これは解放軍が遠征に行った時のお話である。
夜の帳が下りる頃、解放軍の首魁とその仲間たちが体を休める幕内では、かすかに水音と吐息が響いていた。他の者は今日の戦いの勝利に酔いしれ、酒をあおり、皆深い眠りについている。ただその中でティルとルック、その二人だけが互いの熱を貪るように、何度も口づけを交わしていた。
普段はよく回る舌も、口を覆われ絡め取られてはなす術もなく、唇が離れるたびに吐息と甘い声が漏れるだけである。散々ルックの口内を犯した舌は、満足したのか糸を引きながら離れていく。やっと解放されたとルックは安堵したが、その反面少し残念にも思う。
ルックはティルとするキスが好きだった。舌と舌を絡め合い、互いの境界がなくなるまで混ざっていく。その感触といい、耳を刺激する甘い吐息と水音いい、ティルと五感すべてを享受し合う快楽が堪らなく好きだった。そしてなにより素直に自分の気持ちを出せない性分のルックにとって、キスはありのままの自分を曝け出せる愛情表現の一つである。自分を見てほしい。自分だけを見てほしい。口づけを交わす間は、彼の目には自分しか映らない。彼が自分のものだと思うことができるのだ。
もちろん彼と体を重ねることにも充足感はある。けれどもなにかが違う。そういえば昔読んだ本に書いてあったが、どうやら口は最初に経験する快楽の源だそうだ。生存のために赤ん坊は母親の乳房を吸う。そうして口で愛と安心を得て育っていく。女の腹から生まれていない自分に、そのような原始的な欲求が備わっているとは思えないが、それでもたしかにティルと唇を重ねるとひどく安心する。満たされていく。こんなこと、本人には絶対言わないけれども。
キスの余韻に浸っていたのも束の間、ひゅうっと冷たい空気が触れる。ルックの反応に気を良くしたティルが、彼の法衣をめくり上げ、更なる快楽を求めようとしていた。腹をするすると男の手がさすっていく。
「ちょ、やだってば…」
抵抗する声すらも色を含んでおり、ティルの欲望を加速させる。気にせず指を進め、すでに立ち上がっている敏感な突起を探り当てた。
「んんっ!」
すでに硬く敏感になっているそこを爪で弾くだけで声が漏れる。ルックが乳首に弱いことは何度も体を重ねる中で知っていた。いや乳首だけではなく、ルックの体は男を喜ばせるよう良く快楽に馴染んでおり、ティルがどこを刺激しても淫らに悶え震えた。そうして普段の物言いは影を潜め、寝屋では恭順に抱かれるのだ。
だから今日も場所を忘れてルックを求めようとした。のだが。
「待って…汗ドロドロで汚いの…いやだ」
胸の突起で遊んでいるティルの腕をルックが掴む。
「いいじゃん。どうせドロドロになるだけだし」
遠征中なので当然戦闘後も風呂に入れず、土や泥、飛び散った血などが体のあちらこちらにこびりついている。
「ぼくはいやだよ…」
「でもコレどうすればいい?」
その先を止めるルックに、ティルは硬くなった己を擦り付け抗議する。ルックの中で早く暴れさせろと訴える雄の感触に気負けしそうになるが、汚れた体で抱き合うのは好きじゃない。けれどもこのままティルが諦めるわけはない。
「…仕方ないね」
ティルの手を押し退け起き上がる。髪を耳に掛けながら、ティルを見下ろすように姿勢を直す。
「口でならしてあげるよ。今日はそれで我慢しな」
しゅるしゅると腰紐を解き、ズボンに手を掛け迷いなく引き下ろすと、勢い良くそれが放たれた。どくどくと血管を脈打たせながら空を仰ぐティルの分身はすでに十分な硬さまで成長し、濃い雄のにおいが漂う。
「汚いの、嫌だったんじゃ?」
すんすんと嗅ぐ仕草を見せ、汗のこもったにおいのするペニスに、うっとりと恍惚の表情で顔を近づけるルックはこの上なく扇情的で男の中の本能を刺激する。だが先程の物言いと反した行動に、ティルが疑問を投げかける。
「………」
だがルックは一度ティルに目線を遣るものの、その問いには答えないまま、彼に舌を這わせた。
