BOX

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(役表)

A(不問):

B(不問):

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


A:エレベーターってさ。


B:うん。


A:なんか、「特定の行動をすると、冥界とかあの世に繋がる!」

  なんて話、たまにあんじゃん。


B:あー、あるね。

  何階行って何階行って、降りる降りないどうのこうのってやつ。


A:そうそう、それそれ。

  なんでもな、この辺に住んでた友達が言ってたんだけど、

  この辺のどっかのマンションのエレベーターで、それが出来るらしいんだよ!


B:どっかってどこだよ。


A:さあ。


B:ええ……


A:それがわかったら、面白くないだろ?


B:それがわからなきゃ、リアリティ無いじゃないか。


A:まあ、いいからいいから。

  なんでも、この儀式には、3人必要らしいんだ。


B:へえ。


A:で、3人のうち、2人は1階、1人は2階からスタートするんだ。

  時刻は、0時ちょうど。

  もちろん、最初に乗るのは、1階の2人。


B:ふんふん。


A:まず、1階でエレベーターに乗った2人は、5階まで行く。

  その時、降りずにそのまま乗っておくんだ。


B:お、出たな、お約束。


A:で、今度は2階まで降りる。

  そうすると、1人は最初からそこにいるから、そいつも中に乗り込む。

  この時点で、エレベーターの中には3人いるわけだよな?


B:うん。


A:そしたら、今度は一気に、9階まで上がる。

  ……でだ、ここでの行動が、一番重要なんだよ。


B:と、いうと?


A:この階で降りた奴が、あの世に行かずに済む。

  要するに、やめとくならこのステップが最後ってこと。


B:何をするんだよ?


A:この後、1階まで降りて、1人が一度エレベーターから出て、

  もう一回ドアが開いてる間に中に戻る、っていうステップがあるんだけど、

  ぶっちゃけこれは、1人でも出来るだろ?

  だから、9階で1人だけ降りればそいつは助かるし、2人降りればそいつらが助かるし、

  全員降りればそこで、やっぱり儀式はやめとこう、で済むわけだよ。


B:1階まで降りた時に一度出るんだったら、そのまま戻らなければ、それで逃げれるんじゃないの?


A:それがな。

  同じことを考えた奴が、それを試した。

  ところがだ、マンションから出られないんだよ。

  扉も窓も、どこもかしこもまるで鍵がかかってるみたいに、ギッチギチに締め切られてて、

  しかも、エレベーターのドアは、誰も乗っていないのにずぅっと開きっぱなし。


B:「もう逃げられないぞ」、ってか。


A:そんな感じなんだろうな。

  で、エレベーターに戻ったら最後。

  儀式成功の何かが起こって、扉は二度と開かないし、どのボタンを押してもあの世行き。


B:何かってなにさ?


A:さあ、そこまでは。

  とりあえず、これが、俺が聞いたエレベーターの恐怖。


B:……なるほど。


A:どう、怖くない?


B:別に。


A:えー……


B:やっぱり、数字だけ具体的に言われてもさあ、リアリティが無いんだもん。


A:そんなこと言われてもさあ……

  怖い話ってのは、適度に抽象的な部分があるからこそ怖いんじゃん。

  とある心霊スポットでー、とか、とある廃墟でー、とか。


B:それは胡散臭いって言うんだよ。


A:ぐぬぬぬぬ……

  それじゃあ、お前はなんか知らないの?


B:なんかって?


A:エレベーターにまつわる、怖い話。


B:そんな限定的な内容の、怖い話を求められてもなあ……

  ……あー、じゃあ、怖い話でもエレベーターにまつわる話でもないけど、個人的に気になる話。


A:なにそれ?


B:お前ってさ、サンタクロースって信じる?


A:エレベーターどこ行った?


B:だから言っただろ。


A:ていうか、え、なに?

  お前、サンタクロース未だに信じてるクチなの?


B:いや、ごめん、質問が悪かった。

  サンタクロースって、誰だと思う?


A:え、親でしょ?


B:うん、それなんだけどな。

  俺としては、違うんじゃないかって思うんだ。


A:どういうこと?


B:サンタクロースっていうのは、クリスマスに子どもにプレゼントをあげる人だろ?


A:そうだよ。

  だから、親じゃん。


B:いや、俺は、おもちゃ屋の人がサンタクロースなんじゃないかなって思うんだよ。


A:……はい?


