厚生労働省eJIM

(エビデンスに基づいた「統合医療」情報発信サイト)


ステイホームを余儀なくされ,テレビを見る時間が増加した.民放テレビの午後の番組中に流されるコマーシャルに健康関連商品が多いのに改めて気付かされた.「くすり」ではないが,それに近い印象を与えるギリギリの線で宣伝しているものが多い.

2020年度の健康食品市場は0.7%増の8680億円とのことである.売上の上位に位置するのは,胡麻油の成分やアミノ糖である.いずれも食品から摂取できる成分である.

有効性を調べるには学会誌の論文等を参照する必要があるが,専門家でないと簡単ではない.それに代わるものはないかと調べてみたら厚生労働省のeJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)があることを知った.以下はその概要である.

サイトの説明

厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト)は、民間療法をはじめとする相補(補完)・代替療法*と、どのように向き合い、利用したらよいのかどうかを考えるために、エビデンス(根拠)に基づいた情報を紹介しています。決して個人の責任で実施するさまざまな療法を制限するものではなく、また特定の療法を勧めるものでもありません。*相補(補完)・代替療法: 近代西洋医学と組み合わせられる各種療法

試しに「イチョウ」について検索してみた.

イチョウ

背景

  • イチョウの木は、世界でも最も古い種類の木の一つであり、中国伝統医学として長い歴史があります。王宮では、老化防止のためにイチョウの実が利用されていました。イチョウはほかにも歴史的に、喘息、気管支炎、腎臓や膀胱の障害で利用されていました。

  • 現在では、イチョウ葉の抽出物(エキス)はサプリメントとして不安症、アレルギー、認知症、眼疾患、末梢動脈疾患(頭部、内臓および手足に血液を運ぶ血管内にプラークが蓄積されて、血管が細くなる)、耳鳴りなどのさまざまな症状・疾患に良いとされています。

これまでに解明されていること

  • イチョウの使用において人の健康に対する効果やリスク(危険)について多くの研究がされてきました。

研究で明らかになったこと

  • いかなる健康状態についてであれ、イチョウが有用であるという決定的な科学的証拠(エビデンス)は存在しません。一部の研究ではイチョウが認知症の症状をわずかに改善させることが示唆されていますが、この知見は信頼性が低いと考えられています。また、ほかの研究では相反する結果が得られています。イチョウは、認知症または認知機能低下を予防することはできず、アルツハイマー病に関連した認知症の悪化を予防することもできませんでした。これは、米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)が一部資金提供し、3000人以上の高齢者を対象とした長期的なイチョウの記憶への影響評価研究(the long-term Ginkgo Evaluation Memory Study)を含む研究による知見です。

  • さまざまな健康上の問題に関して、イチョウの有益性を示唆するわずかなエビデンスがあるものの、全体的な決め手となるエビデンスは得られていません。評価対象の症状・疾患には、不安、糖尿病性網膜症、緑内障、末梢動脈疾患、月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)、統合失調症、めまいなどが挙げられます。

  • 健康な人の記憶力向上、高血圧、耳鳴り、多発性硬化症、季節性情動障害、および心臓発作や脳卒中のリスクに対しては、イチョウは有用ではないことが、研究によって示唆されています。

安全性について

  • ほとんどの人にとって、適量のイチョウ葉抽出物(エキス)を経口(口から)摂取した場合、安全であると考えられます。

  • イチョウの副作用は頭痛、胃のむかつき、めまい、動悸、便秘、アレルギー性皮膚反応などです。既知の出血リスクを有する場合は、出血のリスクを高める可能性があるためイチョウの摂取には注意が必要です。

  • イチョウの葉の抽出物(エキス)を与えられたげっ歯類は、2年間の研究終了時に肝臓がんおよび甲状腺がんを発症するリスクが高かったことが2013年の研究調査で明らかとなっています。この結果が人にも当てはまるかどうかは不明です。

  • 研究レビューにより、イチョウには、抗凝固剤(血液希釈剤)など従来の医薬品との相互作用の可能性があることが示されています。

  • 妊娠中のイチョウの経口(口から)摂取は安全でない可能性があります。出産に近い時期にイチョウを使用すると、早産や分娩時の過剰出血を引き起こす可能性があります。授乳中のイチョウ摂取の安全性についてはほとんどわかっていません。

  • 生または煎ったイチョウの種子および加工していないイチョウの葉は、有害な量の毒性物質を含んでいる可能性があります。

主要成分は以下の通りである.