ペニスの裏筋を下からゆるゆると舐め上げていく。啄みばみながら何度か裏筋を舐めると、ティルはさらに強い刺激を求め腰をわずかに動かして促した。ルックはそれに応えるように今度は段差に舌を這わす。舌先に力を入れちろちろと小刻みに刺激を与えると、ティルから苦しそうな、湿り気を帯びた声が漏れた。その反応に気を良くしたルックは男の先端を唇で包み込み、舌全体を動かして快楽を誘う。
わざと音が響くようにたっぷりと唾液でそれを包み上下に動かす。繰り返される快感に、愛撫される度に鳴る水音に、ティルは溺れてしまいそうな錯覚を起こす。また、時折上目遣いで自分を見上げてくるその姿に、支配欲が満たされた。
「…なんでそんなに慣れてんだ? お前まだ12か13そこらだろ……」
ルックのやわらかい髪に指を絡ませながら、むくむくと独占欲が湧く。
口いっぱいに含んでいたものを解放して、今度は小さな舌だけでゆるやかに舐め上げる。わざとその行為が見えるように、ねっとりとした赤い舌をティルに這わせながらルックが応えた。
「あんたと違ってね、ぼくは色々あるんだよ…」
色々、という言葉に胸がチクリとなる。
「…もしかして、俺以外の奴ともやってる?」
普段女王様然としているルックに奉仕されるのは、感覚的にも視覚的にもこの上なく気持ちがいい。だが、こんな姿を他の男にも晒していたら。他の男も悦ばせていたら。胸の奥でどす黒いものが渦巻く。
「…だったらどうするの」
ティルの嫉妬を感じ取ったのか、ルックは鼻で笑う。情欲で濡れた翡翠色の瞳が見上げてくる。その姿に、これは俺のものだ、他のものになるだなんて許せるものかと言いたくなる衝動をぐっと抑え込み、なんとか声を絞り出す。
「……妬ける」
「今はあんただけだよ」
ティルの答えに満足したのか、ルックは少し目を細めて微笑む。そしてティルの限界まで張り詰めたものを含み直し、先程よりもさらに力を入れて上下に動かした。
「…っ、ぁあ……っ!」
唇と頬に力を入れ扱き上げてやるとティルが放精の時を迎える。
「出る……っ!」
頭を撫でていた手に力が入り、ルックの口内に己の欲望を放つ。少し苦しそうに咳き込みはしたが、ティルの全てをルックは飲み込んだ。
「……これで満足した?」
はぁはぁと息を切らせながら口まわりに残った精液を拭う。開いた口にはまだ粘り気のある糸が光っており、男を煽るその姿にティルの下半身が再び反応した。
「じゃあもう寝るよ」
「あっ!ちょ……っ!」
そのような状態のティルはお構いなしに、ルックは背を向け掛け布でその体を覆う。しかしながらその彼の頬や耳は赤く染まっており、興奮が冷めていないのは見て明らかだった。
(素直じゃないな)
ティルは笑みを漏らしながら指を咥え、その先に涎を絡ませる。
「口ではそう言ってるけどさ」
ルックの法衣をめくり上げ、下履きの中へ手を入れる。そのまま迷いなくその秘部に指で触れる。ぬぷりと音を立て、ゆっくりとティルの指を咥え込む蕾は、深く差し入れる度にわずかにふるえ動いた。
「こっちはずいぶんと欲しそうだな?」
先程の口淫のときに溢れた先走りとティルの唾液で十分に濡れたそこは、ずぶずぶと指を呑み込んでいき、動かす度にルックの甘い声が漏れ出した。
「…ふっ……ぃや…だっ……!」
「ほら。もう二本入った」
にゅぷっと濡れた音をわずかにさせながらもう一本指を窄まりに沈める。三つに数を増した指はくちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、さら動きを加速させルックの中を探った。
「んんっ! …あっ……あぁっ……!」
ルックの中の膨らんで硬くなった部分を探り当てる。前立腺を指の腹で繰り返し擦ってやると、体をびくびくと震わせながらその身を捩らせた。
さらにもうひとつの手でルックの硬直したそれを包み、上下に扱く。その後ろではティルの三本の指が不規則な動きで前立腺を押し上げる。前と後ろから与えられる感覚に、ルックは早くも限界を迎える。
「ぁあっ そこっ……も…っ………だめ…っ!!」
手の平でそのどろりとした白い蜜を受け止める。以前どこかの御曹司が吹聴していたのだが、周りに人が寝ている状況での行為はより興奮度が増すというのは本当だった。それはルックも同じなのだろう。いつも以上に反応が良い。しかし皆が起きてしまってはその先の行為に進めなくなってしまう。
