招待講演

招待講演者(敬称略)

安成 哲平

北海道大学 北極域研究センター 准教授

稲津 將

北海道大学 理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星ダイナミクス分野 教授

山本 太郎

一般財団法人 北海道河川財団 参事

講演詳細(講演順)

安成 哲平

北海道大学 北極域研究センター 准教授

講演タイトル

地球環境科学のキャリアパスを「大気エアロゾル」を通して見る

-日本から世界へ,そして世界から日本へ–


講演要旨

 私が研究者を目指したきっかけは,高校生の時に南極のアイスコアを北大工学部で見せていただいたのが直接のきっかけである.北大の大学院では(修士課程当時,大学院地球環境科学研究科),北大の低温科学研究所(分析は国立極地研究所)でそのアイスコア中の大気エアロゾルであるダスト粒子を測定することから,私の大気エアロゾル研究は始まった.大気エアロゾル は,その放射効果から気候へ直接・間接的に影響を与え,またエアロゾルが多いと大気汚染となり,その高濃度PM2.5 は健康影響の問題も引き起こす様々な分野へ繋がる地球環境科学の1つの重要な研究対象である.ここでは,個々の研究のサイエンスの詳細を話すよりも,私の大学院の研究から,NASA Goddard Space Flight Centerでの6年強の研究生活,そして,日本へ戻ってきてから現在までどのような経緯で進んできたのか,これから進学・就職をしていく学生さんたちの参考になるような話をしつつ,これまで関わってきた大気エアロゾル研究を紹介する講演にしようと思う.これまでの研究は,「大気エアロゾル」という共通項はあるものの,手法も,分析から観測,データ解析,モデリング(全球モデルの開発含む)と多岐に亘る.アラスカのアイスコアのダスト粒子と成層圏物質の関係,ヒマラヤ氷河融解とブラックカーボンの関係,NASA GEOS-5(全球数値モデル)のための太陽光吸収性エアロゾルによる積雪汚染モデル開発及び積雪汚染の北半球春季気候での役割,北大での大気エアロゾル観測,森林火災と大気汚染と気候の関係,寒冷地対応型PM2.5 測定装置の開発とその国内外への展開など,現在進めているものも含めて多くの研究トピックに関わってきた.時間の許す限り,私のキャリアパスの歩みとともにこれからの研究について紹介をしたいと思う.一人でも多くの学生さんの今後のキャリアパスの参考になれば幸いである.また,これを機に大気エアロゾルに興味を持つ学生さんがいればさらに嬉しく思う.

学生へのメッセージ

 近年,日本では研究者の就職難などがよく取り上げられ,博士課程へ進む学生さんが減っている話をよく聞きます.皆さんには,そんな世の中に蔓延しているマイナスの情報や,周りからの同調圧力といったしょうもないものは気にしないで,ピュアに研究が楽しい,もっと色々調べたいそういう気持ちが芽生えたら是非研究者の道も考えていただきたいと思います.何故なら,研究者に一番必要なスキルはその「ワクワクする精神」にあるからです.(最近私も読んだ本で,音声SNSのClubhouseでお話しさせていただいているアップル米国本社元副社長の前刀さんの最新本「学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう」がとてもこの内容と関連するので,皆さんへお勧めしておきます).研究者に興味がある方は,博士号を取ったら,一度海外で研究を数年程度は行うことを是非お勧めします.学位を海外で取得するのも良いと思います.海外で研究のスキルや知識,英語力を高めることはもちろんのこと,日本という国を客観的に外から俯瞰的に見ることができるようになります.また,海外に一度出ると,就職先も日本での就職は世界中の仕事のone of themとしか思わないようになれます.私自身,日本に職がなければ,日本には戻るつもりはありませんでした(アメリカで永住権の申請準備をしておりました).世の中は,広いです.日本が好きならいつか日本に戻ってくるのも良いですが,どんな仕事をするにしても,外の世界をある程度知ってから戻ってくることをお勧めします.修士で就職する人も,海外赴任など一定期間,海外の部署などに積極的に手を挙げ,是非海外で揉まれてください.その後の人生観・生き方が変わると思います.また,世界の多くの素晴らしい人たちとのネットワークができます.これらがその後の人生を豊にしてくれます.アメリカ生活6年強を経て日本へ帰ってきた私から皆さんにできることは,このようなメッセージを前向きに伝えることだと思っています.また,目先のことに囚われることなく,10年後,20年後に何をしていたら,一番Happyか考えて生きてみてください.このように考えると,目先の進路・就職といったものは将来のためのプロセスという見方になるため,どの方向から行っても良いと思えるようになれます.私は,ここ4年ほど筋トレが歯磨きと同じ日常の一部となっていますが,何をするにも心身の健康は一番大事です.皆さんも騙されたと思って,筋トレを無理ないところから始めて,続けていってみてください.私は筋トレを始めてから身体の健康はもちろんのこと,心も前より健康になりました.そのおかげで色々なことがうまく回るようになってきました.人生100年時代,同じ生きるならHappyに進んでいってください!Good luck!


稲津 將

北海道大学 理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星ダイナミクス分野 教授

講演タイトル

シラカバ花粉症の気象学者

講演要旨

花粉症の私はどうしてもシラカバ花粉飛散予測がしたくて、間断ありながら10年あまり学生とともに研究に取り組みました。まず、花粉の大部分が発生源付近に沈着すると考えて、道路や自然歩道に沿った現地踏査とGoogleマップでのストリートビューにより、札幌市中心から約10kmの範囲で高解像度のシラカバ樹木密度マップを作成しました。次に、シラカバ花粉沈着量をシラカバ樹木密度、気温、風、大気境界層での乱流混合、重力沈降、および降水による湿性沈着により計算する大気拡散沈着モデルを開発しました。道立衛生研究所における花粉観察データを、2001年から2011年まで飛散予測シミュレーションの結果と照合しました。その結果、シミュレーションが相応の予測精度をもつことが示されました。しかし、如何せん観測が限定されていますし、モデルも大胆過ぎるので、課題の多い(=未来にやることが沢山ある)という想いです。

学生へのメッセージ

本講演中、雑談として、皆さんと同じ学部生活~博士取得直後で、何を考えていたのか、振り返ってお話しします。そのときはシラカバ花粉ではなく、気象力学をやっていました。私なりのモチベーションはありましたが、そんなカッコいい話ではないです。しかも20余年も前の話、大した参考にならないかもしれません。いまは時代の進歩が速く、私の世代が学生さんから学ぶこともとても多いです。一緒に気象学の世界を楽しめたらいいですね。


山本 太郎

一般財団法人 北海道河川財団 参事

講演タイトル

洪水氾濫によるリスクをどう低減させるか、最新の科学技術による治水


講演要旨

最近、全国で洪水災害が頻発しています。北海道でも5年前の2016年の豪雨災害を始めとして洪水が増えています。気候変動の影響が降雨に現れ始めたと考えられるなか、河川の洪水対策も最新の科学技術を駆使した分析をもとに進められています。

洪水リスク対策が新たなステージに入り、治水対策の分野で科学がどのように活かされて実践につなげられているかをできる限りお伝えしようと思います。

学生へのメッセージ

気象の現象がどのように河川の大災害につながっていくか、この分野の研究がいかに社会の安全とつながって大切かということを感じてもらえれば良いなと思います。ディスカッションしましょう。