ギンコライド(Ginkgolide)は,イチョウ葉に含まれるテルペノイドであり,置換基の種類により,5種類(ギンコライドA,B,S,J,M)が確認されている.唱和42(1967)年に,東北大の中西香爾教授らによりNMRを駆使して構造決定(A, B, C, M)がなされた.員環が個繋がった珍しい化合物として当時注目を集めた.

Ginkgolide A R1=H R2=OH R3=H

Ginkgolide B R1=H R2=OH R3=OH

Ginkgolide C R1=OH R2=OH R3=OH

Ginkgolide J R1=OH R2=OH R3=H

Ginkgolide M R1=OH R2=H R3=OH

ギンコライドの結晶構造(CCDCデータ)

Ginkgolide Aの構造

FUGTOQ : 3-(1,1-Dimethylethyl)hexahydro-4,7b-dihydroxy-8-methyl-9H-1,7a-(epoxymethano)-1H,6aH-cyclopenta(c)furo(2,3-b)furo(3'2':3,4)cyclopenta(1,2-d)furan-5,9,12(4H)-trione monohydrate

Space Group: P 21 21 21 (19), Cell: a 8.9906(3)Å b 12.4256(10)Å c 17.8140(11)Å, α 90° β 90° γ 90°

Deposition Number 1160777.

Synonyms Ginkgolide A monohydrate,

Deposited on 04/09/1988

M.Sbit, L.Dupont, O.Dideberg, P.Braquet, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1987, 43, 2377, DOI: 10.1107/S0108270187087699

Ginkgolide B

FATYOO : 3-(1,1-Dimethylethyl)hexahydro-4,7b,11-trihydroxy-8-methyl-9H-1,7a-(epoxymethano)-1H,6aH-cyclopenta(c)furo(2,3-b)furo(3',2':3,4)cyclo-penta(1,2-d)furan-5,9,12(4H)-trione monohydrate

Space Group: P 1 (1), Cell: a 7.627(4)Å b 11.514(9)Å c 12.941(8)Å, α 97.05(5)° β 90.27(5)° γ 108.71(5)°

Deposition Number 1152891

Synonyms Ginkgolide B monohydrate

Deposited on 21/09/1987

L.Dupont, O.Dideberg, G.Germain, P.Braquet, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1986, 42, 1759, DOI: 10.1107/S0108270186090662

Ginkgolide C

FUGTUW : 3-(1,1-Dimethylethyl)hexahydro-2,4,7b,11-tetrahydroxy-8-methyl-9H-1,7a-(epoxymethano)-1H,6aH-cyclopenta(c)furo(2,3-b)furo(3'2':3,4)cyclopenta(1,2-d)furan-5,9,12(4H)-trione ethanol solvate sesquihydrate

Space Group: P 21 (4), Cell: a 12.9668(5)Å b 13.1218(6)Å c 15.3083(5)Å, α 90° β 112.95(3)° γ 90°

Deposition Number 1160778

Synonyms Ginkgolide C ethanol solvate sesquihydrate

Deposited on 04/09/1988

M.Sbit, L.Dupont, O.Dideberg, P.Braquet, Acta Crystallographica,Section C: Crystal Structure Communications, 1987, 43, 2377, DOI: 10.1107/S0108270187087699

Ginkgolide K, Ginkgolide Pなども結晶解析されている.