「声抑えろよ…みんなが起きる」
そう耳元で囁くと、びくん!と震えこくこくと小さく頷くルックが愛しい。受け止めた彼の熱を己のペニスに塗りつける。早く入れたい。中で存分に暴れたい。気持ち良くなりたい。そう感情が逸り、ルックの許可も待たずに早急に自身を押し充てる。どうしようもなく膨らんだ欲望はぐぷぐぷとルックの中を突き進んでいく。
「あぁ……」
満たされる感覚に思わず歓喜の声が漏れる。対して、先ほど達したばかりの体に続けて熱い脈動が与えられ、なんとか声を押し殺しながら男を受け入れるルックはこの上なく扇情的であり、そしてかわいい。
「あっ! ぁ、ぁっ! んっ!!!」
その耳に舌を這わせると、甘い声を出して中をきゅうきゅうに締め上げられた。少し痛みも感じるものの、たまらなく気持ちがいい。その輪郭をなぞったり、その薄い耳たぶを吸ってみたりと耳を堪能していたら、ルックが物欲しそうに舌を漂わせ振り返る。てらてらと艶かしく光るその舌に吸い寄せられ、ティルは何度も口付ける。ルックも必死でその動きに応えた。
ただ、横臥した体を後ろから抱き込む形での行為というのは何度体を突き上げられてもなかなか思い通りのところには当たらず、より強い悦びを求めてルックは自ら腰を動かす。ティルはその動きの意図を読み取ると、自身の上に仰向けでルックを寝かせ、彼の足を思い切り開き、力強く打ち付けた。その動きに全てを隠していた掛け布が捲れ、二人の痴態が露わになる。
「‼︎ や!いやだ!」
交わっていた唇を離し、体を隠そうとルックが暴れ出す。ティルはすぐにその顎を掴み、顔を振り向かせてまた口を塞いだ。上下の口内をかき乱す快感に加え、さらに胸の隆起を爪で細かく弾いて刺激すると、ルックは歓喜の声を上げながら次第に大人しくなりその悦びに浸る。続けて指で弧を書くように押したり擦ったり、力を入れて摘んで弄んでやると、その指の動きのたびにルックはより強く壁内を締め付けた。先ほど吐出したはずのルックのペニスからはとろとろと白い粘りが溢れ出ていた。
「んっ んん……! ふぁっ!!」
さらに一段と早くなったティルの腰の動きに、ついに目の前にチカチカとした白い閃光が走る。そのまま何度も突かれ、飛びそうになる意識を必死で捕まえる。
「おれも、もう……!くっ!」
時を同じくして、ティルもルックの中で絶頂を迎える。そのどくどくと放たれる熱い滾りをルックの体に注ぎ込んだ。
*******
「無理。風呂に入りに行く」
情事のあと、無事皆がまだ寝入っているのを確認したルックが服を正しながら言う。
「ちょっと待てよ、俺も連れて行け!」
光を集め、本拠地へ飛ぼうと振り上げられたルックの腕を慌てて静止させる。
「あんたがいなくなったら大騒ぎになるんじゃないの?」
「それは……」
最もなことを年下のルックから指摘され言葉に詰まる。ティルはしばしらく考えたのちルックの腕を握った手に力を入れ顔を上げる。
「うん。大丈夫だ。10分で戻ろう!」
星主の揺るぎない決定にルックは抗えず、わかったよと零す。そのまま二人は光に包まれ、辺りに闇が戻るとその姿は消えていた。
*******
夜も遅く、本拠地の風呂の火はすでに消えたあとではあったが、まだ少し温かさの残る湯を身体に掛ける。日中の汚れを洗い流し湯船に浸かると、ふうとティルは息を吐いた。
無事今日の日の勝利を収め、仲間たちを喜びを分かち合う。愛するものと肌を合わせる。一日の終わりに風呂に入る。なんと充実した一日なのだろう。テッドのことや、この先に待ち構える壁のことを考えるとどうしても気が滅入ってしまうが、自分がしっかりと地に足をつけ前を見続けていなければ、今までのことがすべて無駄になってしまう。強大な帝国の前に解放軍の力はいまだ遠く及ばない。自分が挫けてしまったら。すべてを投げ出してしまったら。そうなると親友や父や家族とは二度と会えなくなるだろう。村を焼かれ迫害された異民族はみな死に絶えるだろう。繰り返される蹂躙に負けず、芽吹き始めた人々の反骨心は今度こそ潰えてしまうだろう。そうならないためにもまず自身の心身の健康が第一だと、ティルは考える。
