分子計算の再現性

お椀型分子Corannulene


ベンゼン環が5個リング状に繋がったCorannuleneという化合物がある.ウエブ情報によるとお椀型をした化合物と紹介されている.π電子数は20個で4n系であり,芳香族性はないはずである.念のためフロンティア軌道論の教えに従って分子分割法で調べてみた.赤の実線で示すように,acenaphtyleneとoctatetraeneに分割し,HOMOとLUMOの接点を調べてみると,意外にもすべてで位相が合い,安定な化合物ということになる.

赤 HOMO(ブタジエンのHOMOが逆位相で連結させればよい)

黒 LUMO(計算により求めたが,ナフタレンのLUMOとエチレンのLUMOが位相が合うように繋げばよい)

以前,通常使用している分子力場法(MMFF94)による最適化構造の座標を使った半経験的分子軌道法(PM6)でも平面構造を与えるので,それ以上調べることはしなかった.

ところが,最近,フラーレンや関連化合物を調べている過程でCCDCにX線解析データが登録されていることを知った.結晶構造を精査すると2分子がペアを作り,単斜晶系に蜜に充填されて結晶構造を形成していることが分かる.そのために分子が歪んでいる可能性があるので,再度分子計算に挑戦してみた.

Space Group: P 21/c (14), Cell: a 13.1560(8)Å b 11.6708(7)Å c 16.2930(9)Å, α 90° β 102.1740(10)° γ 90°

Database Identifier CORANN11 :Deposition Number 279089 Dibenzo(ghi:mno)fluoranthene

結論的には,結晶構造を入力座標として分子軌道計算するとお椀型構造を再現することが分かった.一方,力場計算(MMFF94)で得られる平面構造を入力データとして構造最適化すると平面構造を保った最適化構造も得られる.

B3LYP/6-31G*平面構造

平面型より8.7kcal安定

力場計算法では,平面型を入力した場合,GAFF, Ghemical法ではお椀型へ移行する.他の方法(UFF, MMFF94)ではお碗型を入力しても平面型へ移行する.

分子軌道計算による構造最適化では,計算レベルに関係なく入力座標に依存して平面型,お椀型をそれぞれ与えることが分かった.構造最適化の過程でおわん型⇄平面型の移行は認められなかった.B3LYP/6-31G*計算結果から,お椀型の方が平面型より8.7kcal安定であることも判明した.

計算化学の常道にそって,ステップ計算で遷移状態に近い構造を求めた.すなわち,中心の5員環を形成する5個の炭素原子の3個を基本座標として外周炭素を作成し,6番目の炭素への二面体角を変化させた.最もエネルギーの高い構造を使って,TS計算を行った.次いで,FORCE計算,IRC計算などを行い,ペコペコ反転することを確認したが,基底状態の構造最適化で得られた平面構造が遷移状態計算の構造と一致する.

感覚的には鏡面(平面構造状態)が遷移状態であることは分かるのだが・・・・

参考資料

PM6 Bowl 133.66218 KCAL/MOL Planar 144.19961 KCAL/MOL

TS, IRC計算結果

2021.7.24