃべってたと?


女:そういう事になりますね。

  まあ、はっきりと否定せずに、それっぽく応対していた私にも、多少なりとも非はありますが。


男:うん、そうだよね?

  俺からそれを責めるのは筋違いだよなって遠慮してたけど、やっぱりそうだよね。


女:はい?


男:なんで、さっさと否定しなかったの?


女:暇だったので。


男:暇だった。


女:はい。


男:暇だったから、内心「何言ってんだこいつ」って思いながら、

  それとなく話合わせて聞いてた?


女:まさしく。


男:卑怯じゃん、それ。


女:卑怯?


男:卑怯だよ。

  そっちがサクッと、もっと早い段階で「人違いだ」って言ってくれてりゃ良かったのにさ。

  なんか、一人で勝手に盛り上がってた俺が馬鹿みたいじゃん。


女:知り合いを騙って言い寄ってくる不審者として、通報されなかっただけマシなんじゃないですか。


男:え、通報する気だった?


女:はい、躊躇無く。

  指一本でも触れてこようものなら、即座にするつもりでしたよ。

  ほら、110番、あとは発信するだけです。


男:ええ……なにそれ怖。

  この際だから、初対面でもここまで話したんだし、あんたが相手でも良いかなって思い始めてた所なのに。


女:そんな事だろうと思いました。

  だから、前もって自衛手段を準備しておいたまでの事です。


男:さいですか。


女:はい。

  で、もう良いですか?


男:なにが?


女:一通り、私に訊きたい事は、訊き終わりましたか?


男:……はい、まあ。


女:そうですか、それは良かった。

  では、謝罪を。


男:え?


女:謝罪をしてください。


男:誰に?


女:私に。


男:俺が?


女:あなたが。


男:なんで?


女:なんで、とは?


男:俺があんたに、何に対して謝罪すんの?


女:私の有意義な一人の時間を、長々と奪った事に対してです。

  加えて、極めて下劣な話題で、強い不快感を覚えたので、それについても。


男:……いや、待ってよ。

  流石にそれは暴論でしょ、え?

  だから言ってんじゃん、そっちがさっさと人違いだって教えてくれれば、

  俺だってこんなベラベラ喋らなかったって。

  それに勝手に、それっぽく乗っかってきたのはあんたの意志でしょ。

  屁理屈だよ、そんなの。

  なんだよ、こっちが下手に出てりゃ、調子乗りやがってさ。


女:しましょうか、通報。


男:……あー、もー……

  ハイハイ、謝れば良いんでしょ。

  この度は、あなたの貴重な時間を身勝手に奪ってしまい、気分まで害してしまって、

  大変申し訳御座いませんでした。


女:よろしい。


男:なにが「よろしい」だよ、ったく。

  ……んじゃ、俺帰るんで。

  どうもすみませんでしたね。


女:あ、ちょっと。


男:あ?

  なに、まだ気が済まない?


女:いえ。

  ひとまずこの場に於いては、多少は気が晴れました。


男:なんだそれ、煮え切らない言い方だな。

  じゃあ何?


女:これを。


男:……何これ、誰の番号?


女:ヤマシタさんのです。


男:は?


女:訳あって、繋がりがありまして。

  恐らく、私の知っているヤマシタさんと、

  あなたの話に出ていたヤマシタさんは、同一人物だと思われるので。


男:なんで今更。


女:まあ、先程までのやり取りを省みて、流石に私も、少し身勝手な言い分が過ぎたなと思ったまでで。

  お詫びの印、とでも思っておいてください。


男:……あ、そう。

  じゃあ、有難く貰っとくわ。


女:はい。

  では、私はこれで。

  ヤマシタさんと、上手くいくと良いですね。


男:……何だったんだ、あいつ。

  余計なお世話だっつの。

  あーあ、とんだ目に遭った、気分最悪だわ。


(間)


女:……まあ、嘘なんだけどね、全部。

  人生楽しそうで何よりだわ、こっちの気も知らないで。

  ……うわ、もう掛けてきた。

  はい、もしもし?


男:もしもし、ヤマシタ?


女:ええ、そうですけど。


男:……マジか。


女:はい?


男:あ、いや、なんでもない。


女:誰ですか、あなた?

  イタズラですか?


男:違う違う、俺だよ俺、ハシモト。

  ほら、西中の、3年の時に一緒だった。


女:……ああ、ハシモト君ね、久し振り。


男:おう。

  良かった、一発で分かってもらえて。


女:そりゃあ、覚えてるよ。

  ところで、なんで、私の番号知ってるの?


男:ん、いやまあ、色々あって。


女:ふーん……


男:……でさ、ちょっと、折り入って話があるんだけど。


女:嫌。


男:……え?

  ごめん、なんて?


女:嫌って言ったの。


男:ちょ、いやいや。

  まだ俺、何も言ってないんだけど。


女:ミナさんとかユウコさんと寝るのに飽きたから、セフレになってくれって言うんでしょ?

  嫌に決まってるじゃない、そんなの。


男:……なんで、それを?