B:だからさ、親は確かに子どもにプレゼントを渡してはいるけど、

  それを準備したのは、親じゃないじゃん。

  ほとんどの場合おもちゃ屋とかゲーム屋とかで買ってるんだから、

  準備したのは、その店の人だろ?


A:うん、まあそうだけど。


B:だったら元を辿ればさ、サンタクロースはお店の人って事にならない?


A:いや、ならないと思うよ。


B:なんで。


A:だって、子どもの立場から考えたら、プレゼントをくれる人=サンタクロースなのであって、

  それを準備してくれた人のことなんて、知る由も無いじゃん。


B:まあ、子どもの立場から考えたら、そうかも知れないけどさ。

  実際に、じゃあサンタクロースってのは具体的にどういう人なんだ、って考え始めたら、

  最終的に、お店の人にたどり着くと思うんだけどな。


A:じゃあさ、考え方を変えようよ。


B:どうやって?


A:こう、空想上のサンタクロースっていうのは、トナカイが引く空飛ぶソリに乗って、

  世界中の子どもの元に、プレゼントを届けるんだろ?


B:一晩でやるとか、一体時速何キロ出てるんだろうな。


A:知らないよ。


B:トナカイ過労死しちゃうんじゃない?


A:知らないよ。


B:実はとんでもない数のトナカイが牽引してんのかな!


A:知らないよ。


B:でも数と速度はかならずしも比例しないよね!?


A:知らないよ!

  そんな、トナカイのクリスマスの就労事情はどうでもいいんだよ。


B:あ、そう。


A:それよりだよ。

  それで、空想上のサンタクロースの設定と、さっきの話を組み合わせた場合、

  その……どうなんの?


B:どうって?


A:いや、だから。

  要するに、お前の話の中でのサンタクロースは、プレゼントを準備する立場ってことだろ?

  じゃあ、ソリに乗ってプレゼント配ってるサンタクロースは、何者なんだって聞いてんの。


B:それはサンタクロースじゃないよ。


A:じゃあ何。


B:赤い服着て、赤い帽子かぶって、白ヒゲたくわえたおっさんだよ。


A:それはサンタクロースだよ!


B:じゃあ逆に聞くけどさ、お前の話だと、渡す側と渡される側しか存在してないじゃん。

  単純に考えて、それはおかしいだろ?

  サンタクロースと呼ばないにしたって、準備を担当してる存在があって然るべきだろ?


A:そのへんも全部サンタクロースがやってんだよ!


B:お前サンタクロースを過大評価すんなよ!

  お前、小売店で働くことになって、年末年始の仕入れ・品出し・発注・売上全部、

  ワンオペでこなせるってのか!


A:いや、それは無理だけども!


B:だったら何でもかんでもサンタクロースにやらせんなよ!

  きちんと役割分担したほうがちゃんと仕事は進むって、小学校の頃から教わってるだろ!


A:もうなんか論点が変わってきてるよ!

  結局お前は、結論をどこに持っていきたいんだよ。


B:そうだな。

  結局、誰がサンタクロースなのかなんて、

  すぐそういうことを考えるのは、大人の無粋な考えだ。ってことかな。


A:……は?


B:サンタクロースってさ。

  クリスマスにプレゼントをあげるから、言わばその行為そのものが、「サンタクロース」なんだよ。

  そしてそれは、少しずつ形を変えていくんだよ。

  子どもの時はただ、まるで夢のような存在であったサンタクロース。

  その子どもが少し成長したら、親からプレゼントをもらう。

  それもまた、サンタクロースとしての仕事。

  その子どもがまた成長したら、今度は誰かに、プレゼントをあげる側になるかもしれない。

  その子どもが更に成長して、子どもが出来たら、今度はその子どもにとって、

  自分自身が、昔憧れていたサンタクロースになってるんだよ。


  こうやって、サンタクロースってのは受け継がれていくもんだと思うし、

  もっと言えば、誰にだって、サンタクロースになれるんだよ。

  だからあなたも、今年の冬は、誰かのサンタクロースに、

  なって……みませんか?


A:……誰に言ってんだよ。


B:どう、素敵じゃない?

