SHUNTARO ARAI / 荒井 峻太朗

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[ Randonneur ] Steel
保守的な日本の旅行車文化の柵から半歩くらいは進んでみたかった。飛躍しないように伝統に学んでは忍んで抗いもして種々の旅が生るように構成したこの道具は、現時代人へ向けた卑近で冗長にも『 』の変化を辿れる添え物です。これで褻で飽和した針の筵な日常の軛から抜け出して何処か遠くの憧憬への逃避旅行でもどうでしょうか。
荒廃した道等の後輪からの突き上げを和らげるためににシートステーは曲っていて、この形状なら衝動的に旅路に出てしまっても必要になる物たちを持ち越す為の置き場にも良さそうですね。奥まった所には尾灯だったり泥除けだったりが着けられそうな工作も隠れていますし、伝統に学んだ道具たちを宛がうというのも良いかもしれません。
冗長さを意識したフォークは柔らかく撓るようになっています。このパイプの構造体にも荷物を括りつけることは出来そうで、そうしてしまえば形の特異さは隠してしまえるのではないでしょうか。フレーム側には何処もネジを切っていませんがフォークは交換できるので汎用ダボが四隅に存在するので、工夫はここからが始めやすいでしょう。
道具だから傷はつきものだけれど気になるようなら、面積の多いパイプで構成されたこの車体は何かを張るには都合が良いので赴いた先で見つけた御当地ステッカーなんてもので繕ってみてもいいですね。歴戦のスーツケースのような道具らしい様相を伴なってくれれば「足跡の証」とか言ったりして。格好つけ過ぎでしょうか?
旅人の風体には行いの自明さと日常の人の記憶に深く残さないという機能が必要で、これをもってこの日常の人と非日常の人の境界は成り立っている。だからかここを越えた邂逅が相当な事として旅情なんていうのが生じてくれるのです。このために荷を積んだこの自転車の大体の輪郭はこれまでの旅行車の影に凡そ重なるようにしています。
旅の緞帳がどうやって下りるのかはわからない。なんのこともなく日常に戻るのかもしれないし、新天地が見つかるのかもしれないし、或いは力尽きるのかもしれない。この自転車ができるのはそれまでの有意義な自問自答の時間を作るくらいですが、せっかくなら日常の境界を縫い進める『可惜旅情』が見つかればなんて思います。