女:色々あって。


男:……あのさ、確認して良いか?


女:なにを。


男:お前、同窓会来てた?


女:行ってないよ。

  呼ばれてないもん、私だけ。

  呼ばれても行かなかったけど。


男:呼ばれてない?


女:呼ばれてない。


男:なんで?


女:なんでって。

  同窓会、主催がユウコさんとミナさんの2人だったんでしょ?

  じゃあ、私が呼ばれるわけないよね。


男:……意味が分からないんだけど。

  なんであいつらが主催だと、お前が呼ばれなくなんの?


女:分からなくて良いよ。

  説明したくも、分かって欲しくもないし。


男:でも、同窓会があるのは、知ってたんだろ?


女:うん、知ってたよ。

  別のクラスだった人に教えてもらったから。


男:それなら、来れば良かったじゃんか。

  呼ばれてなくたって、あれだけ人数がいたら分からないだろ。


女:来て欲しかったの?


男:そりゃあ、勿論。


女:なんで?


男:なんでって。

  勿体無いじゃん、折角みんなが集まる機会だったのにさ。


女:確かにね。

  で、私が来てたら、どうするつもりだった?

  あの4人で。

  若しくは、元3組の、みんなでさ。


男:………………


女:そういう事でしょ。

  だから行かなかったんだよ、あんな同窓会。

  知らないフリして、良い人ぶらないでよ、無駄なんだから。


男:……じゃあ、もう一つだけ訊いて良いか。


女:なに。


男:シミズさんって、知ってるか。


女:シミズさん?


男:その人に教わったんだよ、お前の番号。

  お前にそっくりな顔でさ。


女:そっくりも何も、シミズは私だけど。


男:やっぱりお前か。


女:そうだよ、さっきのも私。


男:馬鹿にしてんのか。


女:そうかもね。


男:いい加減にしろよ、人をおちょくって楽しいか?

  俺が一体、お前に何したってんだよ。


女:へえ、覚えてないんだ。


男:なにがだよ。


女:まあ、そうだよね。

  いつだって加害者は、自分がやった事なんて、さっさと忘れちゃうもんね。

  毎日毎日、日常の一部みたいに、悪気も持たずにやってたような事なら、尚更。


男:……全然意味が分かんねえ。

  お前、何か勘違いしてるんじゃないのか。


女:ほら出た、それ。


男:は?


女:そっちがそう言えば、私の言い分はもう、誰にも耳を貸して貰えなくなるんだよ。

  被害妄想だって、ただの勘違いだって話で、簡単に片付けられるからね。

  悲鳴だって小さかったら、あっさり搔き消されちゃうわけ。

  便利な言葉だよね、それ。


男:……そうやって。


女:ん?


男:そうやって、昔の事で俺を責め立てる為に、わざわざあんな小芝居打ったのか?


女:そのつもり、だったんだけどね。


男:だった?


女:……こうやってずっと、覚えてる恨み辛みを全部、ぶつけてても良いんだけどさ。

  当の本人が何も覚えてないんじゃ、仕方無いよね。

  やっぱり私も、ハシモト君の事、好きな時期もあったし、

  ハシモト君だけが、全部悪かった訳でもないしさ。

  今頃無駄な喧嘩とか、あんまりしたくないの。


男:どの口が言うんだ、それ。

  そう言うなら、一言一句から揚げ足取って蒸し返すなよ。

  確かに、俺達はお前に、酷い事してたかもしれないけどさ。

  もうずっと昔の事だろ。

  いい加減、水に流してくれよ。


女:……そうだね、うん。

  分かった、ごめんね。

  あとひとつだけ、ずっと言いたかった事だけ言わせて。

  それでもう、この話は終わりにするから。


男:ずっと言いたかったこと?


女:そう。

  ハシモト君の言った通り、私、臆病だし、卑怯だからさ。

  面と向かって言う勇気が無くて、今まで言えなかったんだけど。


男:……なんだよ。


女:えっとね。


男:おう。


女:………………


男:………………


女:死 ね よ、ク ズ。


男:……は。


女:それだけ。


男:ちょっと待てよ、おい。


女:じゃあね、二度と連絡してこないで。

  さよなら。


男:おい、ふざけんな、おいって!

  おい、ヤマシタ!!


(間)


女:(深呼吸)

  あーーーーー!!

  すっっっきりした!!

  せいせいした!!

  これでようやく、ちょっとは未練も晴れたわ、たぶん!!

  ……はぁーーーあ。

  なにが「俺達さ、付き合ってみねえ?」よ。

  嘘でも生きてるうちに、もっと前に言えっての。

  まあ、結局最後まで気付かないような奴に、期待するだけ、無駄だったのかな。

  あんまりにも変わってなさ過ぎて、逆に、道連れにするのも馬鹿馬鹿しくなっちゃった。

  せいぜい、ろくな目に遭わない余生を過ごして、惨めったらしく死ねばいいんだ、あんなクズ。

  ………………

  あー……予定より随分、遅くなっちゃったな。

  はやく、かえらなきゃ。


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