だから。だから今だけは。檜の香りが鼻をくすぐる。ゆっくりとやわからい湯の中に意識が溶けていく。まったりとした時間をしばし満喫したタイミングで浴室のドアがガラリと音を立てて開かれた。
「お。結構時間かかったな」
背後から近づく気配に声を掛ける。
「誰のせい…」
少しぐったりとした様子で、ルックがティルの近くまでやってきて膝をつける。
先ほど受け止めたティルの精を別の風呂場で洗い流してきたのだが、後処理が終わるなり彼と同じ湯船にやって来るルックも実は人恋しいのであろう。それならば最初から同じ浴室ですればいいのにと思うが、そんな間抜けな姿があんたは見たいの、と綺麗な顔に凄まれてしまえば何も言えなくなるティルである。
「うわ、こっちもぬるい」
指の先を湯につけ、不満そうにルックが漏らす。
「まぁ、消灯時間はとうに過ぎてるしな」
「……仕方ないな」
はぁ、とため息をつきながら、桶でお湯を掬いその肩に掛ける。体をやや横に傾けお湯を掛けるその姿はひどく艶かしい。ひとつにまとめたところからあぶれた髪がぴったりと首筋に張り付いている。指先や、先に洗髪を済ませていたのであろう前髪からしたたる水滴もまた一層欲望を駆り立てる。
「なにじっと見てるのさ」
横目でじっと見つめるティルの視線が痛い。
「いやぁ。えっちだなぁと思って」
照れ臭そうに話すティルの変化に目を見張る。水中の少し濁った中でもはっきりとわかるその変化にルックはたじろいだ。
「は⁈ なんか元気になってない?」
「うん。なんか見てたらムラムラしてきた」
恥ずかしげもなくと答えるティルに、戦いの興奮がまだ冷めてないんじゃないの、そう言ってやり過ごそうとした。が、急に湯船から立ち上がった彼に手を引き寄せられ、その胸に飛び込む形で抱き止められる。
乱暴な動きに抗議しようとしたが、そのまま頭にキスを何度も落とされると、なんだか悪い気もしなくなってくる。さらにティルはそのままルックを抱き抱え、湯船のヘリに腰を下ろす。どうやら本格的に致したくなったらしい。唇がだんだんとまぶたや頬に降りてきて、耳を丁寧に場所を変えて食み出す。甘噛みされるたびにひくひくと反応してしまって、ただでさえ下処理で拡げたばかりの体が再び疼き出す。
「ちょっと…」
いい加減その気になったのならば、早く触ってほしい。もっと強い刺激が欲しいのだと、期待を込めた表情で彼にねだる。ルックの了解を得たその手は、柔らかな肉の感触を求め、両手でその尻を揉みしだいた。
「あッ! あぁんっ」
彼との行為と後処理をしたばかりの体はまだ敏感であり、すぐに体全体が熱を帯び始めた。ティルの肩に手を回し体を密着させ、その膨らみかけた自身を同じく屹立した彼のそれに擦り付ける。先濡れがとろとろと溢れ二つの熱が混じり合う。ぬちゃぬちゃと音を立て擦り付け合い、互いに高まっていく。先ほどの幕内ではずっと我慢していた声も、彼の興奮をかき立たせるべく、誰もいないこの場所では大きく響かせことができた。
ティルのキスを求めてその顔を確認すると、息は荒く、ひどく興奮していて余裕のない表情をしていた。いつも凛と立つ彼の姿はとても勇ましく惹きつけられるが、彼がただの男として見せる今の顔もルックは好きだった。こんなティルの姿を見られるのはおそらくは自分しかいない。そして彼をこんな風に昂らせたのが自分だと思うと、それがとても嬉しかった。
「んっ……はっ……っん…!」
差し出されたその舌にルックは必死で吸い付く。混じり合った唾液を取りこぼさないようにゴクリと飲みこんでいく。それを合図に今度は舌で包み込まれ、深く深く絡ませ合った。
師の指示で星主たる天魁星を支えるよう遣わされてはいるが、彼の力になりたい、彼と共に在りたいというこの感情は、それだけではない。あの日、初めて彼を見た時からルックは彼の放つ力強い光に魅入られていた。真っ直ぐと前を向くその瞳が忘れられなかった。
レックナートに心身を含めた天魁星の補佐を命じられたときは心底嬉しかった。彼なら、あの星に約束された彼であれば、紋章の見せるあの未来をどうにかできるかもしれない。そして色づいた未来を迎えたそのとき、自分は彼と共にいたいとなぜだかそう思ったのだ。
