自動車補修における塗装後には、必ず仕上げ磨きを行います。理由は様々ですが、ブツ・ゴミを除去した時についてしまう小傷(ペーパー傷)を修正したり、ハジキ・タレ等を修正した際に残る小傷を目立たなくする目的で行います。
①磨きの基礎知識<"磨く"とは>
コンパウンドをご存知でしょうか?コンパウンドとは研磨材のことで、金属粉(主に酸化アルミ)や岩石を砕いた粉(主にシリコンカーバイド)が使われることが多いようです。この研磨材で、塗装面を削る=傷をつけることで小傷を目立たなくします。削ると言えばおおげさに聞こえますが、程度の差こそあれ、磨き作業自体が研磨材で塗装面の傷をより小さい傷に置き換えていくことを指します。
鈑金⇒塗装に移っていく工程では、ペーパーの番手を徐々に細かい番手に置き換えて作業を行います。磨き工程でも基本的な考え方は同じで、前工程で使った研磨材よりも細かい目の研磨材に置き換えていくことで、傷をより小さく、浅いものに置き換える作業を言います。
↓傷の置き換えイメージ
深い傷の周辺をポリッシャー等で削っていき、(1)⇒(2)⇒(3)と傷を浅く小さなものに置き換えます。(3)まで小さな傷になると、肉眼では殆ど見えない傷になっているため、まるで傷がついていないように見えます。
②磨きの基礎知識<淡色と濃色>
・淡色と濃色で工程が違う!
同じ工程で作業を行えば、淡色や濃色関係なく、物理的には同じ深さの傷が入っているはずです。しかし見比べると、肉眼でも十分に解るほどに、淡色と濃色では見た目に差が出ます。具体的には、淡色は磨き目が出ないのに、濃色ははっきりと磨き目が出ます。これは何故でしょうか?答えは、人間の目が濃色に対して傷を認識し易く、淡色に対しては傷を認識しにくいためです。濃色の場合は、この細かな傷をさらに浅く小さな傷に置き換える(人間の目に認識出来ないサイズの傷に置き換える)工程が追加になります。
・淡色と濃色の基準は?
淡色と濃色の基準は、色相(赤や青など)や彩度(鮮やかさ)ではなく、明度(色の明るさ)で判断します。少し乱暴な表現ですが、白に近い色は明度が高いため傷が目立ちにくく、黒に近い(色が濃い)色は明度が低いため、傷が目立ちやすいです。
③磨きの基礎知識<磨きで使う道具>
●ポリッシャー
シングルアクションポリッシャーとダブルアクションポリッシャーに大別されます。シングルアクションは研磨力が強い代わりに、深い傷が入ります。逆にダブルアクションは研磨力はシングルアクションに及びませんが、浅い傷が入るため、仕上げに使い易い仕様になっています。
●バフ
バフには様々な種類がありますが、ここではウールバフとウレタンバフの2種類をご紹介します。一般的な傾向として、ウールバフは深い傷が入り易く、ウレタンバフは浅くて細かい傷が入ります。つまりウールバフは面を整えることに向き、ウレタンバフは仕上げに向きます。
●コンパウンド
様々なコンパウンドがありますが、この項では言葉の表現のみに集約して書きます。"極細目"は傷が大きく、超微粒子が傷がより小さくなっています。
④磨きの基礎知識<実際の工程>
【淡色の仕上げ】
Ⅰ,ダストカットメタルでブツの頭をカット
Ⅱ,カットした部分をトレブロック+トレカットイエロー(800番)で平滑にする
Ⅲ,シングルポリッシャー + ウールバフ + コンパウンド(極細目:メンツェルナPO91J)で磨く
Ⅳ,シングルポリッシャー + ウールバフ + コンパウンド(超微粒子:メンツェルナPO85J)で磨く
※淡色の磨きは、ウールバフを使用し、コンパウンドを2種類使い分けます。
【濃色の仕上げ】
Ⅰ,ダストカットメタルでブツの頭をカット
Ⅱ,カットした部分をトレブロック+トレカットイエロー(800番)で平滑にする
Ⅲ,シングルポリッシャー + ウレタンバフ + コンパウンド(超微粒子:メンツェルナPO85J)で磨く
Ⅳ,ダブルアクションポリッシャー + ウレタンバフ + コンパウンド(超微粒子:メンツェルナPO85J)で磨く
※濃色の磨きは、ウレタンバフを使用し、ポリッシャーを2種類使用します。
※濃色の磨きの注意点
シングルアクションで濃色の磨きが終わった際によく遭遇するケースですが、磨いた部分がまるでCDの裏面のようなバフ目がついていることがあります。これを一般的にウロコと呼称します。これはシングルアクションポリッシャーで磨いたことによりついた、規則的に並んだ傷です。これが非常に厄介で、この傷はなかなか取れません。
そこでダブルアクションの出番です。ダブルアクションは偏心運動を行いながら磨く(=磨き目が不規則になる)ので、このウロコを効果的に消すことが出来ます。
⑤磨きの基礎知識<バフの掃除>
バフに残ったコンパウンドを、こまめに取り除くことで、これを解消することができます。目安は、50cm四方を磨いたら1回バフを掃除することです。方法は、バフトリマーでバフの表面に付いたコンパウンドのカスを払ったり、または、バフクリーナーを使うと手早くできます。そして、また少しコンパウンドをつけて磨きましょう。ポイントは、必要以上にコンパウンドを付けすぎないようにすることです。
また、同じバフで種類の違うコンパウンドは使わないようにしましょう。「このバフは極細用とか超微粒子用」というようにバフを区別して、裏にマジックで書いておくと良いでしょう。作業が終わったらバフを水洗いしましょう。バフに適度な湿り気を持たせ、バフのコンディションを整えるのが目的です。ウレタンバフはポリッシャーに取り付けて回転させ、トリマーで表面を薄く削って整えておくと良いでしょう。バフの管理は磨きにおいて重要です。常にバフの適切な管理を心掛けましょう。
【この項で登場した道具、磨き関連製品】
l ブツとり用品
l ダストカット
l 3Mぶつ取キット
l バフレックス
l シングルポリッシャー(京セラ)
l ケイテック
l ウールバフ
l ウレタンバフ
l バフクリーナー
l メンツェルナ
l 極細目コンパウンド(メンツェルナPO91J)
l 超微粒子コンパウンド(メンツェルナPO85J)
l 3Mコンパウンド
l ファレクラ