Deposition Number 1436776

Data Citation

Yiwen Zhang, Guoshun Zhang, Zhenzhong Wang, Yang Lv, Wei Xiao CCDC 1436776: Experimental Crystal Structure Determination, 2016, DOI: 10.5517/cc1k72mh

Synonyms Ginkgolide K monohydrate

Deposited on 13/11/2015

Deposition Number 777268

Data Citation

Hua-Jun Liao, Yun-Feng Zheng, Hong-Yang Li, Guo-Ping Peng CCDC 777268: Experimental Crystal Structure Determination, 2012, DOI: 10.5517/ccv2t5w

Synonyms Ginkgolide P monohydrate

Deposited on 16/05/2010

市販品の中に多量含有したものがあることが問題になり,現在は含有量が定められている.毒性の詳細についてはこちら

イチョウ葉の効用について訊かれる立場にある者としては,ネガティブな回答しかないが,ウエブ上にはポジティブな見解が目立つ.一部の中小製薬会社がサプリとして販売しているためと思われる.

イチョウ葉に含まれる成分の認知機能改善作用|Web医事新報 ...

イチョウ葉に含まれる成分の認知機能改善作用|Web医事新報 ...

イチョウの葉から抽出した化合物(イチョウ葉エキス)には種々の生物活性物質が含まれています。中でも重要な物質は,フラボノイド配糖体とテルペノイドです。

わが国の健康食品業界の規格品では,フラボノイド配糖体を24%以上,テルペノイドを6%以上含有し,アレルギー物質であるギンコール酸の含有量が5ppm以下であること,が条件づけられています。

フラボノイド配糖体とテルペノイドは抗酸化作用,血液凝固抑制作用,血液循環改善作用を示し,加えてβアミロイド蛋白凝集によるオリゴマーやアミロイド線維の形成を阻害します(文献1)。

最近,フラボノイドの一種であるケルセチンがβアミロイド蛋白の合成を阻害することが認められました(文献2)。さらに,ケルセチンがリン酸化タウ蛋白の海馬への蓄積を抑制すると報告されています(文献2)。

βアミロイド蛋白やリン酸化タウ蛋白が凝集して神経細胞に毒性を示すことは証明されており,この毒性を阻害することがAD治療に有効と考えられます。しかし,イチョウ葉エキスのADへの効果が一時的で,予防や根本治療となりえない理由は不明です。

イチョウの葉以外に,米ヌカに含まれるフェルラ酸にもβアミロイド蛋白による神経毒性抑制を介してAD初期の人の認知機能を改善させる効果のあることが証明されています(文献3)。

1) Luo Y, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2002;99(19):12197-202.

2) Sabogal-Guaqueta AM, et al:Neuropharmacology. 2015;93C:134-45.

3) 中村重信, 他: Geriatr Med. 2008;46(12):1511-9.

「サトウ イチョウ葉」(機能性表示食品)新発売

ニュースリリース (令和元年12月)

認知機能の一部である記憶力※を維持・サポートする

「サトウ イチョウ葉」(機能性表示食品)新発売

 佐藤製薬株式会社(本社:東京都港区、社長:【佐藤誠一】)では、認知機能の一部である記憶力※を維持・サポートする「サトウ イチョウ葉」(機能性表示食品)を2019年12月16日(月)より新発売いたします。

中略

 「サトウ イチョウ葉」に配合されている機能性関与成分「イチョウ葉由来フラボノイド配糖体」および「イチョウ葉由来テルペンラクトン」は、脳血流量の改善や脳機能の活性化に働きかけ、中高年者において、認知機能の一部である記憶力維持・サポートする機能を有することが報告されています。

追記

血小板活性化因子を抑制する働きがあり「イチョウ葉エキス」として記憶力増進や脳内血流改善アレルギーや喘息改善などに効果があるとされサプリメントなどに添加されるドイツやフランスなどのヨーロッパでは医薬品として扱われている.

追記 米国のバイオジェン社と日本のエーザイにより開発されたアデュカヌマブは, アルツハイマー病の治療に用いられる医薬品として最近承認された. 本剤は, アルツハイマー病患者の脳内にあるアミロイドベータ凝集体の蓄積を抑えるアミロイドベータ指向性モノクローナル抗体である.

これまで限定公開していたプログです.

一般公開日 2021.11.16