初対面の相手になぜそこまでとは思ったが、そう思ったものはしようがない。レックナートに呼び出されるその日をルックは指折り数えていた。彼と会って以降あの精悍な瞳を思い返すたび、彼を求める体が甘く疼き、夜な夜な自らを慰めたものだった。そしてついに師に呼ばれ、彼の元へと下ることになった。幸いにもすぐに寝屋に呼ばれ、その本懐を遂げることができた。師がどのように言ったのかは知らないが、彼がすぐに自分を求めてくれたことにこの上ない喜びを覚えた。そうして今このときまでその悦びは続いている。そういえば自分が男に抱かれるのが初めてではないと知った時のティルの表情と言ったら。あのときは今とはまた違った余裕のない顔をしていた。
「ずいぶんと余裕だな」
くすくすと思い出し笑いをするルックの意識を呼び戻す。いつの間にか後孔に指を入れられており、くぱくぱと開いたり閉じたりして弄ばれていた。
「すごいな…もうこんなに解れてる」
「……ばか」
情事の名残りでまだ柔らかいその中は、今し方流れてきた二人分の迸りも相まって指を動かすたびにぴちゃぴちゃとした水音を響かせた。
「今日は…もう…ゆっくりがいい」
さすがに行軍と戦闘と、先ほどのセックスと後処理で体はヘトヘトである。それでも体はまだ快楽を求めてはいるが、いい加減体力は尽きている。先ほどのキスで余力などもう残ってはいない。
耳元でそうねだると、ティルの手に力がこもり、彼の熱棒がゆるゆるとルックの中に沈んでいく。
「仰せのままに」
にゅぷにゅぷと鈍く緩やかな音を立てながらゆっくりと浅く出し入れされる。ぬるぬるとした液体が腿を伝う。ルックは目を閉じ、その満たされる感覚をじんわりと噛み締めた。
やがてゆるやかな動きは止まり、今度は口づけを再び交わす。先ほどの余裕のないキスではなく、ゆっくりと互いの舌を絡ませ合う。先端をくすぐり合うように重ね、そのやわらかさをしばし楽しんだ。ただその一方で、キスの動きに合わせてひくひくと襞がうねりティルに絡みつく。ルックの中をかき乱したくなる衝動を抑えながら、静かに、ゆっくりと再度腰を動かし始めた。
ルックは再び与えられ出した性感に、体がとろとろと溶けてしまいそうになる。強い衝動でもないのにたまらなく気持ちが良い。ルックの舌の動きが疎かになると、ティルがその薄い舌を絡ませ、意識を向け直す。けれどもゆるゆるとしたその動きが中を擦るたびに、じわじわと広がっていく熱が体を満たしていく。
ティルは反応の弱くなった唇は諦め、次の的を赤く尖った先端に移す。れろり、と舌の腹で押しつけるように刺激をすると、ぴくりと反応が起きる。繰り返し方向を変えてその敏感な突起を潰すように舐めると、動きのたびにルックは体を波打たせた。
「や……あっ…ああっ だ、だっ…め…っんん…」
あのルックが顔を赤らめ、口からは涎を垂らしてよがっている。彼の希望でねっとりとした交わりを徹底しているのに、当の本人は抑制できなくなるほど乱れている。そんなルックの姿に優越のような高揚感を覚えた。肉悦に浸りながら綺麗な顔を歪ませ、普段は生意気な物言いのその口からは淫らな声があふれ出る。こんな姿は自分しか知らない。誰も知らない、俺だけのルックだ。少なくとも今は。彼の乳首を吸いながらそう思う。
そうだ、ルックは自分以外の男を知っている。今まで彼がどう過ごしてきて、あの年でここまで男を悦ばせるようになったのかなんて知らない。はじまりは、初めての任務で彼の住む島を訪れたときだった。あのときルックを一目見て閃光が走った。ずっとずっと探していた、たったひとりの人。父親やグレミオのような家族じゃなく。テッドのような唯一無二の親友でもなく。本能で求めていたその人だとすぐに思った。指で数えられるだけの言葉しか交わせなくて、その帰路ではひどく後悔したものだ。だけどまさかまた会えるなんて。しかもあのような形で。
あの夜。レックナートがルックを連れ、本拠地となった湖の滸の城を訪れたあの日。これから天魁星として星々を引率れて天を動かすのだと、言われた。己の征く道は長く険しいものだと預言者は語った。だが自らの弟子であるルックが全身全霊で貴方を支える。天間星たる星の子ルックは貴方のすべてを受け入れ、その力になる。そう言ったのだ。