  サンタクロース輪廻。


A:まあ、その表現は素敵のすの字も無いけど、考え方自体は、ロマンがあっていいと思うよ。


B:だろー?


A:……で?


B:ん?


A:結局、要約すると、サンタクロースってのはなんなんだよ。


B:親。


A:……ちょっと表出ようか。


B:出れないんだってば。


A:そうだった。


B:あーあ、もうここに閉じ込められてから、どれくらい経ったんだろうなー。


A:そもそも、どうしてこうなってるんだっけ?


B:おいおい……まだ酔ってるのかよ。

  だからー……

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


~回想①~


A:あー……飲みすぎたぁ……


B:まったく、終電無くなるまで飲んでるなんて、バカじゃねーの。


A:仕方ねーだろー、久しぶりの同窓会だったんだからよー。

  1次会の飲み会から始まって2次会カラオケ、3次会ボーリング、

  4次会クラブで5次会カラオケ……


B:なんでカラオケ2回行ってるんだよ……

  ていうか、何次会までやったんだよ。

  それ以前に、そもそもそれいつからやってたんだよ。


A:昨日の仕事終わりから。


B:主催者も相当なバカだな。


A:バカが一番人生を謳歌出来るんだよぉ。


B:分かった分かった。

  ほら、エレベーター来たから。


A:お前んちって何階だっけ。


B:5階。


A:へー。

  飛び降りたらギリギリ助かりそうな高さだな。


B:いや何言ってんの、死ぬよ?


A:そう?


B:なんなら試すか?


A:やめとく。

  まだ命は惜しい。


B:そうしろ。

  ほら、着いたぞ、5階。


A:んー……あれ、あれれ?


B:どした?


A:わりい、車の中に財布忘れてきたっぽい。


B:マジかよ。

  じゃあまた戻るかあ……1階押して。


A:ほいっと。

  いやー、それにしてもさあ。


B:なに。


A:ツチノコってなんなんだろうな。


B:突然そんな疑問を投げかけてくるお前がなんなんだよ。


A:いや、だってさあ、ちょっと考えてみ?

  キノコ、タケノコと植物なのに、なんでツチノコになった途端珍獣になんの?

  木と竹と土の間に、圧倒的格差が生まれてるよ?


B:意味がわからない。


A:まあそんなこと言ったら、キノコとタケノコにも相当な違いがあるけどな。

  かたや菌類、かたや山菜。

  キノコは木にならないのに、タケノコは竹になる。

  なんなんだろうなぁ、この差は。


B:……何処からつっこんでいいのか分からねえ。

​  そんなもんは、それぞれの名付け親に聞いてくれ。

  ……あれ、なんで2階で止まった?


A:あ、悪い、押し間違えてた。


B:おいおい……


~回想①終了~

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


A:で、あの時ドアを閉めようとした矢先に慌てて飛び込んできた女の子が、超可愛かったんだよなー!


B:あ、やっぱりお前もそう思ってた?


A:お前もってことは、お前も?


B:そりゃそうだろー。

  あれは街で通りすがった10人が、10人とも振り返る可愛さだって。

  まさか、同じマンションに、あんな子が住んでたなんてなー。


A:あんまり鼻伸ばしてんなよー?

  所詮はエレベーターで、一瞬行き違っただけの女の子なんだから。

  お前の事なんて、明日朝起きた頃には忘れてるよ。


B:鼻伸ばすなってのは、お前にだけは言われたくないけどな……

  いくら酔ってたからってお前、初対面の女の子に、


A:「お嬢さん、何階ですか? キラーン。」


B:は無いだろ。

  あの子ドン引きしてたぞ。


A:え、俺そんなことしたの?


B:したよ。

  鳥肌立ったわ。


A:ナンテコッタイ……


  で、その後どうしたんだっけ?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


~回想②~


A:それでは、いい夜を、お嬢さん。

  はっはっはっはっは。


B:……お前とは長い付き合いだけど、ここまで他人のふりをしたかったのは初めてだよ。


A:いやー、名前くらい聞いとけば良かったかなー。

  「9階にお住みの、ああ、ホニャララさんと言うのですか。

   なんと可憐で美しい……


B:やめろ、マジでキモい。


A:冗談だよー。

  そんな真顔で、ド辛辣な言葉投げんなよー。


B:とにかく、さっさと1階行くぞ。

  全く、酔った勢いでなんでもかんでも許されると思うなよ?


A:俺は酔ってなんかないぞー。


B:酔ってる奴はみんなそう言うんだよ。


A:違うぞー、ほんとに酔ってる奴ってのはなー。

  カラオケマイクをアイスクリームと勘違いして舐め回して、途中で間違いに気付いたはいいが、

  マイクだと認識するやいなや、それを次歌う番の女の子に、平然と渡すような奴のことを言うんだー。


B:……そんな奴いたの?


A:幹事。


B:幹事かぁ……もう呼ばれないだろうな……


A:ゲロと涙と鼻血を垂れ流しながら、タクシーで帰ったよ。


B:運転手さんかわいそう!


A:幹事にも同情してやれよ!


B:そんな余地は無い!


A:あ、1階着いたな。

  ちょっくら取ってくるから、鍵貸して。


B:え?

  いいよ、俺も行くよ。


A:いいっていいって。

  どうせ、通路一本通って行くだけだし、

  もしエレベーター行っちまったら、また待つのめんどくさいし、止めといてくれよ。


B:はいはい。

  さっさと戻って来いよ。


(間)


A:お待ちどー。


B:おう、財布見つかったか?


A:ああ、ちゃんとあったよ。

  それよか、ここって結構、セキュリティ厳重なのな。


B:なにが?


A:いや、今駐車場見てきたらさ、外に通じるシャッター全部降りてんの。

  電灯点いてなかったら真っ暗闇だったよ。


B:へえ。

  こんな時間に外出歩いたりしないから、知らなかった。


A:今何時?


B:もう日付変わってるよ。


A:マジかよ!

  あー……明日休みで良かったぁー!


B:いい気なもんだなぁ。

  ……うわっ!


A:なんだっ、どうした!?


~回想②終了~

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


B:……で、エレベーターが急に止まって、今に至る、と。


A:いやー、明日休みでほんとよかったー!


B:そういう問題じゃないだろ……

  緊急用の通信器もなぜか通じないし、停電してないだけまだいいけどさあ。

  こんな時間じゃ、誰も気付いてくれねーよ。


A:これでさあ、女の子とこういう状況に陥ったら、誰も見てない密室空間なのをいいことに、

  あぁんなことや、こぉんなことしちゃうんだろ?


B:それは2次元限定の話だろ、そんな余裕あるかっての。


A:冷静になれって言いたいんだよ!


B:じゃあ最初からそう言えよ!

  回りくどすぎて全くわかんなかったよ!

  ていうか、全然関係なかったろ絶対。

  ……あ。


A:あ、動いた。


B:なんだったんだろうな。


A:さあ、故障かなんかだったんじゃないの?

  あーあ、なんか無駄に疲れた。


B:俺も。

  まさか、自分の住んでるマンションで、こんな目にあうとは思ってもみなかったよ。


A:まあそうだろうなー。

  よかったー、俺アパート暮らし(2階建て1LDK家賃3万円)で。

  帰ったらもう、思いっきり寝てやるからな!


B:……前々から思ってたけど、お前の家の家賃安過ぎじゃね?

​  都心部のアパートで1LDKで3万円って、ただ事じゃないだろ。

​  俺ん家とかもっと狭いのに、家賃倍以上すんだぞ。

A:それは、お前の部屋の探し方が下手なんだよ。

B:部屋の条件希望聞かれた時に、「寝れるところ」とか言ってたやつに言われたくねえ……

​  完全に担当の人、ホームレスを見る目だったぞ。

A:良いんだよ、結果として格安物件紹介してもらったんだからー。

​  風呂も便所も収納も、ついでに窓も無い事を除けば、至って普通の部屋だよ。

B:除き過ぎだろ、逆に何ならあるんだよ。

A:壁と屋根がある。

  あと、玄関。

B:……お前は仮に路頭に迷っても、平然と生きていけそうだな。

A:どういう意味?

B:誉め言葉だよ。

A:お、そうか。

​  それほどでもー。


B:駄目だこいつ……


A:よっしゃ着いたー。

  さーあ、帰ろー帰ろー。


B:今から行くのは、俺の家だけどな。


A:……あれ?


B:どうした?

  また何か忘れ物でも……

  って……えっ?


A:(同時に)どこだよ……ここ……

B:(同時に)どこだよ……ここ……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━