あのときのレックナートは、明らかにティルがルックに向けている愛欲を理解した上でそう話した。
実際その夜にルックを褥に呼ぶと、彼は準備を済ませて部屋を訪れ、躊躇うことなくティルに抱かれた。その感じからなんとなく察したが、自分が初めての男でないのは口惜しかった。けれどもそれ以上にルックとの相性は良く、男を抱くのは初めてであったが、今までなく良かった。心も体も満たされたのは、きっとルックに恋をしていたからだな、と思いに耽る。
「ねぇ、いい加減痛いんだけど」
つらつらと考えこんでいたら、ルックから抗議の声が上がる。そういえばずっと乳首を吸ったままだった。目の前の彼は呆れた顔でティルを見ている。
「悪い、つい」
吸い上げられやや平たく上向きになった乳首を指で元の形に整えてやる。その動き一つ一つにルックはびくびくと小さく体を震わせる。それと共に彼の中もヒクヒクと痙攣し、飲み込んだティルの分身にまとわりついた。
「ねぇ、もう最後まで一気にいこうよ…。このままじゃ、つらい」
首をかしげておねだりする姿は可愛らしいが、もっと色気のある言い方にしてほしい。ティル・マクドールという男は案外ロマンチストであり、睦事では雰囲気を大事にしたいのだ。けれども下半身に素直なのも抗えない事実なわけで、ルックが中をひくつかせながら腰を振る衝動に、自身の欲望を昂らせた。
「だからっ…はや…っん……あぁっつ!」
ティルの、高みを求めて繰り返し突き上げる動きにルックが声が上擦らせるが、一気にやっていいと言ったのは彼だ。悪く思わないでほしい。肉のぶつかり合う音と激しく濡れた音とが動きのたびに、だんだんと早く大きくなっていく。
奥に届くようにより深く彼の体に己を打ち込んでいく。動きのたび、己に絡みつくように彼の内壁が縋ってくる。その擦れる感覚に限界が近づくのがわかる。何度も何度も打ち付け、ついにその時を迎えた。
奥を容赦なく突かれ続け、そのたびに目の前が真っ白になった。びくびくと中が痙攣しても男は動くのを止めてはくれず、肉壁を擦り上げられる。ルックのものからは勢いよく白い精が放たれ、その腹を汚しても、男は気にもせず夢中で腰を振っている。継続して与えられる快楽の極みに我慢できず、女のように鳴く自分が恨めしいが、声を上げるたびに飲み込んだ男のものがわずかに質量を増すのは素直に嬉しかった。
どくどくと熱いものがルックに注がれる。すでに今日はもう三度目の吐出だというのに、収縮を繰り返しながらどろどろとした男の精が体の中を満たしていく。ふわふわとした気持ちのままティルを見ると、まだ少し苦しそうに顔を歪ませていた。回した腕に力を入れ唇を近づけると、その意図に気づいた彼が口づけを落とす。やさしく触れるだけのキスを何度も交わし、互いの息を整えた。
*******
「いやーーよかった!最高だった!」
新しい服に着替え身も心もリフレッシュしたティルは意気揚々だった。
「ぼくは疲れたけどね」
体力のないルックはうんざりとした目で愚痴を吐く。
「しかも誰、10分で戻るって言ったの」
野営を発ったのは深夜であったが、今はもう空が白み始めている。
「あ。やばい。早く戻ろう!」
空の変化にようやく気づき、慌てるティルにルックが呆れながらも手を伸ばす。その手を取り転移の準備に入った。
「……でも今日は収穫だったな」
光に包まれながらティルが呟く。ルックははぁ?と怪訝そうな声色をでそれを返した。
「野営のときでもえっちできるってわかった」
相手が眉間にしわを寄せるのにも構わず、ティルは続ける。
「ルックは汚いのいやって言ってたけど、これで解決だな。次がたのしみだ!」
屈託のない笑顔でティルが言うので、反論するのもなんだかどうでも良くなる。彼が喜ぶならそれでもいいかとルックは小さく微笑んだ。
「毎回は嫌だからね。ちょっとは自制しなよ」
「うん、わかってる。じゃあ戻るか」
手を取り合いながら互いに見つめ合い、やさしく微笑む。光が密度を増し、二人を仲間の元へと運んだ。
おわり